第3936話 雷の試練編 ――試験――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。そうして最深部からついにたどり着いた雷の聖域は、どうやら今回ホログラムが浮かび、構造材はなぞの金属と近未来的かつSF映画やアニメのような様相であった。
そんな雷の試練にて再度地球側で試練の攻略に臨んでいた浬らと合流したカイトであったが、ひとまず試練に臨む前にアイナディスの手によって一度瞬らを含め今の実力を試される事になっていた。
「「「……え?」」」
放たれた数百本の矢に、浬らは揃って唖然となる。確かにこれまで五つの試練に臨んで、これで六個目だ。故に大精霊達とも何度も戦ってきたし、道中でも累計数十度も守護者達と戦ってきた。それこそ戦った守護者の数であれば数百体は下らない。だがそれにしても、ソレイユの放つ矢の数は群を抜いていた。それに、ソラが怒声を発した。
「バカ! 腑抜けんな! 相手ソレイユちゃんだぞ!」
「「「っ!」」」
いや、そう言われても。何人がそう思ったかは定かではないが、無数の矢が飛来しつつあるのは変わりがない。なのでこのまま放置すれば串刺しどころか蜂の巣になる事は間違いなく、即座に対処をしなければならない状況だった。
「天音姉! 防壁を! 空也と詩乃以外全員で弾幕!」
「りょ、了解! カード!」
「とりあえず撃ちまくれ! 弾かないと蜂の巣だぞ!」
浬がカードで巨大な岩の防壁を生み出すと同時に、ソラもまた声を上げながら巨大な半透明の盾を顕現。迫りくる無数の矢に向けて備える。そうして彼らが備えた瞬間、無数の矢が雨あられと防壁に激突。またたく間に防壁を削っていく。
「うぇ!? なにこれ!?」
「まだまだ行くよー!」
「え、ちょっ!」
いくらなんでもこれを平気で連射出来るのか。楽しげに弓を速射するソレイユに、浬は大いに慌てふためく。これに、ソラは幾ばくの猶予なぞない事を察した。
「っ、先輩!」
「わかっている!」
こんな速射をもう何十秒か受け続ければ自分も浬も無事では済まない。それはソラも瞬も先の風の試練の段階で理解していた。どれだけ成長した事を加味したとて、三百年前時点で名を馳せ、今では弓兵の最強格の一角として名を連ねるソレイユに地力で届くわけがないのだ。というわけでソラの声に、瞬は蓄積していた雷と炎を槍へと乗せる。
「おぉおおお!」
間違いなく防がれる事は理解しているが。瞬は余力を残しながら、ソレイユ目掛けて槍を投げる。そうして放たれた炎と雷の槍は一直線にソレイユへと飛翔していく。
「では、私も参りましょうか」
「っ」
来るよな。瞬は楽しげに、されど獰猛に。そしてどこか優雅に笑いながら金属製の床を踏みしめるアイナディスを見て、自身の槍が防がれる未来を理解する。とはいえ、そんな者はわかっていたし、だからこそ策は打っていた。
「はぁ!」
「ここだ!」
アイナディスが槍を自らの細剣で貫く瞬間、瞬は槍へと力を込める。そうして、アイナディスが僅かに目を見開いた。
「む!」
アイナディスが槍を貫いた瞬間、炎と雷の槍が分離。雷の槍がアイナディスにより貫かれ、残る炎で出来た槍が彼女の横をすり抜けてソレイユへ向けて肉薄していく。
「ソレイユ!」
「はいさ!」
数百キロ先を平然と見通すソレイユだ。なのでアイナディスの影に隠れて分裂した槍であろうと普通に見えていたわけで、アイナディスの声を受けずともすでに準備は終わらせていた。というわけで彼女が跳躍し、槍の進路上から退避する。
「おぉおおおお!」
今更であるが、この槍は分裂している事からもわかるように瞬が魔力で編んだものだ。なので彼が裂帛の気合を込めると同時に、まるでグニャリと槍そのものが曲がるようにして軌道を修正。ソレイユ目掛けて超音速で飛翔する。
とはいえ、である。ソレイユとてそれが出来る事はわかっている。ほぼ毎日彼の腕を見ているようなものだから、当然だ。故に跳躍も回避のためではなく、次の一手のためだ。
「ほいよ!」
跳躍し槍を真下に捉えたソレイユが、上から軌道を変えた槍を狙撃する。そして更にその反動を利用して、更に上に跳躍。数十メートルの天高くへと移動すると、そのまま弓を引き絞る。
「もういっちょ行くよー!」
「マズいな! ソラ!」
「うっす!」
笑うしかないが、同時に笑ってばかりもいられない。両者は半ば自棄っぱちに笑いながらも、即座にその認識を一致させる。
「空也! 先輩とアイナディスさん抑えろ! てか、全員で抑え込んでくれ! 浬ちゃんは俺と一緒にソレイユちゃんの一撃抑え込むぞ!」
「「はい!」」
ソレイユがさらなる跳躍を行うと入れ替わりに、アイナディスが地面へと着地していた。彼女はすでに紫電を纏って前傾姿勢を取っており、あたかも派手な動きを見せるソレイユを陽動としてこちらに攻め込むかのようであった。まぁ、実際そうなのだが。というわけでソレイユからまるで彗星の如き一撃が放たれると同時に、紫電と共にアイナディスが疾走する。
「っ」
やはり自分より数段速い。瞬はこちらへと肉薄してくるアイナディスの速度に舌を巻きながらも、同時に納得しかなかった。そもそも彼女が得意とする属性は彼と同じ雷属性。風や光と共に速度に特化した属性だ。その先達とも言えるアイナディスが、瞬より遅いわけがなかった。故にその一撃もまた、彼よりも遥かに速い。
「……」
速いが、なんとか見切れる。瞬は地球の医学知識を応用した反射神経の加速により、アイナディスの刺突がまだ十分に見切れる領域に留まっている事を理解する。まぁ、さっきも最初の内は瞬達がシンフォニア王国に渡る前までの実力でやる、と言っていた。まだその領域だ、という事なのだろう。
「ふっ!」
放たれる刺突を、瞬は身を捩って回避する。そしてそれと同時に、空也が切り込んだ。
「はぁ!」
「まだまだ甘い!」
「っ」
「おぉおおお!」
空也の一撃を余裕で回避したアイナディスが反撃を仕掛けようとした瞬間、瞬が即座に割り込む。そうして近接戦闘の戦士達が戦いを開始すると同時に、ソレイユの放った彗星の如き矢がソラの防壁へと激突する。
「ぐぅ!」
マジかよ。ソラはソレイユの放った威力に思わず顔を顰める。時々だが、彼もソレイユに頼んで訓練させて貰う事はあった。なので何度か受け止めた事はあったが、そのどれにも比較にならなかったようだ。
もちろん、先の風の試練の際と同様に地球側によるバフも受けた状態でのこれだ。その一撃は間違いなく、今までソラが受けた一撃の中で最大の一撃であった。
「あ、駄目だこれ! 浬ちゃん! そっち行く!」
「は、はい!」
ソラの声に、浬がカードに込める力を更に強くする。そうして自身の防壁が抜かれる事を悟ったソラは、勢いの減衰にとどめて敢えて障壁を解除する。障壁の破壊による反動を可能な限り低減するためだ。
「きゃぁ!」
「ぐぅ!」
浬の悲鳴と、彼女の岩の防壁を補強していた煌士の苦悶の声が響く。半ば二人もソレイユが本当に最強格の弓兵だと察してはいたが、それでも自分達が思った異常だったらしい。というわけで二人分の防壁でなんとか食い止めるわけだが、それでも彗星の如き矢の勢いは止まらない。
「海瑠! さっさとして!」
「ちょっと待って!」
というか集中させて。ライフル型の魔銃の照準を防壁が食い止める矢の本体へと合わせながら、海瑠が呼吸を整える。そうして、一筋の光条が疾走する。
「ふぅ」
「はぁ……って、うそぉ」
矢が粉砕されると共に防壁に掛かる力が霧散して、浬が安堵のため息を零す。が、その次の瞬間にはソレイユはすでに次の矢をつがえており、楽しげに笑いながら次の攻撃を準備していた。というわけで息を吐く間もなく、ソレイユからの猛攻が始まる事になるのだった。




