第3915話 滅びし者編 幕間
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功するわけであるが、その最中に彼は幽霊船団の一部に、かつて八大ギルドの一角を担い、暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。
というわけで幽霊船団の除霊と共に現れた巨大な骨の龍に対して、カイトは兎にも角にも船を狙われないように大立ち回りを繰り広げていたのだが、アル・アジフによる解析の結果、この骨の龍は冥界を構築するという本来神々にしか出来ない芸当をやってのけたのだと知らされる。
そうして地球にかつて存在したメソポタミア文明の冥界神エレシュキガルの力を使って骨の龍が有する冥界へと強引に乗り込んだカイトは骨の龍と戦うも、その最中。骨の龍はカイトの攻撃を受けて本体を現世へと移動させていた。
『よし……準備完了。わかっておると思うが、それは大型の類より使い勝手は容易い。実際に自身が戦闘していると同じ形で戦える』
「い、いえ……それは良いのですが」
『なんじゃ。せっかく用意してやったというに不満か』
「いえ、そういうわけでは……」
ティナの言葉に対して、セレスティアはどこか微妙な顔で首を振る。とはいえ、無理もない。何故か彼女は今、魔導機の中に居た。
「あの、一応シミュレーションはさせて頂きましたが……本当に用意されていたのですね」
『そりゃ、用意はしよう。今回ソラは神殿の構築で前には出れん。が、さっきも述べた通り、誰かは万が一に幽霊船を食い止める役目を負わねばならん。あのレクトールとやらでも良かったが、あれは出歩いておるからの。お主が一番調整がやりやすい』
「はぁ……」
モニターに表示される各種の情報を見ながら、セレスティアはそれで良いなら良いのだが、と思うばかりだ。
『ま、やる事は単純じゃ。おそらくあっちでヤバいとなればこっちに逃げ込もう。んで、こっちに逃げ込んだ後を倒す必要があるわけじゃが。そこらは普通に魔物退治と一緒じゃ。そうなりゃ後は腕っぷしで十分じゃ。さりとてセレネらは単独で動かした方が良いしのう』
何度か言われているが、大型魔導鎧や魔導機を使えば強くなるわけではない。所詮は鎧。道具だ。使い所を見極めて使わねば弱体化してしまうのである。というわけでセレネらはどちらかと言えば小回りが利いた方が良いと判断されており、総合的な実力と役割を判断してセレスティアが魔導機を駆る事になったのであった。
『というわけで、おそらくそろそろ来ると思うが……』
「……」
来るという推測には同意だ。セレスティアは色々と言いたいことがないわけではないが、同時に戦闘中である事を鑑みて口を閉ざして、意識を集中する。というわけで意識を集中し、飛空艇からの落下を待つ彼女へとティナがふと問いかける。
『そういや、お主大型は使った事があるとの事じゃな?』
「はい。あちらの世界にも大型はありましたので」
『まぁ、どの世界にも大型はあろう。あれがないとデカい魔物と戦う時に難儀するからのう』
これまた何度か言われているが、大型魔導鎧が開発された経緯は今回のように超大型の魔物が現れた際、カイト達のような超高火力の存在でもなければ蟻と象の戦いにもならないからだ。
人間が指先を数センチ切った所で感染症にでもならねば死なないのと同じように、例え人体を軽々両断出来る規模の傷を付けたとて、全長が数キロもある魔物は倒せない。なのでこちらも大型化する必要があり、大型魔導鎧が生まれたのである。
そしてそれはセレスティア達の世界でも一緒で、騎士達が使う通常の小型魔導鎧。中型魔導鎧、大型魔導鎧の三種が生まれていたのであった。
『訓練の際にも言ったが、それは大型共とまるっきり設計が異なるものじゃ。武装もワンオフ。特にそれはカイトの魔導機に使う試作品を流用しておる。使い勝手は悪い』
「あ、あははは……」
そんな物を使うのだから相変わらずぶっ飛んでいらっしゃる。セレスティアは背中に懸架された大型の大剣を思い出す。それは見た目は長方形の板のようであった。
「ブースター付きの大剣、ですか」
『うむ……ま、カイト専用のというよりも余らが面白半分で作ってあれに使わせている、という所ではあるが……どうでも良いな、それは。以前は肩に懸架してウィングとしての役割を持たせたが、今は背に配置して加速器の役割に限定した。魔刃は放つ事が出来んようになったが、そのかわり破損時も加速器としての役割が果たせるようになった更には取り回しもかなり容易くした。ブースター付きとして使わず、背の部分で接続させ大剣とする事も出来る。その状態ではおおよそ魔導機の全体を覆えるので、盾としても使える。同時に柄とブースター部分を少し弄って魔導砲としても使えるようにしてある』
「……」
やはり技術力であれば自分達を遥かに超えた所にあると言えるだろう。セレスティアはティナの説明を聞きながら、そう思う。と、そうして各種武装の再説明を聞きながら、待つこと数分。けたたましいアラートが鳴り響いた。
『実体顕現の兆候あり! 姐さん! 奴さん、大将の攻撃に矢も楯も堪らずこっちに出てくるらしいぜ! 形が変わっていきやがる!』
『よぅし! こっちに出てきた所で追い返してやるぞ! セレスティア! 出番じゃ!』
「はい!」
ティナの言葉に、セレスティアが一つ気合を入れる。そうして魔導機の背に懸架された大剣の飛翔機に火が灯り、同時に魔導機本体の飛翔機にもまた火が灯る。
『底部ハッチ開け!』
『底部ハッチ開きます! 底部ハッチ開放!』
『よし! 魔導機固定解除! 落とせ!』
『固定解除! 魔導機投下!』
ティナの指示に合わせて飛空艇の底部が開いて、魔導機を懸架していた固定具ががこんっ、という音と共に外れる。
今回、誰もが何が起きるかわからない、という判断をしていた。なので飛空艇は戦闘能力を考えず、積載量を重要視した。そして底部に懸架出来るようにしておいたのは、万が一には魔導機を出して、魔導機で船を回収して飛空艇に懸架させ離脱する事も考えての事であった。
もちろん、この場合魔導機はカイトが使う事を前提としており、武装も彼が使うことをメインに考えている。なので出力は非常に高く、使える者もまた非常に限られていた。というわけでそんな魔導機の固定が解除されて、自由落下を開始する。
「……」
性能としては自分達が使う大型魔導鎧の数世代先を行くだろう。セレスティアは海面を目掛けて自由落下していく魔導機の中で、身体の各所に返って来る反応からそれを実感する。
(おそらく八英傑の方々が作られた大型と同等……結局、私は見る事は出来ませんでしたが)
魔導機の中でセレスティアが思い出したのは、かつてのカイト達が拵えた大型魔導鎧だ。あの時代にも存在していたのだが、セレスティア達が加わった北の砦攻略作戦においてあれが使われる事はなかった。
あんな巨大な物を使えば的にしてください、と言っているようなものだからだ。そもそも使う想定さえなかった。というわけでそんな事を考えながらも魔導機は落下を続け、数秒後。海面スレスレまで到達する。
「っ」
飛翔機の起動。魔導鎧と同様の感覚で飛翔機の出力を上昇させると、途端落下が緩まり前へと飛翔を開始する。
『セレスティア。見えておるな。奴め、どうやら向こうで相当痛め付けられたと見える。こちらに顕現した際に形が組み換えられておる』
「確認しました」
先程までの巨大な龍の形だとやりにくかったが、人型ならまだ動きが読みやすい。セレスティアは急速接近しながら、そう思う。そんな人型になった龍の骨だが、こちらに現れて早々に船が目についたようだ。船を上から押しつぶそうと、手を大きく振りかぶっていた。
「はぁ!」
振り下ろされる骨の手へ向けて、セレスティアは移動の加速を利用して飛び蹴りを叩き込む。そうして骨の手が少しだけ弾かれると共に、彼女は今まで加速に使っていた大剣を背中の固定具から外して両手で構える。
「はっ、はぁ!」
両手に片刃の大剣を手にして、セレスティアが斬撃を二度生じさせる。それは停止した骨の手を大きく弾き飛ばすと、彼女は更に峰の部分同士を接続。大剣に仕立て上げる。
『セレスティアか!』
「はい! そちらご無事なようで!」
『ああ! だがやはり数が多い! 魔導砲で減らされてはいるが、それにも限度がある!』
どうやら剣技でセレスティアと理解したらしいレクトールが、彼女へと現状を共有する。というわけで一瞬だけ周囲に視線を走らせて、彼女は無数の魚型の魔物が冥海の上を泳ぎ回っている事を理解する。
「大剣にしましたが……双剣の方が良さそうですね。更には自動迎撃システムもオンに……」
ここらカイトであれば魔導書達なりアイギスなりがやってくれるので自動迎撃システムをオンにする事はないのだが、本来は魔導機にせよ半魔導機にせよ一人で動かす事を想定して作られている。
なので自動で小型の魔物を迎撃可能なシステムも備わっていた。というわけでまるで魚群のように襲いかかってくる魚型の魔物の群れに向けて無数の小型魔導砲が迎撃を開始。そして諸々の準備が整った頃には、巨大な骨の龍もまた復帰していた。
「こちらです!」
自分がやるべき事はカイトがやっていた陽動と一緒だ。セレスティアは小回りがある程度利きながらも、同時に戦える力を持つ魔導機の役割をそう認識していた。というわけで復帰した骨の龍の注目を引き付けるように、彼女は飛翔機を吹かして大剣を構える。
「はぁ!」
高速で飛翔しながら、セレスティアは大剣を振って斬撃を生み出す。そうして生み出された斬撃は骨の龍の顔面に直撃し、巨大な閃光を一瞬だけ生じさせる。そしてそんな攻撃で、骨の龍はセレスティアをターゲットにしたようだ。
「よし……セレネ様! 今のうちに!」
『ありがとうございます』
別に大型魔導鎧や魔導機がなければ有効打が与えられないわけではない。一番効率的に巨大な敵にダメージを与えられる手段がこの両者だ、というだけだ。なのでセレスティアに陽動を任せ、セレネが力を蓄積する。
『はぁ!』
セレネが手にした三日月を思わせる弓から、白銀の矢が放たれる。それは放たれると同時に巨大な白銀の塊となって、骨の龍の胴体を穿った。
『ダメージは通りますね……では、どれだけやれるか見せて頂きましょうか……おっと』
「こちらも忘れて頂いては困ります!」
胴体を穿たれた事で、どうやら骨の龍はセレネへと注目したらしい。ぐらりと傾いた身体を持ち上げると同時にそちらに振り向いた事を受けて、セレスティアが今度は容赦なく顔面へとブースターの加速を乗せた大剣を叩き込んで吹き飛ばす。
『お見事です。では、こちらも』
仰け反って身体を起こした所に更に一撃を叩き込まれ、骨の龍が大きく身体をよろめかす。そして更にそこに容赦なく、セレネが次の攻撃を叩き込んでいく。確かにこちらにはカイトのような超高火力を叩き込める者はいないが、その分数がいる。そうして息も吐かせぬ連撃が叩き込まれていき、それは再び骨の龍があの世に逃げ戻るまで続けられるのだった。
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