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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3851話 滅びし者編 ――連絡――

 ソラの契約者としての試練を終えて数日。ソラに対する教練を行っていたカイトであったが、その間にも世界は動いていた。というわけでカイトは数日前にあった皇国海軍の醜聞を受けた皇帝レオンハルトの望みを受けて、海賊に関する情報を収集していた。

 そうしてマクダウェル公爵としてのつながりを利用して情報を集めていたカイトは、とりあえず協力するにあたって密かに皇国軍より提供された今回の一件の詳細情報を椿から聞いていた。


「そうか……そりゃ陛下としても苦い顔になるな」

「はい……どうにも違法薬物の密輸に、周辺海域の巡回に関する情報の漏洩……その他にも幾つかの情報漏洩の可能性が指摘されている、かなり大きな事態であるようです。幸い……と言って良いかはわかりませんが、今回市政に露呈したのはあくまでも密輸に対する口利きだけですが」

「不幸中の幸い、で間違いはないだろうな」


 軍の高官が握っている情報の漏洩だ。カイトはあくまでも海兵による違法薬物の密輸入で留まっていることに僅かに胸を撫で下ろす。軍事機密と密輸なら、まだ安全保障に影響の乏しい密輸の方が傷は浅かった。

 とはいえ、だからこそ皇帝レオンハルトもこれ以上の醜聞の露呈は避けたい、と現地入りして情報封鎖を厳重にしていたのだろう。だがそれもまたカイトは苦い顔の一つだった。


「はぁ……だが陛下が入ったことで裏に更になにかあるのでは、とも思われているだろうな」

「はい……現在街には頻繁に記者達が出入りしているようです」

「黙らせたいところではあるが……流石に民間の記者を黙らせるとそっちが面倒か。陛下が直接指揮されていることだから、と兵士達を口止めさせるのがまだ上策か」


 痛し痒しだし、どこかでは露呈してしまうかもしれないが。これ以外になにか良い手があったかと言われれば、カイトも中々思い付かなかったようだ。


「確か高級官僚だったな?」

「ええ。皇国海軍の中佐です」

「まーたなんでそんな地位の奴の内通に気付かんかね、監査の連中も。泳がせていたわけでもなかろうに」


 根深い問題にならなければ良いんだがなぁ。カイトは結構な地位に居た某の不法に、ただただ深いため息を吐く。とはいえ、そんなことを言い出すと自分の首を絞めることになることも理解していた。なので彼はこれを他山の石とは思わなかったようだ。


「ストラ……ウチの内部調査は進んでるな?」

『はっ。後一ヶ月ほどお待ちいただければ、おおよその詳細情報は洗い出せるかと』

「わかった……一応聞いておくが、今の所はなんか変なところにつながっている様子はないんだな?」

『今のところは。無論なにもないわけでもありませんでしたが』

「よろしい……まぁ、おおよそは察せられもしている。こっちはオレが出張るような事態にはならんか」


 ストラの報告に対して、カイトは一つため息を吐く。彼が思い出していたのは、少し前に発覚した軍のサボタージュだ。サボタージュが通用するということは、どこかで何かしらの不正がまかり通っていて不思議はない。なので今回の一件より更に前から公爵軍内部の監査を進めていたのであった。


「その件については任せる。調査を続けろ」

『はっ……不心得者共については?』

「捕縛できるなら捕縛しろ。信賞必罰。法にて照らし合わせて裁く。無理なら……まぁ、好きにしろ。領主に手を出したバカに容赦してやる必要もないし、ウチに手を出す以上そうなることは覚悟出来ているだろう。ああ、ただ他領地でバカやってる連中と繋がってるなら多少ボコる程度で止めとけ。恩を売っておこう」

『御意』


 もとよりカイトというかカイトの意向を受けるマクダウェル家が盗賊などに厳しいことは誰でも知っている。それを知った上で領内で不法行為をしようというのだ。抵抗する者の末路なぞ誰もがわかっていた。後は生かすだけのメリットがあるかないか、という程度でしかなかった。というわけで再指示に応諾を示してストラの気配が遠ざかるのを理解して、カイトは改めて椿へと向き直る。


「はぁ……ああ、それで陛下の件だな。海軍中佐……いや、元中佐か。元中佐には逃げられたんだったな」

「はい……現在は皇国海軍が総力を挙げて追っている様子ですが……」

「やはり軍の情報を提供されていた相手は面倒か。それで? 陛下が直々に入った程度だ。露呈した情報の中にヤバい物が一つぐらいはあったんだろう?」

「はい……こちらを」


 カイトの求めに応じて、椿は皇国海軍から提供された資料の一つを差し出す。それの表題を見て、早々にカイトは盛大にため息を吐くことになった。


「……おいおい。これまじか? よりによって?」

「なのかと」

「技術将校とは聞いてなかったんだがな」

「技術将校……ではなかったようです。ですが技術に触れられる立場ではあったかと」

「はぁ……」


 そりゃ陛下も現地入りするだろうし、海軍も草の根を分けてでも探し出そうとするだろう。カイトは盛大にため息を吐く。そうして彼は資料を一通り一瞥して、ため息と共にどこか投げ捨てるように資料を机に放り投げた。


「はぁ……海軍が開発中の新型高速艇の設計図? まぁ、完全に丸ごとコピーは出来んだろうが……出来ん、よな?」

「海賊共にそんな技術力はないかと」

「それなら良いんだが……この様子だと横流しもしてたんだろうな」

「それについては裏取りも出来ております」

「やれやれ……」


 相当なスペックアップが図られたことだろうな。カイトは続けて提出された海軍の元中佐が横流しした一覧を確認。彼の推測通り、船のスペックアップが可能な一部軍事物資の流出が記載されていることを確認。本日何度目かになるため息を吐いた。


「はぁ……こりゃ軍の最新型の高速艇の少し下クラスの高速艇を探すようなもんだ。他国に流出すれば、と気が気じゃないだろう。こりゃ多分、撃沈メインで話を進めてるな」

「皇帝陛下もそのようにするように話を進められているようです」

「そうだろうなぁ……いや、いっそ抹消したいのは乗組員の方かもしれんがな」


 機密情報を盗んで、それを知った者たちだ。今回の海賊達を是が非でも討伐しようというのはそこらがあったというわけなのだろう。


「まぁ、そこらはどうでも良いか。とりあえずウチの海軍の連中から情報があれば、それを融通してやってくれ。こっちに来ることはまず無いと思うが」

「かしこまりました」


 カイトの指示に、椿が一つ頭を下げる。と、そうして話が終わった頃合いでまるでそれを見計らっていたかのように、通信機の着信音が鳴り響いた。


「ん? ああ、オレだ」

『御主人様。今大丈夫ですかー?』

「おう、問題ないけど。何かあったか?」

『バルフレアさんからご連絡ですー』

「ああ、バルか……ああ、そういえばオレが出ている間に一回連絡あった、って話あったな」


 そんな急いでないからまた連絡するとだけ伝えておいてくれ。そう言伝があったことをカイトは思い出す。そして彼としても暇ではないのでそれなら、と連絡が入るのを待っていたのであった。


「わかった。こっちで引き継ぐよ」

『了解でーす』


 軽い様子で若いメイドが通信を終わらせて、回線を切り替える。そうして少しすると今度はバルフレアの声が響いた。


『おーう、カイト。戻ったのか?』

「何日か前にな。悪かったな、連絡貰ってたみたいで。また連絡する、ってことだったから折り返しはせんかったが」

『それで良かったよ。こっちも第一報が入っただけで、詳細が掴めてなかったからな』


 どうやらバルフレアとしても居るなら聞くが、居ないなら詳細を掴んだ後にしっかり話すかと思っていたらしい。やはり折り返さなくて正解だった、とカイトは判断する。


「ってことは、詳細が掴めたってわけか。どうしたんだ?」

『ああ……いや、正確に言うと詳細が掴めたわけじゃないんだけどさ。幽霊船の調査船団は覚えてるか?』

「ああ……調査船団に何かあったのか?」

『まぁ、調査船団になにかがあったわけじゃない。ただそっちからの報告なんだ』


 前に触れられているが、幽霊船は通常の装備や冒険者達では対応のしようがない。その上に神出鬼没であるため、下手に遭遇すると甚大な被害を被ることになってしまう。なのでそれを危惧したカイトだったが、幸いそういうことではなかったようだ。というわけで、バルフレアは調査船団からの報告をカイトへと共有する。


『俺が連絡した前の日だが、そこで調査船団の連中が調査海域の北部で戦闘を見かけたそうでな。それで自分達の船団の仲間かと思って駆け付けたらしい。だけど結論から言えば、どうにも皇国の軍船っぽかったらしいんだ……ただ変なことに、その船は識別信号やらを放ってなかったらしい』

「故障したんじゃないか?」

『そのウチの連中もそう思ったようだ。ただ流石に戦闘を見捨てちゃおけない、ってんで介入しようとしたそうなんだが、ウチの連中が介入した途端、その謎の船が逃げ出してな。んで擦り付けられたような格好になっちまったわけだが……軍にしては変な動き過ぎてな。そして何よりウチの連中も後々気付いたんだが、その海域は皇国の海域じゃない。どちらかといえばマギーアや南部諸国の方が近い』


 軍にしては変な動きだ。バルフレアはしかめっ面になりながら、違和感をそう口にする。そしてこれにカイトも同意した。


「そうだな……その話。続きはあるか?」

『ああ……まぁ、その顔だとなにかわかってそうだな』

「おそらくだがな……ただそこから先を判断するならもう少し情報が欲しい」

『あいよ……それで戦闘の後だが、ウチの連中が少し追いかけたらしい。結構損傷も酷かったらしいからな。だから逃げたのもそれ以上の損傷を避けるためだと考えたそうだ』

「妥当と言えば妥当、か」


 沈没はしない程度ではあったのだろうが、それでも継続した戦闘は避けるべき程度の損傷ではあったのだろう。カイトはおおよその状況を察して、そう結論付ける。


『ああ……で、ここからが変な話なんだが、その船は北は北でも北東へ向かったそうなんだよ』

「北東、か。今の口ぶりから考えて、マギーアより東側か?」

『ご明察……で、そろそろ聞いて良いか?』

「答えから答える方で良いか?」

『オーケー』

「ないな、オレが知る限りは。そして軍の隠密行動でそこらの海域に出向く必要性はまずない。そんな遠い場所まで赴くにゃ少し遠い」

『だろうな』


 あまりにおかしいことが多すぎる。一応軍の所属なので軍の作戦行動中に識別信号などを放たないことはあるが、カイトの知る限りその海域でそういった作戦行動を行う予定という情報は入っていない。

 何より謎の船が出没した海域は皇国軍にとって重要な意味合いは全くなく、それどころか軍事的になにかをしようものならウルシア大陸の諸国との関係性が悪化しかねない。皇国が手に入れるのはデメリットが大きすぎる場所だった。


「多分、そいつらは時期的にも現在皇国海軍が追ってる連中だな。どうにも皇国軍の情報を盗んでスペックアップしていたらしい。それで今話していたところだ」

『そうなのか……で、多分この様子だと』

「そういうことなんだろうな……一度皇帝陛下に連絡しよう。オレの独断で動いても良いが……陛下のお言葉もある。少し色々と考える必要がありそうだ」

『わかった。俺もそっちに合流する。色々とやる必要がありそうだ』

「頼む……さて。思いがけず拠点が手に入りそうだなー、っと」


 どうやら幽霊船の調査のはずが、別のものまで一緒に釣れたようだ。獰猛な笑みを浮かべるカイトはここからは直に会うかとバルフレアとの通信が途切れたのを受けて、通信機を再起動させる。掛ける相手はもちろん皇城だ。というわけでカイトはこの日は一日、逃げた海賊に対する対応を協議することになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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