第3920話 雷の森編 ――手続き――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功する。
そうして幽霊船団の除霊から数日。彼は調査船団により発見された情報の精査を行うべくリーナイトへ戻るバルフレアから進捗を聞いていたのだが、それも終わりバルフレアはリーナイトへと帰還。カイトもその帰還と合わせて今回の一件の調査報告を皇国へと上げていた。
というわけで報告を上げた翌日。この日からは通常営業と再び冒険部の執務室に戻り溜まっていた事務仕事を片付けていたのだが、そこで椿から報告が入る事になる。
「陛下が?」
「はい……戻られたなら一度連絡を送るようご連絡が。ただ急ぎではないので、こちらのタイミングで良いとの事です。どうやら当家からの報告書の受領を確認し、戻られた事をお知りになられたご様子です」
「わかった」
元々今回の幽霊船団の対応は皇国よりカイトに対応指示があった形だ。そして最終盤に巨大な骨の龍というイレギュラーはあったものの、それにしたってカイトが主導して片付けた。
なので被害と言える被害は当初の予定通りの幽霊船団の除霊に関するものだけで、骨の龍というイレギュラーを考えれば上出来と言えるだけの成果ではあった。というわけでそちらの方面に関する話ではなさそう、とカイトは考え首を傾げて椿へと問いかける。
「なにかあったか? オレが出ている間に」
「いえ、当家周りでは特になにか問題は起きておりません。また他の例を見ても、御主人様の行われていた幽霊船団の除霊の被害程度も想定を下回る程度と言えるかと存じます」
「だよな……となるとまた別に厄介事が起きたか」
また面倒にならなければ良いが。カイトは貴族という立場もあり、なにか面倒事が起きていなければ良いがとため息混じりだ。とはいえ、こういう厄介事が投げられるのも大貴族の宿命と言えば宿命だ。
「まぁ、急ぎではない、という事はそこまでヤバい案件でもなさそうか。わかった。陛下に連絡を入れてくれ。その間に支度を整えておく」
「かしこまりました」
いくらこちらのタイミングで良いので、と言われようと皇帝からの連絡だ。そして報告書が入った事を確認して連絡を送るように指示したということは、こちらの帰還を待っていたという事なのだろう。優先度は高いと言わざるを得ない。なのでカイトは進めていた書類仕事の手を止めて、そちらの対応にする事になったようだ。
「先輩。さっきの話、公爵邸の方で聞くから、一緒に来て貰えるか? 確か書類仕事は今日はないって話だったな?」
「ん? ああ、構わんが……なにか厄介そうなのか?」
「いや、それがわからん。こっちの方に何もトラブルは起きていないし、ヤバそうな案件もない。向こうでなにか起きていた可能性があるが……まぁ、何も情報がないからな。急ぎじゃないから大丈夫とは思うが……」
急ぎではない、という事はつまりヤバい案件ではない、という事だ。だがそれがなにかがわからない、というのが厄介な所であった。というわけで瞬は時間は余っていた事、そして自身も公爵邸に用事があった事もあり、カイトの指示に従う事にした。
「まぁ、わかった。どっちにしろ俺も公爵邸には用事があったしな」
「ん? なにかあったのか?」
「いや、いつもの飛空艇の免許に関する申請書だ。面倒だな、あれも」
「ああ、ギルドに何人免許取得者が所属して、という申請書か。三ヶ月に一回提出の。悪いな。あれの集約は手間になるからなぁ……」
「こっちはこの一週間ほど暇だったんでな」
カイトの感謝に対して、瞬が笑いながら首を振る。ギルドで飛空艇を運用しているわけだが、飛空艇の操縦には免許が必要になる。免許そのものは簡単に取る事は出来るわけだが、だからこそ無免許者に飛空艇の操縦をさせればギルドで罰せられる。
なので通例免許を持つ者が誰で何人所属しているか、というのをリストでギルドに提出させ、各地の貴族で共有。現在飛空艇を操縦している操縦者が免許をきちんと保有しているか、という審査の際の手間を簡略化していたのであった。というわけで公爵邸へ戻って、皇帝レオンハルトの応答を待つ間。瞬がカイトへと問いかける。
「あれは一期に一回には出来ないのか? 手間なんだが」
「難しい話でな。今の半期に一回もウチやらの大貴族、この規模のギルドだから出来ている所で、貴族や規模によっちゃ一ヶ月に一回って話もあるらしい」
「一ヶ月に一回?」
それは勘弁してくれ。瞬は今回の書類の手続きに掛かった手間を思い出し、それを毎月しなければならないと言われて盛大に顔を顰める。そんな彼に、カイトが冒険者側の実情を教えてくれた。
「人の出入りの激しいギルドとかになると、数カ月に何人も入れ替わる。だから翌月には所属していない、という事もあるそうだ」
「どんなブラックだ……」
数カ月に何人も人が出入りするギルド。そう聞いて、瞬は思わず顔を顰める。どんな運用をすればそんなコロコロ人が入れ替わるのだろうか。そう思わずにはいられなかった。だが、これは冒険者特有の事情があったようだ。
「ギルドにも色々な形態があるんだ。だから迷宮攻略の間だけ所属して、それが終わればはいさよなら、というような形態を取っている所もあったりする」
「なるほど……確かに迷宮なら取得品の精算とかはギルド単位の方が精算所も有り難いか。それに手間賃にしても一括の方が安上がり。一つ一つ対処するぐらいなら、一括精算の方が良い」
「そ。だからそういう形態がメインのギルドもあったりするんだ。後は裏ギルドとかもそういう形態を偽装している事があるから、基本的には提出をマメにさせたがる貴族が多いのは仕方がない所はあった」
「なるほどな……仕方がない側面があるのか」
出入りが激しいなら出入りが激しいなりの事情があるのか。瞬はカイトの言葉に納得を示すしかなかったようだ。
「そういうことだな。だがまぁ、そんなマメに提出になるとデカいギルドほど書類の準備が手間になる。だから規模に応じて、後は業態に応じて提出スパンを変えさせよう、って所になった」
「それでウチは三ヶ月に一回、か」
「ああ。これで上から二番目に長い方だ。前はほら、月イチだっただろ?」
「そういえば……すっかり忘れていたな」
冒険部は元々の規模が規模だったので、提出実績さえあれば後は人数に応じた提出スパンに出来たようだ。というわけで手続きに不備がない状態を維持出来たので、早期に認定が貰えた様子であった。
「そ。ちなみに、この話もその時にしたな」
「そ、そうだったか?」
「そう」
「あ、あははは……」
カイトの返答に、瞬が恥ずかしげにそっぽを向く。どうやらこの話は昔瞬にはされたものだったようだ。とはいえ、先の一ヶ月スパンでの提出がカイトが取り仕切っていた数回で終わってしまっていたので、彼も印象に残っていなかったのだろう。
とはいえカイトがやっていたのも、そこでミスがあると手続きの手間が延々と続くからだったので、仕方がない所はあっただろう。というわけで色々と雑談にも似た話をしていた所で、椿が部屋に入ってきた。
「御主人様。陛下から準備が整ったと」
「わかった……先輩。悪いが、そっちは手続き完了まで頼む。こっちは陛下と会ってくる」
「ああ」
瞬も書類は提出しているが、その審査はまだ終わっていなかった。単に暇なのでカイトと話していただけだ。というわけでカイトは瞬との話を切り上げ、皇帝レオンハルトと話すべく通信室へと向かうのだった。
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