第3927話 雷雨の森編 ――移動――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという極所への渡航許可が下りていた。
というわけで現在の実力を知るべく瞬がイミナとの模擬戦を命ぜられて、更に数日。ひとまずの支度を整えると、カイトは瞬らを連れて専用の飛空艇で皇国の片隅にある<<雷雨の森>>という場所へと向かっていた。その道中。ソラは興味深い様子でカイトへと問いかける。
「その<<雷雨の森>>だけど、具体的にはどんな場所になるんだ? なんかいまいちイメージがわかないっていうか、単に雷が降りしきる場所って感じしかないんだけど」
「まぁ、そのイメージしかなくても当然というか、それで合っているというか……実際、そんなイメージで良い。ただ頻度と規模はお前が思っているよりも遥かにデカいだろうけどな」
「ふーん……」
つまり思っているよりもっと広くて、もっと大きな雷が降りしきるという事なのかな。ソラはカイトの言葉にそんな事をイメージする。そんな彼に、カイトは少しだけ肩を竦めた。
「まぁ、こればっかりは見た方が早いし、口で説明してもわからん。オレも最初はそんなイメージをしてたしな」
「ほーん……」
そんなものだろうか。ソラはカイトの言葉にそう思う。というわけで飛空艇に揺られること更に数時間。更に一夜明ける事になるわけだが、その翌日の一同の目覚めは巨大な轟音によってもたらされる事になる。
「なんだ!?」
「攻撃か!?」
用意された個室から飛び出して、ソラと瞬が揃って顔を見合わせる。そうして彼らが飛び出したと同時にけたたましいアラートが艦内に響き渡り、少し眠たそうな様子でカイトが顔を出した。
「いや、違う。どうやらデカいのが一発通り過ぎたようだな……はぁ。まぁ、少し早いが起きるには悪くない時間か」
「で、デカいの? 攻撃じゃないのか?」
「攻撃だったらオレはこんな呑気にしてねぇな……ふぁぁ……」
ごきごき。ソラの問いかけに、カイトは首を鳴らして目を擦る。と、そんな彼が伸びをした直後。轟音が再度鳴り響いて、飛空艇が大きく揺れる。
「うおっ!」
「またか!」
「おぉ……珍しいな。まだ入ってもないのにこんな連続でデカいのは」
立っていられないほどの揺れが飛空艇を襲う中、一人カイトだけは楽しげだ。と、そんな彼へと念話が響く。
『カイト様。イミナより雷属性の強大な力を感じるとの事ですが。同時に敵意はないので攻撃ではないだろう、との事でしたが……彼女曰く、<<雷鳴の谷>>と似た力を感じる、との事です』
「ああ、そっちも起きたか。おはよう」
『あ、おはようございます』
「おう……ああ、それでイミナさんの推測で正しいよ。この雷は攻撃でもなんでもない。単なる自然現象だ」
二連続の轟音と振動は流石に誰でも跳ね起きるだろう。というわけで同じく起きたらしいセレスティアの問いかけに、カイトは一つ頷いてこれが攻撃ではない事を明言する。
『やはり……私もどちらかと言えば攻撃よりなにか聖なる力に近しい物を感じます』
「ああ、そうか。確かにこれは退魔の力は含んでいるだろうな。古い逸話には聖なる雷や聖雷なんてのも言われたそうだ」
数日前のバルフレアとの会話でも出ていたが、<<雷雨の森>>にはかつて魔族に追われた一団が逃げ込んで魔族だけが打たれて助かったという逸話があった。
その逸話そのものについてはカイトはタネも仕掛けもある、と睨んでいるわけだが、逃げ込んだ理由がその聖なる雷という話を信じてのものだ、と言われても納得は出来ただろう。
「まぁ、そういうわけだから、多分これから安眠は出来なくなる。まだ眠いだろうが、もう起きておいてくれ。その代わり、朝食は期待してくれて大丈夫だ」
『ありがとうございます。期待させて頂きます』
カイトの言葉に、セレスティアが楽しげに笑って念話を終わらせる。と、そんな会話が終わるのをまるで待っていたかのように、三度轟音と振動が飛空艇を襲う。
「おっと……おっとぉ!?」
「んにゅ……にぃー。うるさいー」
三度の揺れに僅かに身を固くしたカイトの背に、ソレイユがジャンプしてのしかかる。が、その目は眠たそうで、表情は騒音と振動に何処か不快感を感じている様子であった。そんな彼女をしっかりと背負いながら、カイトは苦笑いで問いかける。
「だから来なくても良いぞ、って言ったろ? うるさくて寝れないってのも」
「ねぇねも居るし、ユリィも行くから行くー。それににぃの妹ちゃんとか来るなら会いたいー」
「いや、来ねぇよ。そう何度も何度もあっちの連中連れてこられても困るわ」
「でも万が一もあるし」
どうやら話している間に目が覚めたようだ。ため息を吐く様子のカイトに、ソレイユは楽しげに笑っていた。
「はいはい……まぁ、とりあえず着替えるぞ。飯だ飯。働かざる者食うべからず。飯の用意は手伝え」
「はーい。ユリィー。着替え取ってー」
「今日はどれにするー?」
「えーっと……」
「いや、降りろや」
自身の肩越しに会話をするソレイユに、カイトは苦笑いしながらも彼女を下ろす事はなかった。まぁ、ソレイユがしっかり肩に掴まっていたので降りなかった、というのが正しいかもしれないが。というわけで部屋に戻る最中、彼は後ろを振り向いてソラと瞬を見る。
「先輩もソラも突っ立ってないでさっさと着替えてこい。この様子じゃもう寝れないだろうし、予定通りなら3時間後には発着場に到着してアイナと合流だ。少し早いが、朝の軽い鍛錬をしてたら良い時間だろう」
「あ、あぁ……」
「お、おぉ……」
というかなんで平然としているのだろうか。二人はソレイユを連れて部屋に戻ったカイトに苦笑いしながらも、その言葉が正しいので納得するしかなかった。というわけで扉が閉じられると共に、ソラがふと呟いた。
「……なんか思ったよりヤバそうっすね」
「ああ……思ったよりヤバそう、ではあるか」
確かにこれはカイトが何度か言っていた通り、思った以上に危険な感じがする。瞬は会話が終わると共に襲いかかった轟音と振動、そして肌身に感じる雷の力に、そんな危険を予感する。そうして、その数時間後。一同が乗った飛空艇は<<雷雨の森>>の一番外側に設けられた簡易の飛空艇発着場に到着する事になるのだった。
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