第3926話 雷雨の森編 ――調整――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという極所への渡航許可が下りていた。というわけで現在の実力を知るべく瞬がイミナとの模擬戦を命ぜられて、更に数日。カイトは渡航の準備を整えながらも、それと平行して遠征の話も取り進めていた。
「まー、そうなるわな」
『そんな風に言うなよ。まぁ、確かにわかってたっちゃわかってたけどよ』
「そりゃそうだろう。そもそも簡単に行けるなら今頃どこかの国が調査隊を組織して、となってておかしくない。そもそも行く事が難業に加えられる。ぶっちゃけ、ユニオンだから今回の調査隊も組めている所はあるだろ」
暗黒大陸は何度か言われているが、行く事さえままならないのだ。実際行って帰ってきたのはバルフレアだけだと言われているし、その彼とて中に入るのは危険と這々の体で逃げ出した。その結果戦闘力であれば彼以上である面々を引っ張り出しているわけだ。というわけで、カイトがそれを指摘する。
「一応、数が必要って側面もあるからユニオン全体の調査隊の派遣にはなるけど、実際に最深部への渡航はオレを筆頭にクオンやらソレイユ達やら、っていう戦闘力に限ればお前以上の面子を主軸としてる。拠点設営の先遣隊もあくまでやるのは拠点の設営だけ。ただそれにしても八大が動く。出来る限りの最大はやってるって塩梅……危険度は今更言うまでもないだろう」
『なんだよなぁ……』
そもそもの話として、現ユニオンマスターである自分が道先案内人を務めねばならない時点で行く事が困難であるというのは言うまでもない話だ。というわけで支援のための輸送隊やらが進む通路の安全の調査を行う調査隊からの結果報告を纏めていたバルフレアが、盛大にため息を吐いた。
『まー、近付けば近付くほど出るわ出るわランクSの魔物の出没報告。半ば面倒だからランクS認定してねぇか、と思いたくなる』
「しかも新種が大半?」
『しかも新種が大半』
カイトの楽しげな問いかけに対して、バルフレアは半ば自棄っぱちに答える。何度も言われているが、暗黒大陸は未知の領域だ。なので誰も遭遇した事のない魔物は何体も居るわけで、調査隊も何度も未知の魔物と遭遇して調査を阻まれていたのであった。そしてもちろん、これはまだたどり着く前からの話だ。調査隊の調査が遅々として進まない、とバルフレアが嘆きたくなるのは無理もなかった。
『はぁ……いっそさっさとお前を突っ込みたい』
「無理言うなよ。オレが出るってだけでも相当に面倒なんだから」
『わかってるよ……なんでお前が公爵様なんだよ。しかもデカい』
「規格外の冒険者だからだろ。それにオレが居なかったら冒険者にとって役に立つ魔道具の数々はなかったも同然だろ。文句言うなよ」
『わかってるよ』
嘆くバルフレアだが、その実カイトがマクダウェル公というエネフィア最大の貴族の一角となっている事で冒険者のために最先端の魔道具が開発され、そしてそれによって年に何十人何百人もの冒険者の命が救われている事を知っていた。
これは元々が冒険者であったカイトだからこそされている事であり、彼がいなければ年間数百人単位で死傷者は変わっていると数値的に理解出来ていた。
だがよりにもよってそれがカイトという戦闘力と生存力であればトップの冒険者であるので、こういう彼が一番役立つ局面で使えなくなってしまった事を嘆きたくなるのも無理はなかっただろう。
「あははは……ま、本隊はオレが守る。そこらはなんとかする策は立ててるんだろ?」
『ああ。本隊はお前とクオンの二枚でなんとか出来る。んで、更に遠距離の防衛もソレイユがいればなんとかなる……なる、と思いたい』
「で、もう一方はお前とフロドでなんとか、か」
『先発隊は出さないが、一斉に全部が出せるわけでもない。双子大陸やらアニエスの船団もあるからな』
以前に言われているが、今回の暗黒大陸への遠征隊は規模とスポンサーの関係もあってカイト達のエネシア大陸から出てウルシア大陸を経由するパターンと、アニエス、双子大陸から出発して長距離を移動する二つの経路で行われる予定になっている。
一旦ウルシアで合流する事になるのだが、そこからは比較的安全とされている二つの経路を通って暗黒大陸へと接岸。乗り込む事になる予定だった。
「それに何より、今回みたいに船団の規模が大きくなると動く魔物も居るから、か」
『そうだなぁ……やっぱり全部いっぺんに、お手々繋いでゴールは無理だ。船団の距離を少し離して、そうなると経路は分けるしかない。全体はフロドとソレイユに確認して貰いながら、だな』
「面倒だな、ほんと」
『ほんとにな』
とはいえ、これもまたルカンらが遺してくれた情報だ。活かさないわけにはいかないし、死ぬわけにはいかないのだ。ならば生還するためにも、臨機応変に対応せねばならなかった。
『……ああ、悪い。まぁ、そんな塩梅で。やっぱり危険そうだ。それでも、調査隊はなんとか犠牲なしに上手くやってくれてるよ』
「わかった……まぁ、こっちも先輩の聖域行きに目処が立った。もう一人契約者は連れて行ける予定だ」
『そうか。それは有り難いな』
先程までずっと戦力の少なさとでも言うべきものを嘆いていた所なのだ。ここでの契約者という巨大戦力の一枚増加はバルフレアとしても非常に有り難かったらしい。先程から一転して喜色を浮かべる。
「ああ……まぁ、そういうわけで。ちょっとまた留守にする」
『そりゃしゃーない……<<雷雨の森>>だっけ? あそこもヤバいよなぁ』
「そりゃ、大戦期のお話じゃ魔族に追われた一団があそこの雷により逃げ延びられた、なんて話もあるぐらいだからな。実際にゃそんな上手い話はないんだが」
『まぁなぁ……お前曰くんなの絶対に偶然だろ、だっけ?』
「しかねぇよ。あんなの……普通に考えりゃ先に逃げた連中が雷に打たれて死ぬ。死んでないって事はなーんかはあるんだろうな、とずっと睨んでるよ」
今回向かう先である<<雷雨の森>>とやらにある英雄的な話の一つに、カイトはどうやら憧れやらではなくその裏になにか種と仕掛けを疑っている様子だった。珍しく英雄譚に目を輝かせるではなく、その裏にあるだろう種と仕掛け側に興味を持っている様子であった。とはいえ、楽しげではあったのである意味では英雄譚に目を輝かせてもいるのだろう。
『あはは……ま、それなら気を付けて行ってきてくれ。明日か明後日には出るんだろ? 今度お前らまで怪我しました、だとただでさえ遅れ気味の遠征が更に延期になりかねない』
「すでにお前が怪我してるしな」
『うるせぇよ』
カイトの茶化すような言葉に、バルフレアが笑いながら応ずる。そうしてその後も少しの間雑談混じりに双方の遠征について話し合いながら、双方の不在の間の連携についての調整をしていくのだった。
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