第3948話 雷の試練編 ――空白地帯――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
そうして宇宙港のような施設の中で、一番大きなドームに向けて何事もなく進んでいた一同であったが、その最後。大きなドームの前に立ちふさがるゲートを通過するという瞬間、唐突に鳴り響いたアラートと共に一同は別々に転移させられ、カイトは留置場と記載された部屋へと飛ばされていた。
「スタッフオンリーエリアにある留置場……は、良いんだけど」
「どうした?」
「これ、脱出出来るのお兄ちゃんだけじゃない?」
床の剥ぎ取られた部分を見ながら、浬はそんなもっともな疑問を呈する。そもそもカイト自身、このやり方は高度な文明が相手でなければ意味がないと説明していないのだ。確かにこのやり方で他に誰が脱出出来るのだ、と言われれば彼自身返答に困るものがあったのだろう。
「まぁ、オレだけだろうな。こんな基盤にアクセスして隔離壁をハッキング、なんて」
「じゃあ、他はどうやって脱出するの?」
「どうやるんだろうな? そこまでオレは責任を持てない」
「えぇ?」
そんな無責任な。浬はカイトの楽しげな反応に思わず引いた様子で顔を顰める。とはいえ、これはカイトは適当に言っているだけ、という様子であった。
「あはは。冗談だ……この隔離壁は物理的な衝撃による破壊はまぁ厳しいが。魔術が通用しないわけじゃない。本来ならこういう留置場は魔術を封じるトラップが仕掛けられるんだが、それがない所を見るとあくまで別々にしただけ、という所だろうな」
「そうなの?」
「そう……それに別にここに閉じ込めておく必要もないからな。演出だろう……魔術をどう使うか、という所に気付かない限りは出れない事には間違いないけどな」
そもそもの話として、カイトが隔離壁のロックにアクセスして隔離壁を動かしたのもある意味では魔術の一環とも言える。単純にもっともスマートなやり方、というだけだろう。
「ま、それはそれとしてだ。とりあえず先に進みたいわけだが……」
「?」
スマホ型端末を覗き込むカイトに、浬もまた同様にスマホ型端末を――ただしカイトの――覗き込む。そして同じように、ソレイユがカイトの背に乗って、ユリィもカイトのスマホ型端末を肩の上から覗き込んだ。
「……なんでお前ら全員オレの端末を覗き込んでるんだよ」
「「面倒だから」」
「……さいですか」
お兄ちゃん、懐かれてるなぁ。浬はある意味では女の子二人に懐かれているという喜ぶべき状況ではあるのだろうが、と思いながらも、同時に明らかに子供らしさの見え隠れする好感だろうと思う。ちなみに、彼女自身も覗き込んでいるわけだが、そこについては横に置いておくことにされた様子である。
「一応今いる場所については地図で表示されるみたいだな。留置場の次に続く扉が表示されてる……ここから先は……あの扉一つか」
カイトはおそらく留置場を監視する係員が座る机と椅子らしいものの横に設けられた扉を見る。その先に何があるか、は誰にもわからない。だが行くしかなかった。が、カイトはなにかを気にするように地図を拡大して壁際を確認していた。そんな兄に、浬が問いかける。
「……なにか気になるの?」
「……この小さい通路みたいなの、わかるか?」
「……なにこれ? 何処かに繋がってる様子だけど……」
「これはあの通風孔だな」
「通風孔……小さ」
通風孔と言われて思い浮かんだのは、よくゲームやアニメなどで通風孔に潜り込んで別の部屋に移動するというシーンだ。それが頭に浮かんだ浬であったが、現実の通風孔はそんな人が入れるようなスペースはない。それはこの高度に発達した文明であっても変わらないようで、表示されてはいるが出れるような様子ではなかった。
「そりゃ、現実の通風孔が通れたら警備上の問題になっちまうじゃねぇか。普通は入れないようにされてる。それに空気さえ出入り出来れば良いだけだからな。別に人が入れようと入れなかろうと問題にはならん」
「……そりゃそうだけど」
夢ぐらい見れてもよいんじゃないか、と思う心半分、確かにそんな警備上の穴があればここから脱出するにも使えてしまうのだから対策されていて当然と思う心半分。浬はそんな微妙な様子であった。
「ま、そういっても別に通風孔から出ないといけない理由もないし、第一通風孔がもし通れるものでも、お前通りたいのか?」
「いや、別に……どうだろ。通ってみたい気もする……?」
「蜘蛛とか黒光りする例の虫とかネズミとか通ったかもしれないのに? というかなんだったらお暮らししてるかもしれないのに?」
「……絶対に嫌!」
よく考えるまでもなく、通風孔がしっかり掃除されているとは思えない。これだけ高度な文明なのでドローンなどで掃除されている可能性は無きにしもあらずであるが、確実とは言えない。なのでカイトの指摘にそれを理解して、浬は絶叫にも似た様子で声を荒げる。
「だろう。通風孔に夢を見るのはやめとけ」
「そうする」
「そーしとけ。オレ達はスパイ映画のスパイでもなんでもないからな……で、そういうわけなので真正面から出る事にしよう」
浬の反応に笑いながら、カイトは改めておそらく看守や監視者に類する者が座るのだろう机と椅子の近くにある扉へと向かう。そうして近付いた扉の横に備え付けられているコンソールから、今までと異なり赤みがかった様子のホログラフィを浮かび上がった。これにカイトはおおよそを察しながらも手をかざす。
「「ぶー」」
「ま、そんなことだろうと思ったよ」
ユリィとソレイユの声と共に、コンソールからも拒絶を示すのだろうブービー音に似た音が鳴り響く。これに、浬が口を開いた。
「出れないじゃん」
「そりゃまぁ、簡単に脱出出来るようにはしてくれないだろうとは思ってた。一応は留置場に監禁されていた形になるからな」
「じゃあ、どうするの?」
「んー……まぁ、こういう場合の定番かなぁ……」
浬の問いかけに対して、カイトは横の机を漁りながら答える。そうして、そんな彼は机の中を引っ張り出しながら、浬へと横にあった小棚を指し示す。
「ほら、お前もそっち探せ」
「なにを?」
「んー……多分小さな装置。これぐらい。なんか超小さいUSBメモリっぽいの」
「ふーん……まぁ、とりあえずなんか見付けたら教える」
ちょうどオレの小指の爪先から第一関節ぐらい。そんな塩梅で右手で左手の小指の先を指し示すカイトに、浬も小棚を漁ってみる事にする。と、そうして小棚の開き戸を開いて、すぐに彼女が声を上げた。
「あ」
「ん?」
「こんなの?」
「あ、それそれ」
どうやら偶然にも浬が探っていた小棚の棚にあったようだ。上から順番に探しても下から順番に探してもそこそこ時間が掛かる所にあったようだが、どうやら彼女の適当さが功を奏したらしい。ちょうど手始めに、と一番自分に合致した高さの棚に置かれていたようだ。というわけで、彼女が差し出した小型のUSBメモリに似た装置とスマホ型端末を接触させる。
「え? 浮かんだ?」
「お……便利なタイプ」
二つの装置が接触した瞬間、両者が少しだけ弾かれたように距離を取って浮かぶ。そうして数秒すると、両者の間にホログラムの映像が幾つか浮かび上がる。が、浮かんだ映像の意味が理解できず、浬が小首を傾げた。
「……なに、これ?」
「んー……多分、左のこれは鍵だろうな。これをこっちに移動させて、と」
おそらく意味合いとしてはデータ転送とかそういう所かな。浬は兄が左側――USBメモリに似た装置側――にあったカード状の映像を指で自身のスマホ型端末側へと移動させるのを、そう理解する。そうして自身の端末へと何かしらのデータを転送した彼が、自分の端末を背に乗ったソレイユへと差し出す。
「ソレイユ」
「はーい、よっと。はい、にぃ」
「おうよ」
カイトの背からソレイユとユリィが飛び降りると共に、カイトは入れ替わりにソレイユから彼女の端末を受け取る。そうして彼が彼女の端末にもデータを移す一方で、ソレイユがコンソールへと歩み寄る。が、今度は最初同様薄い青色のホログラムが浮かんで、ブービー音も鳴る事はなかった。
「にぃー、正解ー」
「あいよ……ほらよ」
「はいさ」
「あいよ……ほら」
これでおおよそは大丈夫かな。そんな様子で自身の端末をポケットへとしまい込んだカイトが、浬へと手を差し出す。
「なに?」
「お前の端末。今見た通り、どうやらここから脱出するのに権限のアップデートかなにかの処理が必要なんだろう。お前の端末にもやらんとな」
「必要?」
「必要。また、今度はオレ達とバラバラになったらどうするんだ? それに、もし端末で個人を承認していたら、お前の端末だけ未承認だとお前だけ取り残されるぞ」
「あ、お願い」
カイトの指摘で今の自分が彼と同じ事が出来ない事を理解していた浬は、大慌てで彼へと自身の端末を差し出す。そうして再び十数秒で、データのダウンロードは終わったようだ。
「よし。ほらよ」
「ありがと……これで出れるの?」
「多分な……今後は同じようにこのメモリに似た物を探して、アップデートを繰り返しながら巨大ドームを目指す形になるんだろう」
「やっぱりそういう感じかー……なんかファンタジーやってたらいきなりSFになった気分」
「あはは……とはいえ、実際ファンタジーなのはこっちや地球の水準に合わせた結果。大精霊達にとっちゃ近未来も遠未来も宇宙のまたどこかで起きている事なんだろう」
「そうなのかなぁ……」
この宇宙は広い。エネフィアまで含めれば二倍だ。それどころか世界全部を見通せば、もはやその数なぞわかるわけもにない。宇宙の何処かに、これだけ進んだ文明があるのだ、と言われても浬はあまり実感がなかったようだ。そんな彼女にカイトは笑う。
「ま、そんな事はどうでも良い。ここがそれを模したのか、それとも単に参考にしたかもわからんからな。それより出た後が問題だろう。おそらくここからは普通に戦いありきのルートになるんだろうからな」
「えー……」
カイトの推測に浬は嫌そうだが、彼女としても戦いもなく終わるとは思っていなかったようだ。半ば諦観が滲んでいた。
「はぁ……どうせならドローンかなにかが一掃してくれれば良いのに」
「それ、一掃されるの私達だよ?」
「……そうだった」
ソレイユの指摘に、浬ががっくりと肩を落とす。この状況は間違いなく自分達の方が侵入者で、排除される側という事だろう。というわけで一同は少しだけ気合を入れて、ロックが解除された扉を開いて先に進むのだった。
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