第3943話 雷の試練編 ――試練開始――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていたのであるが、その最中。浬の思わぬ才能の発覚により、試験は終了。小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
そうして格納庫に似たエリアを経てエントランスホールに似たエリアへとたどり着くわけだが、そこにはこの試練全体の地図を確認出来る端末と、それにデータをダウンロード出来るスマホに似た端末が用意されており、ひとまず全員分データのダウンロードを終えていた。
「なんかすっげ」
スマホ型の端末から浮かび上がる立体映像に、ソラが興奮を隠せない様子であった。
「なぁ、煌士。地球でもまだこんなの出来てねぇの?」
「流石にここまでは無理ですね」
「ここまでってことはここまでじゃなきゃ出来てるのか?」
「ああ、いえ……と言いますか、拡張現実……俗に言うARはヘッドマウントディスプレイがあれば擬似的に同じ事は出来る、という所でしょうか。流石にヘッドマウントディスプレイなどなしで同様の事はまだ出来ませんね。一応ARグラスもかなり進化していますが」
スマホ型端末から浮かび上がるホログラフに、煌士もやはり興味深げだ。ソラの興味が少年的な興味であれば、こちらの興味は技術者としての興味に近いだろう。
「ですがこれはどうやっているんでしょう。おそらくスマホから放たれる映像を利用しているのだとは思いますが……」
「俺には聞いてくれるなよ。なんもわかんないから」
「あはは……誰もわからないのは百も承知です。流石に無理も道理でしょうから」
「ティナちゃんぐらいだろーな、これがわかるのって……」
煌士で無理となると、後はそれ以上の天才とカイトに言われるティナぐらいなものだろう。というわけでスマホ型端末から浮かび上がるホログラフィの使い方を練習しながら、彼はカイトへと問いかける。
「なぁ、カイト。お前らでもまだこんなの作れないのか?」
「んぁ? ああ、ホログラフ投影式のスマホ端末?」
「そう」
「いや、出来るけど」
「「え?」」
カイトのさも平然とした返答に、ソラも煌士も思わず目を見開く。これにカイトは肩を震わせた。何を当たり前な、と言わんばかりである。
「魔術を使えばそこまで難しい技術じゃない。トラップで幻影を生じさせるのと一緒だ。もちろん、データを色々な所から引っ張ってこないといけないから、現状で作ると費用対効果は見合わん。トラップやらは条件を指定して立体映像を投じているだけだからな。あくまで技術研究段階という所だな」
「ああ、採算性度外視なら出来るって話なのか」
「そこは流石にな……てか出来るならオレがやらないわけないだろ?」
「そりゃそっか」
確かに言われてみれば魔術を使えば立体映像を創り出す事は容易だし、魔道具を使って同様の事を行うのはソラも知っていた。魔物相手、盗賊相手の魔道具でそういう囮として使う場合があるからだ。それを応用すれば技術的には出来る、と言われては納得しかなかったのだ。
「ま、それは良いだろう。とりあえず使用感はどうだ? 問題なさそうか?」
「あ、ちょっと待ってくれ。流石にまだ……リンクがここで、他の奴のがこれで……」
カイトの指示に、ソラは大慌てで端末の練習に戻る。先に何個か地図上の立入禁止エリアがあったわけだが、そこについては一旦スルーして、ひとまずは地図で明示されている所を調査する事にしたらしい。と、そうして準備を重ねる中、浬がふと疑問を呈した。
「そう言えば今回妙に優しくない?」
「優しい? 何が?」
「試練。いつもなら地図なんてくれないし、敵、罠、そして敵、罠の連続って感じだし」
「……いや、絶対裏あるよ、これ」
「……そんなもんわかってるわよ」
海瑠の指摘に、浬は途端真顔になる。今までになく優しいのだ。これで何も無いという方が恐ろしかった。というわけで明らかに慣れています、という様子にソラが煌士に向けて苦笑いを浮かべた。
「……なんか、お前らも苦労してんだな」
「ま、まぁ……試練がメインですので……」
「はぁ……どっちのが楽なんだろうな。こんなのを連続した挙げ句、ってのと」
「わかりません。こちらは日常生活を送れているだけ楽に思いますが」
「まぁ、そんなこと言っちまうと、俺達だって日常生活出来るしなぁ……不便か、って言われるとやってみると全然不便でもないし」
ソラは地球での生活を思い出し、更にエネフィアでの生活を思い起こす。確かにエネフィアの生活に不便がないかと言われれば不便がないわけではないが、慣れてしまえばどうということもないことも多かった。というわけでこちらの生活に興味が湧いたらしい。煌士が問いかける。
「そうなのですか?」
「まぁな……移動に自動車ないけど飛空術あるし、遠くなら飛空艇あるし。飛空艇も免許持ってるから動かせるし、飛竜で小回りも利くっちゃ利くし……娯楽がないように思えるけど、ぶっちゃけ色々とあるしなぁ……」
思い返せばそこまで不便を感じた事はないかもしれない。ソラは娯楽などを含めて、生活水準がさほど変化していない事を今更ながらに実感する。多少落ちている所はあるが、同時に上がった所もある。その結果、大した不満はなかったようである。というわけで特に困った記憶が思い起こせない彼に、煌士も興味を覗かせる。
「異世界の娯楽。例えばどんな?」
「色々あるなぁ……ボードゲームもボードゲームってか魔術使ってるから下手なゲームよりリアリティあるし、そりゃストーリー重視のRPGあたりはないけど……ノベルゲー……ADVあたりは普通にあるし。結構推理系とかのも盛んだな。いや、まぁ……推理系でとんでも魔術がネタで出てきた時は思わずツッコんだけどさ」
「な、なるほど……」
「あ、そういやカイト。軍用のシミュレーションを応用したアクションゲームとかはあるんだっけ?」
「ああ、ウチ謹製のがな。まぁ、あれはヴィクトルに頼まれて提供したんだが……ユニオンも興味持ってたからなぁ……一気に当たっちまった」
ここらの娯楽において、やはり異世界の娯楽の知識を有するカイトは非常に強かったらしい。マクダウェル家は色々と栄えているが、娯楽の街としても栄えている様子であった。
とはいえ、そんなエネフィアにもないものはあった。というわけで何が違うかを考えるソラだが、ふと一つだけ違う事を思い付いた。
「あ、だけどそういや、ソシャゲとかネトゲとかはないな。てかネットがない。これだけは不便だな」
「あれは全世界的なネットワークが必要だが、それをやれる技術がまだないからな。あと5年か10年は必要だな」
「出来るのか?」
「そりゃ各界に繋がりあるし。困るのオレら冒険者だし。だからバルフレアと一緒にユニオンとウチ主導、皇国とかラエリアとかヴァルタードとかを後ろ盾に現在進行中」
「「「……」」」
どうやらやはり流石は異世界有数の大貴族という所らしい。全世界的なインフラまで手掛けているらしいカイトに、全員が思わず言葉を失っていた。というわけでソラを含め公爵としてのカイトを知らない全員が圧倒的な格上の存在と言える彼に何も言えなくなった一方、そんなものは当たり前でしかないアイナディスが口を開いた。
「それでカイト。ここからどうしますか?」
「まぁ、とりあえず最初は集団行動で良いだろう。目指すのはこの一番大きなドームで」
「……やはり貴方もそう考えて?」
「だろうな。こんな甘やかしてくれてるんだ。当然、そうしてくるだろう」
「ではそれまではのんびり出来そうですね」
どうやらこの二人は何が起きるかを察していたらしい。アイナディスもカイトも少しだけ獰猛に笑っていた。というわけでそんな彼に浬が問いかける。
「……どういうこと?」
「試練はまだ始まってさえいない、ってことだ」
「なんで」
「始まってないから。今のうちに未来の旅行者気分を味わっておけ、っていう雷の大精霊様からの有り難いお言葉だ」
「……やっぱりそういうことなんだ……」
どうやら甘いのではなく、謂わば今は嵐の前の静けさ、という所らしい。浬は楽しげなカイトの反応にがっくりと肩を落とす。そしてそんな彼女にカイトは楽しげに告げた。
「もちろん、そういうことです」
「じゃ、出発しんこー!」
「おーし、皆々様、安全に注意しながら進みましょう」
「はーい、このペナントが目印でーす」
「あ、それ欲しいー」
ソレイユの合図と共に、カイトはとりあえず地図に表示された案内通りに進む事にする。というわけで呑気な三人組に、警戒はしつつもまだまだ余裕しかないアイナディスが進みだした事に合わせて、一同もまたひとまずは地図に従って進む事にするのだった。
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