第3913話 滅びし者編 ――骨の龍――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。皇帝レオンハルトより指示を受けたカイトは各地から霊力や退魔の力を操る者を招集し幽霊船団の除霊に成功するわけであるが、その最中に彼は幽霊船団の一部に、かつて八大ギルドの一角を担い、暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。
というわけで幽霊船団の除霊と共に現れた巨大な骨の龍に対して、カイトは兎にも角にも船を狙われないように大立ち回りを繰り広げていたのだが、アル・アジフによる解析の結果、この骨の龍は冥界を構築するという本来神々にしか出来ない芸当をやってのけたのだと知らされる。
そうして地球にかつて存在したメソポタミア文明の冥界神エレシュキガルの力を使って骨の龍が有する冥界へと強引に乗り込んだカイトは、ついに骨の龍へと一撃を与える事に成功。本格的な戦いをスタートさせていた。
「……」
やはりそもそもが骨の龍に優位な空間だ。故に一度地中に潜ればあれだけの巨体であるにも関わらず音もなく、そして荒野に現れても風の流れさえない。目で追えねば、移動の気配を探るのは非常に困難であった。
「やはり冥界そのものを操っているから、奴に有利だな」
『そのために作った空間だろうからな。現世に分身のような物を放ち、こちらで自身は魂が捕らえられるのを待つ。そして捕らえられた魂を使って更に獲物を捕獲し、という所だろう』
「間違いなくオレ達の……死神の神使、神官達の討伐対象だな。これが各々の領域に出れば、という話だが」
死神の仕事は死した魂が正常にあの世へと向かい、そして次の転生を果たすのを見届ける事だ。そしてもし正常にあの世に逝けず、現世に留まるようであればそれをあの世に送る事もまた仕事だ。
そして実のところ、こういったあの世へ向かう魂を阻害する魔物は時々存在していた。そういった魔物の討伐もまた、死神の仕事の一つであった。とはいえ、それがわかるのは死神の権能として自分の司る地域だからと言える。こういう無主の地での異常は誰も理解されないのは仕方がない事であった。
「てなわけで……契約者じゃないんだが、支配権の奪い合いと行こうじゃねぇか!」
ずんっ。カイトの放つプレッシャーとでも言うべきものが一気に増大する。そうして増大したプレッシャーは彼の周囲を侵食し、骨の龍の冥界を侵食していく。敵に有利な空間であるのなら、その空間そのものを書き換えてこちらに有利にしてしまえば良い。そんな発想であった。
「……」
じわりじわりと侵食していくこと、数秒。カイトは楽しげに笑いながらも、意識を集中して骨の龍の動きを待つ。なにせ今やっている事は言ってしまえば骨の龍がせっかく作り上げた冥界を強引に書き換えているのだ。いくら臆病な骨の龍と言えど、自分の領域に手を出されては座視出来ないだろうと考えたのである。そして、案の定だ。
「っ」
来た。カイトは少し離れた荒野の一部が音もなく盛り上がり、骨の龍の頭が現れたのを目視する。
「……」
何をするつもりだ。カイトは骨の龍の動きを見守る。と、そうして骨の龍の頭に注目していたカイトだが、彼にとって目とは戦闘におけるそこまで重要なものではなかった。
「はっ!」
自身の真後ろから飛来する無数の骨の矢に対して、カイトは即座に反転してスレッジハンマーで叩き割る。荒野で音も風の流れもないのだ。後ろで尻尾が浮き上がっても気付く事は難しい。
だが、神陰流という世界の流れを読む力は別だ。そこに攻撃が生じてその痕跡を消す以上、本来なら発生する音や風の流れなど、それを消す流れが生ずる。その流れが出来た時点で、彼にとっては見えているも同然であった。とはいえ、そんな彼も次の行動には驚かされる事になった。
「は?」
『ほぉ……面白いな』
『割とこういうの出来る魔物はレア』
「そうだけどさ……えぇ……?」
そんなのありか。ガタガタガタ、と骨の龍の総身が蠢いて珍しく音が鳴り響いたかと思えば、骨の龍の身体がバラバラになって宙を舞いだしたのだ。そうして大体胸椎や頚椎といった程度の部品――そもそものサイズの時点で無数だが――となって縦横無尽に飛び回る骨の龍に、カイトは思わずドン引きする。
「っと、まぁ、そうなりますよね!」
縦横無尽に飛び回る骨の龍の部品が四方八方からこちらに飛来するのを受けて、カイトは大慌てで回避軌道を取る。と、回避軌道を取って巨大な骨の塊を避ける彼だが、そうして避けた骨の塊から無数の骨の矢が発射される。これにカイトも思わず目を見開いた。
「うぉ、こりゃマズい!」
『万が一は時計を使う。とりあえずは逃げろ』
「あいよ!」
ただでさえ四方八方から骨の塊が飛来するというのに、避けたら避けたで更に追加で無数の骨の矢が発射されるのだ。正しく逃げ場なぞなく、カイトは大剣を手に骨の嵐の中へと突っ込むしかなかった。とはいえ、逃げ場がないということは同時に、こういう事でもあった。
「おらよ!」
飛来する巨大な骨の塊に、カイトは大剣を叩き込んで叩き割る。今までは逃げ続けられるので攻撃は難しかったが、今度は向こうからやって来てくれるのだ。叩く事は容易だった。というわけで飛来する何千もの巨大な骨の塊を、何万もの骨の欠片を叩き割りながら、骨の嵐を彼は突っ切る。
「おっと?」
何度叩き割ったかわからないほどに叩き割った後。カイトは巨大な骨の塊が自身から離れていく事を理解する。そうして数秒。彼の周囲を取り囲んでいた骨の塊が再び集合して、空中で合体。空中で巨大な骨の龍の形を再び取る。
「おぉ、そうか! 諦めたか! だが残念! オレは諦めてねぇよ!」
骨の龍の形を取った骨の龍に、カイトは即座に肉薄。骨の龍の胴体を大剣で殴りつける。そうして数キロもある巨体が揺れ動き、大きく吹き飛ばされた。
「っ」
敢えて擬音を入れるのであれば、ぎゃぉおおお、というような恐竜の鳴くような声。それが冥界の中に響き渡る。それにカイトはわずかに顔を顰め、動きを鈍らせる。そうして動きを鈍らせた彼の前で、再び骨の龍の身体が大きく蠢いた。
「……なんだ?」
動きとしては先程同様にバラバラの骨の塊になる様子だが、なにかが違う気がする。カイトは先程のように勢い良く弾け飛ぶ様子のない骨の龍に警戒を隠せない。と、そんな彼の見ている前で骨の龍は大きく蠢いて、骨が移動。細長い龍の形から形が組み替えられていく。
「……ほぉ。元々骨だから分離もあり得るだろうし、それなら形は自由自在だろうとは思っていたが」
『人型の龍……という所か。父よ』
「お? 珍しいな」
アル・アジフの提案に、カイトはにたりと笑う。骨の龍が次に選んだ形は、カイト達と同様に二本の足で立つ人型に近い龍だ。どうやら単なる突進や簡単な矢では対処出来ないと判断。より戦闘に適した形へと変化するつもりなのだろう。
というわけでより戦闘に適した形に組み替えられていく姿を見ながら、カイト達の脳裏に浮かんだのは自分達が呼び出す『神』だ。というわけで、アル・アジフの要望に従ってカイトは『神』を呼び出して、金属の龍の『神』と巨大な骨の龍の戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
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