第3947話 雷の試練編 ――留置場――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
そうして宇宙港のような施設の中で、一番大きなドームに向けて何事もなく進んでいた一同であったが、その最後。大きなドームの前に立ちふさがるゲートを通過するという瞬間、唐突に鳴り響いたアラートと共に一同は別々に転移させられ、カイトは留置場と記載された部屋へと飛ばされていた。
「で、ここからどうするの?」
「どーするもこーするも最初に話はしてただろ? 一番デカいドームを目指す。それが最優先だ」
浬の問いかけに、カイトはスマホ型の端末を見ながら答える。現在位置は最初に手に入れた地図に表示されていない、おそらく一般には公開されていないエリアだ。故に地図にも記載はなかったし、現在位置の表示も地図上の空白地帯にあった。
「どこ、ここ」
「第一留置場……まぁ、違法になにかを持ち込もうとしたとかそういう奴を一時的に勾留しておく場所……の1つ目だろうな」
「第一ってことは何個もあるの?」
「多分あるんだろう。で、オレ達は第一留置所で、他は他で第二、第三と別の留置所に飛ばされているんだろうな」
本来ならひとかたまりにするのだろうが、そこは試練との兼ね合いという所かもな。カイトは浬に対してそう告げる。
「合流目指さないの?」
「だから一番デカいドームを目指すんだろ?」
「どういうこと?」
「最初にオレは一番デカいドームを目指して進もう、と指針を示したわけだ。ならこうして全員が別々に別れた場合、合流しようとするならどういう発想をする?」
「そりゃまぁ……一番最初の所に戻るか、あのドームを目指すか……?」
「そ、そのどちらかだ。最初の場所……格納庫に戻るか、このドームを目指すかのどちらかだ」
浬の言葉に、カイトは地図を表示させてその二点へとチェックを入れる。だがここでカイトは敢えて格納庫を目指さない理由を口にした。
「だが格納庫に戻ろうにもこの留置場がすでにそうだが、最初に地図で見た格納庫と正反対の位置だ。遠いな……他が格納庫に近い場合は格納庫を目指すが、逆に遠い場合は一旦はあのドームを目指すだろう。てなわけで、最初にドーム。そしてそこから格納庫を目指すルートを辿れば、高確率で合流は可能だろう」
「なるほどー」
確かに兄の言葉には道理があり、おそらく自分が誰かとはぐれていても同じような考えで進めていただろう。浬はカイトの言葉に納得を露わにする。というわけで、そんな彼女にユリィが教えた。
「こっちの世界の冒険者には道に迷ったら朝日を目指せって言葉があるんだよ。誰もがわかりやすい目印を目指せば何かしらはあるだろう、って話だね。万が一バラバラになっても同じ方向を目指せば合流出来る可能性はあるからね。逆に別の方向になると絶対に合流出来ないわけだし」
「それと川があったら川下へ、だねー」
「へー」
やはり地図もコンパスもなく冒険していた者たちだからだろう。そんな経験則のようなものがあったようだ。ユリィとソレイユの言葉に浬はわずかに目を見開きながらも納得している様子だった。というわけでそんな彼女に、カイトは告げる。
「ま、それはそれで覚えておいて損はないが……今は朝日もなければ川もない。そういうわけだから目印として地図にマーカーを設定したドームを目指すわけだ」
「なるほど……で、それは良いんだけどどうやってここから出るの?」
「それなんだよな」
駄弁っているカイト達であったが、ならさっさとドームを目指せという話だろう。それが何故留置場に留まっているかというと、もちろんそれは係員などによる尋問や警察の連行を待つためではない。出られないようにされていたからである。というわけで、自分達を閉じ込める透明なガラスにも似た素材を浬が見る。
「留置所って鉄格子とかじゃないの?」
「鉄格子は私が抜けられるけど?」
「物語だとよく妖精が抜けて脱出経路確保、とかやってるじゃん」
「それねー、それほんと間抜けだよねー」
「そもそも妖精を留置場に閉じ込めるような奴はいないし、最悪は瓶詰めだろ」
「あれやだー。狭いんだもん」
された事あるんだ。浬はカイトの肩の上でうだー、と伸びるユリィにそう思う。まぁ、カイトと共に何度か行動していた以上、カイトが投獄された事がある限りは彼女も投獄されていたのだろう。
閑話休題。当然だがそれらの事は大精霊達も知っている以上、鉄格子なぞというユリィに逃げてくださいと言っているような物を設けられているわけがなかった。
「ま、それはそれとしてだな。ここはガラス張り……いや、ガラスじゃないか。こりゃ何かしらの特殊素材だな。アクリル……っぽいが、アクリルじゃないだろう。剛性、柔性、共に十分……かな、こりゃ」
こんこんっ、とアクリルにも似た正面を叩いてみて、カイトは感触を確かめる。アクリルにも似た素材は少しだけ青白く濁った透明度の高い素材で、留置場の先も見通せはした。が、あくまでも留置場という一時的な勾留を目的としているからか、ある程度安全ではあったようだ。
そしてそれこそどこかの世界では銀河連邦などにも参加していた彼だ。こういった超高度、遠未来的な文明は慣れたものの様子であった。
「柔性ってどういうこと?」
「こーいうこと!」
だんっ。カイトがおもむろに床を踏みしめて、正拳突きのように腰を落として拳を透明な隔壁へと叩き付ける。すると、一見するとアクリル板のような硬度を持つかのような素材が大きく伸びて衝撃を吸収。カイトの一撃を受け止めて、受け流す。
「え?」
「ま、こんな塩梅だな。打撃は無理だろう」
「にぃー、私やってみる?」
「んー……一点集中?」
「うん」
「お前なら壊せるだろうけどな。流石にそこらやり過ぎると大精霊達にまーた怒られちまう。今回はキャンセルで」
「はーい」
元々下手になにかを置けばそれを利用してタイムアタックさながらにショートカットをするカイトだ。仕掛けの破壊も何度かやっており、その都度怒られていた。まぁ、それにカイトもそれについては少し興ざめだったかと反省もしており、今回もきちんと突破する事にしたようだ。
そしてソレイユも破壊は興ざめと思っていたのか、カイトの言葉に即座に応じていた。何より彼女ももしかしたら、破壊が更に厄介な事態を引き起こすと気付いたのかもしれなかった。
「さて、こーいう場合に順当なのは」
「順当なのは?」
「ハッキング、だな」
「え゛」
いきなり犯罪行為が出ましたけど。カイトの発言に浬は思わず顔を顰める。
「ハッキング、つってもそんな難しい話じゃない……壁を利用したハッキング……もどきか」
「どうやるの?」
「えっと……」
浬の問いかけに、カイトは半透明の隔壁の付近の壁や床に手を当てて、なにかを探る素振りを見せる。そうして数分なにかを探る彼だが、しばらくしてなにかを見つけ出したようだ。床の一部に手を当てていた。
「あった……ま、流石にここらは破壊しないとどうにもならんかな……はっ!」
少し意識を集中したカイトが気合一閃、床へと軽く打撃を叩き込む。すると床の謂わばタイルのような部分が剥がれて、下から配線のようななにかが露出する。
「なにそれ?」
「結局、扉をロックするなら向こうとこちらの両方に接続が必要だ。これはこっち側のロック部だ」
「……」
ずいっと覗き込んでも何もわからない。浬は兄が複雑怪奇な配線に見えるなにかを探っているのを見て、ただただ首を傾げるだけだ。そしてこれについてはカイトも覚える必要はないと思っていたので、説明する事もなかった。そもそもこのやり方は高度な文明が相手でないと意味がないからだ。というわけで剥き出しになった基盤を介して、カイトがロックへとアクセス。無理矢理にロックを解除して、隔壁を解除する。
「よし……これで脱出だな」
「……なんだろう。兄が犯罪者になってる」
「……ま、まぁ、色々とな」
浬の僅かに引いたような言葉に、カイトは恥ずかしげに笑う。とはいえ、これで脱出は成功だ。というわけでカイトはどこか浬の視線から逃げるように、半透明の隔壁が消えたその先へと移動するのだった。
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