第3921話 雷雨の森編 ――連絡――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げていた。
というわけで報告を上げた翌日。この日からは通常営業と再び冒険部の執務室に戻り溜まっていた事務仕事を片付けていたのだが、そんな彼へと皇帝レオンハルトからの呼び出しが入っていた。
「陛下。ご無沙汰しております」
『うむ。急に呼び出してすまんな。ああ、まずは遠征の任、ご苦労であったな』
「ありがたきお言葉」
どうやらとりあえず機嫌が悪いわけではないらしいな。カイトは皇帝レオンハルトの声音などから、それを理解。内心で胸を撫で下ろす。
『どうであった、幽霊船は。いや、船団か』
「やはり暗黒大陸は恐ろしいものなのだ、と思わされました」
ひとまずはそちらの報告という所から入る形になるか。カイトは皇帝レオンハルトの問いかけに、今回の一件で得た様々な内容をつぶさに報告していく。そうしておおよそを聞いて皇帝レオンハルトの顔に浮かんだのは、やはり苦い顔であった。
『そうか。かつてとはいえ八大ギルドの一角が為すすべもなく撃沈していたか』
「はい……私としても驚くべきものではありましたが。ただ奴を視れば、それもさもありなんだったかと。無論、交戦が出来ていればあのような事にはならなかったでしょうが……」
『戦いさえさせて貰えなかった、か。時折冒険者より俺も話を聞くが、決して珍しい話ではないと聞くな』
「はい……それがギルド単位で壊滅させられる魔物となると非常に珍しいものではありましたが」
『此度はそうであった、というだけか』
先程皇帝レオンハルト自身が口にしているが、彼は自身の性質も相まって冒険者から直接話を聞く機会を設ける事があった。なのでそういう場で珍しい話として為すすべもなく殺された冒険者の話などは聞く事があったのだろう。カイトの話に疑問を挟む事はなく、それどころか有り得てもおかしくはない、と納得さえ見せていた。
『とはいえ、そういう事であったのなら公よ。相変わらずの手腕、見事であった。確かに、この相手はかつての八大ギルドの長が危惧した通り、陸地に近づけていれば厄災になっていたやもしれん。そのような相手を前にこの被害で終わらせられたのであれば上出来だったであろう』
「ありがたきお言葉。奴にとって不運だったのは私が相手だった事と、奴にとって有利な地が私にとってもまた有利な地であったという事かと」
『なるほど。直接交戦したのが公で、人気の無い場所であれば隠蔽は容易か』
確かに勇者カイトにとってすれば、人気のない場所というのは自身が思う存分戦う事の出来る場所だったか。皇帝レオンハルトは謙遜のようで、その実事実を述べているだけという絶妙な言葉に楽しげに笑う。というわけで一通りの報告を受けた所で、皇帝レオンハルトは満足げに一つ頷いた。
『うむ。それで此度連絡を入れた件だが、公が頼んでいた<<雷雨の森>>への渡航の事だ』
「それでしたか。ですがそれで陛下がわざわざ?」
『うむ……まぁ、俺がやらんでも良いかとは思ったがな。此度の一件の報告を公より直に聞いておきたいという所もあった』
どうやら皇帝レオンハルトとしてはこの程度の報告に出る必要もないか、と思ってはいたようだ。とはいえ、別件も色々とあったのでどうせなので伝えておこうと思った様子であった。
『まず<<雷鳴の森>>への許可は下ろした。追って、許可証も届くだろう。公であれば問題なかろうが、注意するようにな』
「ありがとうございます」
皇帝レオンハルトの言葉に、カイトは三度頭を下げる。と、そんな彼へと皇帝レオンハルトが問いかけた。
『で、一つ聞いてみたいのだが、どういう場所なのだ。<<雷雨の森>>とは。俺も噂には聞いているが、噂に聞く程度で実際に行った者なぞハイ・エルフのアイナディス以外知らん。危険度が高いが、同時に希少な物資も確保出来るので時々無許可で入る愚か者が居るとは聞いた事がある程度だが』
「は……どういうと申されましても、雷が雨のように降り注ぐ地、としか言いようがありません。本当に、雷が雨のように降り注いでいるのです」
『ひっきりなしに、ということか? 皆そういうな』
「はい。無論自然現象ですので、頻度に差はございます。なので熟練の冒険者であれば抜ける事は不可能ではないでしょう。事実、先のアイナディス然りで『森』へ入る許可を持つ者は居ますから、その者らへ依頼が出る事は珍しくはない」
『ふぅむ……やはり極所に違いはなかろうな。どういう場か、興味は尽きぬが……』
一瞬、皇帝レオンハルトの視線がカメラとは別の方向を向いて、わずかに表情が動く。どうやら誰かが来たのだろう。そうしてそちらに理解を示すように、少しだけ渋い顔で頷いた。
『わかった。すまぬな、出来れば詳しい話を聞きたいのだが。後の予定が詰まっているようだ』
「いえ」
『ああ。それで、だ。もう一つなのだが……』
どうやら本題としてはまだ別にあったらしい。どこか嬉しそうな様子で、先程までとは一転して皇帝レオンハルトが口を開く。それにカイトは小首を傾げる。
『一応聞いた話では、バルフレア殿の怪我はまだ一ヶ月か二ヶ月は癒えぬのであったな? 出発もそれに合わせて現在策定していると』
「はぁ……一応、彼の事ですので一ヶ月で癒えるかとは存じます。ただその後の調査隊の再調査などもありますので、出発の時期を今練っている所ではありますが」
皇帝レオンハルトの問いかけに、カイトは現在の状況を報告する。これは特に隠している事でもなかったし、先程の報告に合わせて追加していた。とはいえ、そんな彼の言葉に、皇帝レオンハルトが破顔した。
『そうか……いや、実はな。ちょうど一ヶ月後に夜会を開こうと思ってな。いや、いつもの夜会ではなく、普通の夜会だ。まぁ、公らとの夜会が常態化しているような気もするのは如何なものかと思うがな』
「あはは……それは良い事かと存じます」
それでニコニコ笑顔なわけか。皇帝レオンハルトの話の裏を読んで、カイトは内心でため息を吐きながらも口では賛同を示す。
『うむ。それでそこにソラくん、瞬くんを連れてきて欲しいのだ』
「かしこまりました……ですが陛下。流石にあの両名を契約者として明かすのは時期尚早かと思われます」
『無論それは弁えている。まずは地盤を固めねばなるまい。我らも、公も。そして日本国も、地球も』
契約者だから、と何でも出来るわけではない。それは為政者として、皇帝レオンハルトも弁えていたようだ。なのでカイトの念の為の掣肘に対して、彼らが契約者として前面に立つ事があまりに時期尚早であると同意する。
『明かす場合は日本国と話し合った上で、あちらと足並みを揃えるつもりだ』
「ご配慮賜りましてありがとうございます」
『いや、これは当然の事であろう。で、だ』
やっぱりこれが本題なわけがないよな。カイトは顔に浮かぶ喜色の色を更に深めた皇帝レオンハルトに、だろうなと内心でため息を吐く。というわけでまるでわかっているな、と言わんばかりの彼の言葉をカイトが口にした。
「かしこまりました。その際、二人との試合を準備いたしましょう。ただ陛下。一つ私からもお願いが」
『ん? なんだ。申してみよ』
「出来れば二人にはご家族と話す時間を与えていただけませんでしょうか。今後、彼らは公的な所属として大きな役割を果たす事になる。陛下と謁見すれば皇国としても正式に二人を契約者として認める事になりましょう。その前に、改めて家族との時間を取らせてやって頂きたいのです」
『なるほど……相わかった。当然の話だろう。今後二人も忙しくなる。そして契約者となる事は二人の都合もあろうが、我らの望みもある。そして我らが負担を掛ける事もあろう。ならば、その前に家族とひとときという公の言葉は全く正しいものだ。こちらで全て手配しよう』
カイトの望みに対して、皇帝レオンハルトは一つはっきりと頷いた。そうして、次の聖地<<雷雨の森>>への渡航が決まると共に、二人の謁見の日取りが決まる事になるのだった。




