第3931話 雷雨の森編 ――道中――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。
というわけで準備を終えた一同は飛空艇に乗って、雷の聖域があるという<<雷雨の森>>とやらにやって来ていた。そこは少しだけ紫色掛かった地面の、常に雷が降りしきる地であった。
そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
「はぁ……」
ごろごろごろ、と雷鳴が鳴り響く度に、カイトは<<雷鳴剣>>を掲げて雷を吸収する。
「相変わらず雷が激しいな、ここらは」
「いや、激しいじゃねぇよ! 一人涼しい顔してんじゃねぇ!」
「「「え?」」」
降り注いだ雷を<<雷鳴剣>>吸収してらくらくと終わらせるカイト――とそれに引っ付いたソレイユとユリィ――は、ソラの怒声に首を傾げる。と、そんな怒声に反応したかのように、巨大な雷が周囲に降り注いだ。
「うぉあぁあ!」
「ほら、頑張んないと雷撃で死ぬぞ」
「死ぬ! 死ぬ! マジで死ぬから!」
真横に降り注いで周囲に飛び散る稲妻に、ソラが大慌てで土を固めてそれを封殺する。とはいえ、流石に<<雷雨の森>>と言われるだけの事はあるのだろう。ほとんど間を置かず、雷が降り注いでいた。
「それ、全部吸収してくれるわけじゃねぇのかよ!」
『そりゃ、私が完璧ならこの全域を吸収してのけるけど。今じゃ無理』
「だそうだ……ま、ここは試練へ挑戦するための挑戦権を手に入れるため、って所だ。頑張れ」
どうやら<<雷鳴剣>>は本来の力を大きく損失してしまっているため、雷の吸収能力もかなり落ちてしまっているようだ。というわけで無理は無理という様子の彼であったが、そもそもの話として、である。彼に<<雷鳴剣>>が必要かと言われればそんなわけがなかった。
「というか、オレも契約者みたいなもん……いや、契約者でもあるけどさ」
「そーだった! お前完全にノーダメだよ!」
カイトの指には祝福の指輪があり、雷のみならず大半の属性を無力化し吸収してしまう。なのでカイトに<<雷鳴剣>>があろうとなかろうと、特に関係はなかった。というわけでカイトの返答に思わず怒声を発する彼に、瞬がおずおずと謝罪する。
「す、すまん。ソラ。なんだか巻き込んでしまったようで……」
「あ、いえ……それで言えば俺も先輩には自分の試練で助けてもらいましたし……俺が手伝うのは当然って言いますか……」
この状況には怒りもしたいが、同時に瞬に対しては恩義を感じている。というわけでこの状況でも彼に謝罪されてはなんとも言えなかったようだ。
「あはは……ま、お前にとってもこういう状況は滅多に遭うものじゃない。頑張ってくれ」
「うがぁ……」
実際どうにか出来るかと言われれば、頑張って土で防ぐしかない。その他もアイナディスは契約者の力で無力化出来るし、イミナはどうやら<<雷鳴の谷>>には行き慣れているようだ。
セレスティアの守護を含め、単身でなんとかしていた。というわけでなんとかしないとならないし、滅多にない状況である事もまた間違いではない。
「あはは……ま、頑張って奥まで進むしかない。それに……ほら、また来たぞ」
「っ、上、違う!」
カイトの言葉にソラが身を固める。そうして身を固めた直後、巨大な雷撃が一同へと襲いかかる。しかも、足元からだ。
「たーくっ! マジでここ、やばすぎるだろ! なんで足元から雷が飛んでくるんだよ!」
「そういう場所なんだろ!」
上から来るのか地面から来るのか。それもわからない中、雷の速度で攻撃が飛んでくるのだ。中々に対処が難しかった。というわけで地面からまるで間欠泉のように吹き出した雷を槍で上に向けて飛ばした瞬がカイトへと問いかける。
「はぁ……なぁ、カイト。他もこんななのか?」
「こんなって?」
「いや、他の聖域だ。こういう想像も出来ないような危険地帯か、という意味なんだが。風の聖域はこんな危険な目に遭わなかった……いや、遭わなかったかと言われれば違うが」
「あはは……だが、そうだな。ここは危険と言えば危険か」
瞬の問いかけに、カイトは再び上を見上げる。聖域へ大分と近付いてきたらしく、周囲は曇天に包まれて少し薄暗く感じられる。ただ遠くで雷が何十も降り注いでいるからか光量は安定していないものの決して暗くはなかった。更に雷による熱気と水蒸気により寒さも外ほどではなく、半袖では厳しいが分厚い防寒具がなくても大丈夫な程度だ。
「まぁ、他所も大半似たりよったりだ。大海原のど真ん中。活火山の内部。溶岩地帯のど真ん中とかな」
「……大海原は簡単そうに思うが」
「ま、海底何千メートルとかって話になるかもな」
「だよな」
おそらく一番安全なのは風の聖域で、それ以外は軒並み一見すると、聞くだけなら安全そうな様子に見えるという所なのだろう。瞬はカイトの口ぶりでそう察する。そしてそれを察した彼が、再び上を見上げる。
「……どうやらまた、か」
「みたいだな」
「こんなのばかりか……魔物が居ないのが助かるが」
「魔物も消し飛ぶぞ、ここの雷は。多少の耐性なら耐性を持ってようが火力が高すぎるからな。そして多少の耐性程度を持つ魔物しかここには出れない。収束する前に消し飛ぶんだとよ。そして出た所で耐性をぶち抜いた火力の雷を受ける……まぁ、一発二発なら受けられるが、三発四発になるからな。出ても数分後には消し炭だ」
「……そ、そうか」
どうやらこの<<雷雨の森>>の雷は頻度もさることながら、一撃の火力としても凄まじいらしい。耐性を持つという魔物だろうと跡形もなく消し飛ばすという話に瞬は思わず頬を引き攣らせる。
「って、先輩! そんな事言ってる場合っすか!」
「わかってる!」
ソラの言葉に、瞬は槍をまるで避雷針のように掲げる。そうしてそれに雷が降り注いで、しかし瞬は自らの身体へ通して地面へと受け流す。
「やれやれ……まだまだ先は長そうか」
「後半分ってとこか」
「大変そうだ」
カイトの言葉に瞬は苦笑いだ。そうして、再び一同は雷が雨の如く降り注ぐ地を進んでいくのだった。
さて一同が出発してから半日ほど。とりあえず進み続ける一同であったが、やはり進めば進むほど雷の頻度は激しくなり、そして飛んでくる方角も四方八方からになっていた。そしてそんな状態だ。当然だが身体全体で静電気にも似た痛みを感じるようになっていた。というわけで、流石に動くだけでパチパチとなる弾けるような音に、ソラがしかめっ面で問いかける。
「……なぁ、カイト。これマジで進んで大丈夫なのか? いや、お前らは相変わらず遊んでるみたいなんだけどよ……」
「遊んでるってか、オレは遊ばれてるだけなんだけど?」
「いや、そうだけど」
「おー……ユリィユリィ」
「おー……ツインテール」
ソラの言葉を尻目に、相変わらずカイトにおんぶされているソレイユとユリィが静電気で勝手に持ち上がるカイトの髪を自分達の手のひらに集めた電の力で操って遊ぶ。先程から静電気が蓄積するのをみるや、途端静電気を使って遊びだしたのである。
「はぁ……まぁ、熟練の冒険者なら身体に蓄積された静電気やらを気を応用して操って」
「「あ!」」
「髪型が変になるからやめろ。付いた癖は治らないんだぞ」
「「えー」」
カイトはソラへの説明のために右手に体内に蓄積された静電気を収束させたわけだが、それに伴って静電気で動いていた髪も動かなくなったらしい。不満げな声を上げる二人に、カイトはただただため息を吐く。
「はぁ……まぁ、こういう風に身体に蓄積された静電気を操って体外に逃がす方法も身に着けておけ。これは結構重要で、雷属性の攻撃を受けた後もしばらく残ってたりするだろ。それを如何に迅速に体外に逃がすか、ってのは割と重要だ……まぁ、難しいは難しいんだが」
「え? 待って? もしかして二人、それで遊んでるわけ?」
「怖いよな、熟練の冒険者って」
熟練の冒険者がやる芸当を使ってカイトで遊んでいたというユリィとソレイユの二人に、ソラは思わず目を丸くする。その一方でユリィとソレイユはまるで遊ぶかの如く、周囲の雷の力により体内に蓄積される雷を手に収束させる。
「時々これで肩こりとか治してる人とかもいるよー」
「カルサのおっちゃんとか、お、ちょうど良いわ、とかって言ってやってるよね」
「カ、カルサイトさん……」
あの人は確かに熟練の冒険者なので出来ても不思議はないけど。ソラはそれでも敵の余波を利用して身体の凝りをほぐそうというカルサイトに思わず肩を落とす。というわけで呆れた様子の彼であったが、気を取り直して呼吸を整える。気を使うつもりなのだ。
「でもそうか……こうして蓄積される雷とかって、そうやって排出するのか……あ、なんとか出来た」
「それぐらいの時間で出来るようになったら御の字だ」
やることは先程カイトからもユリィからもソレイユからも見せて貰ったのだ。そして気の扱いはソラも習得している。なので体内に余剰に蓄積された属性を排出する事は容易だった。と、そうして排出して、ソラがふとなにかに気付いたかのように僅かに目を見開く。
「……あれ?」
「どうした?」
「そっか……もしかして防御って……」
ぐっぐっ。どこか試すようなカイトの問いかけに、ソラは自らの拳を握りしめる。そうしてそんな彼が小さく呟く。
「身体は土塊。そして<<地母儀典>>……もしかして」
「やってみろ。間違ってても、今のお前なら問題ないだろう」
「おう」
もしかしてこんな危険な場所にも関わらず、カイトが自分が来る事に特に気にした様子はなかったのってそういうことなんじゃないだろうか。ソラはそう思いながら、呼吸を整えて自らの身体を気で強化する。と、まるでそれを待っていたかのように、雷が周囲一帯に降り注ぐ。
「ソラ! そっちに落ちるぞ!」
「うっす!」
「って、おい、ソラ!」
受ける素振りも見せないソラに、瞬が大慌てで声を上げる。だが、その声がソラへ届くよりも前に雷が彼の身体を包み込む。
「っぅぅぅぅ……でもなんとかなった!」
「だ、大丈夫なのか?」
「うっす! もっと色々とやり方を考える必要ありそうだな」
「そうだな……ま、色々とやってみろ。今のお前なら、やれるはずだ」
「つまり支配権の話やらが出てくるってわけか……おっしゃ! やるか!」
どうやら一つ取っ掛かりを掴めば、ソラもやる気が湧いたらしい。というわけでソラはソラで避けられない事もあり、どうすればダメージを可能な限り減らせるかに苦心しながら進んでいく事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




