第3928話 雷雨の森編 ――雷雨の森――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという極所への渡航許可が下りていた。
というわけで準備を終えた一同は飛空艇に乗って、雷の聖域があるという<<雷雨の森>>とやらにやって来ていた。そこは少しだけ紫色掛かった地面の、常に雷が降りしきる地であった。
「「……」」
もしかして雷雨とはそういう意味なのか。<<雷雨の森>>の最外周。一応は安全とされる場所にたどり着いて、飛空艇を降り立った直後。ソラも瞬も周囲の光景に気圧されながら、そんな事を思うばかりだ。とはいえ、無理もない。それほどの光景が目の前にはあった。
「……なぁ、カイト。これを進むのか?」
「ああ……な? 思った以上にヤバいだろ?」
「いや、まぁ……ああ……」
楽しげなカイトの問いかけに対して、瞬は確かにこれは想像した以上だったと同意するしかなかった。というわけで、どこか感心するような様子で彼が呟いた。
「比喩じゃなかったのか。雷雨、というのは天候の事じゃないのか。いや、これも天候……か?」
「天候……かどうかは知らん。だが見たままだな。これをどう言い表すか、と言われればオレも雷雨以外に言い方を知らん」
「……」
そうだな。瞬は正しく雨のように間断なく降り注ぐ雷の雨に、無言でそう同意する。というわけでどこか感心さえ滲ませている彼に対して、ソラがかなり気後れした様子で問いかける。
「いや、それは良いんっすけど……これ、どーなってんの? てかこんなのあり得ねぇだろ」
「あり得ないもなにも目の前の事象として起きているのだからあり得るのだろうな」
「そーいうこと。眼の前で実際に起きてるだろ? 幻術でもなんでもなくさ」
「いやまぁ、そーなんだけど」
カイトの問いかけに、ソラは眼の前の雷の雨がなにかの幻術でもなんでもなく、ただただ真実である事を理解していた。それはそれこそ瞬以上に、だ。
「なんだ、これ。全体が雷に支配されてるっていうか……地面まで雷属性を帯びてるっていうか。こんな場所、あり得るのか?」
「いや、あり得るあり得ないはさっき話ただろ」
「いや、そーなんだけどさ」
カイトのツッコミに対して、ソラは苦笑いを浮かべてそれに同意。しかしそんな彼は興味深い様子で、地面へと手を伸ばすと、そのまま地面の砂を掘り返す。
「……触れた限りはちょっと雷属性が強いだけの砂……なんだよなぁ」
「良いところに気が付いたな。この地の砂は特殊な石を含んでいる」
「……もしや<<雷鳴石>>ですか?」
「その通り」
どこかわかるよな、というような視線で見据えられていたイミナの返答に、カイトは正しく我が意を得たり、という様子で笑う。
「かの伝説の……と伝説になったかは知らんが。オレ達因縁の『北の砦』。それがあったとされる<<雷鳴の谷>>。いや、されるってかあったんですが。その地でのみ産出される『雷鳴石』。それがこの地には大量に埋まっている」
「ここにも……<<雷鳴石>>が……」
カイトの言葉に、イミナが何処か感慨深い様子で地面に手を突き立てて、ソラ同様に土を僅かに掬って持ち上げる。そんな彼女に、セレスティアが問いかけた。
「イミナ、あれが出来るのでは?」
「……確かに。少しやってみますか」
「「「ん?」」」
何が何やらさっぱだが、セレスティアとイミナは<<雷鳴石>>とやらを使ったなにかを試そうと考えているらしい。というわけで<<雷雨の森>>の土を両手で掬い上げて、イミナが立ち上がった。
「……」
立ち上がったイミナが、まるで掬い上げた土を圧縮するように両手にぐっと力を込める。そうして数秒握りしめた後、彼女が手を開いて一つ頷いた。
「……よし」
「ほぉ……『雷鳴石』を収束、精錬したのか。しかも数秒で。今の技術は見事だった」
「あ、ありがとうございます」
開いたイミナの手のひらには、紫色の半透明の魔石にも似た石が出来上がっていた。どうやらこれが、『雷鳴石』らしい。そんな彼女が偉大な祖先よりの称賛に頬を赤らめる一方で、セレスティアはどこか鼻高々であった。
「イミナはああ見えて、錬金術も出来るのです」
「ああ見えては不要です……とはいえ、これだけの含有量なら精錬は簡単でした。<<雷鳴の谷>>かそれ以上に含有量があるかもしれません」
「そうか……で、どうするんだ? それを」
「なんでも出来ますよ。『雷鳴石』があれば」
ばちんばちんばちん。少し魔力を通すだけで雷を放つ『雷鳴石』を手にしながら、イミナはどこか獰猛な表情で応ずる。これにカイトは苦笑気味に笑う。
「いや、そうだけどさ……ウチにとっちゃ『雷鳴石』は本当に何でも使える便利な石だけど。なにかに使おうと作ったわけじゃないのか?」
「あはは。まぁ、そうですね。強いて言えば、久方ぶりに見たのでしたかったからした、という所でしょうか」
「そうか……まぁ、本当にウチにとっちゃ何にでも使える石だ。若干なら土を持って帰って良いから、土も持って帰っておけ」
「土……そうですね。確かに……ここの土は色々に使える……」
セレスティア達の世界のマクダウェル家は雷をもっとも得意とした騎士の一門だ。なのでその増幅器としても使われる『雷鳴石』は様々な用途で使えて、実は『北の砦』制圧後のクロードは一度それを使って自身の強化を行っていた。同様に現代では<<雷鳴の谷>>が開放されているので、マクダウェル家が良く採取の依頼を出しているとの事であった。
そしてマクダウェル家の騎士として、その採掘現場を見た事のあるイミナは、父や兄から色々な使い方を教えられていたのである。というわけで久方ぶりに父や兄の言葉を思い出していた彼女に、瞬が問いかける。
「イミナさん。少し使い方やらを教えていただく事は出来ますか?」
「ん? ああ、そうだな。確かに瞬も知っておいて損はないか。出来るか出来ないかは別にして……まぁ、一部隠してはいるが……」
「あっははは。まぁ、クロードの技ならオレは全部知ってるな。びっくりで隠してたのも激戦で普通に使うし」
「ですよね」
おそらく自分以上にマクダウェル家の技が出来るのだろうな。イミナはカイトの言葉に笑う。マクダウェルの血を引かず、しかしマクダウェル家の騎士としては最優と評されるカイトだ。そして兄弟としてクロードの新技開発には幾度となく付き合っており、下手をしなくても彼が開発したとされる様々な技を使う事は出来たのであった。というわけで隠してもカイトが普通に話すだろう、とイミナは考えたようであった。
「まぁ、そういう事なら時間が空いたタイミングで教えよう」
「お願いします」
「……ああ、皆さん到着したのですね」
「おっと……アイナ。悪いな、現地合流になっちまって」
「いえ……雨が近い。一旦小屋に行きましょう」
どうやらアイナディスも到着していたらしい。カイトの言葉に応ずる彼女は空を見上げ、なにかを感じ取るように一同に併設されていた小屋への移動を提言する。そうして、一同は雨が近いという彼女の言葉に従って、一旦小屋へと退避する事にするのだった。
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