第3919話 滅びし者編 ――準備――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功するわけであるが、その最中に彼は幽霊船団の一部に、かつて八大ギルドの一角を担い、暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。
そうして黒幕となる骨の龍も倒し、幽霊船の沈没を見届け、としたその数日後。カイトはマクダウェル領へ帰還して、ひとまずバルフレアから報告を受けていた。
「そうか。とりあえず沈没した船の残骸は見付かったか」
「ああ。今総ざらいに中身の回収作業をしている所だ。もう一週間もすれば、各船の航海日誌やらも見付かるはずだ……上手く行けば、だけど」
「上手く行けば……か」
とりあえずのあの後であるが、当初の予定通り沈没した幽霊船達の荷物などを回収するべく冒険者ユニオンが手配した人魚族を中心とした回収部隊が作業に入った。だが海域が流れの激しい海域であること。強大な魔物が潜んでいる可能性があった事から回収作業は少し時間が掛かっており、まず優先は各船の航海日誌。次に各船の積荷となっていた。ひとまず航海日誌さえ手に入れば、冒険者ユニオンが求める暗黒大陸に向かうための情報は手に入るだろう、という想定であった。
「何隻ぐらいが暗黒大陸へ向かう船だったんだろうな」
「さぁなぁ……<<船にて大海を往く者達>>はそもそも暗黒大陸へ向かう、って話を俺が聞いてたから暗黒大陸に向かったってわかってるだけで、同じように向かう船がなかったわけじゃない。俺がこう言っちゃ駄目だろうが、今の冒険者ってのはどっちかってと傭兵に近い扱いだ。だがやっぱ、冒険者である以上は冒険ってのに何処か憧れを抱いているもんだ」
「依頼はあくまで冒険のための金稼ぎ、か」
「よく覚えてたな」
カイトの口にした言葉に、バルフレアが苦笑気味に笑う。そもそも冒険者とは道なき道を行き、未知を求めて冒険する者というのが一番最初だ。
だが言うまでもなく、生きていく以上は食べるにも寝るにもお金が掛かる。そして魔物も居る以上、戦うための武器や防具も必要だ。それらを用意しようとするのなら、必然お金が必要だった。それも莫大な、である。
「本末転倒な話だよなぁ……冒険するにはたくさんの金が必要。だけどどうしても冒険者ってのは学がない奴が多い。でも腕が立つし困難の踏破も厭わないから、普通は手に入れられない危険な場所の貴重な薬草とかを手に入れられる。その学がなくても大丈夫って点から、学がない奴が冒険者の真似事をして金を稼ぐようになって、互助協会みたいに小規模なギルドが出来て……金が絡むからギルド同士で争いになって、今度は各地のギルドを取りまとめるユニオンが出来て、だからな」
「まぁ、各地を冒険するにもユニオンっていうデカい組織は役に立つから、本末転倒ではあったが本当の意味での冒険者にとっても役に立つ組織ではあるだろ。そしてそっちに関しちゃどうしても冒険やってるだけの連中じゃ出来なかった事だ。本末転倒な話ではあるが、同時にその結果有り難くもなった」
「まぁな」
カイトの指摘に、バルフレアが苦笑混じりに笑う。そうして笑った彼が口を開いた。
「俺がユニオンマスターになりたい、ってのもそこがあったからなぁ……今の金稼ぎしか考えてない連中に、本物の冒険者ってやつを見せてやりたいっていう」
「ああ、なんだ。もしかして少し気にしてたりすんのか?」
「うるせ」
カイトの茶化すような言葉に、バルフレアが苦笑の色を深める。そんな彼に、カイトは笑いながら首を振った。
「気にするなよ。他の連中は知らんが、ルカンのおっちゃんらだって覚悟の上で暗黒大陸へ行ったんだろうぜ。それに何より、だ。おっちゃんらがお前に憧れたってのはまずないだろ。前任者の時代から居る連中だからな。加えておっちゃんらが憧れと現実を履き違えるようなバカとは思わん。あったとするなら、どちらかというと負けん気だろう」
「かなぁ」
やはりユニオンマスターとして、多くの者に本来の冒険者の夢を見せつけたという自負がある。だがその結果として暗黒大陸に向かわせてしまったのなら、こうして沈没した事には自分にも責任の一端があるのではなかろうか。バルフレアは今回沈没したのが旧知の間柄であるギルドだった事があり、そんな事を思っていたようだ。
「……すまん。なんかしんみりしちまったな」
「良いさ……で、それはそれとしてだが。結局のところ、沈んだ船はどこの出身とかまだわかってないんだな?」
「ああ。何隻が暗黒大陸に向かう船……ユニオンやギルド所属か、それともどこかの商船だったかはわかってない。こっちは俺が戻ってユニオンの書庫を調べないとどうにもなんないだろう。各地への情報提供も求める必要があるしな」
「厄介だな、超巨大組織ってのも」
「年に何個ギルドが消えてるか、ってのは俺も把握してないからなぁ……」
冒険者というのはどうしても巨大な組織で、仕事柄相手にしているのは危険な存在だ。そしてその危険も多種多様。危険地帯という自然から、強大な魔物まで様々だ。
故にギルド一つが消息を絶つ事は珍しくもなく、だからと捜索隊が出される事は滅多にない。せいぜい荷運びの依頼があり、依頼人の手前で荷物を回収せねばならないぐらいだ。
そんな事をしているととてもではないが時間も費用も足りなくなるからだ。というわけで消息が掴めなくなったとしても、バルフレアに報告が上がる方が稀であった。
「冒険者からすりゃ拠点を持たないギルドなんてあいつら見なくなったな、で終わるだけか」
「次に行ったんじゃねぇか、で終わるからな……ま、それはそれとしてそれはこっちでやっとく。怪我の手当てつってもこの怪我はなにか出来るわけじゃないからな」
「魂の傷ばっかりは時間経過で癒えるのを待つしかない、か」
「そ……そして流石に今回の一件だ。もし俺が怪我が治る前に行くって言えば」
「まー、オレとかアイナとかからフルボッコにされて今度は一ヶ月入院させられるな」
バルフレアの言葉に、カイトが楽しげに笑う。暗黒大陸という危険地帯に行くわけだが、カイト達の大前提は生還だ。なので生還の可能性を低める事をするのなら、殴ってでも止めるだけであった。というわけでそんな彼の冗談に、バルフレアが笑う。
「契約者二人からフルボッコか。こえぇ」
「あはは……ま、そういうわけで。しばらくはゆっくりしてろ。こっちもこっちで今回の一件を受けて、色々とやらにゃならな」
「ウルシアの神々か」
「ああ……アポイントメントだけは頼むぞ。流石に今回の一件で挨拶はせにゃならんようになった」
元々言われているが、今回の一件は本来はウルシア大陸の神々が解決せねばならない一件だ。だが表の関係でカイト達が解決しないといけなくなり、死者達も大半がエネシア大陸の冥界で確保した。一応の筋として、挨拶に向かうのが筋となるのであった。
「わかってる……はぁ。やっぱり未知への冒険ってのは一筋縄で行かねぇもんだな」
「だから楽しいんだろ? こうして準備してる時もさ」
「まぁな」
未知とは何が起きるかわからない、という事だ。だからこそ楽しいのだし、やりがいもあった。というわけでバルフレアもカイトも、これこそが冒険の醍醐味とばかりに楽しげに笑っていた。
そうして、その後も二人は現状と今後の予定を話し合い、そしてバルフレアはその打ち合わせが終わると共に久方ぶりにリーナイトへと帰還していくのだった。




