第3916話 滅びし者編 ――骨の龍――
申し訳ありません。体調不良につき、しばらく更新が不安定になりそうです。皆さんも体調にはお気をつけください
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功するわけであるが、その最中に彼は幽霊船団の一部に、かつて八大ギルドの一角を担い、暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。
というわけで幽霊船団の除霊と共に現れた巨大な骨の龍に対して、カイトは兎にも角にも船を狙われないように大立ち回りを繰り広げていたのだが、アル・アジフによる解析の結果、この骨の龍は冥界を構築するという本来神々にしか出来ない芸当をやってのけたのだと知らされる。
そうして地球にかつて存在したメソポタミア文明の冥界神エレシュキガルの力を使って骨の龍が有する冥界へと強引に乗り込んだカイトは骨の龍と戦うも、その最中。骨の龍はカイトの攻撃を受けて本体を現世へと移動させていた。
「さて……」
骨の龍が現世に逃げた後。セレスティア達が必死の交戦を続ける最中。あの世に残るカイトはというと、相変わらず一方的な攻撃を受ける展開になっていた。
「そういえば疑問に思ったんだが」
「なんだ?」
「なに?」
「こいつってこっちに攻撃してる時って実体はこっちに来てたりするのか? こう……二つの世界を行き来するような奴って、よく二つの世界で息を合わせてよーいどん、で攻撃ってやるじゃん?」
「いや、そう都合の良い事はない。同時に攻撃した所で一緒だ」
カイトの問いかけに対して、アル・アジフはモニターに骨の龍の情報を投影する。
「奴の攻撃はどちらかというと物理的な攻撃を偽装した魔術だ。冥海と冥界の両方を操作した、魔法にも近い現象の創造と言っても良いやもしれん」
「なるほど。骨っぽいなにかを生み出してるってわけか」
「そうだ。それを自身の動きに合わせて投じている……まぁ、異界化を用いた魔法もどき、と言うのが一番早いだろう」
「あいよ」
アル・アジフの解説に、カイトは骨の龍が放つ骨の塊を切り払いながら了解を示す。が、そうして大剣で切り払って、彼は苦い顔で口を開いた。
「とはいえ、だ……こっちに実体がないと攻撃が為難いってのも難儀なもんだ」
「というか、何故こっちに幻を生んでるの?」
「おそらくこの冥界の軛が奴だからだろう。何かしらはこちらの世界に常に繋がりを持っておかねば自壊するのだろうな」
ナコトの問いかけに対して、アル・アジフは道理として、と答える。そんな彼女に、ナコトは重ねて問いかける。
「ということはもしかして、こちらの世界になにか起点となる物があったりする?」
「いや、どちらかといえば幻を常に召喚し続ける事でそれを代替しているんだろう……が、その分現世に居る方が消耗は激しくなるだろうな。奴にとって、父からの逃走は苦肉の策だったろう」
「でもこの空間は維持しているということは」
「奴にとってもこの空間を再び作るのは難しい事は間違いないだろう。父が追ってくると期待したか……それとも先に現世の連中を片付けた方が楽と考えたか」
何かしらの策があったと見るが、その策がなにかまではわからん。アル・アジフはナコトの問いかけに対して笑いながらそう答える。
「とはいえ、奴にとってこの空間が重荷になることは間違いないだろう。この空間の維持を諦めるか、それとも……」
遠隔で倒せるような父ではない。アル・アジフは虚空を舞い踊るように飛翔して骨の猛攻から逃れるカイトに対してそう思う。と、そんな話をしていた所に。骨の龍がこちらの世界へと顕現する。
「おかえりー」
「来たな……そこそこ手酷くやられたようだ」
こちらに戻ってきた骨の龍だが、身体の各所には細かなひび割れが生じていた。そんな骨の龍を見て、カイトは即座に飛翔機を起動。一気に骨の龍目掛けて突撃を仕掛ける。
「おらよ! よし」
確かにダメージを与えられるな。カイトは自身の飛び蹴りが確かに通ったのを見て、一つ頷く。というわけで骨の龍を吹き飛ばして、そのまま追撃を仕掛けようとしたその瞬間。骨の龍の総身がバラバラに弾け飛ぶ。
「おぉ!?」
「流石にこの数を避けながらは飛翔出来ん! 当たればノーダメージとはいかん以上、一度下がれ!」
「あいよ!」
数千もの骨の塊が舞い散る空間を飛翔する事はいくらカイト達でも物理的に不可能だ。というわけで『神』の各所に魔術的な紋様が浮かび上がると共に、背面に常時で展開されていた飛翔機が虹色のフレアを放出。急減速して、骨の龍から大きく距離を取る。だが、その瞬間。唐突に背後に衝撃が走る。
「あらぁ?」
「……なるほど。そういう思考はありか」
「<<ド・マリニーの時計>>セット」
「ですよね!」
背後に現れるもう一体の骨の龍が振りかぶる腕に、カイトがなにかを言う前に準備を終わらせていたナコトの魔術を使ってその場から緊急で離脱。そうして離脱したとほぼ同時に亜音速で龍の拳がその場を通り過ぎる。
「やっば! で、そういう事になると! こっちもですよね!」
どうやら自分を構築する骨を半分にする事で、数を増やす選択になったらしい。どちらにせよ元々が5キロの巨大な骨の龍だ。半分に分けた所で2.5キロ。それが人型の龍になった事で厚みや横が増えて長さが減ったとて、相手が巨大である事になんら大差はなかった。
「うぉあ!」
正面に現れた骨の龍が腕をこちらに伸ばすと骨の腕のちょうど肘の部分が弾け飛び、こちらに向けて飛来する。
「ロケットパーンチ! とか冗談言ってる場合じゃねぇな!」
「やろうとすれば出来るが……」
「そんなんやる必要も意味もねぇな!」
飛来する骨の腕から逃れるように、カイトは虚空を蹴って上へと飛翔する。が、そうして上へと飛翔したと共に、骨の龍の口腔に赤黒い光が宿る。
「おっと……あ、こっちも?」
「この力そのものは変わらんようだな」
「となると面倒だな」
ぴかっ。二重に輝く真っ赤な閃光に、カイトは虚空を蹴って一気に急加速。その場から離脱した瞬間、『神』が居た場所を赤黒い閃光が通り過ぎる。が、そうして赤黒い閃光を抜けた所で突然。飛来していた龍の手の指先がこちらを向く。
「「「……」」」
多分そういうことなのだろうな。骨の龍の手が開いて、指先に真っ赤な光が宿るのを三人は見て、思わず閉口する。が、閉口すれば解決するわけもない。というわけで、カイトがぼそりと呟いた。
「時計準備」
「<<ド・マリニーの時計>>セット……加速」
「だぁ、もう! 面倒になってきたな!」
時計のアラームが鳴り響くと共に、『神』の姿が加速する。そうして細長い無数の閃光が飛び交う中を飛翔するわけだが、そんな所に更に骨の龍の手が飛来する。
「っ、三倍速!」
ぎゅんっ、と『神』が加速し、赤黒い閃光が『神』の真横を掠める。幸い掠めた程度では大丈夫らしく問題はなかったが、その更に先にまた別の手が『神』を覆うように飛来する。
「っ」
叩いて弾くか。一瞬だけカイトにそんな考えが鎌首をもたげるが、しかし彼はすぐにそれを取りやめて虚空を踏みしめる。それに、打撃の準備をしていたアル・アジフが驚いたように問いかけた。
「叩かんのか!?」
「いや、叩いたら多分駄目だ! あれはそういうもんじゃない!」
ぐるぐるぐる。カイトは『神』の手にスレッジハンマーを顕現されると、軽く腕を振って遠心力を蓄積させて放り投げる。そうして放たれたスレッジハンマーは急加速し、再び進路上に立ち塞がろうとした骨の龍の腕へと激突する。
「はっ!」
虚空を蹴って、その場を離脱。そうしてその場から離脱したと同時に、彼は自分が破壊した骨の龍の手を一瞬だけ見下ろす。そして見えた光景で、アル・アジフもカイトが直感的に何を危惧したか理解する。
「……なるほど。砕いた方が面倒か」
「ああ……砕いた所で指の一つ一つは無事だ。そこからランダムな軌道で閃光が発射される。そうなると流石にオレも避けるのは厳しい」
今は骨の龍の手の移動先を読んで、その上で更にその上を通り過ぎるという行動が出来たからこそ砕いただけ。砕かれた後の指先から四方八方に放たれる赤黒い閃光に、カイト達は安易に打撃で弾けば良いのではない、と理解する。
「どうやら、本格的にこちらを攻めてくるつもりか」
「ああ……さて、ここからが本番。楽しくなってきたぞ」
二つの骨の龍と放たれる赤黒い閃光の嵐。しかも赤黒い閃光は万が一直撃を受ければ即死だ。これを掻い潜りながら、討伐せねばならないのだ。中々に難しいものがあった。だが、困難なぞ何度も超えてきた。故にカイトの顔に浮かぶのは、獰猛な闘士の笑みであった。そうして、牙を剥いたカイトは一転『神』を転身して、赤黒い閃光の嵐の中へと突っ込んでいくのだった。
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