第3845話 様々な力編 ――攻略――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうしてカイトの助言を受けつつシルフィードとの戦いに望んでいたソラ達だが、シルフィードはついに全ての手札を開陳。それに対してソラ達は一つ一つ、対策しつつ攻略を進めることになっていた。
「ぐっ! だけど!」
防具無視の貫通攻撃。それに腹を打たれ思わず肺腑の空気を漏らすソラだが、強引に息を吸い込んで立て直すと僅かに崩れた姿勢を力技で立て直す。そうして立て直して、彼はシルフィードに向けて振り下ろすように<<偉大なる太陽>>を叩きつける。
「はぁ!」
「っ」
僅かな驚きがシルフィードの顔に浮かぶ。それに、ソラは想像した通りだと追撃を仕掛けた。
「おらよ!」
「っと!」
攻撃の直後に隙が生ずるのはシルフィードだろうとカイトだろうと一緒だ。なので彼女はダメージを強引に押し殺し、反撃に転じたソラの攻撃は流石に跳躍して回避を選択したようだ。そうして跳び上がったところに、紫電を纏った瞬が襲いかかる。
「まだまだ!」
「はいはい、りょーかい!」
「っ」
そうなるだろうとはわかっていた。そう言わんばかりに自分を正面に捉えていたシルフィードに、瞬が僅かに目を見開く。そして放たれた刺突を、シルフィードは敢えて槍を引き寄せるような動きをみせる。
「なっ」
「プレゼントです、どぞ!」
「「え?」」
上空にシルフィードが退いて、瞬が足止めに掛かったその瞬間。ソラもまた追撃に及ぼうと跳躍しようとしていたところだったようだ。そんな彼に向けて、シルフィードは引き寄せた刺突を器用に操って投げ飛ばす。
「うぉっと!」
「うぉわわわっ!」
瞬は刺突を引き寄せるという奇策でバランスを崩したところに、更にその先にソラだ。ソラの方もちょうど跳躍したタイミングで、どちらも強引な制動を掛けつつも同時に身を捩るしか取れる手がなかったようだ。正面から激突するのを避けるのが精一杯で、共に明後日の方向へと弾き飛ぶ。そうして吹き飛んでいく二人を横目に、リィルが仕掛ける。
「はぁああああ!」
「ほいよ!」
「っ!」
それはありか。リィルの顔に驚きが浮かぶ。自身の槍に対してシルフィードは腕を風と化してまるで蛇が絡み付くかのように腕を伸ばしたのである。そうして槍を風の腕で絡め取られて、しかしシルフィードは先程のように後ろへ導くではなく自身に更に引き寄せた。
「はいよ!」
「くっ!」
槍を手放すことだけは避けねば。そう判断したリィルは右手一つで槍をしっかりと握りしめると、放たれるシルフィードの蹴りに自身もまた蹴りを合わせる。そうして右、左、右と三度蹴撃が交わったところで、シルフィードの背後にアルの氷竜が肉薄した。
「姉さん! そのまま抑え込んで!」
「っ、おぉおおお!」
ゼロ距離ならばなんとかなるかもしれない。そう判断したリィルは雄叫びを上げて総身から炎を吹き出して、足に込める力を増幅させる。だがこれに、シルフィードは笑った。
「上策だ! 僕でなければね! そして君たちでなければね!」
「「っ!」」
二つ分の驚きが響く。なんとリィルと力比べをしていた右足が唐突に風になって伸びていったのだ。そして伸びた風はリィルから吹き出した熱波を絡め取り、強烈な熱風を生み出す。これに、アルは全てが整う前にと行動に移った。
「<<氷竜の息吹>>!」
「遅い!」
「「っぅ!」」
やはり間に合わないか。アルもリィルもシルフィードの指摘を聞くよりも前に、炎の風が吹きすさんで即席の壁を創り出して、青白い光条を受け止める。そうして真っ白な霧が、周囲を包みこんだ。
「「「っ」」」
この流れは非常に危険だ。アルやリィルのみならず、全員がリィルの姿を見失うことを懸念する。そしてそれは先程対応した浬も一緒だった。というわけで彼女は予めトリンに指示されていた通り、風と銃二枚のカードを投げる。
「鳴海!」
「あいよ!」
浬が投げ放つカードから巨大な風が生じたと同時に、鳴海が筆を振るってカードに何かを書き加える。そうして文字が書き足されたカードから放たれる風が、突然形を変えた。
「おっと……お見事」
本来のカードの風が竜巻のようにある程度細長いものであったのなら、鳴海が行ったことは単純。放射状に放つことで効果範囲を拡大することであった。そうして器用にカードの効果を変更した二人に、シルフィードは少しだけ感嘆を口にする。しかも策はこれだけではなかった。
「っと……」
なるほど。水蒸気をこちらに利用されるより前に風で上空まで吹き飛ばして、氷で冷やすわけか。この展開はやはり警戒されていたものだったのだろう。白い霧が発生すると同時に浬と鳴海が行動に入って、更にアルも即座に氷竜を上昇させていた。
「<<氷竜の風>>」
「……」
まぁ、流石に透明化を繰り出されれば打つ手がこれ以外に存在していないかな。過剰にも思える対策に、シルフィードは思わず僅かに苦笑する。と、そうこうしている間に、どうやら弾け飛んでいたソラと瞬も復帰していたようだ。アルが抜けた穴を埋めるかのように、二人が上空へと跳び上がる。
「「おぉおおおお!」」
「……ふっ!」
二つの雄叫びと同時に、由利の弓から巨大な金属の矢が放たれる。そうして放たれた矢はソラと瞬を追い抜いて一直線に飛翔し、シルフィードへと肉薄する。
「ほいよ!」
肉薄してきた矢を一瞬で見切ると、シルフィードはそのシャフト部分を叩いて弾く。とはいえ、これはあくまでシルフィードを動かさないためのものだ。故に弾いたタイミングを見計らい、二人が接近戦の距離まで肉薄する。
「「……」」
瞬間、ソラと瞬は視線を交える。この流れはシルフィードに向けて矢を射った以外、先に自分達が弾かれたと同じ流れだ。である以上、対抗策も当然立てている。そしてそれを期待して、シルフィードは先程と同じように拳を振るった。
「「っ」」
やはり来たか。ソラと瞬は振るわれた拳に、想定通りの流れになったと理解する。そうして自分達を通り抜けるような拳打が放たれるのを見て、二人は腹に力を入れる。
「くっ!」
「おらよ!」
「っ、お見事」
瞬は囮だったのか。シルフィードは火力を分散させるために瞬を囮とした判断に称賛を口にする。そうして少しだけ笑みを浮かべながらも吹き飛ばされていく瞬の一方で、ソラは<<地母儀典>>を使って軽度の分身を激突させて風の拳を相殺する。だがシルフィードの持ち味は手数だ。故にすぐさま拳を引いてソラを攻撃しようとする。
「でも!」
「わかってんだよ!」
「おっと……そういうことか」
ばちんっ。崩れた土と風が混ざり合い、雷が生ずる。瞬が弾かれたのは囮ではあったが、同時にこれを誘導するためでもあった。土の中に彼の使い捨てナイフが仕込まれており、それには彼の愛用するナイフで刻印が刻まれていた。それとナイフを共鳴させて、遠隔で雷を発生させていたのである。そうして、拳を引いて避けられないタイミングで雷が発射される。
「くっ!」
「まだまだぁ!」
おそらくこの三日初めての有効打。雷に打たれ僅かな苦悶の声を漏らすシルフィードに、ソラが更に距離を詰めて剣戟を叩き込む。
「こっちも! まだまだ!」
とはいえ、流石にやりきれるほどではなかったようだ。剣戟に即座に風を纏った拳を合わせて迎撃。<<偉大なる太陽>>を弾き飛ばす。
「くっ」
「これで」
「はぁ!」
「っとぉ!」
「っ、すんません!」
剣と拳なら拳の方が速いのは当然だし、それがシルフィードならば尚更だ。故に次の一撃を放とうとしたその瞬間、囮となることを理解していたが故に姿勢を崩さず即座の行動に移れた瞬が使い捨てのナイフを彼女に投げていた。
そうして投げられたナイフにシルフィードも対応せざるを得ず、握りしめていた拳をそちらに向けて風を放って弾き飛ばす。そしてそうこうしている間に、ソラもなんとか復帰出来ていた。そして、そこに。
「はぁ!」
「おっと!」
瞬と入れ替わるように跳躍していた空也が、シルフィードへと更に襲いかかる。だがこれにシルフィードは再度風を纏った拳で迎撃し弾くが、そこに今度はソラが追撃を仕掛ける。
「おぉおおおお!」
「っぅ!」
流石に間髪入れずの連撃はシルフィードも耐えかねたらしい。苦悶の表情と共に、彼女が地面へと墜落する。そして地面に彼女が激突したと同時に、リィルが予め決めていた手順に入った。
「はぁ!」
「っ」
リィルの身体から放出された炎で、先にアルにより生み出された雨水が一気に蒸発。周囲に濃い水蒸気のモヤが生ずる。それにシルフィードはわずかに逡巡する。霧同然のこれが何を目的としているのか、判断しかねたのだ。
「一気に畳み掛けて!」
「はぁあああ!」
「カード!」
「会長! いけますよね!」
「ああ!」
「一条先輩!」
「おう!」
侑子が小手から無数の魔弾を発射して牽制を放ち、それを横目に浬がカードを展開。更に鳴海は煌士の準備完了を受けて、着地してこの時を待っていた瞬へと声を掛ける。そして彼女の準備が整ったことを受けて、瞬が少しでも威力を高めるべくナイフと槍を共鳴させて加護を展開した。
「<<雷>>よ!」
ばちばちばちっ、と強大な雷が迸る。そして、シルフィードは先程のリィルの行動の意図を理解した。
「おっと……そういう……」
流石にこれは厳しいな。シルフィードはどこか満足げに笑う。そうして、直後。浬のカードにより更に霧が濃くなり、ついにはまるで水没したかのような巨大な水がシルフィードの周囲を満たす。
風がいくら自由自在に動き回れようと水の中では動きは鈍るはずだし、これだけの空間を満たせば逃げられるはずもない。そう判断したのだ。
「<<赤雷>>!」
水を全て蒸発させるほどに巨大な赤い雷が、シルフィードを包む水へと直撃する。とはいえ、水は電気を通すが、同時にだからこそ威力も拡散してしまうと考えていた。しかしだからこそ。二人は空中に居た。
「「おぉおおお!」」
天城兄弟は同時に雄叫びを上げて、一気に急降下する。そうして二つの剣閃が迸り、シルフィードの身体を斜め十字に切り裂くのだった。
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