第3923話 雷雨の森編 ――模擬戦――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げると、それと入れ替わるように皇国から瞬の契約者としての聖域があるという極所への渡航許可が下りていた。というわけで渡航許可が下りて数日。瞬は最終調整に余念がなかった。
「えっと……こんなもんっす」
「……」
契約者としての試練に挑む前に、一度契約者との差を知るべく模擬戦をさせてくれ。そう頼んで行われた模擬戦の後。瞬はソラの今の実力を見て、思わず冷や汗を流す。自分より一歩先へ進んだ。それを理解したのである。
「多分だが、俺が見えている光景とお前が見えている光景は違うんだろうな。なんというか、直感的だがそんな事が理解出来た」
「そっすね。正直、契約者になって一番驚いたのはそこでした。契約者ってのは単に力が授けられるってだけの話じゃない。力そのものの見方が変わりました。ただまぁ……これは多分悔しい話っすけど、俺も先輩も本来は独学でたどり着いておいても良かったんじゃなかったかな、とかは思いますけど」
「そ、そうなのか?」
「っす。カイト曰く、優れた魔術師はこれを自力でやってる、って話です。それこそ須らく魔法使いになるような連中は出来て当たり前でさえある、って」
「そ、そうなのか……」
どうやら今のソラのレベルアップは単に本来は持ち得た力を契約者となる事により追加で手に入れただけに過ぎないのだろう。瞬はこのレベルアップが単なる自分達の修行不足だと言われ、がっくりと肩を落とす。
彼の場合は性質もあって自分の修行不足が明らかになるより、これが契約者の特典とでも言われた方がまだ良かったようだ。というわけで落ち込むような彼に、一応監督に来ていたカイトが口を開いた。
「契約者ってのは根源に繋がるにも等しい。見える範囲が異なってくるのは当然だ。そして基礎ってのは色々な物に応用出来る。基礎が備わった結果、他へ応用出来るようになったってわけだ」
「基礎……やはり基礎なのか?」
「まぁ、魔術師……魔法使いに至ろうとするのなら基礎になる。魔術使いと魔術師、魔法使いの差だな」
ごぅ、という大音と共にカイトの手に巨大な風の塊が生ずる。それに対して、反応は両極端だ。
「……」
「っ」
膨大な力が集まっているが故に緊張を見せる瞬と、それが単なる支配権を行使しているだけの見せかけと理解しているが故に特に気にする様子のないソラ。やはり支配権が見えるようになったが故の差が、反応に大きな差異を生じさせていた。
「今までは先輩もソラも所詮は魔術使いに過ぎなかったんだよ。だからこんな単なるブラフにも過剰に反応してしまう」
「つまりそれは正しい意味での魔術師ならば理解出来た、というわけか」
「そういう事だな」
一瞬だけソラに視線を走らせて、瞬は彼が見ている光景が本来の意味での魔術師の光景なのだと理解する。
「まぁ、これは仕方がない所はある。魔術師ってのは研究者の別名でもある。ティナを見ていればわかるがな。世界を解き明かそうとする試みの一つに魔術があり、その魔術を究めんとする者が魔術師だ。魔術を道具として使う者はあくまで魔術使い。まぁ、冒険者やってりゃ新しい魔術も開発せにゃならんから、魔術師と魔術使いの境目は非常に曖昧になるがな。軸足がどちらか、という側面で見た方が良いかもしれないだろう」
「世界を解き明かそうとする事に重点を置けば魔術師、使う事に重点を置けば魔術使い、か」
「そういうこと」
瞬の総括に、カイトは一つ頷いた。というわけで彼の理解を見て、カイトは一つ問いかける。
「さて、肩慣らしはこんなもんで良いな?」
「ああ……それで、挑む前に戦う相手ってのは誰なんだ?」
「もう来てるよ」
瞬の問いかけに、カイトは指をスナップさせる。それに修練場の扉が開かれるも、その扉から入ってきたのはセレスティアとイミナの主従であった。というわけで言い付けどおりスナップを合図として入ってきたものの、まさかこんな形になるとは思っていなかったらしいイミナが恐縮した様子でおずおずと口を開いた。
「……あ、あの……そのようにされましても。その、格好良く出て行く事なぞ出来ないのですが……」
「えー……こういうのって雰囲気が重要なんだよ」
「は、はぁ……」
カイトの言葉に、イミナはそういうものでしょうかと生返事だ。とはいえ、そんな彼女の一方で瞬が問いかけた。
「二人と戦わないといけないのか?」
「ああ、いや。戦うのは私だ。カイト様の指示により、今回の契約者への旅に私も同行する事になったが、それは聞いているか?」
「ええ」
イミナの問いかけに対して、瞬は一つはっきり頷いた。元々風の聖域へはソラと瞬だけだったが、これは風の試練が一番簡単だったから、という所がある。だが逆に火も雷も高難易度というのがカイトの触れ込みだった。
「確か火も雷も試練の中では高難易度なんだな? いや、今更だが試練の属性によって難易度が異なるというのはどうなんだと思わなくもないが」
「あはは……まぁ、試練の難易度は属性の危険性という所かな。だから眷属達にすれば何ら危険もない、と言う場合もある。ノーマルの人間族にとっちゃ危険性は高い、って話だ」
「そうか……まぁ、確かに異族ではない俺達には関係のない話ではあるか」
この場に居る全員が一応異族の血を引いていたり、瞬に至っては鬼族の先祖返りになるわけだが、どうにせよ大精霊の眷属となる異族ではない。なので属性に対する強い耐性を有しているわけではないので、一般的に言われる難易度をそのまま当てはめる事が出来るだろう。
「ま、それはともかくとして。とりあえず先輩。イミナさんも。どっちも今の実力と、どこまで何が視えているのか、を確認しておきたい。流石に雷の試練は風の試練と違って危険性は高い。これでも、火の試練に比べればまだまだマシなんだが」
「……あの、カイトさん。一つ良いっすか?」
「あ?」
危険性を念押しして口にするカイトに、ソラがおずおずと挙手。それに、カイトは首を傾げた。
「なんだ?」
「あの……俺、それに同行させられんの? おもったよりヤバそうなんっすけど」
「まぁ……お前が思ってるよりは多分ヤバいな」
「それ先に言いません!?」
多分軽く見積もってるだろうな、とはカイトは思っていたらしい。だが同時にだからといって変更するつもりはなかったし、甘く見ているのは当人なのだ。そしてこればかりは口で説明しても意味がない。というわけで声を荒げる彼に、カイトは肩を竦めた。
「だが難易度は説明したろ? その上でお前が甘く見てるんだろうなぁ、とは思ってただけ。それに、今のお前なら行けるのは行けるし、お前が役立つのもまた事実だ」
「風と土だから?」
「そう……まぁ、お前も見ておけ、って言ったのはそれもあった」
「マジかよ……」
「ま、今のお前なら派生させていけば十分に理解は可能だ。頑張れ」
「はぁ……気合い入れよ」
おそらくカイトは無理な事は言っていないだろうし、実際風の支配権を理解出来るようになって程なく、土属性の支配権もなんとなくだが理解出来るようになっていた。そして雷属性は土と風の加算関係だ。
この二つの支配権を理解出来れば雷も理解出来るようになる、というカイトの言葉は筋が通っているように彼にも思えたらしい。今までは瞬の模擬戦を軽く見る程度に留めようとしたらしいのだが、本気で観戦する事にしたようだ。
「ま、そうしておけ。明日の自分のためにな……話が逸れたな。それで二人とも。雷を中心として戦え。何がどうやった、とかは戦いながら考えろ。それと戦い方も本来の、手加減抜きで戦え。どちらも様子見と手札の温存などはありだが、全力は尽くせ」
「「……」」
全力は尽くせ。その意味を二人は正確に理解する。つまり、カイトはこの一戦で全てを出し切れという後先を考えるな、と命じたのである。そして試練に挑むなら、そういった手札の温存なぞ無意味だというのは瞬は風の試練で理解していた。
「わかった……試練を念頭に置いて、ということだな? いや、試練のその最後を、か」
「上出来。試練の最後は何時だって変わらない。ぶっちゃけオレが出るのは想定外も良いとこだったが、あの最後だけは変わらない。そして……まぁ、わかろうものだろう? あいつにそんな手加減とかしてくれるような器用な芸当は期待するな」
「わかった」
思い出すのは雷の大精霊である雷華だ。勝負事に真正面から取り組む姿勢は瞬やイミナにも通ずるものがあり、手加減や遊びが出来る性格ではないというのは瞬にも理解出来たようだ。
「イミナさん。一戦、お願いします」
「いや、こちらこそ頼む……私は試練に関しては君の後輩だ。試練で何を見て、どう判断したか。見せて貰おう」
一つ頭を下げる瞬に、イミナもまた一つ頭を下げる。そうして、両者同時に雷を纏って地面を蹴るのだった。
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