第3932話 雷雨の森編 ――到着――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
というわけで道中無数というしかない雷に四方八方から打たれながらも進み続け、およそ半日ほど。昼に近付いた頃に、一同は最深部とでも言うべき場所にたどり着く。
「いや、あれどーなってんの……」
「まぁ……見たまま、だろうな」
ソラのボヤキに、瞬が半笑いで応ずる。見たままとは見たままだ。というわけでそれを彼が口にする。
「見たまま……地面から大量の雷が……吹き出している……という所だろうな」
「いや、そうっすけど……えぇ……? あれどーなってんだ?」
まるで火山の噴火のように常時吹き出る雷に、ソラは思わず顔を顰める。もちろん雷なので触れれば一巻の終わり。なので触れない事は大前提としてあるが、それにしたって不思議な現象にもほどがあった。
「てか、今どれぐらい歩いたんだろ。それ以前に方角ってこっちで合ってんのか?」
「どうなんだろうな。少なくともカイト達の歩みに迷いはない様子だが……」
雷が周囲を満たす、ということは磁力を利用している方位磁石は当然狂っているし、電子機器の類は当然使えない。魔道具の時計は使えるので時間だけはわかるかも、と思うが、周囲の環境が異常すぎて魔道具にも影響を及ぼしていた。というわけで瞬は腕に嵌めていた安物の時計をポケットから取り出した。
「時計も持ってくるな、と言われていたから一応使い捨て出来る安物を持ってきたが……まさか雷の力が強すぎて狂うとはな」
「すごかったっすね、さっきのあれは」
「いきなりぽんっ、だからな。外向きに使う高級腕時計じゃなくてよかった」
笑うソラに、瞬もまた笑う。そんな二人が見る安物の時計だが、ちょうど時計の部分が中から弾け飛んだような形で壊れていた。
「内部に雷が蓄積してしまって、過負荷で弾け飛んだ、か。一応安物とはいえ、帯電防止材やら入ってるとは思うんだが」
「限度超えたんでしょうね。確かに言われてみれば俺達の身体にさえ雷が蓄積するんっすから、身に着けてる衣服や時計にそうならないわけがないって話っすねぇ……」
おそらく放電する仕組みやらも仕込まれてはいたのだろうが、地球の電子機器の防水加工がそうであるように、何事にも限度があるのだろう。時計に仕込まれた防止機能の限度を大幅に上回る雷が周囲に蓄積していた事により、内部から弾け飛んだのだと察せられた。というわけで、瞬は一つため息を吐いた。
「安物で助かった。後は勉強代としては安くついたな」
「っすね」
「てか、さっきからカイト達てくてくとあの噴火? 噴雷? に歩いてますけど大丈夫なんっすかね」
「あいつらは大丈夫だろう……あいつらは」
ソラの指摘に対して、瞬は半ば苦笑いで応ずる。あいつらは大丈夫、という言葉を念押しするように、あんな巨大な雷の噴出に飲まれればいくら瞬でもひとたまりもない。とはいえ、そんな光景を前にアイナディスが一つ頷いた。
「やっとたどり着きましたね、雷の吹き出る地へ」
「ああ、やっとか……割と掛かったな。そんなトラブルもなかったように思ったが……まぁ、想定時間内っちゃ想定時間内か」
アイナディスの言葉に、カイトは時計を取り出して一つ頷いた。なお、先程瞬が持ってきた時計は内部から壊れたわけだが、それはあくまで彼らが手に入る領域でのものは無理というだけだ。
カイトならばオーダーメイドの魔道具を発注出来るわけで、この時計はこの地で使えるように作られたものであった。なお、流石に地磁気を利用する方位磁石はどうしようもないらしく、持ち込めているのは彼でも時計だけであった。というわけで立ち止まった二人に、瞬が後ろから声を掛ける。
「どうした?」
「やっとたどり着いた。あそこが、雷の聖地に通ずる場所だ」
「……まぁ、なんとなくだがそんな気はしていたが」
カイトの返答に、瞬はどこか乾いた笑いを浮かべる。明らかに雷が過剰に収束しているのだ。先の風の聖域の事を考えても、こういった場所が聖域へ通ずるある種の『扉』のような役割を果たす事は彼にも察せられたようだ。
「……聖書の一節を思い出した」
「この扉を潜る者は一切の希望を捨てよ、か? あれは聖書じゃないぞ?」
「え? あ、そうなのか?」
「あれはダンテ・アリギエーリ、っていう14世紀のイタリアの詩人だ」
「そ、そうか……とはいえ、まさにそんな感じだな」
カイトの指摘に恥ずかしげにしていた瞬だが、改めて彼は噴火するように吹き出る巨大な雷を見る。それに、カイトもまた見上げる。
「地獄の門、か。確かにここに入ろうとするのはバカ、としか言いようがないか」
「……なぁ、ふと思ったんだが、お前もこういう所から雷の聖域に行ったんだよな?」
「そうだな」
「……なんでこんな所に入ろうと思ったんだ?」
今のカイトならば入っても問題はないだろうが、その当時の契約者でもなんでもないカイトが入って無事であるとは思えない。そしていくら当時のカイトでもそんな愚行はしないだろう、と瞬は思ったようだ。これに、ふとアイナディスも目を見開いた。
「確かに。私は貴方から聞いた事があったので進みましたが……貴方は何故?」
「え? あぁ……まぁ、あれはなぁ」
「あれはねぇ……」
アイナディスも今更という様子で出た疑問に、カイトと一緒に行ったらしいユリィが苦笑いだ。というわけで、彼らが何があったかを教えてくれた。
「今回はなかったが、アイナは知っていると思うんだが……地雷に巻き込まれたんよ」
「……あれに?」
「あれに」
「地雷?」
思わず言葉を失った様子のアイナディスに、カイトが苦笑いで応ずる。が、それに何があったか瞬が問いかける。
「ええ。今回はカイトの言った通り遭遇しませんでしたが……踏み抜いた瞬間、地面が大きく吹き飛ぶのです。正しく地雷としか言いようがない様子で。しかも周囲の影響を受けて常に地面の状態も変動していくので、事前察知は非常に難しい。この奥地で冒険者が死ぬ要因の最たる例の一つですね」
「……え?」
どうやらただ歩いているだけでも危険はあるようだ。アイナディスの言葉に瞬が思わず目を丸くする。
「ああ、安心しろ。先輩達に後ろに進ませたのは、オレやアイナが事前に踏み抜くためだ。オレ達が吹き飛ばされなかった、って事はなかった、ってこと」
「そ、そうなのか……わ、悪かったな」
「よいさ。それが先導役の役目だからな」
瞬の感謝に対して、カイトが笑う。とはいえ、それなら納得も出来たようだ。
「それで爆発に吹き飛ばされてこの中に、か」
「そういうこと……ま、不幸中の幸いかもな。よし、行くぞ。流石にキツいだろうが、気合入れろよ」
「おう!」
カイトの言葉に、瞬が一つ頷いた。そうして気合を入れ直した彼と共に、一同は雷の聖域へと足を踏み入れるのだった。
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