第3910話 滅びし者編 ――骨の龍――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。カイトは幽霊船に対応出来る数少ない一人として幽霊船の一隻の除霊に乗り出すわけであるが、乗り込んだ幽霊船は特殊な異界に近い状況となっていた。
そんな幽霊船は残されていたネックレス等の遺品からその船がかつて八大ギルドに名を連ね、そして暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>の船だと断定。
更に操舵室にて現れた<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊より黒幕とでも言うべき魔物の存在を知らされたカイト達は、ルカンの遺言に従って魔物の討伐へと移行。幽霊船団全ての除霊と、滞留する魂達の除霊を行う姿を見せた事により冥海全域を侵食する力を放つ魔物を釣り出す事に成功する。
「はぁ!」
なるべく大きく、そして派手に。兎にも角にも船を集中攻撃される事だけは避けねばならない事から、カイトはなるべく顔の付近を飛んで狙いを自身に向けさせるように飛び回る。だが、やはり相手も未知の魔物だ。一息に倒す、という事は難しかった。
「……駄目か」
自身の斬撃がまるで虚空を斬り裂いたかのように通り抜ける。そうして一切のダメージもなく現れる骨の龍の姿に、こちらは遠くで胴体から出る赤黒いモヤにより生ずる魔物を討伐するセレネが口を開いた。
『霊体化ですね。実体はもしかしたら現世には無いのかもしれません』
「そっちも無理か?」
『何十攻撃をしたかわかりません……面白いですね。こう……切っても突いても叩いてもノーダメージとは』
白銀の閃光が幾重も迸り、骨の龍の胴体を切り、打ち、貫く。が、そのどれもが骨に直撃する直前に骨がモヤのように消失する事により、一切のダメージを与えなかった。
まぁ、そんな無意味な攻撃を繰り出すセレネの表情は楽しげで、この骨の龍がどこまで出来るのか、と試している様子しかなかった。
『惜しいですね。これでもう少し強ければ、と思いますが』
「やめてくれ。これでもう少し強ければ、こいつは本体は間違いなく厄災種の領域にたどり着く。ギリギリ、この程度で済んでくれているから厄災種と認定しないで良いかもレベルだ」
戦ってみた感想だが、カイトとしてはこの程度であれば厄災種と現時点では認める必要はないだろうというのが所感だ。まぁ、数多の手札を有する彼が手を拱いている時点で相当な相手である事は間違いないのだが、それでも、彼が相手にしてきた何十もの厄災達に比べれば悲壮感はなかった。とはいえ、その悲壮感がない理由も、彼はきちんと理解していた。
「ただ間違いなくこいつは陸に上げたら駄目だな。無数の死者の軍勢なんぞ、考えるだけでも恐ろしい」
『貴方自身がそれを何より実証していますからね』
「そういうことで……おっと」
くるくるくる。カイトは身の丈ほどもある巨大なスレッジハンマーを振り回して、遠心力をハンマーの部分に蓄積。飛来する骨の槍を一撃で粉砕する。
「はぁ! 放たれた骨は実体になっているから、叩けないはずはないと思うんだがなぁ……」
砕いた破片が頬を裂くのを無視して、カイトは骨の龍へと肉薄。その巨大な背骨目掛けて、スレッジハンマーを振り下ろす。
「ぉおおりゃぁああ! 駄目っすか、そっすよね」
ざぱんっ。カイトの一撃は冥海の海面を大きく叩いて、冥海の奥底まで続くような大きな穴を作り上げる。だがそんな一撃も骨の龍の骨には命中しておらず、彼のハンマーが通り過ぎた場所はまるで幻のように揺らめいていた。
とはいえ、そんなものは最初からわかっていて、単に攻撃をさせないために、そして敢えて霊体化らしき現象を引き起こさせるために、敢えてブラフの一撃を叩き込んだだけだ。というわけで持っていたハンマーを手放すと共に異空間に収納すると、空いた右手に白銀の力を蓄積させる。
「じゃ、こういうのどうっしょ」
幻のように揺らめく空間の中に、カイトは白銀の力を叩き込んでその場を離脱する。そして彼が白銀の力を叩き込むと同時に、彼の周囲にあった骨の龍の骨が揺れ動き、無数の骨の槍が発射される。
「……」
さて、どうなる。白銀の力が鎮座する場所は相変わらず霊体化というか幻のように空間が歪んでおり、このままでは実体化が難しい事は誰でも理解出来る。だが何時かは戻らねばならないはずだろう。そうして彼が残した白銀の力が光り輝き、骨の龍の胴体をすっぽり包み込むほどに巨大化する。だがそうして肥大化した白銀の力は、骨の龍が身を大きく揺れ動かすだけで掻き消える。
「ふーん……割とやるじゃん」
『おい、カイト! 全体を揺らすような攻撃はしてくれんなよ! うぉぉおおおあ!』
「え? あ、悪い」
感心していたカイトであったが、骨の龍のサイズからしてその総身が揺れ動けば、それにより生ずる波もとてつもないサイズになるのは当然だろう。
そして更にはその長さも非常に長く、そこかしこで大きな波が生まれていた。というわけで彼の行動に反応して白銀の力を消した事で生じた波が船を四方八方から襲いかかり、ソラ達がマトモに立つのが困難になってしまっていたらしい。
「だが……まぁ、やりやがるな。ランクSクラスは確定か。これ、マジで調査隊が初手でこいつに遭遇してたら壊滅だったな」
『ルカン達の墓に上等な酒は供えてやるよ』
「そりゃあいつらも喜ぶな」
白銀の力がかき消されると共に、揺れ動いた動きを利用して発射された無数の小さな骨の矢に向けて、カイトは今度は三節棍を取り出す。
「おらおらおら!」
無数の骨の矢に対して、カイトは三節棍を振り回してその全てを打ち砕く。
「連射の矢。一撃の槍。顔が遠いんで直接的な攻撃がどうか、ってのがいまいちわかりにくいのが難点か」
『そりゃ良いんだが、こっちから攻撃出来ない事にはどうにもならんだろ』
「そうなんよなぁ……」
現状としては、こちらから攻撃出来る札がないというのが正直な所だ。カイトはバルフレアの指摘に苦い顔で応ずる。そうして無数の骨の矢を打ち砕き、彼はそのまま骨の龍の顔面へと肉薄する。
「おぉおお!」
気と魔力と霊力のこの世に存在する三種の力を全て練り上げて、カイトは骨の龍の顔面へと三節棍を叩き込む。それは単なる一撃でさえ骨を軽々砕く一撃であるはずだが、しかし。骨の龍にはやはり当たらない。と、そうして眼前に立った彼を、骨の龍の窪んだ眼窩に宿る青白い炎の目が睨みつけた。
「っと、まっずい」
骨の龍の口腔に宿る赤黒い輝きを見て、カイトは虚空を蹴って大きく飛び上がる。そうして、天高くに向けて赤黒い閃光が迸った。
「おっと……こりゃ、射程距離ヤバそうだな」
『やはり陸上では戦うべきではありませんね。こんな物を地上で放たれれば、どこかの街に命中する事は間違いない』
「だな……そして死者が増えたら、増えた分だけ奴の手駒と……本当にこいつは賢いのかバカなのか」
天高くに消えていった赤黒い閃光を見ながら、カイトはセレネの言葉に苦笑いだ。もしこの骨の龍が最初から人の多い場所を狙っていれば、今頃数万単位の犠牲者が出ていたはずだ。というわけで苦笑いを引っ込めて、彼は赤黒い閃光の後を追うように自身を目掛けて殺到する無数の骨の矢に視線を向ける。
「はぁ……全く。どれだけ戦っても未知の魔物ってのはいるもんだ」
『にぃ! 援護行くよー!』
「あいよ! 頑張って突撃しま!」
ソレイユの言葉に合わせて飛来する無数の閃光に、カイトは気合を入れ直して一気に急降下していく。どうやらこちらにターゲットを向けるという任務は上手く出来ているらしいので、後は頑張って色々とやって有効打を叩き込む方法を見つけるしかなかった。というわけで再度冥海の海面に着水して、今度は海面を蹴って大きく弧を描くように疾走する。
「アル・アジフ!」
『やはり呼ばれたか』
「そりゃな! <<死霊秘法>>の名は伊達ではない事を教えてやれ!」
『承知した、我が父よ』
そちらが死者を操るのなら、こちらは死霊の名を冠する魔導書を使うまでだ。カイトはどうやらこいつには相手をしてやっても良い、と思っていたらしいアル・アジフの返答を受けて、懐から魔導書を取り出す。そうして左手に魔導書を手にしながら、彼は右手に偃月刀を取り出した。
「コード・バルザイ」
『<<バルザイの偃月刀>>アップロード』
「投げる。解析頼む」
『承知した……遊びすぎだぞ、父よ。最初から私を呼べば良いだけの話だっただろうに』
「なんだ。珍しくやる気だな」
基本は何故自分がやらねばならんのだ、というのがアル・アジフだ。今の所やる気を見せたのはカイトが再会してからも両手の指で足りる程度で、最近であればルーク相手という所だろう。その程度にはやる気のない彼女だが、今回は魔物相手だというのに妙にやる気だった。
『魔物程度が人の生き死にを操るなぞおこがましいにも程があるだろう。格の違いを見せてやる必要がある』
「そうか……じゃあ、まぁ……やるかね。おらよ!」
カイトの掛け声と共に<<バルザイの偃月刀>>が飛翔して、骨の龍の胴体を斬り裂いていく。だが切り裂かれる直前に骨の龍はこれまで同様にちょうど切り裂かれる部分を幻のようにして通り抜けさせる。とはいえ、それは最初からわかっていたし、わかっていてやっている。
「甘いな」
くんっ。カイトが指を振ると、その瞬間に<<バルザイの偃月刀>>が逆回転。まるで時間が逆巻くかのように、来た道を戻っていく。無論その逆巻く動きも通用はしないが、それでも良かった。そうして、カイトの手に<<バルザイの偃月刀>>が戻って来る。
「よっと……解析頼んだ」
『承知した』
なにかの中を通り過ぎている事は間違いないのだ。ならばその通り過ぎた場の状況を解析する事で、何が起きているか探るつもりだった。というわけでカイトはアル・アジフが解析を終えるまでの間、先程同様に骨の龍を自身に注目させ続ける事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




