第3945話 雷の試練編 ――試練開始――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていたのであるが、その最中。浬の思わぬ才能の発覚により、試験は終了。
小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。そうして格納庫と思しきエリア。エントランスホールと思しきエリアを通過した一同の感覚としては、ここはどこかの宇宙港というような様相であった。
というわけでエントランスホールにて地図データのダウンロードを行った一同は、ひとまず地図に表示されていた一番大きなドーム状のエリアを目指す事にして、行動を開始する。
「……」
大分と端末の情報もわかるようになった。瞬は端末の辞書機能を開いて、翻訳が大分と進んだ事を認識する。といってもやはり全てではないし、最初の目的地とした一番巨大なドーム型の建物については未だ名前さえわかっていない。そして同様に、彼以外も全員今の所危険が見えない事もあり端末を操作しながら翻訳を行っていたわけだが、そこにアイナディスがふと口を開く。
「なんと言いますか、久方ぶりに遺跡の調査をしている気分ですね。具体的には貴方がスマホ型の端末を作るより前。メモ型端末を使っていた頃を思い出します」
「あー……懐かしいなぁ、あれも」
「そういえばこういう機能はスマホ……じゃなくて通信機にもあったんだったか?」
「ああ。遺跡調査の必需品にも等しいからな……といっても、こんな完全にゼロベースでの翻訳なんて滅多な事じゃやらないから、使う事なんて稀なんだが」
瞬の問いかけに、カイトは笑いながらスマホ型の通信機を取り出す。これにも内部にはスマホよろしく色々なアプリケーションが入っているわけだが、その中には今彼らが行っているような翻訳を手助けするアプリも入っていた。
「ゼロベースの翻訳、というと……」
「今みたいに言語をゼロから当てはめる事だ。どの言葉はどの言葉に置き換わり、とかな。それを見ながら翻訳を行えるようにする、って塩梅。といっても、今だと大抵の情報をこれに入れ込んでいるから、カメラのスキャンと画像検索を併用して文字を検索する方になる。それにそれで合致しないでも辞書は入ってるから、どの文字がどの言葉になるか、までやる事は滅多にないんだ」
「確かにそれまではしたこともないし、するとも言われた事がなかったな」
未知の古代文明でもない限り、エネフィアにある古代文明は大半の文字がすでに解読されている。それは学会で発表もされており、その情報を手に入れようとすれば手に入れられた。
そしてそれらをマクダウェル家が入手していないか、というとそんなわけがない。なんだったら一般公開されない情報さえ持ち込まれる。それらをデータベース化して、スマホ型の通信機へとダウンロード。遺跡調査で役立てられるようにしているのであった。
だがそれはマクダウェル家が出来てから、今のスマホ型の通信機が出来てからの話だ。当然、その前にはその前のやり方があった。
「そ……だがそれはあくまでも今の話。昔はメモ型の端末で頑張って翻訳したり、辞書を持ってきてこの文字はこれに当てはめ、とやらないといけなかった。今の時代は良いもんだな」
「ですね……おかげで遺跡探索も随分と楽になったと聞きます」
「アイナディスさんはよく遺跡探索を請け負われるんですか?」
「いえ。私は遺跡探索はあまり請け負いませんね」
浬の問いかけに、アイナディスは首を振る。あまり請け負わない、なので請け負う必要があれば請け負うのだが、そういうことはあまりしなかったようだ。と、そんな事を聞いてソラがふと疑問を呈した。
「そういえばアイナディスさんって何が本業なんっすか? あまり聞いた事ないっすけど」
「私ですか? そういえば本業は……なんでしょうか。主にエルフ達からの依頼を受けているので、採取や調査をメインで引き受ける事が多いですが……特にこれ、と決めて請け負う事はありませんね」
「あー……そう考えればオレと出会ったのって結構稀なタイミングだったか?」
「かもしれませんね。あれは私としても滅多に請け負う事のない依頼でしたので」
アイナディスともすでにカイト主観でも十数年来の付き合いで、彼も何度かアイナディスに依頼はした事があった。というわけで彼女が得意とする依頼は聞いていたのだが、本業という話で自分達の出会いを思い出したようだ。
「どういう依頼だったんです? お兄ちゃんと出会ったのって」
「ある魔術師の討伐ですね。あれは私が生きてきた中でも目に余る外道でした」
「そうよなぁ……あいつは流石に生かしておくわけにゃいかんかった」
「え?」
「いや、まーじでヤバいの。拷問が趣味って漫画でしか聞かんような奴でな。そいつが拷問用の魔術を何十と編み出して、大半が今じゃ禁呪指定だ」
ぎょっとなった浬に対して、カイトは肩を竦める。基本盗賊以外は滅多な事では殺しはやらない彼であるが、その彼をしてこの某だけは殺さないと駄目だと判断させたらしい。実際、アイナディスさえ同様に判断している以上、その外道のほどは察するにあまりあっただろう。というわけで、カイトの言葉に瞬が盛大に顔を顰めた。
「ヤバそうだな、それは。お前とアイナディスさんが揃ってか」
「やばかったぞ、あいつは……実際、魔王時代のティナが犯罪者として指名手配してたほどだからな」
「ガチの犯罪者か」
「裁判とかしないの?」
「当時のアイナが出るレベルの犯罪者に? 軍でも手に負えないから依頼が出てる相手だ。ティナが封印されてなけりゃ、下手すりゃあいつが直々に討伐に出ていた可能性さえあっただろうさ」
そんな相手に裁判なんぞ容赦していたら被害が尋常ではない事になってしまうな。カイトは浬の言葉に肩を竦める。
「それにあんな外道は裁判をした所で縛り首……では死にそうにありませんでしたね、奴は。それこそ私でさえ殺せないから貴方が来たわけですし」
「まぁなぁ。為政者になってるオレだが、奴だけはデッド・オア・アライブじゃなくてデッド・オア・デッドで手配書を出す。犯罪者一人捕まえるのに数十人の兵を消費なんてできんよ。現実は非情だ。そんな無駄はできん……人的にも、遺される家族の事を考えてもな」
「……」
確かにそれはそうかもしれない。浬は相手がアイナディスさえ死罪が当然かつ、外道極まりない相手だと断言するのだ。そして力としても当時の兄やアイナディスが出るほどであるという。捕まえた所で捕縛を維持出来るかも微妙だと理解出来たようだ。
「まぁ、奴の事はどうでも良いでしょう。すでに死んでますし」
「だな。まぁ、それでも時々奴の遺産が出てきて手を焼くわけだが」
「ですね」
どうやら当時の事はすでに苦笑いと共に流せる程度になっているようだ。カイトの楽しげな言葉にアイナディスもまた楽しげに笑う。と、そうこうしていると、大分と目的とするドームに近付いてきたようだ。先頭を歩いていたカイトが停止する。
「この先が目的地のドームだが」
「眼の前には大きなゲートが一つ」
「このゲートを通ってしか先には進めないってわけだろうな。さて、どうするか」
「いや、どうするもこうするもないんじゃないの?」
「ま、そうなんだけどな」
どうするもこうするも先に進まないといけないのだ。そしてここに来るまでも幾つもゲートがあった。なるべく今まではゲートは避けてきたが、流石にこれ以上は避けられない様子だった。
「アイナ。多分想像通りだろう」
「ええ……では、先に全員に助言しておきましょう。各員の頑張りに期待します」
「「「?」」」
「一応にぃにジャンプ!」
「私もがっちり!」
「「「?」」」
何故か急にカイトにしがみついたソレイユとユリィ、そしてアイナディスの言葉に、全員が小首を傾げる。どうやら教えてくれるつもりはなかったようだが、何が起きるか熟練の冒険者である彼女らは理解できていたようだ。というわけで二人に引っ付かれたカイトが、ゲートを潜る。
「じゃ、皆さん試練を頑張りましょう」
楽しげなカイトの声が響くと同時に、けたたましいアラートが鳴り響く。そうしてゲートの上部に取り付けられた何かしらの装置が光り輝いて、全員の姿がその場から消失するのだった。
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