第3950話 雷の試練編 ――司令室――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
そうして宇宙港のような施設の中で、一番大きなドームに向けて何事もなく進んでいた一同であったが、その最後。大きなドームの前に立ちふさがるゲートを通過するという瞬間、唐突に鳴り響いたアラートと共に一同は別々に転移させられ、カイトは留置場と記載された部屋へと飛ばされていた。というわけで留置場を脱出したカイト達は押収物保管庫、書類室を抜けて、次の部屋へと突入する。
「……ゴーレム?」
「……まぁ、その類だろうが」
突入したカイトを待ち受けていたのは、物言わぬゴーレムのようにも見えるなにかの金属体だ。だが魔力の反応は皆無で、動きも見えなかった。というわけで警戒を隠さない彼に、ユリィが問いかける。
「壊しとく?」
「いや、こういう場合は全ての個体でリンクを取っているはずだ。ここで一体破壊したらその後続々と出てくるだろうな。休止状態になっているのなら、壊さずそのままにしておこう」
ひとまずは警戒する必要はなさそうか。カイトは双銃を腰のホルスターに一度仕舞っておく。
「……ここは……どこかに繋がる部屋か? なんの部屋だ?」
広さとしては体育館の半分ほどという所かな。カイトは会議室というには広く、さりとて室内で運動をするにしては狭い部屋に小首を傾げる。
そんな部屋の中央には円形の装置が一つ置かれており、周囲には椅子があった。更に四方にも机に似たおそらくコンソールと思われる装置と椅子があり、何をするかカイトには少し想像が出来なかった。と、そんな部屋の中にソレイユと浬が入ってくる。
「なにここ?」
「わからん。真ん中に円形のなにかの装置……モニターっぽいものが浮かんでいるから、作戦会議室……なのか?」
「ふーん……とりあえず安全そう?」
「わからん……ああ、ただそこにある四角いなんか良くわからん物体は触らない方が良いだろう。明らかにゴーレムとかドローンとかそういう所っぽいからな」
「……あー」
カイトの指摘に、浬はなるほどと納得を露わにする。彼女としてもなにか怪しい物に触れたいという気はなかった。
「で、問題はなんだけど……あれはどうするの?」
「どうしよっか」
浬の問いかけに、カイトは中央の円筒状の装置を見て頭を悩ませる。
「なにせオレもこういう試練は経験がない。どうしたものか、という所なんだが」
不用心ではあるが、近付かなければ何もわからない事には変わらない。カイトはそんな様子で、円筒の装置へと進んでいく。
円筒の装置の周囲には椅子と四方のコンソールに似た端末が用意されていたので、なにかを調べるか指示するか、という装置ではあるのだろうとは理解出来る。が、何をするためのものか、と言われてもまるっきりわかりそうになかった。
「……ソレイユ、そっちの壁際、一歩ぐらい離した距離で待機。ユリィは浬と一緒に頼むわ」
「はーい」
「了解でーす」
「え? 私は?」
「お前はそのまま待機してろ。下手なことすんな」
「むぅ……」
確かにこの三人に一緒にされてなにか出来るのか、と言われればなんにも出来ないけどさ。浬はカイトの雑な指示に少し不満げながらも、その指示が正しいと理性的には理解出来ていたからか不満を浮かべるだけだ。というわけで彼女を横目に、カイトは一人中央のコンソールに近付いていき、椅子に腰掛ける。
「さて……こういう場合の上策はというと……ま、こうだよな」
カイトは自らのスマホ型端末を取り出すと、ちょうどなにかを置けそうな台座の上に乗っけてみる。そして流石は幾つもの銀河連邦も渡り歩いた彼だ。その推測は正しかったらしい。彼が台座に装置を乗っけると同時に、中央のコンソールのちょうど彼が腰掛けた部分が輝き出す。
「おっと、正解……はいといいえのボタン……となると……」
とりあえずは立ち上げられるかどうか、という所を中心に考える必要があるだろうな。カイトはホログラフで構築されるモニターを見ながら、ひとまずは装置の立ち上げを行う。そうして数度の操作の後、彼は一つ頷いた。
「よし。これでとりあえずこの部屋そのものは立ち上が、っ!」
装置の立ち上げが終わった、と一段落したと同時。今まで無反応を貫いていたドロイドが起動して変形。四脚の足と上部にカメラが取り付けられた姿を露わにする。
そうして動き出したと同時にカイトがホルスターから魔銃を抜き放ち、ソレイユが弓に矢を番え、ユリィが浬の前に障壁を展開する。
「……はやっ」
正直に言えば気が付いた時には全てが終わっていた。浬は三者三様にそれぞれの為すべきことを終えていた三人に目を白黒させていた。
だが、幸いな事にまだ敵認定はされていないようだ。ガシャガシャガシャ、と音を立てて部屋の中を動き回り、なにかの作業を繰り広げるだけであった。
「……ふぅ。まだ、大丈夫か」
「でもこの様子なら秒読みかなー」
「戻ってきたら攻撃されました、ってのは避けたいがな」
魔力で編んでいた矢を消したソレイユに、カイトは肩を竦めながらも魔銃を腰のホルスターにしまい込む。とりあえず今の所は、という言葉が前に付くが、このドロイド達に敵意はないらしい。安心して作業が出来そうであった。
「とりあえずコンソールは立ち上がった。どうやらここは施設内で連絡を取り合うための中継地……という所らしいな」
「中で通信機使えないの?」
「いや、使えるが使えない……って所みたいだ」
ユリィの問いかけに、カイトは表示された地図の右上に表示されていた一つのマークを彼女に向けて拡大する。
「なにこれ?」
「アンテナ?」
「アンテナ? あ、なるほど……通信状況を表してるのか……」
見たままを口にした浬に、ユリィが小首を傾げる。やはり地球でスマホやらの通信状況を良く見ているからだろう。アンテナに似たマークは浬の方が見慣れた様子であった。ただしそのアンテナに似たマークには斜線が入っており、明らかに使えない事を露わにしていた。
「そうだな。で、地図の上にあるのはアラート表示……だとすると、何かしらの緊急事態が発生して、施設内全域での通信制限が行われているんだろう」
「なるほどねー……想定としては攻撃を受けて、通信制限を掛けている、って所かな?」
「そういうことだろう」
ユリィの推測にカイトもまた同意して、地図を更に縮小していく。そうして縮小を何度か繰り返すと、最初はこの近辺全域が表示され、その次に自分達が居る上半分が。最後は施設全体が大雑把な外形図として表示された。
「どうやらこっちの辞書データは自動でアップデートされるらしいな……数字が自動翻訳されているから、これは……多分エリアとか区画、って意味かな。そうなると……ここがエリア1……という所か。上から順番に時計回りにエリア1、エリア2、となって……」
どうやらこの宇宙港というか、この施設はあの中央のドームを中心として、幾つかのエリアに分かれていたらしい。全体としては円形の施設らしかった。そうしてしばらく地図を確認し続ける彼だが、苦い顔で手を止めた。
「なるほど……どうやらここから左右のエリアには行けそうにないな」
「ということは完全に分断されちゃった? ねぇねとかと合流無理そー?」
「無理だな……合流はあの中央ドーム外周を介さないと無理そうだ」
ソレイユの問いかけにカイトは苦い顔で自分達の居るエリアと先に目指そうとした中央の巨大ドームの接続部を表示する。そこの出入り口と思しき扉の映像の上には赤字でバツ印が表示されており、なにかの理由付けも書かれている様子だが、翻訳が完全ではないのか最初の一文は完全に未知の言語で構築されており、その次の文章も翻訳は半ばでいまいち意味は理解出来そうになかった。
「権限……により通行禁止?」
「おそらく権限不足により通行禁止。管理責任者による承認を受けてください、といった文章だろう。その上はわからん……おそらく攻撃か襲撃か、そういったこの区画封鎖が行われている理由に対する説明、という所なんだろう」
「なるほど……」
カイトの説明に浬は他にも幾つかの箇所で同じようなマークが浮かんでいる事を確認。しかもそのマークには幾つかの数字が割り振られており、まだ何度か権限のアップデートを繰り返さねばならないのだと理解する。そうしてそんな彼女が、ふと疑問を呈した。
「ここは何なんだろ?」
「司令室とかサブコントロールルームとかそういう所だろうな。地図があって、権限の確認やら指示やらも出来るだけの椅子とコンソールがある」
「あー……」
確かに言われてみれば幾つもの椅子とコンソールが並ぶ光景は指揮所などの光景を思い浮かばせる。浬はカイトの推測に納得する。そうしてそんな彼女を横目に、カイトはため息を吐いた。
「さて……どうしたものか」
「とりあえずゲームだったら一番安牌は数字の低い所から順番に確認していく感じじゃない?」
「しかないか」
おそらくモデルとしては探索主体のゲームというところだろう。浬の提案に対して、カイトはそれが一番安牌なんだろうという推測を浮かべる。と、そんな彼はしかし、すぐに立ち上がるではなく再びコンソールを操作していく。
「なにやってんの?」
「んー……ここがエリアの中心で、他区画のデータも見れるのなら……って思ってるんだが……」
カイトはホログラフを操りながら、なにかの機能を探していたようだ。そうしてしばらくして、彼が僅かに目を見開く。
「……あった。推測通り……ソレイユ」
「なにー?」
「アイナディス、やれると思うか?」
「どうだろ? ねぇね、賢くはあるけど、若干短気な所もあるからなー。誰と一緒か、次第じゃないかな?」
どこか困ったような顔のカイトの問いかけに、ソレイユは楽しげに笑いながら運次第と答える。それにカイトも若干苦笑いに近い様子で笑った。
「だよなぁ……あいつもああ見えてズボラな所があるからなぁ……まぁ、試してみるか」
「通信機能?」
「ああ。区画が封鎖されていても連携は取らないとならないはずだ。そう考えた時、ここは区画間で連携を取るための通信室という所なんだろう。更に外部への通信になると、中央通信室とやらに行かないと行けない様子だが……」
どうやらカイトはエントランスに居た間に通信機という単語を翻訳していたらしい。コンソールを操って通信機能を起動させながら、他の区画への連絡を試みる。そんな彼に、浬が問いかけた。
「外へって……どこに通信するの?」
「あの巨大ロボットだろう。やっぱこりゃ、一度は外に出されるな」
あの中央通信室はおそらく巨大ロボットに外で作業をさせる上で、この宇宙港に残った者たちが連絡を取るためのものなのだろうな。カイトは情報からそう読み解いていた。だがだからこそ苦い顔でもあった。
「まぁ、宇宙服があったぐらいだもんね」
「まぁな……お?」
『……これで……大丈夫なんでしょうか……』
「ああ、やっぱアイナか」
『カイト?』
やはり経験値としても能力的にもアイナディスが一番最初に別区画で司令室に到達していたらしい。
『入った所でモニターが光っていたのでとりあえずボタンを押してみましたが……そちらはすでにこの部屋の調査を?』
「ああ……ああ、もし同じ型のコンソールだったら、おそらくスマホ型の端末を置けそうな台座があるはずだ。そこに端末を置いてみてくれ」
『……ああ、ありました。置いてみます』
カイトの指示に従って、アイナディスが周囲を確認。どうやら同じように台座があったようで、そちらに自身のスマホ型端末を設置する。
「……やっぱりか。アイナ、思った通りだ」
『何がですか?』
「その端末に個人認証がされているようだ。情報がこちらでも確認出来た」
『なるほど……こちらでも少し端末を操作してみます。少し待ってもらえますか?』
「ああ、説明しよう。それにそちらの情報も欲しいしな」
自分達がどうなっているか。あちらがどうなっているか。双方状況は掴めていないし、ひとまず情報を整理しない事には攻略もあったものではない。というわけで、カイト達は更にしばらく他の面子を待ちながら、その間に出来る限りの情報共有と情報収集に努める事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




