第3942話 雷の試練編 ――調査――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていたのであるが、その最中。浬の思わぬ才能の発覚により、試験は終了。小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
というわけでついに始まった雷の試練であるが、その最初に待ち受けていたのはどこかの近未来的な巨大ロボットとその格納庫という所であった。そうして格納庫を超えて次にたどり着いたのはどこかの宇宙基地のエントランスという所であり、そこには宇宙服に似た装備が置かれていた。
「更衣室などは無さそうですね」
「まぁ、宇宙に取っこまれなかっただけ良しとしようぜ……いくらなんでも宇宙で戦うなんてやったことないし」
「普通はそうでしょう。やってたら驚きですよ」
「だよな」
「……」
そのやったやつ居るんだよな。瞬はソラと笑い合う煌士の言葉に、無言で苦笑いでカイトを見る。そんな彼はエントランスの中央にあったホログラフを映し出すなにかの装置を調べていた。似たような装置はエントランスの幾つかの場所があり、中央から彼は調べていた。
「にぃー。何書いてるかわかるのー?」
「わかれば良いな、とやってる」
「雰囲気で調査をしてるってこと?」
「まー、ぶっちゃけちまうとそうなっちまうな」
ソレイユの問いかけに、カイトは楽しげに笑う。とはいえ、その手つきは手慣れており、自分が何をしているかおおよそわかってるような様子はあった。というわけで、その作業を覗き込んでいた浬が問いかける。
「でもスイスイ動かしてない?」
「数度動かせば大体はわかった。言葉がわからないだけで、そこにボタンがある事はわかる。戻る、進む、というのはわかるからな……で、後は戻ると進む、はいといいえの四つがわかれば大体は出来る」
「なるほど……」
確かにカイトの作業はどこか内容を熟読している様子はなく、文章そのものを理解するというよりも雰囲気を理解するという印象が強かった。
「そういうのそっちだとやるの?」
「やらなーい。こういうのってにぃ達の仕事っていうか」
「私達がこういう面倒なことやることないよねー」
「ねー」
ユリィの言葉にソレイユが即座に応じて、カイトの肩に顎を乗せて力を抜く。そうして暇になったのか、顎で彼の肩をぐりぐりと押していた。
「ぐりぐりすな」
「ひまー」
「ひまー」
「まぁ、良いんだけどさ……うーん……これが一番上の画面ってのはわかったんだが……さて……」
やっぱりそれにしたって慣れてるような動きだよなぁ。浬はカイトの手の動きに合わせて動くホログラフを見ながらそう思う。
「となると……絶対にあるはずなんだよな、こういう形式だと……それともあっちの小型か……? いや、だがあれは多分ドアの開閉用のコンソールだろう……となると……」
「さっきから何探してんの?」
「ん? ああ、このエリアのマップというかなんというかだな。これがもし宇宙基地というか、宇宙コロニーなんかのエントランスを模しているのなら、案内図があるはずだ。迷った奴が道順を調べられるようにな」
「でもこれ試練じゃん。なくてもおかしくないんじゃない?」
「まぁ、そうだな。だがもし模してるのなら、マップがあって不思議はない……」
やはり書いている文字がわからない中で調べるのだ。いくらカイトでも調査は難航を極めていた。というわけで苦い顔で彼がボヤく。
「……ティナがいてくれりゃ楽なんだがなぁ……」
「そーいえば、ティナちゃんは来れないんだっけ?」
「ああ。あいつはちょっとな……どうしても聖域には入れん。ダメか。ってなると、もうこれしか手はないかな」
これはおそらく当てずっぽうでなんとか出来るようにはなっていないのだろう。カイトは一通り目に見えるボタンを押してみて思うような情報が得られなかった事から、なにか最後の手段を決めたようだ。というわけで、彼は一番上と予想される画面にまで戻ると、その一番上にあった四角い枠へと手を伸ばす。すると四角い枠が拡大されて、なにかを入力するような画面が表示される。
「さて……これで音声認識のみ反応ならお慰みなんだが」
カイトはどこか祈るようにそう呟くと、拡大された枠の中に文字らしき模様を書き記す。
「え? お兄ちゃん、この文字書けるの?」
「いや、出てた文字の中からそれらしい単語を抜いただけだ。キーパッドとか出てこなかったから、入力形式はそれで類推出来た。なら後は文字を魔術的に保管しておいて、総当りだ」
「……どうやってんの?」
「「わかんない」」
浬の視線を受けたソレイユとユリィが二人揃って首を振る。が、これに浬が驚いたような表情を浮かべた。
「え? ユリィちゃんもわかんないの? お兄ちゃんと一緒に旅したんだよね?」
「わかんない。そもそも私もこんな施設初めてだし」
「……なんでお兄ちゃんそんな事できんの?」
「どうでも良いだろ、そんなこと」
どこか突き放すようなその言葉は、どちらかといえば答えたくないという所だったのだろう。おそらく拡張現実機能を利用した近未来的な操作方法にあまりに慣れている所など怪しい様子はあったが、どうにせよ彼が話さない事にはどうする事も出来ないのは一緒だ。
というわけで僅かに沈黙が舞い降りる――ソレイユとユリィは気にせずカイトで遊んでいるが――わけだが、だからこそカイトの作業もあっという間だったようだ。
「よし、ビンゴ。これだ」
「これは……地図? 一個だけ光ってるけど……」
「多分この施設全体の全体図だな。今いるのはこのエントランスホールだろう」
「あ」
どこか得意げな様子で笑うカイトが、表示された全体図を拡大するようなイメージで両手を動かす。すると全体図が拡大されて、光っているドーム状のエリアの詳細が表示される。そこではちょうど今自分達が居るあたりで光点が点滅しており、現在地を示しているという様子であった。
「……うん。間違いないな。これが全体図だろう」
「って、これがわかってもどうするの?」
「これがわかればどこまで続くか、というのがわかるだろ? ってことはペース配分を考えられるってわけ」
「それむっちゃ重要じゃん」
「そ、むっちゃ重要なんよ」
目を見開いた浬に、カイトが何故こうも必死で調べていたかを語る。これがわかるかどうか、で今後のペース配分が変わるのだ。非常に重要なのであった。
「まぁ、といっても。おそらくこれは一般客用だな。地図の幾つかに封鎖のマークがある」
「これは……なんなの?」
「わからんが、順当に考えればスタッフオンリー。関係者以外立入禁止という所だろう。さっきのエリアはそうなると……うん。なるほど。この様子だとおそらく個人向けの格納庫だな」
「こ、個人向け格納庫?」
個人向けの格納庫なんて存在するのか。浬はカイトの言葉に思わず顔を顰める。とはいえ、これは実はあまり珍しい話ではなかった。というわけで、ユリィがそんな彼女に告げた。
「珍しくないじゃん。そこそこお金持ってる冒険者だったら小型飛空艇持ってるのって珍しくないし」
「そ、そうなの? もしかしてソレイユちゃんも……」
「私は持ってないよー。飛空艇必要だったらにぃが出してくれるし。後、私場合によっちゃ飛空艇より速い移動方法使うし」
「まぁ、お前はな……とはいえ、地球でも日本じゃあまり一般的じゃないだけで、アメリカやヨーロッパだと移動に飛行機は普通だ。富裕層だと普通にプライベートジェット、って聞くだろ? だから珍しいが、ないわけじゃない。それを宇宙港に設定すると、ああなるのも不思議じゃない。さっきの格納庫もその一個って所なんだろう」
「へー……お兄ちゃんも持ってるの?」
「まぁな……」
「公爵様なんだ……」
やはり異世界では世界最大規模の大貴族だと言われているのだ。収入などもそれ相応にあるのだろう、とどこか苦笑いのカイトに浬はそう思う。が、これは当然そういうわけではなかった。
「いや、知り合いから譲り受けた形だ」
「そ、そんなので飛空艇って貰えるの? 無茶苦茶高いんじゃないの?」
「その人が亡くなった遺品……形見分けだ」
「え、あ……ごめん」
「構わんよ。おかげで、一つの国を平和に出来たしな」
「……」
やはり兄は兄でありつつも、異世界では勇者と呼ばれる人物なのだろう。浬はどこか苦みが乗りながらも穏やかな様子のカイトの笑みにそれを理解する。というわけで何も言えなくなった浬に、ユリィが茶化すように口を挟む。
「女の子も一人増えたしね」
「うるせぇやい」
「どゆこと?」
「色々とあったんだよ」
「女王様とのラブロマンスがね」
「お前ら降りろ!」
「「わーい!」」
ソレイユとユリィの楽しげな声が響き渡る。そうしてカイトが数度身を捩っても二人は振り落とされるつもりはなかった様子だったが、しばらくして彼女らが自発的に降りる。
「よいしょっと」
「カイト。小型端末とかあるかな?」
「多分あるな……よし。ちょいと探すか」
どうやらこんなものは単なる旅の最中のいつもの一幕という塩梅だったようだ。先程まで怒った様子を見せたカイトを含め、三人が旅に向けた様子を見せる。と、そんな彼らに近寄る影があった。
「それでしたら、おそらくこちらでしょう」
「ん? アイナ。なにかあったか?」
「ええ。そこのおそらくレジカウンターと思われる所に、この小型の端末が幾つか。ちょうど貴方達が持つスマホ型? の通信機と似た形状なので調べてみましたが……私では少しわかりかねましたので」
「何個あった?」
「人数分は」
「ってことは確定かな……っと」
アイナディスから投げ渡されたスマホに似た端末を受け取って、カイトはホログラフが発生されている台座に置いてみる。するとスマホに似た端末のガラス面が僅かに淡く輝いて、二つの装置が繋がった事が直感的に理解出来た。というわけで、カイトは表示されていた全体図をまるでスマホに落とすように下へとジェスチャーで動かした。
「よし……よし。正解だ。ほら」
「っと、ありがとうございます……ああ、出来そうですね。それとこの端末は現在位置を常に把握する役割もありそうです」
「なるほど……他の端末も持ってきてくれ。全部にダウンロードしちまう」
「わかりました。ソレイユ、ユリィ」
「「はーい」」
「あ、私も手伝います」
「お願いします」
浬の申し出に、アイナディスが一つ頷く。そうして人数分の端末の準備が整った所で、一同は改めて次に向かう指針を決める事にするのだった。
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