第3933話 雷雨の森編 ――雷の聖域――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。
そうしてたどり着いた最奥では常に雷が噴火のように勢い良く吹き出るという状態で、雷の聖域へはそれを通らなければならないとの事で、瞬もソラも気合を入れて中へと進んでいた。
「……くぅ」
「ぐっはぁ……きっつぅ……」
「最低限度の実力はある、と認められたようだな」
巨大な雷の中を通り抜けたのだ。おそらく秋口頃の実力であったなら間違いなく消し炭になっていただろう威力で、雷に対する耐性や障壁の強度など様々な方面での強化がなし得た今だからこそ最低限入口に入れたと言える。というわけで最低限度の実力はある、と言われた瞬が盛大にしかめっ面でボヤいた。
「それは良かった……が、今後は聖域に行くのにこんな苦労をしない事を願いたい」
「それは大精霊達に言ってくれ、と言いたい所だが……如何せん属性が収束せねば聖域には行けん。今後もこればかりは世界のシステム的にしょうがない。まぁ、先輩の場合は超将来的な話として火の試練も検討する必要があるし、あっちはもっと危険だからガチで覚悟はした方が良いかもな」
「今から怖くなる事を言わないでくれ……」
今更言うまでもない事なのだが、瞬は火と雷を得意としている。そして彼の切り札である<<雷炎武>>。これの使用にはやはり火属性も非常に重要だ。なので当然火の契約者となる事も想定されていたのであった。というわけでそこらを思い出したソラが同じようにしかめっ面で問いかける。
「そーいや聞いてなかったんっすけど、なんで雷なんっすか」
「火の方が楽とか思った?」
「んなわけねーよ。雷でこれだ。火の方も絶対危険だろ」
「ご明察」
半ば怒り気味なのは気の所為ではないだろうな。ソラの返答にカイトは笑いながら火属性の試練に至る道のりの方が危険だと口にする。
まぁ、少し前に瞬との会話でも活火山の溶岩地帯の中だと言われている。その時点で明らかにここよりも危険だと目に見えてわかるし、<<雷雨の森>>でこの有り様だ。火属性の聖域に向かう場所が更に危険な可能性があるぐらいソラでなくても想像出来た。
「ま、そっちの話は省くが、もちろん雷になった理由はある。その一つが聖域に向かう上でこっちのが安全って話だな」
「これでこっちのが安全かよ……」
「そ……あっちはちょっと属性に耐性を手に入れました、程度じゃどーにもならん。バランのおっさんの試練の際はあの当時にも関わらずオレとウィル、ルクスにおっさんの四人っていうゴリゴリの戦闘メンバーだけで向かったほどだ」
「その四人って……」
勇者カイトのパーティメンバーの中でも最上位の戦闘メンバーだけで挑まねばならないほどの危険地帯。それに挑むにはいくらなんでも早すぎる、とソラも察したようだ。
「ま、当時の実力なんて推して知るべし。ルクス一人で今の、お前と先輩を同時に制圧出来るだろうな」
「ですよね」
そんなとこだろうと思ったよ。ソラはカイトの言葉に半ば自棄っぱちに笑いながら応ずる。
「あはは……とはいえ、お前らもレベルアップしている事は事実。いくらルクスでも今のお前と契約者になった先輩を同時には難しいだろう。その程度には追い付いてきている。駆け足でな」
「そうなの?」
「だろう……ま、あっちは十数年戦争やってて、しかも上澄みも上澄みの天才騎士だ。武器も今のお前と違って完全状態の聖剣。それぐらいの地力の差はある」
「逆に言えば、地力の差で埋め切らなければならない程度には色々と追い付いた、という事ですよ」
「そっすかねぇ……」
アイナディスの称賛にも似た言葉に、ソラはどこか嬉しそうながらも半信半疑という所であった。ちなみに、これはあくまで当時の契約者となる直前のルクスを比較に出しているだけの話で、契約者として十全の力を手に入れた後の彼にはまだまだ追い付かない。
こればかりは地力の差が大きすぎるのだから仕方がないだろう。どちらかと言えばそれをたった一年で埋めきったというカイトがおかしいと言った方が良かった。もちろん、彼はその対価として自分の身体を含めた様々な物を差し出した結果でもあるので、ソラ達は十分頑張っていると言えるだろう。というわけで努力は認められたらしい瞬が、体内に蓄積した雷を軽く全身を振って放出して気合を入れ直す。
「なら、俺も頑張るか……で、ここは聖域の入口か。やはり風の聖域とは趣が大きく異なるな」
「そりゃな……にしても今回はまーた面白いな」
「お前の時とは違うのか?」
「ああ。オレの時はいかにも雷の試練というような感じだった。バチバチと雷がそこかしこで放出したファンタジーな遺跡って感じかな」
「あれは見付けた時、ちょっと興奮したよねー」
「そーなんよなー。もしかして隠れた遺跡見付けた、とか喜んだよな」
結局見付けたのは遺跡じゃなくて聖域だったんだけど。カイトは自分達が爆発で吹き飛ばされて、雷が吹き出る中に叩き込まれた事もあって、これが雷によって入口が隠されていたのだと当初は思ったらしい。
「そういえばそうおっしゃっていましたね。最終盤まで試練とは気付いていなかった、とか」
「そうそう。だから正直遊び半分でやってた」
『あれを遊び半分でやるのはお前ぐらいだ』
「お、雷華。来たぞ」
『ああ』
カイトの声に姿もなく雷の大精霊こと雷華が応ずる。というわけで、そんな彼女にカイトは楽しげに問いかける。
「また今回は面白そうな試練を作ったな」
『少し自信作だ……それに、今回は試練とわかった上で挑むんだ。別にいつものように雷の試練らしく、とする必要もないだろう。二度目の挑戦者と三度目の挑戦者も居ることだしな』
「オレは三度目どころの話じゃないが……まぁ、確かに先輩やらのイメージに合わせて試練を構築しようとすると、こういうのはアリだな」
カイトは雷華の言葉に、改めて雷の聖域の様子を見る。
「ホログラフィで投影されているのは……意味のない文字の羅列か?」
『雰囲気作りだ。イメージとしては近未来の基地、という所か、もしくは高度に発達した文明の遺跡か』
「時々思うけど……お前割とセンス良いよな、大精霊達の中でも」
『……』
どやぁ。カイトの掛け値無しの称賛に、雷華の姿が見えず声もなくとも鼻高々という様子が目に浮かぶようであった。というわけでそんな彼女の様子に、シルフィードが抗議の声を上げた。
『僕もセンス良いでしょ!』
「いやまぁ……確かにお前もセンス良いよ。でもこれはまた別の趣があるっていうか……こういうの皆しないからな。お前らの場合ファンタジーって感じに振り切ってるじゃん。ルナに至っちゃ時々あれ試練か、ってツッコみたくなるし」
『面倒……試練作るのも楽じゃない……』
「あぁ、寝とけ寝とけ。まだ昼、それも真っ昼間だ……いや、ちゃうわ。聖域に昼も夜もねーだろ」
『でも外と時間を合わせてたから眠い……』
単に眠いから眠いらしい。思わず素の関西弁が出た程度には呆れたカイトに、ルナはどこかウトウトとした様子だった。
「それもそうだけどな……ま、それはともかく。たまにゃちょっと違った試練も楽しみたいというのが常連さんなわけなのです」
『本当なら試練に常連とかないんだけどね』
「それもそうだけどな」
シルフィードの言葉にカイトが楽しげに笑う。そもそも試練とは契約者となるための場所だ。それをまるで訓練場のように使う彼やかつての彼の仲間たちがおかしいだけで、戦後も――というより大半が戦後――そんな事をしているから常識はずれの領域にまで戦闘力が鍛え上げられるのであった。
「まー、とはいえ。本当にこれはオレも見た事がない様相だな」
「流石にお前の助言も通用しなさそうか?」
「無理だな。この近未来的な、まるでどこかの宇宙空間に設けられた宇宙基地のような構造……いくらオレでも見たことがない」
瞬の問いかけに、カイトは即答する。だがその顔には珍しい興奮が見え隠れしており、彼自身が挑戦したいという欲求が見え隠れしていた。
「これはオレもやりがいがあるな。雷華、一応聞いておきたいが、暗号解読とかはないよな?」
『さぁ? それを言うのはルール違反だろう? だが流石にシルフィのようなバカはしてない』
『あ、ひどい!』
『いや、あれは流石に駄目だろう』
『雷華だって僕が怒られてる裏で手直ししてたじゃん!』
『ぐっ! バラすな!』
藪をつついて蛇を出す。雷華はシルフィードの試練について言及したわけであるが、どうやらその結果自分もやり過ぎていた事を暴露されたようだ。大精霊二人が揃って言い合いを行う。が、これにカイトが半眼で睨みつける。
「おい」
『だ、大丈夫だ! シルフィが怒られているのをみてきちんと修正した!』
「……本当だろうな?」
『もちろん! 安心してくれて構わない!』
「……はぁ。信じるからな」
格好つけられたかと思えばこれだよ。先程までとは一転して大慌てで弁明する雷華に、カイトはがっくりと肩を落とす。まぁ、これがカイト関連でなければ全員しっかりと限度を弁えて、その挑戦者に合わせて試練を構築する。そしてこんな近未来的な構造体を試練とする事はない。
あくまでもカイトが絡むからこそ、こうなるのであった。が、やはりカイトが絡むからこそという所もあった。というわけで、雷華がなにかを思い出したかのように口を開く。
『あ、だが』
「……え? お兄ちゃん?」
「え? お兄ちゃん?」
「あ?」
『……えっと、あの……すまん。あ、いえ……ごめんなさい。これだけは真似たままにしたのを忘れていました……』
響いた自らの妹の声にカイトが後ろを振り向くと同時。雷華がおそらく顔を真っ青にしながら早速やらかしている事を明言する。彼女自身、声がするまで完全に失念していたようだ。
というわけで声に気付いて振り向いた彼が、そこに立つ自分の弟妹達をしっかりと認識。明らかに額に青筋を立てて笑いながら、聖域の最奥を睨みつけた。
「……雷華ちゃん? 逃げられると、思わないでくれよ? そっちに行くからな」
『も、申し訳ありませんでした! ちょっと面白そうとか思いました!』
「とりあえず準備してっから、もう一回試練の内容見直してこい!」
『は、はいぃいいい!』
「「「……」」」
おそらく聖域の最奥で土下座でもしているんだろうなぁ。全員――瞬らに加えて後ろから来た浬達も――、カイトに怒鳴られて半べそで泣き声にも似た声を上げる雷の大精霊の姿が目に浮かぶようであった。というわけで再び地球側と合流したカイト達は、とりあえずは試練の入口へ向かう事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
ここからは大昔に言及し、しかし作中では書かれなかった日本側と合流する試練の二個目です。
正確には風の試練をサラッと終わらせてメインにする予定だった部分、ですね。




