第3909話 滅びし者編 ――骨の龍――
暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。カイトは幽霊船に対応出来る数少ない一人として幽霊船の一隻の除霊に乗り出すわけであるが、乗り込んだ幽霊船は特殊な異界に近い状況となっていた。
そんな幽霊船は残されていたネックレス等の遺品からその船がかつて八大ギルドに名を連ね、そして暗黒大陸へ向かったものの消息を絶った<<船にて大海を往く者達>>の船だと断定。
更に操舵室にて現れた<<船にて大海を往く者達>>のギルドマスターであるルカンの幽霊より黒幕とでも言うべき魔物の存在を知らされたカイト達は、ルカンの遺言に従って魔物の討伐へと移行。幽霊船団全ての除霊と、滞留する魂達の除霊を行う姿を見せた事により冥海全域を侵食する力を放つ魔物を釣り出す事に成功する。
「……」
鬼が出るか蛇が出るか。カイトは自身の周囲で収束した赤黒いモヤの塊を警戒しながらも、視線は巨大な骨の龍に向け続ける。と、そんな彼にティナから通信が入った。
『カイト。おおよそのサイズが計測出来たが……聞きたいか?』
「それ、ぜーったい聞かないほうが良いパターンだな?」
『ま、そうじゃな。類例のないサイズじゃ。それと、変な力場も構築されておる。さっきから計器が変な値を測定しまくっておるわ』
「サイッコーだな……で、サイズは?」
『およそ5』
「百?」
『キロに決まっておろう』
カイトのそうであってくれないかな、という多分に願望の含まれた言葉に対して、ティナがそんなわけもなく、とにべもなく切り捨てる。
「最&高……海の魔物は基本デカいし、デカけりゃデカいだけ強いのが通例だが。骨にまでそれを当てはめるなや」
せめて魚類にしとけ、魚類に。カイトは半ば自棄っぱちな様子でそう愚痴る。と、そんな愚痴を聞いていたかのように、赤黒いモヤの塊から無数のなにかが飛び出してくる。
「っ、別に求めてるわけじゃねーよ!」
飛び出してきた無数のなにかは、手のひら大のまるでピラニアのように尖った牙を持つ小型の魚型の魔物だ。それはまるでマシンガンのように無数のカイト目掛けて飛んでいく。
「ちっ」
全方位から飛ばしてんじゃねぇよ。赤黒いモヤから何体も飛び出してくる魚型の魔物から逃れるように、カイトは海面を蹴って飛び上がる。だが魚型の魔物たちはそれそのものもまた生きているかのように、ほぼ直角に上昇。カイトを追撃する。
「<<真月>>」
くるくるくる。カイトが大鎌を両手で回して円を描くと、その場に白銀の盾が生じる。それに魚型の魔物は激突していくが、まるでそれを気にしていないかのように激突を続けていく。
「ちっ、めんどくせぇな」
何百何千の魚型の魔物が激突するのだ。一時的な妨害にはなっても、ものの数秒も経てば穴だらけに成り果てた。が、それで十分。カイトはすでに十分な距離を取っていた。そうして取り出すのは、いつもの双剣だ。
「ふぅ……はぁあああああ!」
一度だけ深呼吸して呼吸を整えると、カイトは裂帛の気合と共に真月の盾が砕け散ると共に魚の雨の中へと突撃する。
「ぉおおおおお!」
激突と同時。カイトは無数の魚型の魔物を双剣で全て切り捨てていく。一振りで十数匹が纏めて切り払われていくが、放たれる数もまたあまりにも多い。並どころか熟達の戦士であれ、毎秒数十匹という猛攻には数秒と剣戟が保たず食い尽くされるはずだ。
だが、彼は熟達を更に超えた所にいる。故に彼の斬撃は魚型の魔物の猛攻をも上回り、自動車並の速度で赤黒いモヤとの距離を詰めていく。
「おぉおお!」
たったの数秒で赤黒いモヤの一つとの距離を完全に詰めると、今までの速度重視の斬撃を一撃必殺に切り替えて斬撃を叩き込んで、赤黒いモヤを消し飛ばす。
「次だ!」
一個消えてしまえば、後はカイトに負け筋はない。彼は背後全方位から襲いかかろうと殺到する魚型の魔物の群れを一息に消し飛ばすと、斬撃の真後ろを追従する形でもっとも近い赤黒いモヤへと進撃。更に一つ二つとモヤの塊を潰していく。
「これで、最後!」
最後の一つを霧散させ、カイトは即座に骨の龍へと視線を向ける。だが、どうやら動き回っていたようだ。頭は元々あった場所にはなく、胴体がただ動くのみであった。
「っ」
どこに消えた。カイトは意識を集中し、骨の龍の頭部を探す。
「下……いや、居ない」
こういう場合の定石と言えば、海中に身を潜めて下からの奇襲だろう。だがこの骨の龍はそういう事もせず、ただ水面を揺らすだけだ。そしてあまりに巨大過ぎるが故に、動きも大きい。
しかもカイトが赤黒いモヤから放たれる無数の魚型の魔物を退治している間に生じた波が幾重にも重なってしまっており、先端がどこか、というのを見切る事は困難だった。
(下……やはり問題なし。左舷、右舷、後方……全方位問題なし)
時折波が立つような音は響いているが、だからとそこに頭があるかと言うとそうではなさそうだ。というわけでカイトは意識を研ぎ澄まして、頭の場所を探る。
(上下左右全方位動いている様子がない……? いや、動いていないかと言われれば動いているんだが……)
なにか妙な感じがする。カイトは時に左、時に右と動いてはいる様子であるものの、そうであるとするのならあまりに頭の場所が不規則過ぎると困惑を露わにする。
とはいえ、こんな不思議な事態はランクSの魔物を相手にするのならいつものことだ。なので彼は推測や予測は不可能と判断して、ただあるがままを捉える事にする。
(一つ確定出来るとするのなら、こいつが海中にまだ潜んでいるという事だけだ。ならばそれを前提として対応するだけか)
どこに居るか、と言われても読めないのなら、読む必要はないという事だ。というわけでカイトは双剣を構えると、居場所の把握に努めながら、同時に先読みはしないように意識を集中させる。
そうして十数秒。時に左、時に真下、時に左から即座に右で鳴る波の音に意識を惑わされないように集中する彼の耳が、一際大きな音を捉える。
「そこだ!」
出てきた瞬間を狙い打つ。意識を集中したカイトは、海面に姿を見せた龍の頭を叩き割らんと懇親の力で海面を打ち付ける。が、そうして見えた光景に、彼は思わず目を見開く事になった。
「っ、実体!?」
海面に姿を表した龍の頭は骨の龍のそれではなく、半透明の龍の肉を持つ龍の頭だ。それはカイトの一撃を受け止め、弾き飛ばす。と、そうして彼の一撃を弾いた龍の肉が、彼に触れるその瞬間に再び形を無くす。
「っ」
これはマズい。カイトは幾つもの戦場を乗り越えた者が持つ直感のようなものが警鐘を鳴らすのを耳にする。と、そんな彼を一条の光が横から打ち、その場から離脱させる。
『にぃ! 大丈夫!?』
「っぶね! すまん! 助かった!」
『ううん! でもかなりマズい気がする!』
「奇遇だな! オレもだ!」
あの肉に触れたら、おそらく問答無用に即死になってしまっていただろう。カイトは半ば実体化していた龍の肉が消失する際に周囲の魔力を大きく吸い取っていた事を見抜いていた。
肉体や生命力が吸い取られていないため即座に問題ないように思えるが、実際にはこの巨体がその巨体に見合った量の魔力を吸い取っているのだ。吸い取る魔力は本来ランクSの冒険者であれ根こそぎ吸い取って余りあるほどであった。
そしてそれだけの魔力を一瞬で失えば、当然展開する障壁の維持も不可能だ。どんな猛者であれ、その状態から即座には立て直せない。そこに龍の骨が激突すれば、どうなるかは想像に難くないだろう。
「面倒だな……」
自らの横を猛烈な勢いで通り過ぎていく骨の龍の胴体を横目に、カイトはこの骨の龍が自身の持つどの情報に近いだろうかと考える。下手に接近戦を挑んで、肉が実体化していればそこを起点に魔力を奪われてお陀仏。よしんば骨の状態だったとしても、今度は肉体の実体化の際に魔力を使うのでやはり吸収されかねないだろう。中々に厄介な相手、と考えられた。
「とりあえず接近戦は一旦取りやめ。遠距離戦に軸を置くか。ソレイユ、そっちからも狙撃してくれ。こっちは触れずに攻撃する」
『了解でーす……あ、にぃ』
「んだ?」
『ティナから連絡。準備が整った。何時でも出せるから、必要になったら言えって』
「あいよ……ホント、魔導機持ってきて良かったなぁ。一体だけだけどさ」
『必要ないと思ってたけどねぇ』
カイトの言葉にソレイユもまた同意する。こういった大型の魔物を相手にする場合、基本的には普通はカイト達のように生身で戦う事は難しい。
万が一幽霊船を物理的に止めるために魔導機を持ってきたのだが、先程の周囲の魔力を吸収する力然りで有用だと判断したのであった。とはいえ、やはり本来は持久戦が出来ない装備だ。カイトの正体を隠蔽する意味も含め、短期決戦を望むしかなかった。
「よし。とりあえず情報集めるか」
兎にも角にもどういう相手なのかを探らないと戦いようがないし、これだけ巨大な相手だ。生半可な攻撃では傷にもならなかった。というわけで、カイトはソレイユの支援を貰いながら、とりあえず他に被害を出さないように大きく、そして派手に立ち回っていく事にするのだった。
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