第3925話 雷雨の森編 ――指針――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという極所への渡航許可が下りていた。というわけでその最終調整の前段階として、瞬はイミナとの模擬戦をカイトから命ぜられる事になる。
「そこまで!」
「「っ」」
カイトの掛け声と共に、両者攻め込もうと跳躍しようとした足から力を抜く。別に決着を付ける事が目的ではなく、単にカイトも今の技術を知りたいというだけだ。なので戦いの途中でも切り上げさせて問題なかった。
「どっちもまぁ、支配権の奪い合いに派生は出来んか」
「うっ……その支配権というのはあれか? さっきソラが言ってた、属性に対する影響力というか……」
「も、申し訳ありません……そういうものがあるとは存じ上げておりましたが。そういった魔術師の技はやはりどうしても……」
「あぁ、良い良い。それはオレも知ってるし」
属性に対する支配権の理解は魔術師の技。それはカイトも把握していたし、それを近接戦闘を得意とする戦士が苦手とするのもわかっていた。単に出来れば良いな、という程度でしかないし、それの取っ掛かりが得られるかという考えで同じ得意属性同士で戦わせたのだ。が、結果はこの通りどちらもまだ無理というわけであった。
「というか、イミナさんでも無理なのか」
「まぁ……話は聞いた事があるし、出来れば良いとは聞いている。兄上は出来る、そうだしな」
「出来る人も居るんですか」
やはり出来ない、というのは単に訓練不足という所なのかもしれない。瞬は騎士でありながらも出来るというイミナの兄に対して、そんな感想を抱く。
「まぁ、そうではあるが……こればかりはどこまで魔術的な意味で理解を深められるか、という所が大きいかもしれん。文武両道、と兄上は言うが」
「はぁ……あ、そう言えばお兄さんはセレスの騎士ではないんですか?」
「違う。姫様は神殿に属する巫女だ。神殿の規則もあり、巫女に仕えるのは女だけだ。逆に男に仕えるのは男だけだな」
「ならそちらに?」
「いや、そもそも兄上は神殿騎士ではないがな」
「おーい、話が逸れてってるぞー。オレも興味がないわけじゃないがな」
自身の義理の弟の子孫の現在だ。カイトとしても血の繋がりはないとはいえ、やはり興味がないわけではなかったらしい。とはいえ、同時に今その話をする場所ではないとも理解している。なので笑いながら脱線した話を軌道修正させる。
「っと」
「申し訳ありません」
「構わんよ……まぁ、それはそれとして。二人とも、属性に対する支配権の奪取は出来んか。出来ると強いんだがなぁ……」
「そういえばクロード様は出来らしたのですか?」
「あいつ? ああ、あいつは当然のように出来てたよ。まぁ、それがどこで役立つか、と言われりゃ雷鳳の爺相手ぐらいだっただろうが、あっちも出来た上にあっちのがはるか格上だったしなぁ……」
相手が相手故に役立つ場面が特になかっただけで、クロードが出来なかったわけではない。カイトは当時を思い出して少しだけ苦笑いながらも、そう語る。
「ということは上級……いや、熟達の戦士は皆出来るのか?」
「皆じゃない。実際、熟達の戦士でも出来ない奴は出来ない。あの爺は全部出来てても不思議はなかったがな。まぁ、四騎士だとライムが全属性出来たぐらいで、他は得意とする属性プラス幾つか、ぐらいか。グレイスが火と水と氷、って塩梅にな。全属性出来る奴ってのは上位層でも限られるだろう」
「「……」」
なるほど。魔術にどれだけ薫陶があるか、という所がやはり大きいのかもしれない。瞬もイミナもそんな事を理解する。
「ま、そんな塩梅でな。とりあえず得意属性ぐらいは出来てても損はない。言うまでもないかもしれないが、近接戦闘の最中に魔術を使われるのは結構キツいし、使われる側の驚きも大きい。オレも魔術を手札にはしてるし、先輩だってするだろう?」
「まぁな……出来た例はほとんどないが」
「ま、そこは練習だ……てな塩梅で魔術を手札に使う奴にとって、魔術を更に流用されるってのは結構痛いだろう。支配権を手に入れるってのはかなり優位に立てる。しばらくは二人もそっち方面の技術習得に努めた方が良いな」
「おう」
「は、はい……」
やはりソラが出来るようになり、そして契約者の副次的な特典のように与えられるようになる、と言えども自力での習得が可能と言われ瞬は習得に前向きなようだ。だが一方で、イミナは少しだけ恥ずかしげに視線を逸らしていた。
「ん? どうした」
「い、いえ……昔から兄上にも言われていたのですが、どうにも支配権の理解は苦手でして……いえ、やろうとすれば多少は出来るのですが。やはり戦闘中にやるのは少し苦手で」
「ああ、そういう事か……まぁ、戦闘中に属性の動きやらをつぶさに感じ取るのは割と精神力が試されるからなぁ……って、待て。神殿の騎士だろう。精神力が重要な作業を苦手と言ってどうする」
「うぐっ……」
カイトの指摘に、イミナは非常に恥ずかしげに肩を落とす。どうやら自分でも思っていたらしい。そんな彼女に、セレスティアが楽しげだった。
「あら。意外とイミナも気にしていたのですね。苦手とは知っていましたけど」
「そ、それは私だって気にしてますよ。ただ苦手は苦手というだけで……」
どうやらイミナが支配権の理解を苦手としている事は昔からだったようだ。セレスティアの冗談めかした言葉に、イミナはしきりに恥ずかしげだった。
「やれやれ……まぁ、とりあえず。出るまで数日ある。それまでの間、精神鍛錬を重視した方が良いかもな」
「は、はい」
「そうですね。ではイミナも私と一緒に精神鍛錬の修行をしましょうか」
「うぐっ……またあれですか?」
「苦手でしょう?」
どうやらセレスティアもイミナの前では年相応の様相が出るようだ。これにカイトは楽しげだった。
「あはは……ま、そっちでなんとか出来るならなんとかしてくれ。オレが出張るべき問題でもないだろうしな」
「はい」
「は、はぁ……」
やる気な様子のセレスティアに、イミナはどこか生返事だ。とはいえ、それについてはカイトとしてもどうでも良い所はあった。なので彼はそちらの話しを切り上げ、瞬へと視線を向けた。
「で、先輩か。先輩も少しは理解しておいた方が良いだろう。特に先輩の場合、雷が出来るようになっても今度は火への影響力がついていけなくなりかねん。少しそっちに軸足を置いた方が良いだろうな」
「わかった……だがそれはすぐに理解出来るものか?」
「まぁ、難しくはあるが……言った通り、魔術師なら理解しているものだ。だから不可能というわけでもない。取っ掛かりがわかれば御の字、という所でしばらくは精神鍛錬がベストだろう。これにはオレも力を貸す。出発までの数日は先輩も精神鍛錬中心にするべきだな」
「わかった」
カイトの指示に、瞬ははっきりと頷いて気合を入れる。とはいえ、彼の場合はそういった精神鍛錬は嫌いではないらしく、前向きは前向きだった。というわけで、この後はそれに向けての指南を行う事になるのだった。




