第3914話 滅びし者編 ――骨の龍――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功するわけであるが、その最中に彼は幽霊船団の一部に、かつて八大ギルドの一角を担い、暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。
というわけで幽霊船団の除霊と共に現れた巨大な骨の龍に対して、カイトは兎にも角にも船を狙われないように大立ち回りを繰り広げていたのだが、アル・アジフによる解析の結果、この骨の龍は冥界を構築するという本来神々にしか出来ない芸当をやってのけたのだと知らされる。
そうして地球にかつて存在したメソポタミア文明の冥界神エレシュキガルの力を使って骨の龍が有する冥界へと強引に乗り込んだカイトは骨の龍と戦うも、ただ巨大なだけでは勝てないと骨の龍は判断。骨を組み換え、人の形を持つ龍へと変貌を遂げる。それを受けて、カイトもまた『神』を召喚。交戦に及んでいた。
「サイズ比は……こっち1とすると向こう何十はあるな、未だに」
「それでもまだ先程よりはマシだろう。それでも縦に伸びた分、大きく見えるだけだ」
「余計に大きく見える」
『神』を召喚しこちらは数十倍にまで巨大化し、一方で骨の龍は人型を取った分横と奥行きが増えたわけだが、それでも元々が5キロメートル以上という超巨体だ。なので骨の龍側が縮んでこちらが大きくなったとしても、まだまだその相対比は絶対的と言える領域だった。というわけで二冊の魔導書達の言葉に、カイトは笑う。
「そうだな……おっと!」
どうやらのんべんだらりと話していられるわけでもないようだ。こちらに向けて迫りくる巨大な龍の手に、カイトは『神』の背面にある飛翔機を吹かして急浮上。その手の範囲から逃れるように上へと移動する。
「先程まで好き勝手やってくれたな。返礼だ」
カイトが浮上する一方で、アル・アジフは腰部に装着された双剣を変化させ、細長いライフルへと仕立て上げる。そうして真下を通り過ぎる龍の手に向けて、二筋の光線が放たれた。
「効いてない」
「この程度でダメージがあるなら今頃倒せている」
光条の結果だが、ナコトの言う通り単に骨の表層を引っ掻いた程度にしかならなかったようだ。とはいえ、アル・アジフもわかっていて単に憂さ晴らしのようにやっただけの様子であったので、これで問題なかったのだろう。と、そうして返礼とばかりに放たれた光条がほぼ無意味に終わるわけだが、その瞬間。骨の龍の手首がぐるりと回転し、こちらに手のひらを向ける。
「「「ん?」」」
何をするんだ。カイト以下三人は唐突に手首が回転したのを受けて小首を傾げる。と、そんな彼らの見ている前で骨の龍の指がガタガタと蠢いて、まるで返礼とばかりに発射される。
「うぉっと、マジか」
こちらを追尾してくる骨の指に、カイトは飛翔機を吹かしてその場を離脱。そうして骨の龍から距離を取りながら、追尾してくる骨の指を正面に捉える。
「クトゥグアは効果なさそうか?」
「駄目だろう。ツァトゥグァあたりが……無理か」
「骨だし食処はないと思う」
「だろうな」
どこかの力を借りるか、と考えた三人であったが、どうにも適した力がすぐには思い浮かばなかったようだ。アル・アジフは自身の言葉に同意するナコトの言葉に笑うしかなかった。
「しゃーない。自力でやりまっかね」
「そうしておけ……ただ破片が厄介そうだ。ハスターの術式を準備しておこう」
「頼む」
アル・アジフの言葉に、カイトは虚空を踏みしめて急制動。更に自らの力を『神』を介して発現させ、巨大なスレッジハンマーを顕現させる。
「おぉら、よっ!」
若干の野太い掛け声と共に、スレッジハンマーが骨の指を打ち砕く。そうして打ち砕かれた破片は更にスレッジハンマーに追従していた風により、吹き飛ばされて破片さえ『神』に傷一つ付ける事はない。
「しゃ! やっぱ打撃有効か! それなら!」
スレッジハンマーが有効である事を理解すると、カイトは取り回しの悪いスレッジハンマーを柄の部分だけ利用する事にして棒のように変貌させる。
そうして棒になった柄を引き戻す動きを利用してちょうど真ん中の部分を持つようにして、更に柄を変貌。棒の途中に二つの鎖を生み出して、三節棍へと変貌する。
その一方で骨の龍もこちらをただ骨の指を放って終わり、ではなかったらしい。こちらに向けて手を伸ばしていた。
「おらよ!」
こちらを掴みかかろうとする巨大な骨の手に対して、カイトは三節棍を振り回して遠心力を込めた一撃を叩き込む。そうして骨の手にひび割れが入り、骨の手が大きく弾かれる。そうして弾いた所に、アル・アジフが行動に入っていた。
「父よ。ハンマーをもう一つ頼む」
「あいよ」
アル・アジフの要請に従って、カイトは先程と同じスレッジハンマーを顕現させる。とはいえ、彼の手は埋まっている。彼の手が埋まっているということは即ち、『神』の手が埋まっているということだ。なのでアル・アジフはまるで『神』にたてがみを生やすかのように、頭部から純白の糸を伸ばす。
「白髪みたいでやだ」
「文句を言うな。便利だ……あとお前。我々の所に戻る前は白髪になっていただろう」
「あれは灰色かアッシュグレー。くすんだ銀色」
頭部から生えた純白の糸がスレッジハンマーの柄を絡め取り、まるで手のように自由自在に蠢く。そして純白の糸が伸びて、弾かれた骨の龍の手目掛けてスレッジハンマーを振りかぶった。というわけで騒々しい魔導書達の雑談を横目に、カイトは『神』を加速させて骨の龍へと更に肉薄する。
「おし! 一撃程度は打ち込ませろよ!」
がら空きとなった胴体に向けて、カイトが容赦なく三節棍を叩き込む。そうして胴体を覆う肋骨のような骨に大きなひび割れが入り、骨の龍が音ならざる音の悲鳴を上げる。
とはいえ、残念ながら最初に述べられている通りサイズ比があまりにありすぎる。謂わばカイト達の攻撃なぞ蟻が噛んだ程度にしかならないのだろう。骨の龍は大きくその身を揺らしたものの、カイトに向けて肋骨のような部分が開く。
「あ、やべ」
「反動で逃げるぞ」
「あいよ」
アル・アジフが振りかぶったスレッジハンマーが、骨の龍の胴体に向けて激突する。そうして生ずる反動は本来は魔術によって制御されて無効化されるのだが、今回はその反動を敢えて利用して猛烈な勢いで閉じていく胸部の骨から逃れる初速として利用する。
「ふぅ……ん?」
「どうせだ。一本ぐらい持って行く」
「あいよ」
放った後に更に遠心力を利用して加速するスレッジハンマーに、カイトは更に魔力を込めてその存在を強固にする。そうして、『神』が急制動を掛けて停止する力を利用して、スレッジハンマーが射出される。が、それに。骨の龍の姿が現世の時と同様にまるで幻のように消える。
「む」
「やはりやってきたな」
「ああ……さ、こっちはしばらく待ちのフェーズかね」
どうやらこの現象はカイト達は最初から想定していたものらしい。楽しげに笑いながら、骨の龍が放つ骨の槍を三節棍で破壊していく。そうして、戦いは一度現世の冥海で戦うもの達へと預けられる事になるのだった。




