第3934話 雷雨の森編 ――支度――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。そうして最深部からついにたどり着いた雷の聖域は、どうやら今回ホログラムが浮かび、構造材はなぞの金属と近未来的かつSF映画やアニメのような様相であった。
そんなカイトとしても初めて見るらしい光景に興奮し、そして彼からの高評価に鼻高々という雷の大精霊こと雷華であったが、興奮の最中。響いたのはなんと風の試練の時と同様に地球の妹達の声であった。
「よし。こっちの設営は出来た。海瑠、そっちどう?」
「あ、こっちもうちょっとです。刺さらないタイプの床なんで、ちょっと時間掛かりそうです」
「オッケ。じゃあ、こっちもう一個の方張っちまうな」
「お願いします」
ソラと海瑠が協力して、今回の休憩に使うテントの設営を行う。
「よし……カイト! 水屋はこれで良いんだな!」
「ああ! それで良い!」
瞬の問いかけに、少し離れた所で作業をしていたカイトが魔眼で確認。問題ない事を口にする。なお、水屋とは台所の言い方の一種だ。相変わらず彼が料理をする事になりそうなので、彼に確認を取ったのだろう。というわけでそんな彼の言葉に、近くにいた浬が小さくガッツポーズをする。
「よし」
「何がよしなんだよ」
「あ、いや……えへへ」
「なんだよ、気持ち悪い」
恥ずかしげながらもどこか嬉しそうに笑う浬に、カイトは苦笑気味に笑う。これに浬が恥ずかしげに答えた。
「いや、またお兄ちゃんの料理が食べられるなー、と」
「にぃの料理美味しいもんねー」
「うん……」
相変わらずカイトの背に乗っかっていたソレイユの言葉に、浬が恥ずかしげに応ずる。とはいえ、これにカイトも悪い気はしなかったらしい。相変わらず苦笑気味ながらも笑っていた。
「はぁ……ったく。にしても、またお前らと一緒かよ」
「いや、私らもそう言われましてもって塩梅なんだけど」
「まぁ、そうだろうけどさ」
そんな怒られましても。そんな様子で答える浬の言葉にカイトも彼女らに当たり散らすのは筋違いである事は承知している。なので彼女らには責任がない事は承知の上だったが、やはりため息の一つも吐きたくなるのだろう。
「ていうか、ホントに記憶って消えるんだ」
「何の話だ?」
「いや、今の今まで私、風の聖域でお兄ちゃんに会ってた事忘れてたから……」
「ああ、それか」
浬の言葉に、カイトは笑う。実際カイト自身もそうであったが、浬らと出会った記憶は一部消えている所があった。なので時々大精霊達に過去の記憶で封じられている部分がないか、改ざんされている部分がないか聞いているが、かくいう大精霊達も同じように記憶を改ざんしている。整合を取るためだ。
なので聞いた所で意味はないとわかった上での問いかけにはなるのだが、記憶が改ざんされている部分がある事は事実なのであった。
「いたずらに未来が変わらないように、過去に渡った際とかは当時に居た連中は記憶が改ざんされたり、時が来るまで記憶が封印されたりするんだ。だから実際、オレ……いや、オレ達か。オレ達も一個だけ記憶が封じられている」
「そうなの?」
「ああ……まぁ、何が消えているか、何故消えたか、どの部分が消えているかもオレには認識出来てるけどな」
「ふーん」
風の聖域の時にも言われているが、時間軸としてはカイトの方が未来なのだ。なので過去の記憶でどの部分が消えているか、というのは認識出来ていた。
なお、その記憶が何処かというと、三百年前の戦争時代の記憶だ。そこで一度カイトは試練の最中の浬達に会っているのだが、実はその際、今回同行したアイナディス、ソレイユも浬らに会っていた。が、それを言うわけにはいかないので、記憶が消されたというわけである。
「お前、興味ねぇな」
「ない」
「あそ」
妹の居る兄の扱いなぞこんなものである。聞いておきながら軽く片付けられた様子に、カイトは鼻白みながらも笑っていた。こちらもこちらでぞんざいな扱いに興味はない様子であった。
「まぁ、それはそれとして。お前らは確か6個目だったな?」
「うん。後は火と闇。火は道中の危険性がもっとも高くて、闇は試練そのものの危険度がもっとも高いから後回しだって」
「妥当な判断だな」
地球側に残してきた自身の使い魔の判断は正解だ。カイトは自分の意識を移植しているが故にその判断に半ば自画自賛気味に頷いた。と、そんな話をしていると、浬がおずおずという塩梅で問いかける。
「で、お兄ちゃん……それ、誰? というか、そっちの人大半見たことないんだけど」
「ソレイユでーす!」
「ユリィでーす!」
「いや、ユリィちゃんこの間会ったよね!?」
何この女の子。浬は兄の背に堂々と負ぶさった挙げ句、ユリィと逆側から楽しげに手を挙げたソレイユに軽く引いていた。というわけで自身の背に相変わらずおんぶされたままの彼女に、カイトはため息を吐いた。
「はぁ……まぁ、自己紹介された通り、こいつはソレイユ。オレの三百年前当時の知り合いかつエネフィア最強格の弓兵だ。こいつの兄貴と一緒に大陸間弾道弾を生身で射つっていう化け物だな」
「にぃは大陸割っちゃうけどね」
「まぁな」
「えぇ……」
裏の世界に関わるようになってから、兄のぶっ飛びっぷりには触れてきた浬であったが、まるで嘘偽りもないかのようにソレイユの冗談っぽい言葉に笑うカイトに軽くドン引きする。まぁ、多分彼でも大陸を真っ二つに両断するのは難しいだろう。壊すなら出来るだろうが。
「はぁ……とはいえ、今回も今回でお前らと一緒か」
「うん……で、他の人達は誰なの?」
「そうか……確かに説明は必要か」
カイト以下ソラはそもそも全員知り合いだった――実は中学校の後輩――し、瞬は先の風の聖域で会っている。だがその際に連れて来られたのは桜達だ。なのでソレイユは当然、アイナディスやらセレスティアやらは会っていない。というわけで説明が必要かと判断。カイトは先に全員を紹介するか、と一旦そちらに時間を割く事にするのだった。




