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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3911話 滅びし者編 ――骨の龍――

 暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。カイトは幽霊船に対応出来る数少ない一人として幽霊船の一隻の除霊に乗り出すわけであるが、乗り込んだ幽霊船は特殊な異界に近い状況となっていた。

 そうして幽霊船団を除霊して、更にその途中かつての八大ギルドにして暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達(フリート・オブ・サン)>>のギルドマスターであるルカンの幽霊から、幽霊船を操る黒幕の存在を聞く事になる。

 というわけで幽霊船団の除霊と共に現れた巨大な骨の龍に対して、カイトは兎にも角にも船を狙われないように大立ち回りを繰り広げていた。


『……大体はわかったぞ。だがこれは中々に……』

「なんだ?」

『どうにも、この魔物は厄介な事にあの世とこの世の両方に存在しているらしい』

「どういうこった?」


 アル・アジフの言葉の意味がいまいち理解出来ず、カイトは訝しげに小首を傾げる。


『とどのつまり、この世に骨があるが、同時に実体としてもあの世にあるという所か』

「死からの蘇り、自己召喚か!?」

『いや、そこまではいかん……いや、似たようなものだが。少しニュアンスが異なる。あの世で生きている、というべきか……常に本体はあの世にある。だからこちらで傷つけようにも、本体はこちらにないが故にダメージは与えられん』

「まぁ、確かにここは冥海。だがあの世にはたどり着いていないだろう」


 あの世の物理的な場所、というのも本来生者にはたどり着けない以上変な話にはなるが、あの世という場所はここにはない。なのであの世に本体がある、と言われてもカイトは納得しがたいものがあったようだ。


『そうだな……だが、不可能ではない事を父は知っているはずだが』

「いや、無理だろう。あの世を……冥界を作るのは神々の権能の一つ。創世の概念だ……っ、待て待て待て! そんな神々の領域の力を振るった、ってのか!?」


 可能か不可能か、であれば先程カイトが口にしている通り、可能なだけの理論はある。が、これにしたって世界を詳しく知っているが故に言える事で、普通は無理だし、カイトでも無理だ。彼の言う通り、冥界を創造するのは神々のある種の特権だからだ。だがそんな彼に、アル・アジフははっきりと頷いた。


『そうだ……それにそう捉える方が色々と筋が通るだろう』

「っ……そうか。幽霊船団が何故存在し得るのか、というのは結局後回しにしていたが……」


 当初、シャルロットの推測としては船団全てが同時に、同じ相手に沈められた事によってそういう概念が出来上がってしまったのでないか、という事だ。

 そしてそれがあったからこそ、バルフレアが幽霊船団の主軸が<<船にて大海を往く者達(フリート・オブ・サン)>>だと気付かなかった一因である事は間違いない。いくら八大ギルドだったからとはいえ、十数隻も所属していないからだ。そして今度はカイトの気付いた点を認めるように、アル・アジフが頷いた。


『そうだ。全て冥界に捕らえられたと考えれば、筋は通る。どうという事もない。幽霊が冥界に行くのは普通だ。だがそこから先をどうするか、というのは神々が拵える事だし、よしんば拵えた所で、冥界の管理人ならばあの世にとどまらせる事とて出来る……父はそれを知っている、と思うが?』

「っ」


 転生も出来ず、あの世に留められる事態があるかないか。カイトはそう聞かれ、一件だけ思い当たる節があった。それは事情としては色々とあったのだが、冥界神が次生への転生をさせず、あの世に留まらせ続けた事態があったのだ。その際のあの世には死者達が留まり続けていたわけだが、それを今に当てはめれば道理は全て通っていた。というわけで、その思い出した一件をカイトが口にする。


「<<帰還する事のない地(クル・ヌ・ギ・ア)>>の案件か。メソポタミア文明崩壊に伴う冥界の崩壊。真の意味での文明の終わり。文明の死……っ、そうか! ここは無主の地! だから出来るのか! いや、だが……」

『その困惑はわかるし、その疑念はもっともだと言えるだろう。だが現実問題として、眼の前には冥界に近しい概念がある。この冥界はどこかの冥界ではない。奴が生み出した冥界だ。出来る出来ないか、ではない。現実として出来ている事をあるがまま受け入れるしかあるまい』

「……」


 アル・アジフの指摘に、カイトは顔を険しくする。確かに彼女の言う通り、現実としてこの骨の龍が冥界を作り上げたと言うしかない状況だ。なのでどうやって、という方法論を無視して、その現実だけは受け入れる必要があった。


「……ティナ。ウチの専門家の話としてはそういうわけらしいが」

『聞いておった……が、そこらは余に聞くべきではなかろうな』

『私ね』


 冥界であれば、当然の話として専門家は死神であるシャルロットだろう。というわけで話をカイトへの守護を介して聞いていた彼女が、ティナの要請を受けて口を挟む。


『下僕……神器の力を完全解放しなさい。こちらで月は作ってあげるわ』

「おぉっと……ガチの本気か。だが、それをやらなきゃならん状況か」


 どうやら腑抜けていられる状況ではなくなってしまったらしいな。カイトはシャルロットの指示を受けて、大鎌を取り出し黒いローブを身に纏いながら虚空を蹴って天高く舞い上がる。


「月よ月よ月よ。闇夜に浮かび、迷える旅人を安寧へと導く月よ」


 カイトの口決に合わせて、彼の手にした大鎌からシャルロットの力が冥海全域を埋め尽くすほどに放たれる。そしてそれと共に、冥海が闇夜に包まれて二つの月が昇る。


『御方』

『共鳴なさい。私が遠隔でやっているからやりきれる事はないでしょうが、それでも一時的な封にはなるはずよ』

『『はい』』


 シャルロットの指示に、セレネとピュルテが同時に応ずる。そうしてカイトの真横に浮かび上がった二人の手にある大鎌から、二つの月の力を受けた月光が冥海全域を照らし出す。


「っ」


 一瞬、骨の龍の姿がより確かな存在へと書き換わったのをカイトは確かに見る。そして次の瞬間、骨の龍が大きく身を捩った。


「「「っ!」」」


 押し返したか。カイト達三人は自分達が属する冥界の侵食に強烈に抗った骨の龍に、わずかに顔を顰める。そうして赤黒い閃光が骨の龍の口腔に宿ったのを見て、三者別々の方向へと飛翔する。


「見たな!」

『ええ……どうやら、本当に不遜な事をしているようですね』

「ああ……こりゃ、誰かは向こうにいかんとならんか」


 本当に英雄の偉業レベルの難業を押し付けられるのかよ。カイトは骨の龍の実体があの世にある事を理解して、その方法やらを全部横にして対応しなければならないと判断する。


「ティナ。魔導機の射出準備だけは進めておいてくれ。向こうへは単身で乗り込まにゃならんだろうが……誰かが支援をしてくれるなら有り難い」

『わかった……まぁ、お主以外行ける者はおるまいか』

「嫌な話です」


 冥界に行く、と言うは良いが簡単に行けるわけではない。本来は専用のルートを通らねばならないが、今回の骨の龍がそんな専用の通路を用意してくれているとは到底思えない。ならば強引に冥界に乗り込む以外、方法はないのであった。というわけで、カイトは骨の龍の本体が潜む冥界に乗り込むべく、準備を開始させるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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