第3930話 雷雨の森編 ――特殊な武器――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
カイトは再び遠征の総指揮を行うというバルフレアの帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという<<雷雨の森>>への渡航許可が下りていた。
というわけで準備を終えた一同は飛空艇に乗って、雷の聖域があるという<<雷雨の森>>とやらにやって来ていた。そこは少しだけ紫色掛かった地面の、常に雷が降りしきる地であった。
そうして<<雷雨の森>>へとたどり着いた一同であったが、雨が降った事により少しの待機を挟んだ後、<<雷雨の森>>の中へと足を進めていた。
「そう言えばにぃー」
「あいよー?」
「今回ってそういえば『避雷針』、使わないの? 荷物になかったけど」
「ああ、『避雷針』か。あれは今回は使わない」
「そうなの?」
自身の問いかけに対しての返答に、ソレイユが驚いた様子で目を見開く。これに、カイトは少しだけ苦い顔で頷いた。
「ああ。『避雷針』で地面に雷を逃がす事は考えられているが、あれはまぁ、どうしてもその場に置き去りにしちまうだろ? 今回の渡航はなるべく秘密にしたいってのと、あれは後始末の問題がなぁ……」
「あー……後始末大変なんだっけ?」
「ああ。地面に深く突き刺すから、刺すのも抜くのも時間が掛かる。だから放置する冒険者が後を絶たないそうだな」
マナーがなってない奴も居るもんだ。カイトはため息混じりにソレイユの問いかけに頷きながら、後始末の面倒さを口にする。
「『避雷針』はここを管理してる領主にはあんまり好まれてない。だから使わないで良いなら使わないで越したことはない……飛空艇の積荷の中にあれがあるだけで印象が付いちまう。今回、こっちの希望もあってなるべくは密かにしたい、って所もあった。それこそ一応は調査名目での立ち入りで、聖域に行く事は言ってないからな」
「まぁ……それはそっか」
だから私達も同行して大丈夫ってわけだし。カイトの言葉にソレイユは納得を口にする。
「そういうこと……ってなわけで『避雷針』は持ってきてないし、使う予定もない」
「ふーん……でもそれならどうするの? 万が一の場合とか危険でしょ?」
「それはこいつを使います」
ソレイユの問いかけに、カイトは少しだけ楽しげに懐から一つの小太刀を取り出す。それに、イミナが目を見開いた。
「<<雷鳴剣>>!?」
「そ。開祖様の佩刀。魔界への扉を閉じる鍵の片割れ」
「持ってこられたのですか?」
「ああ……まぁ、こいつの失われた力の一部を取り戻すにはこの環境はちょうど良い。本当を言えば<<雷鳴の谷>>にでも持っていければ御の字だが、それは流石に無理だ。いくらオレでも場所のわからない異世界を探すのは手間だからな」
イミナの問いかけに対して、カイトは小太刀を天高く掲げる。すると途端、雷鳴が鳴り響き、雷が小太刀へと降り注ぐ。
「おー!」
「いや、カイト。私ら乗ってるんだから少しは配慮してよ」
「悪い悪い。ま、そう言ってもこんな感じでヤバくなったら雷を吸収してしまえば良いだけの話だ」
ソレイユが楽しげに歓声を上げて、一方でユリィは呆れたように首を振る。
「なるほど……あ、そうだ。そういえば伺っておりませんでしたが、やはり<<雷鳴剣>>は力を喪失していたのですか?」
元々過去の世界でも今のカイトが手にしている<<雷鳴剣>>がどのような状態なのかはイミナ達はわかっていなかった。だが先程の話では<<雷鳴剣>>は力を失っているような口ぶりだったのである。そんな問いかけに、カイトは小首を傾げて笑う。
「ん? そりゃ、なんにもしてなかったからな。エドナがやってくれたわけもないし。ま、流石にこれはクロードのやらかしにも近いから、オレがしっかり復活させて持ってくよ。あいつらも怒るだろうけど」
「何の話ですか?」
「……え? <<雷鳴剣>>の話だけど」
「?」
「だから<<雷鳴剣>>の話なんだけど……え? 情報残ってないの? オレ達、本にしたぞ!?」
どうやらここらの情報はカイト達が遺していたらしい。イミナの問いかけに対して、信じられないという様子で半ば絶叫気味に問いかける。だがこれに、イミナ――とセレスティアまで――が目を丸くした。
「「え?」」
「え……? も、もしかして……本が失くなっちゃった……?」
「「……」」
愕然とするカイトに対して、イミナもセレスティアも掛ける言葉が見当たらなかった。とはいえ、無理もないだろう。なにせ彼らが命がけで集めた情報だ。
それが七百年もの未来ではすっかり失われているというのだから、嘆きたくもなるだろう。そしてなくした後世の者であるセレスティア達が掛けられる言葉なぞなかった。というわけでそんな彼に、セレスティアがおずおずと問いかける。
「あ、あの……遺せた……のですか?」
「当たり前だろ? 大魔王様との戦い、魔界の扉の破壊。そこから北の帝国との戦いまで結構月日があるんだぞ。その間にオレもレックスも腑抜けて帝国の侵略を見落としちまったのは間抜けな話だったんだが、だからこそ時間なら余ってた。魔界の扉を破壊する方法の理論化を進めたよ」
「「あ……」」
言われてみればその通りだ。教科書の歴史などでは軽く何年の何月に、という程度しか書かれないが故に気付かなかったが、当時を生きたものからすれば数ヶ月以上もの猶予だ。
そしてカイト達なので、後世のために情報を遺さないわけがなかった。それだけの猶予があれば、何故遺さないと思ったのか、と聞きたくなっても無理はなかった。というわけで本当に失われているらしい事を察したカイトが、がっくりと膝から崩れ落ちる。
「まじかぁ……頑張ったのになぁ……」
「「も、申し訳ありません……」」
「はぁ……そっかぁ……なくなったのかぁ……」
「「……」」
確かに二度目の侵略時は自分達が対処して、そのまますぐに消えたし、一度目は言わずもがな。遺された情報について自分達が直接話す機会はなかったので仕方がないとは思ったようだが、それはそれとしても命がけで手に入れた情報が喪失してしまっている事にはかなり精神的にダメージが大きかったようだ。
というわけで誰もが何も言えないまま、少しの時間が経過した後。雷鳴が轟いて、まるで自動化でもしているかのようにカイトが立ち上がって再び雷を<<雷鳴剣>>へと吸収させる。
「はぁ……ライちゃん。お前の事伝わってないってよ」
『聞いてたよ。でも私達が忘れられるのっていつものことなんだよ……』
「……すまん。オレらも言えた義理じゃねぇわな」
『そうだよ』
「「はい!?」」
唐突に響いた声に、イミナとセレスティアが素っ頓狂な声を上げる。そうしてそんな二人を横目に、カイトは<<雷鳴剣>>に力を込める。すると、<<雷鳴剣>>から雷が生じて紫色の淡い光の玉が現れる。
「はぁ……二人とも、<<雷鳴剣>>の由来は聞いた事あるか? というか、なんで魔界の扉を閉じれるか、とか考えた事は?」
「え? あ、それは確か魔界で生み出された魔剣だから、と」
「それは正しいな……だがそうかぁ……やっぱりその程度の認識で終わっちまってるのか」
『皆と同じように』
「うぐぅ!? お、お前昔から結構突き刺してくるよね……」
『剣だから。刺すのは得意だよ』
紫色の淡い光の玉から、楽しげな声が響く。と、そんな光景を見ていた<<偉大なる太陽>>が口を挟んだ。
『なるほど……我と同じような者か』
「ああ。こいつは厳密に言うと剣じゃない。どちらかと言えば神器に近いんだろう。魔界で作られた神器……そうだな。言うなれば魔神器と言っても良いかもしれん」
「あー……なるほどな。神剣って何なのか、って話に通じるのか」
「ん? どういうことだ?」
どうやらこの話は<<偉大なる太陽>>からソラは聞いていたらしい。<<偉大なる太陽>>の言葉で<<雷鳴剣>>の原理とでも言うべきものをおおよそ察したソラに、瞬が問いかける。
「ああ、えっと……俺とか他の神使の人たちも神剣って言ってますけど、厳密には<<偉大なる太陽>>って剣じゃないんですよ」
「ん? 神器の中に神剣が含まれる、という話ではなくてか?」
「それでも間違いはないんですけど……厳密に言えば神剣ってカテゴリはないらしいんですよ。神剣っていう言葉は本質的には違うらしいんですね」
「剣なのにか?」
どこからどう見ても剣だろう。瞬はただ見たままを口にする事に何が間違いなのだろうか、と不思議な様子だ。とはいえ、これは神々やらそういった神学に詳しい者でなければわからない事だったようだ。というわけで変わらず誤解する彼に、ソラが続ける。
「えっと……だからその剣ってのが間違いなんです。実際にはこいつは剣じゃないんですよ」
『我ら神剣と呼ばれる者たちは剣の形を常時しているだけで、剣である必要性はほとんど無い場合が大半だ。厳密に言えば例えばこの身であれば、<<偉大なる太陽>>という神器というのが正しいのだ』
「……なんとなくだが理解した。とどのつまり、剣の形をしているから神剣と呼ばれるだけで、実際には剣の形をしているだけで、剣ではないということか。だがややこしいな。それでも剣としての機能も有しているだろう?」
『そうだ。だから剣である、という事も間違いではない……が、そうだな。ソラ、見せてやる方が早いだろう。やってみせてやれ』
「え? まぁ……やってみるけど」
どうやら百聞は一見に如かず、と判断したらしい。<<偉大なる太陽>>の指示にソラはどこか苦い顔で応ずる。が、なにかをしようとした直前。笑うカイトに気が付いた。
「あ、そうだ! そうっすよ。カイト、カイトがわかりやすい例っす」
「カイト?」
「カイトの持ってる大鎌。あれ死神の大鎌ですけど、あれ大鎌じゃないんっすよ。あれも神器で、大鎌の形をしてるってだけで」
「いや、だから大鎌だろう……あ、そういうことか!」
ソラの言葉で、瞬は彼が何を言わんとしているかを理解する。これに、カイトは少し残念そうに笑った。
「あっちゃ……気付かれたか。お前がどこまで出来るか見たかったんだが」
「まだムズいんだって。こんな注目された中で失敗するのはいくらなんでも恥ずい」
「あはは……ま、そういうわけだ。こいつは確かに基本は大鎌の姿を取っているが、大鎌以外にも槍やら盾やら円月輪やら色々と形を変えられる」
恥ずかしげなソラの言葉に笑いながら、カイトはいつものようにシャルロットの死神の大鎌を幾つも形態を変化させる。
「このように、大鎌だが大鎌以外の機能も有しているのに大鎌だ、というのは変だろう? だからこいつは厳密に言えば神器で、死神の大鎌じゃない。じゃあ、弓になってる時はこいつはなんと言う?」
「弓だな。大鎌とは言えん」
「そ……弓だ。それと同じように、この<<雷鳴剣>>も別の機能がある。それを使って、魔界の扉を閉じたわけだ」
ばちばちばち。カイトの言葉に応ずるように、<<雷鳴剣>>が膨大な雷を発する。
「ま、だが……そう言ってもな。今は力が失われていて、こいつじゃ魔界の扉は閉じられん。で、さっきから出てるライちゃんはその機能を司る精霊って所か。神器には割と多いぞ。と、話が脱線したな。それで、<<雷鳴剣>>の別の力を使うわけなんだが……」
「今は力が失われてしまっている……と」
「そういうこと」
セレスティアの総括に、カイトは一つ頷いて同意する。そしてそんな話をしていると、三度雷鳴が轟いた。それにカイトは<<雷鳴剣>>を天高く掲げる。
「はーい、ライちゃんご飯ですよー」
『美味しい美味しい……って、私ペット?』
「あははは……ま、そういう感じで、道中こいつに吸収させるつもりでもあったから、『避雷針』はどっちかっていうと邪魔だな」
意外とノリが良いな。<<雷鳴剣>>の精霊がカイトのノリに乗ってツッコミを入れる様子に、一同はそう思う。というわけで、道中の雷はカイトが可能な限り<<雷鳴剣>>に吸収させながら、一同は奥へ向かって進んでいくのだった。
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