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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3937話 雷の試練編 ――天才――

 暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。

 カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。

 というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。そうして最深部からついにたどり着いた雷の聖域は、どうやら今回ホログラムが浮かび、構造材はなぞの金属と近未来的かつSF映画やアニメのような様相であった。

 そんな雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていた。


「なにこれなにこれなにこれ!?」

「だからソレイユちゃんの矢!」

「そんなのわかってます!」


 自身の絶叫にも似た言葉に見たままを返すソラに、浬が大声で返す。そんな彼女らの絶叫を尻目に、ソレイユは容赦なく矢の雨を降り注がせる。


「ほらほら、いっくよー!」

「カード!」

「っ、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>!」


 巨大な岩の防壁が顕現し、更に黄金色の斬撃が迸る。そうして半数ほどの矢が黄金色の斬撃により消し飛んで、残る半分ほども岩の防壁を削りつつも大半が消滅する。


「全員、斉射!」


 矢の雨には魔弾の雨を。煌士が号令を掛けると同時に、彼を筆頭に無数の魔弾が放たれて残る矢の雨を粉砕する。だが相手はソレイユ。真正面から矢の雨を降り注がせるだけで終わるわけがない。


「海瑠!」

「っ……」


 呼吸を整え意識を集中し、海瑠はライフルから持ち替えた双銃へと魔力を通す。


(視界は全周囲に展開)


 自分を中心として、自分を上から見下ろすような意識を。海瑠は防壁を迂回して左右から迫りくる矢を認識するべく、目を閉じて魔眼で周囲の状況を確認する。そうして、両手を広げて双銃で左右から迫りくる矢を狙撃していく。


「うお、むっちゃカッコよ」

「あ、あははは、って、まずっ!」

「へ? って、なんだ!?」


 まるで踊るような動きで双銃で迎撃していく海瑠に思わず感心するソラであったが、その海瑠が自身の方を見てなにかに気付いたかのように双銃を構えたのを見て、彼もまた自身の真横になにか穴のようなモノが現れた事に気が付いた。そうして彼が身構えるより前に海瑠が引き金を引いて、そしてそれと同時に穴から矢が現れて、共に消滅する。


「……ちょっとぉ!? ソレイユちゃん、マジ!?」

「まだまだぁ!」


 何度か話には聞いた事があったし、遠目には見た事があったことはあった。ソラはおそらくソレイユが使っているのが<<転移矢(ワープ・アロー)>>と言われる特殊な力を使っているのだと理解する。そしてそれが始まった途端、無数の穴が一同の周囲に浮かび上がる。


「うそだろ、おい!? っ」


 これはそういう奴か。身構えたソラは、穴の幾つかからしか矢が飛び出してこない事を理解。この穴が単なるブラフも含んでいる事を理解する。というわけで、彼はくるりと回転するように<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を振り回す。


「<<太陽の輪>>! って、無理なのかよ!」

「当たり前!」


 そんな楽しそうに言うなよ。ソラは黄金色の斬撃で穴を潰そうとしたわけだが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。穴はまるでブラックホールのように斬撃を吸収し、一周する頃には完全に無力化してしまっていた。そしてもちろん、相手は熟練の冒険者であるソレイユだ。この穴が単なるブラフに留まるわけがなかった。


「っ」


 飛翔する矢が別の穴に飛び込んで、更に別の穴へと移動する。矢が自分目掛けて飛翔しているのか、それとも別の穴に飛び込むブラフなのか。一瞬で見極め、自身を狙う攻撃を防ぐ必要があった。そしてもちろん、ソレイユの矢が単純に斬り裂けるわけがない。


「はぁ! っ」


 冗談だろう。ソラは自身が振るった刃が空を切るのを知覚する。


(矢だろ!? ぐにゃって曲がるなよ!)

「ちぃ!」


 まるでゴムのようにぐにゃりと曲がる矢に、ソラは舌打ちしながら盾を振るって即座に弾く。が、そうして弾き飛ばした矢はどこかの穴へと飲み込まれて消える。


「っ」


 しゅるしゅるっ。明らかに矢の音ではない風を切る音で、ソラは自身が弾いた矢がまたどこからか飛来している事を理解する。


(これだから天井組はヤなんだよ!)


 これでもまだ全然余裕かつ、単に遊んでいる程度でしかないのだろう。ソラは回転しながら飛来する矢を音だけで把握し、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>で叩き落とす。

 流石に勢いは最初より弱まり、回転までしているのだ。直撃させることは出来たし、ソレイユもすでに一撃を受けて力の大半を損耗している矢で攻撃は狙っていない。故にこの一撃で完全に矢は力を失い、地面へと落下して砕け散る。


「っ」

「ソラさん!」

「悪い!」


 矢の一本を弾くと共に幾つもの穴から矢が出現し、万事休すかと思われた瞬間。海瑠が双銃による弾幕を張って、矢の嵐を未然に防ぐ。そうして穴に取り囲まれた領域から脱したソラだが、その先にもソレイユの矢の雨が迫りくる。


「ちぃ!」


 一方的な攻め手に、ソラは思わず舌打ちする。とはいえ、流石に彼とてやられっぱなしではいられない。


「はぁ!」


 床に着地すると同時に、ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を床へと突き立てる。そうして彼の周囲から黄金色の光が溢れ出して、降り注ぐ矢を吹き飛ばした。


「煌士! ソレイユちゃんに肉薄するから支援! 作戦そっちで頼む!」

「はい!」


 自分より、というより自分達より地頭が賢い煌士だ。とりあえず頼めばなんとかしてくれるだろう、という完全に投げた形ではあるが、どちらにせよソレイユを好き勝手にさせると自分達が圧倒的に不利になる。早急に彼女を抑え込まねばならなかった。というわけで、彼はまずはソレイユを抑え込むべく<<地母儀典(キュベレイ)>>へと手を伸ばす。


「<<大地の鎧(ガイア・アーマー)>>!」


 地面に接していないので万全は出来ないが、防御力は底上げ出来る。何本かは被弾覚悟で、ソレイユへと肉薄するつもりだった。そして彼が準備を整えると同時に、煌士も初手を決めていたようだ。彼の声が迸る。


「天音姉! 空中から牽制を! 速度はマックス!」

「りょーかい!」


 煌士の指示を受けて、浬の背に半透明の虹色の翼が顕現する。そうして翼がはためいた瞬間、彼女の姿が消えた。


「「「は?」」」

「え? うそ!」


 今まで地上を走る時はまだまだひよこだな、と微笑ましいものでも見ていたかのようなソレイユであったが、飛空術を展開した瞬間に消えた浬に思わず声を上げる。もちろん、彼女の動体視力で距離も距離なので見きれなかったわけではないが、それでも驚くには十分な速度だった。


「カード!」

「ちょ、ちょっと予想外!」


 二枚のカードが展開されると共に出現した巨大な火球に、ソレイユが大慌てで矢の照準をあわせる。とはいえ、反応速度はソレイユが圧倒的だ。困惑と圧倒的に後出しでありながらも、ソレイユが先に矢を放つ。


「うそっ!?」


 完全に先手を取ったはず。そう思った浬だったが、やはり相手はソレイユだ。数秒でも猶予を与えれば間に合うのは当然である。というわけで放たれる矢を火球でなんとか相殺し、更に続く矢の雨に大慌てで翼をはためかせて飛翔する。


「……あえ?」


 明らかに速度がおかしい。ソレイユは浬の速度に思わず再度困惑する。一応弓兵なので目で追えてはいるが、それにしたって今の力量と飛空術による飛翔速度が見合っていなかった。


「ちょ、ちょっと待って! ねぇね!」

「わ、わかっています!? ちょ、ちょっと待ちなさい! え、えっと、浬!?」


 何が起きたのかさっぱりわからない。浬の速度に思わず泡を食うソレイユに、同様に困惑を浮かべていたアイナディスが制止を掛ける。とはいえ、そう言われたからと止まるわけもない。

 だが雷の契約者である彼女だ。超速度の浬を捕獲する事は可能だった。というわけで今回の試練として設定していた上限値を大きく超過させて、紫電と共に浬の腕を引っ掴む。


「っ!」

「待ちなさいと言っているでしょう!」

「え? あ、私ですか?」

「貴方以外に誰が居るのです!」


 今の速度でこれ以上飛び回られてはたまったものではない。そんな様子でアイナディスが浬の腕を引っ掴みながら、床へと降下する。


「あ、あの……」

「……」

「……」


 小っ恥ずかしいことこの上ないんですがっ。浬は美少女と言うしかないアイナディスに見詰められ、顔を真っ赤にする。とはいえ、一方のアイナディスはどこか鬼気迫る様子で、睨んでいる様子さえあった。というわけでしばらく観察した後、彼女が声を張り上げる。


「カイト!」

「あいあい……残念ながら、危惧している事はなーんもないよ」

「? 何の話?」


 睨むような視線での問いかけに苦笑いで答える兄に、浬が首を傾げる。


「いや、お前の飛空術がやばすぎるって話」

「ヤバすぎるって……遅すぎるとか?」

「お前わかってて言ってるだろ。明らかに速すぎるんだよ」

「あいてっ……えへへ」


 どうやら浬の飛空術の適性が尋常ではない事は、この雷の試練までに何度も言われていた事だったようだ。カイトのデコピンに浬が笑いながら大げさに仰け反る。


「いえ、それにしたっていくらなんでも速すぎるでしょう。今の速度は私が上限値に設定している速度を遥かに上回っていた」

「ウチの妹様、飛空術の大天才らしくてな。風の試練の後、こいつが飛空術使いたいから教えてくれ、って言ってきたから教えてやったらご覧の有様だ。これで契約者の力をなーんも使ってないんだから正直冗談キツいよな」

「……うそぉ」

「えぇ……? いえ、貴方の妹だと言われれば正直納得しかありませんが……」


 今のは契約者の力、例えば風や雷の契約者の力を使った上でなら納得も出来た。だがそれもなく、あの速度だ。というわけで、少し悩んだ後。アイナディスは瞬を見る。


「瞬」

「あ、あぁ……なんだ?」

「一度直線距離で浬と競ってください。浬、貴方は飛空術で。瞬、貴方はやりたい方で構いません。浬、貴方の飛空術は初速が最大ではなく、加速するタイプですね?」

「そうですけど……」

「大精霊様。壁を伸ばせますか? 出来る限り長く」

「やろう」


 どうやらこのまま試験を続ける事はできそうにはないと判断されたらしい。アイナディスが細剣で床に切れ込みを入れて、指でそこに立つように告げる。そうして雷華によって、試験のために用意された部屋が一気に拡大していく一方で、カイトが魔銃を取り出す。


「雷華。距離はどれぐらいだ?」

「大体10キロ、という所か。瞬もその程度なら問題ないだろう」

「か……先輩。大丈夫だな?」

「ああ、問題ない」


 10キロ程度なら冒険者をしていれば街の近辺での問題発生、例えば魔物の群れに冒険部のキャラバンが襲われた等で救援に駆け付けられる限界の移動距離にも満ちていない。

 最高速を維持して駆け抜けて、更に一戦行える程度と言えるだろう。というわけで距離による不利はないと判断した所で、カイトが魔銃を天高くへと掲げて引き金へと指を掛ける。


「はーい、位置について……ヨーイ、ドン!」

「「っ」」


 カイトの掛け声と共に魔銃から放たれた発砲音を合図として、瞬が紫電を纏いながら疾走し、浬が虹の羽を撒き散らしながら飛翔を開始する。そうして最初数秒は瞬が勝っていたが、数秒後。十分に加速が乗った浬が彼を上回り、ゴールにたどり着く頃には大きく突き放して決着となった。


「……嘘だろう?」


 確かに実戦でここまでの長距離を想定する事が滅多にないので実用性があるかと言われれば微妙な所だが、冒険部で最高クラスの速度を有する自分をも上回るのだ。瞬でさえ思わず目を疑うしかなかったようだ。


「長距離で俺を完全に上回るとなると……カナンぐらいか?」

「だーろうな。あいつでも距離次第じゃ浬のが上だ」

「うおっ!? いつの間に!?」

「あ、お兄ちゃん」

「おう、オレだ」


 てってれーん、と軽く歌いながら、カイトが笑いながら先程合図に使った魔銃をくるくると回して見栄を切る。とはいえ、そんな彼がため息を吐いた。


「……ま、流石に最終的にはオレも浬には負けるだろうな」

「そんなか」

「……こいつ、まだ2~3ヶ月だぞ、飛空術を習得して」

「……は?」


 たったの2~3ヶ月であれば、自分達はまだ飛ぶのにも苦労していた頃だ。それこそ強風の中などでは飛ぶか飛ばないか迷う事もあり、今でこそシンフォニア王国での修練を経て大抵の状況なら問題ないと言えるが、という所である。というわけで絶句する瞬に、アイナディスがため息を吐いた。こちらも追ってきていたようだ。


「なるほど。確かにこれは天才ですね。それもこちらの世界にも居るか、と言われる領域の天才です」

「まー、そのレベルだよなぁ」


 半ば自棄にも近い様子で、カイトもアイナディスの言葉に同意する。本来日の目を見る事のなかった妹の才能が日の目を見ている現状を喜べば良いのか、それとも嘆けば良いかわからないというのが彼の素直な感想らしかった。


「これ以上試練をやる必要は?」

「難しいですね」

「だろうな」


 やる必要があるか、と問われればやりたいが、やれるかと言われれば難しい。カイトはアイナディスの言葉をそう理解していた。というわけで、試験はこれで終わりとなり、一度一同は簡易の拠点へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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