第3935話 雷雨の森編 ――支度――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。そうして最深部からついにたどり着いた雷の聖域は、どうやら今回ホログラムが浮かび、構造材はなぞの金属と近未来的かつSF映画やアニメのような様相であった。
そんなカイトとしても初めて見るらしい光景に興奮し、そして彼からの高評価に鼻高々という雷の大精霊こと雷華であったが、興奮の最中。響いたのはなんと風の試練の時と同様に地球の妹達の声であった。
「で、だ……結局こうなってるわけなんですが」
「はい!」
「難易度調整とか大丈夫なのか? 今回こっちの面子、アイナ筆頭にエネフィア最上位層だぞ……まぁ、オレも試練だから口出しはしないよ。基本は、基本は」
原則としてカイトが試練についてなにかを口出しした事はない。それは以前の雷の試練でも同様だった。
「だがこれがウィル達なら良いんだよ。あの皇子様、ああ見えて腕としてもそこそこあったし。だからオレ達が居てもオレ達の役割は護衛っていうより奴にとっての手札の一枚だったしな。契約もまた、あいつにとっては手札の一枚に過ぎなかったし」
当人の地力がカイト達より一段劣るので表立って戦士として活躍した記録はあまり残っていないが、かつての皇太子ことウィスタリアスが雷の契約者だ。その彼の実力は契約者となった後でも<<死魔将>>と戦えるほどではなかったが、今のアイナディスと比べて見劣りするほどではなかった。
もちろん戦士であるアイナディスの方が強い事には間違いないが、その彼女と比較して劣るというわけではない時点で、その強さは察せられるだろう。敢えて言えば契約者の力抜きならアイナディスが勝ち、契約者の力ありなら彼が勝つ。その程度の力量差だった。というわけで流石にいくらなんでも厳しすぎやしないか、というカイトの指摘に、雷華がはっきりと答える。
「それは問題ない。純粋に戦闘力があればどうにかなるようにはしていない。それにそれならアイナディスが居る限り、圧倒的に楽になる。彼女を連れて来る、と言った時点で試練は戦闘力重視から方向性を変えた」
「まぁ、それが妥当か……だが戦闘もあるだろ?」
「そこも問題ない。流石にアイナディスやソレイユをベースにすると、それこそセレスティア達でさえ攻略が困難になる。瞬達であれば万が一にも可能性はないだろう」
「それはそうか」
そもそも今の瞬の実力でさえ、百年ほど前のアイナディスの実力に及んでいない。まぁ、これは積んだ経験を考えればあまりに当たり前過ぎるだろう。そこに更に経過した実力と契約者という土台を考えれば、実力差はもはや考えるまでもなかっただろう。というわけで納得しか無い様子のカイトに、浬が首を傾げた。
「そんな強いの? アイナディスさんって」
「そんなっていうか……あいつはさっき話した通り契約者かつ最上位の冒険者だし、ソレイユはこっち最強格の弓兵」
「私、最強だから」
ぶいっ。カイトの紹介に対して、相変わらず背中に乗ったままのソレイユが楽しげに笑う。そんな彼女に、カイトは肩を竦めつつも同意する。
「まぁ、実際こんな冗談言ってもこっちだったら誰もそうだけど、としか言えないレベルには弓兵としては無茶苦茶だ」
「カイトが現着するまでの牽制でソレイユが、んでカイトが直接殲滅とかよくやったもんねー」
「そうだな……ソレイユ一人で街から数百キロ先の数百体の魔物の軍勢を抑え込めるから、こいつが抑え込んでる間にオレが肉薄して一気に殲滅とかよくやってた」
かつてを思い出したらしいユリィの言葉に、カイトもそんな事もあったなと言わんばかりの様子で同意する。が、そんな彼が笑いながら軌道を修正する。
「って、お前の話じゃないし」
「えー」
「あはは……でもソレイユちゃんとアイナディスさんだったらアイナディスさんの方が強いの?」
「強いよー。流石に私も遠距離戦でやれるなら勝てると思うけど……いや、無理かなぁ……」
「無理だろ。今のアイナなら肉薄して勝てる」
「流石に厳しいですよ、最大射程のソレイユに私一人では」
ソレイユ自身の苦笑いでも難しい、カイトも同様に無理だろうという言葉に、どうやら話が聞こえていたらしいアイナディス当人が苦笑いで首を振る。
「あー……最大射程ならなんとかなるかも……あ、でも最大射程だとねぇねに当てる観測手がいないからどうにもなんないよ」
「ですが観測手なしでも弾幕は張れるでしょう? ならば私の速度を鈍らせられる。後は十分な距離まで
詰めた所を、とやれば行けるはずです」
「無理じゃないかなぁ……後は想定する戦場次第かなぁ……」
「それはありますね。平野部なら私の方が勝つ可能性は高いですが……森林や山間部が入れば貴方の方が勝つ可能性は高い」
どこか微妙な様子のソレイユと、可能性はあるという様子のアイナディス。とはいえ、これで浬にも両者のおおよその実力はわかったようだ。
「……もしかしてソレイユちゃん、本当に無茶苦茶強いの?」
「無茶苦茶強いぞ。オレが今回遠距離はしないで良いか、って思う程度には。オレとは少なくとも比較にならん」
「「ぶいっ」」
なんでユリィまで一緒にVサインしてるんだよ。カイトは自分の肩の上で相変わらず仲良しこよしなふたりにため息混じりだ。まぁ、この二人が一緒の時点でこうなるだろう事は簡単にわかっていたので、彼もすでに諦めている様子であった。
「はぁ……まぁ、ソレイユは契約者相手にも有利が取れるなら勝ち目がある程度。アイナディスはそれに通常は勝てる程度……まぁ、ソレイユの単独での有効射程が数百キロ。オレとかの観測手が介在すれば数千キロにも及ぶ。どっちもどっちな実力だ」
「そういう貴方はその私達両方を同時に相手取って勝ってしまうわけですが……」
「ま、オレも最強なので」
アイナディスの苦言にも似た言葉に、カイトは笑いながら先程のソレイユになぞらえて答える。
「とはいえ、そういう領域の話だぞ。アイナなら浬達を片手一つで全滅させられるだろ。それこそ先輩達含めてもアイナのが強い。ぶっちゃけこの間のシルフィの戦闘力よりアイナのが強い」
「あれをかぁ……」
「まぁ、流石に今のお前ら単独でもあの時のシルフィなら攻略は出来るだろうが、そういう実力だと思え……ってなわけで、マジで大丈夫なんだよな? 流石に即死コース踏みかねんぞ」
「ああ、問題ない」
カイトの再度の問いかけに、雷華ははっきりと問題ない事を明言する。まぁ、カイトの懸念は仕方がないものだろう。というのも、浬らはここまでに風の試練の後も幾つかの試練を攻略しているわけだが、その間に培われた地力は彼にはわからない。なのでどの程度か知らないので、風の試練の時をベースに考えるしかなかったのだ。不安視しても無理はなかった。
「……そうか。わかった。ああ、そうだ。それはそれとして、さっき注文した部屋は?」
「出来ている」
「「「注文した部屋?」」」
カイトの問いかけに答える雷華に、全員が首を傾げる。
「流石に今のお前らの実力を知らん状態かつ、風の聖域の状態の力量で話を進めるわけにもいかん。まぁ、雷華を信じないわけじゃないが、実力を見誤るのは怪我の元だ。一回ちょっと実力を試させろ」
「え!?」
「五つも試練を攻略したんだろ? 風の時よりは実力は上がってるはずだ。それを知らんとオレ達もやり難い……いや、怪我を招く」
「ほぉ……五つも」
「え、いえ、ですけど、そんな興味持たれても困ると言いますか……」
今まではカイトの妹達だという所の認識しかなかったのでその面での興味しかなかったアイナディスであったが、流石にカイトの導きがあったとしても大精霊の試練を五つも攻略しているという点は興味を抱かせるのに十分だったようだ。
「カイト。それでしたら私達で試しても構いませんね」
「相変わらず真面目なこって……まぁ、良いだろう。火と闇以外を終わらせて、雷に挑める程度には実力を積んだだろうが。少し遊んでやる、程度にしてやってくれよ」
「もちろん、そのつもりです。瞬とソラも借りますよ」
「ねぇね! 私も私も!」
「もちろん」
「やれやれ」
楽しげに挙手して、ついに自身の背から降りたソレイユにカイトは苦笑いだ。というわけで、試練の本格的な攻略に先駆けて、一度浬らの今の実力を知るべくアイナディス自らが彼女らの実力を試す事になるのだった。
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