第3941話 雷の試練編 ――エントランス――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
というわけで雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていたのであるが、その最中。浬の思わぬ才能の発覚により、試験は終了。小休止を挟んで、改めて試練の攻略に乗り出す事になると、近未来的な外観を有する扉を通過したその先に進む事にする。
というわけでついに始まった雷の試練であるが、その最初に待ち受けていたのはどこかの近未来的な巨大ロボットとその格納庫という所であった。
そうして部屋を調べた結果から巨大ロボットは完全に壊れており、その修理がこの雷の試練において重要な位置づけであると判断。瞬が見付けた次への扉から、次へ向かう事にする。
「……」
格納庫へ続く扉同様に、ソラが最前列に立って瞬とイミナの二人が脇に控える。幸いな事にどうやら扉もコンソールも単に雰囲気として崩れたコンテナに埋もれていただけで、故障している事はなかった。というわけで普通に起動した扉を開く前に一度全員で顔を見合わせて、問題ない事を確認して扉を開く。
「……」
これまた幸いな事に、この扉の先にも敵が居るという事はなかったようだ。数瞬の警戒の後、ソラが警戒を解く。
「問題ないっす……今の所は……いや、多分ここに敵はいなさそうっすね」
「どういうことだ? ん? ……こ、これは……」
「どうした?」
「あ、いえ……なんというか……」
苦笑いのソラと瞬に、二人に続いて部屋の中に入ったイミナが内装を見て小首を傾げる。彼女には何がなんだかわからなかったようだ。というわけでそんな彼らの声に一同もまた中に入るわけだが、そこで煌士が興奮の声を上げた。
「おぉ! これはすごい!」
「単に夜景が浮かんでいるように見えるだけだが……?」
「夜景ではなく宇宙ですよ、おそらく。たぶん宇宙基地を模している、というわけなのでしょう」
何にそんな興奮を見せているかわからないイミナに対して、年相応の興奮を滲ませる煌士が状況を説明する。だがそんな彼にイミナは困惑を深める。
「うちゅうきち? なんだ、それは」
「……あ、なるほど。カイトさん。一つ伺いたいのですが」
「ああ、象の上のお話とか? もしくは地球平面説でも良いかもしれないな」
「はい」
自身への問いかけでおおよそを察したカイトに、煌士が一つ頷いた。宇宙基地とはなんなのだ、となる彼女の疑問は当然過ぎたのだ。そしてそこらを完全に理解しているのはカイトだけだろう。というわけで彼女にすぐに理解出来るやり方を彼は知っていた。
「『方舟の地』は覚えてるか?」
「無論です。レジディア王家の聖地にも等しい地。忘れることなぞあり得ません」
「そうだな……その方舟の地の最上層を模している、と思え」
「あの先が……」
こうなっているのか。前人未到の領域に広がっていると思われる光景に、イミナも煌士達とは少し方向が異なるものの、どこか感動のような物を受け入れたらしい。が、これにセレスティアは少しだけ苦笑いだ。
「またなりませんかね?」
「ああ、あれか……」
セレスティアが思い出していたのは、『方舟の地』の正体に気付いた時の事だ。やはりあれは彼女にとってトラウマものに近いようで、わずかに顔が青ざめていた。
「なんだったら手を握っておいてやろうか?」
「いえ、大丈夫です。多分、大丈夫でしょうから」
「そうか……ま、無理なら何時でも言ってくれ」
「ありがとうございます」
流石に試練の最中に行動不能に陥られても困る。カイトの言葉にセレスティアは笑いながら首を振る。そうして数度深呼吸して、恐怖を追い出す。
「……よし。行きましょう」
「あいよ……で、それはそれとしてだが。ここはなんだ?」
セレスティアの復調を理解して、カイトは改めて周囲を確認する。部屋の広さとしてはおおよそ体育館ほどの広さ。正面には大きな台座にホログラフが浮かんでおり、おそらく単なる飾りなのだろう文字やら写真やらが浮かんでいた。奥の一面はおそらくガラスに近い透明度の高い素材で覆われており、外の光景が見えるようになっていた。敢えて言うのなら、どこか巨大施設のエントランスにも似ているだろう。
「長椅子やら観葉植物やら……なんだか懐かしいというかなんというか」
「なんで? いや、こんなのどこにもないだろ」
カイトの発言に、同じように周囲を確認していたソラが小首を傾げた。何度も言われているが、この雷の試練は全体的に現代の地球、エネフィアの技術力を大きく上回った文明の構造をイメージして作られている。だからアイナディスの経験も通用しないわけだし、カイトもこれは未知だと言っているのだ。なのに懐かしいという彼の発言が理解出来ないのは当然だっただろう。
「あー……いや、まぁ、そうだな。近未来とか遠未来のゲームとかで出てくるロビーとかエントランスとかこんな感じじゃね?」
「あー……確かに……いや、でもだからって懐かしいは変だろ」
「そうだな。悪い、変な発言だったな」
これは自分の言葉の綾としておく方が手っ取り早いだろう。カイトは下手に突っ込まれても困る話であった事もあり、そうしておく事にしたようだ。
「だよな……で、それはそれとしてだけど。確かにロビーとかエントランスとかって感じだな。まさにここから色々な所へ移動するって感じの」
「だろ? ってなるとこれはここを起点として、ここから更に先に進んでいく感じか」
「かもなぁ……」
カイトの懐かしいという言葉には疑問を呈したソラであったが、同時に彼の言っている意味は同意していたようだ。そしてカイト同様にゲームは色々とやっている彼だ。同じように近未来を題材としたゲームは幾つも遊んでおり、この構造がそのロビーやエントランスなどのここから幾つも分岐する部屋なのではと思ったらしい。と、そんな彼らに声が掛けられた。
「カイト、ソラ」
「「ん?」」
「あれだ」
「あれは……えぇ……?」
瞬の指さした方向を見て、ソラが思わず顔を顰める。それは自分達が来た方向の壁際の一角だ。というわけで、顔を顰めた彼に瞬もまた同じように顔を顰める。
「……やはりお前もそう思うか?」
「……いや、もしかしたら作業着っていう可能性も無きにしもあらずと言いますか」
「この様相で作業着は即ち、じゃないか?」
「……っすね」
瞬の指摘に、ソラは何も言い返す言葉がなかったらしい。とはいってもそうでないであってくれ、と思っていただけでもあっただろう。なので最初から諦めもかなり滲んでいた。というわけでそれについて最も良く知る人物へと、ソラは問いかける。
「あー……煌士。お前、あれどう思う?」
「はい? おぉ! これは……」
「……まぁ、お前はそうなると思ったけどさ」
しゅたっ、と一瞬で壁際に立てかけられた何着もの作業着の前に移動した煌士に、ソラはがっくりと肩を落とす。そうしてその彼に並ぶように、ソラもまた移動した。
「……やっぱそう?」
「そうでしょう。何度も宇宙服は米国で見ていましたが、素材の様子が似ている。ただ米国……いえ、米軍が作製していた宇宙服よりはるかに軽量に見えます。航空宇宙産業ならトップを行く米国の宇宙服を数世代上回っている。凄いな……こんな軽量に出来るのか……耐熱性、気密性は問題ない……か?」
慎重ながらもどこか大胆に引っ張ったり持ってみたりして、煌士は宇宙服の素材を確認する。そうして興味津々、と興奮を隠せない様子で宇宙服を調査する彼に、ソラが問いかける。
「やっぱお前も興味あんの? 宇宙服」
「それは……ないわけがないですよ。そもそも大学での研究テーマは重力技術の宇宙開発事業への応用ですから。最終目標は反動推進と異なる次世代型航空機、もしくは宇宙船の開発。そうなると宇宙服も必然、必要となります。宇宙局の方々とは日に何度もやり取りしていますし、何度かお邪魔させて頂いた事もあります」
「もしかして着た事とかもあんの?」
「いえ、流石に。一度着てみるか、と言われた事はありますが……流石にサイズが合わなくて無理でした」
実はなのだが、桜の弟の煌士はアメリカにて大学を飛び級で卒業し、その上で今では実家の天道家が運営する天桜学園の大学にて研究室を持っていた。
その彼の研究内容はというと、重力場を利用する事で、現代では第一人者とまで言われる天才だった。そして灯里がその補佐というわけである。つまり、カイト達にさえ認められる灯里を更に上回る天才なのであった。というわけでそんなこんなで宇宙服を調べる彼に、カイトが口を挟んだ。
「まぁ、その様子だとこりゃどこかで宇宙に出る事になりそうだな。更衣室やらを探すべきか」
「これを着ながら戦うのは難しそうですが……そうか。まさかこんな所で宇宙服が着れるとは……」
「帰って天道で作ってる宇宙服に不満を見せるなよ?」
「あはは。気を付けます。それと応用できるようにも頑張ります」
「そっちはやってみせろ」
自身の指摘に笑う煌士に、カイトもまた笑う。そうして、宇宙服を筆頭にまずはこのエントランスホールの調査から、一同はスタートする事にするのだった。
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