第3922話 雷雨の森編 ――飛空艇――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げていた。
というわけで報告を上げた翌日。この日からは通常営業と再び冒険部の執務室に戻り溜まっていた事務仕事を片付けていたのだが、そんな彼へと皇帝レオンハルトからの呼び出しが入っていた。というわけで呼び出しが終わった後。彼は疲れたように自室に戻っていた。
「はぁ……」
「……なにか厄介な案件だったのか?」
「ああ、いや……ああ、そうか。先輩居たなぁ。よいしょっと」
「な、なんだか疲れているな」
まぁ、皇帝という職業のストレスは自身が受けるストレスよりはるかに大きいものだというのはカイトもわかっている。なのでそのワガママやらを聞くのも貴族の仕事というのはわかっているが、それはそれとして疲れるものは疲れるのである。というわけで疲れたように椅子に腰掛けるカイトに、瞬はかなり苦笑していた。そしてそんな彼に、カイトが笑う。
「あはは……悪い。まぁ、色々とな。っと、その前に。そっちの手続きは?」
「ああ、終わったよ」
カイトの問いかけに、瞬は一通の封筒をピラピラと振って見せる。それにカイトは一つ頷いた。
「まぁ、ウチの場合は手続きも早いわな。そもそもの免許証の交付をウチがやってんだし。リストとの照合も最新のデータと照らし合わせりゃすぐに終わる。形ばかりだな」
「え? ああ、公爵家の話か」
「っと、悪い。そ。免許証の交付は基本国際団体が有する試験場で発行されるが、場所によっちゃ土地土地の領主に委託したりもしてたりする。ウチみたいにな。まぁ、団体側も自分の所で施設を持つと費用が掛かるからな」
「そういえばそういう話を聞いたな、免許の講習の時。あの時はそうなのか程度にしか思わなかったが、大丈夫なのか?」
免許の取得に関する試験や手続き等を誰かに委託するというのは大丈夫なのだろうか。瞬は当たり前と言えば当たり前の疑問を得たようだ。とはいえ、これはもちろんきちんとした判断があっての事だった。
「まぁ、普通は団体がやるべきではあるんだろうが……ウチみたいに最新技術に触れられる所になると、そっちの方が実際の使用においては良いんだ。要は実地訓練だな。それにどこでもかしこでも委託してるわけじゃない。ウチみたいに飛空艇の製造をやってる所、ってのが大半だ。その中でも大都市圏に限られる。それに、委託先は全部領主。免許証の発行で不正をやらかして困るのは自分の所だし、不正してなにかがあって追求されるのは自分。下手すりゃ他国……ウチとかから責められるんだぞ? 不正なんてやりたかないだろ。もちろん、やる奴はやるけどな」
「それはそうか」
やるやつはどこでだって不正をするだろう。そんなカイトの指摘に、瞬も納得する。というわけで納得した所で、彼らは改めて本題に戻る。
「とりあえず、封筒を」
「ああ」
「よし……これでよし」
最後に承認の印を押してしまえば、今回の手続きは完了。後は三ヶ月後だ。カイトは封筒に収められていた書類に所定の印を押して、自室のレターボックスに仕舞っておく。
なお、本来この封筒は所定の手続きを経てギルドマスターのカイトを経てマクダウェル公カイトに送られるのだが、送るのもカイトなら送られるのもカイトである。どうせ陛下の呼び出しがあって公爵邸に行かないといけないのなら、と瞬へ自室に書類を持ってくるように指示したのであった。
「それで良いのか?」
「ああ。このレターボックスの中に入れておけば、後は秘書室の子達がまた定期的に書類を持っていってくれるからな。後はそっちで整理整頓をされて、専用の倉庫で保管される」
「そうか……ああ、そうだ。そういえばこの書類提出で思い出したんだが、新しい飛空艇。あれは今どうなってるんだ?」
「あれか。ああ、そういえばちょうど良かった」
がさごそ。カイトは今度は机の引き出しを開くと、なにかを探すような素振りを見せる。そうして一つの分厚い封筒を取り出すと、今度はそれを瞬に差し出した。
「これが基本の仕様書だ。読んでおいてくれ。こっちでティナが精査してたから、こっちに置いてたんだよ」
「そうか……中々分厚いな」
「そりゃ、飛空艇だ。機能も色々と備わっているし、今回は前のみたいに輸送艇ベースじゃない。戦闘も主眼に入れている奴だから、武装や障壁の展開装置もそれの使用を前提に設計されている。仕様書もそれ相応に分厚くなる」
「それはそうか」
今回は冒険者が使う事を前提として、様々な任務で使える事を前提とした設計の飛空艇を購入している。なのである意味では万能艦とでも言うべき仕様になっており、今までの輸送船ベースよりはるかに多目的での使用が可能になっていた。だがその分、どうしても仕様書や説明書という面では分厚くなるのであった。と、いうわけでそうなってくると当然、一冊で封筒が終わるわけもなかった。
「で、これが武器の仕様書で、障壁の仕様書。後はこっちは」
「ま、待て待て待て! 何冊あるんだ!?」
「ん? 武器の仕様書が二冊、障壁の仕様書が一冊、全体を取り纏めた簡単な説明書が一冊」
「待て。それは簡単とは言わんぞ」
どさっと机に置かれた百と数十ページはあろうかという本を見て、瞬が思わず待ったを掛ける。
「自動車と一緒だ。大きいんだから仕方がない……ま、基本の使用感やらは自動車と一緒。飛空艇ごとに大きく変わる事はない。なんで困ったら見る程度で構わん」
「そ、そうか」
とりあえずまた暇があったら読んでおこう。そう考えながら、瞬はカイトから渡された飛空艇の仕様書やらを封筒を運ぶために持ってきたカバンに仕舞っておく。
「よし……まぁ、今渡さないといけないのはこんな所か。それで次。さっきの陛下の話なんだが」
「ああ、それか。そういえば何があったんだ?」
「一つは朗報だ。先輩の聖地行きに関しての許可が降りた」
「……そうか」
ぐっ。カイトの言葉に、瞬はどこか牙を剥いたような顔で拳を握りしめる。以前のあれで大体は感覚を掴んだが、逆説的に言えば今度はあれ以上の試練が課されるということだ。彼としては望む所であった。
「で、一つは悲報だ……陛下が来いってよ」
「うっ……やはりそうなるのか?」
「今回のユニオンの遠征に関する壮行会を兼ねて、冒険者を広く招いたパーティを開くそうだ。ま、体よくオレ達を呼び出すための言い訳という所だが」
「そ、そうか……はぁ」
どうやらこちらは、覚悟が備わっていなかったようだ。カイトの言葉に瞬はどこか気後れした様子を見せていた。というわけで、それからしばらくの間二人は聖地へ向かう道中やパーティに関する諸々の話を交わす事になるのだった。




