第3944話 雷の試練編 ――翻訳――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていたのであるが、その最中。浬の思わぬ才能の発覚により、試験は終了。
小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。そうして格納庫と思しきエリア。エントランスホールと思しきエリアを通過した一同の感覚としては、ここはどこかの宇宙港というような様相であった。というわけでエントランスホールにて地図データのダウンロードを行った一同は、ひとまず地図に表示されていた一番大きなドーム状のエリアを目指す事にして、行動を開始する。
「「「……」」」
明らかに自分達の文明より数世紀は先に進んでいる。道中、瞬のみならず、彼らが滞在した時代より数百年先に生まれたセレスティア達。すでに雷の試練を一度攻略しているはずのアイナディス。地球側の面々も揃ってそんな印象しか出なかった。だがそんな中でも、カイトはただ一人平然とした様子だった。
「ここは……なるほど。飛行機で言う所の何番ゲートに続くエリアという所か。となるとこれは発着場……かな。この文字はこれに置き換えて……」
エントランスホールで入手したスマホに似た端末だが、どうやらダウンロードしたデータの文字は解読して自分達の文字に置き換える事が出来たらしい。
更には翻訳の魔術も適応出来るようになっていたのか、データがない状態ではどうにもならないものの、ある程度のあたりが付けられれば言語を置き換える事が出来るようになっていた。というわけで道中積極的に言語の翻訳を試みるカイトに、ソラが少しだけ不審そうに問いかける。
「それ正解なのか?」
「正解なんだろう。正解の場合はそれに合わせるように言語が自動翻訳される……んだろう。多分。まぁ、若干ご都合主義の様相はあるが、ここらは試練という所だろうな」
もしここらを本気でやろうとするのなら言語学者でも引っ張ってこないとならないだろうが、そこは雰囲気という所かもな。カイトは幾つか翻訳された文章を見て、少しだけ苦笑いだ。そうしてそんな彼が続けた。
「ま、実際高度に進んだ銀河連邦とかになると接触を禁じられる文明の言語を翻訳しようとすると小型ドローンで偵察させて言語を習得。解析させて言語体系を、とするんだろうが」
「なんだそりゃ?」
「ほら、よくSFとかを題材にしたゲームやドラマであるだろ? 自分達が進んだ文明側なら、ある文明レベルまでは接触を禁ずるって。理由は文明の発達を阻害するとかなんとか。ま、宇宙船の故障やらで不時着すんだけどな」
「まぁ、よく聞く話だわな。で、不時着した先で呪文を習得、もお決まりのパターン」
「だろ? でも不思議に思わないか? なんで不時着した時とか普通に言葉が通じるんだ、って」
「ご都合主義だろ。所詮ゲームとかドラマの話なんだし」
「リアルに考えりゃ、そんな文明なんだから超小型ドローンを降ろして言語とか問題がないか程度は調べていそうなもんだろ? 気にはなるし、そもそもその星に文明があるかどうかなんて実際に見ない限りわからないんだし」
「あ、そういう考え方は出来るよな……」
確かにご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、理屈的に考えてみればそう考えると筋が通りはするだろう。というわけでソラの納得に、カイトは続ける。
「ま、そういうわけでな。こういう文明の端末なんだから、未対応の言語があったとしてもそれに対応出来るようになってるんじゃないか、って思うわけよ。で、情報はあって損がない。文法とかてはおにが、は勝手に機械が補正してくれるから、単語だけこっちで確認して処理すれば良い」
「なるほどなぁ……翻訳ってかなり重要だよなぁ……」
どうやら手に入れられた情報は全員で共有出来るらしい。なのでカイトが入力して正解だった翻訳文については全員が確認出来るようになっていた。機能の一つとして設けられていた辞書機能を見て、ソラはカイトがすでに幾つもの言葉を翻訳していた事を改めて理解する。
「……男とか女とかの単語まであんのか」
「男性用トイレと女性用トイレがさっきのエントランスにあっただろ? それで男性、女性、トイレの三つの単語は翻訳出来た。で、今のこの通路でゲートと発着場の単語は処理した。一番最初の部屋で格納庫だな」
「……てか、お前慣れすぎじゃね?」
「ま、色々とな」
不思議そうなソラの問いかけに、カイトは少しだけ苦笑いだ。実際、彼は無限の旅路の中でこういった超高度な文明に触れた事は一度や二度ではない。なのでそういった文明でこういった事は何度もしており、慣れていて当然だった。
「それに、先輩もそうだが、これはオレ達の仕事にとって重要な事でもあるぞ」
「そ、そうなのか?」
「オレ達は遺跡調査をやってんだぞ? そりゃ未知の言語に出会う事もある。データベースにない言語だ。自動翻訳なんて出来ない以上、こうやって同じ事を手作業でやらなきゃならない事もある……ま、流石に今はオレ達自身の端末で似た事が出来るから、手書きする事はないがな」
「そ、それはそうだが……」
なにか小難しい話をしているな。そんな様子で話だけは小耳に挟んでいた瞬だが、唐突にカイトから水を向けられ――当然そんな様子があればこそだが――半笑いでどこか照れくさそうにそっぽを向く。とはいえ、そんな彼は彼で正論を口にした。
「だがそのために研究班を置いたんだろう。俺達の仕事はそいつらに情報を持っていって、そいつらが解読した情報をベースに更に調査を進めることだろう」
「ま、それを言ったそうなんだけどな」
瞬の指摘に、カイトは楽しげに笑う。実際、冒険部は規模が大きいし、そもそもが遺跡調査をメインとしたギルドだ。カイトはもちろん、ソラや瞬の活躍もありエネフィアでは武張った面に目が向けられがちだが、本来は数多魔術師達のギルドと同様に学術系メインとしていてもおかしくはないのであった。
「とはいえ、だ。いない以上は自分達でやるしかない。せっかく補助ツールは用意してくれているんだしな」
「まぁ……そうか。だが高度に発達した文明なら画面を向けるだけで自動スキャンして自動で解読してくれても良さそうなんだが」
「オレ達の言語データがあれば、それをしてくれるだろうな」
「……結局そこか」
「そりゃな。対応する言語がなにか、がないと翻訳なんて出来るわけがない」
「ごもっとも、か」
カイトの指摘に瞬が思わず笑う。そうして彼も今まで目を背けていた翻訳という物に目を向けるべく、端末を取り出してソラ同様に辞書ツールを開いてみる。と、そうして開いてみてすぐに瞬は首を傾げる事になる。
「ん? さっきより翻訳が増えてないか?」
「あれ? 本当っすね」
「あ、すみません。自分も翻訳をしているので……」
さっきまで観葉植物なんて単語はなかった気がする。そう訝しんだ瞬にソラも覗き込めば、そこに煌士がおずおずと申し出る。それに、ソラが驚いた様子を見せた。
「お前もやってんの?」
「あははは……はい。まぁ、空也、詩乃と一緒にですが……」
「お前も!?」
「あはは……」
驚いたような、というより今度こそソラが驚いた声をあげて、それに空也が照れくさそうに笑う。なお、地球側で翻訳をしていたのは彼ら三人だけだ。そして当然アイナディスは四苦八苦しながらも翻訳をしていたし、セレスティア、イミナ達も同様だ。
なお、一方で根っこの所では一般子女の浬らはというとこの話に対して我関せずを貫き、それどころか浬は今の話にさえ絶対に聞くつもりはないという意思表示のように明後日の方向を向いていた。というわけでそんな浬の視線の先に、カイトはニコニコ笑顔で割り込んだ。
「浬? お前も、やるんだぞ?」
「えー……」
「ほら、お前ら。言語学の勉強だ。スマホ立ち上げて」
「はーい……」
強制的というべきか、そんな様子のカイトの指示に浬達がかなり気乗りしない様子ではあったがスマホを取り出す。どうやら彼女らの前だと指導者というよりも教育者という側面が強く出ていたようだ。というわけで半ば不承不承ながらもスマホを取り出す彼女の姿に、ソラと瞬が顔を見合わせる。
「……俺達もやるか」
「……っすね」
「カイト。俺達も教えてくれ」
これはやるしかないだろう。不承不承ながらもカイトに翻訳の手順を習う浬らを見て、二人も今回の試練において翻訳という知恵の部分も重要な割合を占める事になりそうだ、と理解したようだ。大慌てでカイトの講習に参加する事にする。そうして、一同はある意味未知の文明の施設と言える雷の試練において、翻訳を行いながら進むという知恵も試される事になるのだった。
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