第3844話 様々な力編 ――攻略開始――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうしてカイトの助言を受けつつシルフィードとの戦いに望んでいたソラ達だが、シルフィードはついに全ての手札を開陳。後は攻略するだけになっていたのだが、やはりそれは一筋縄ではいかなかった。というわけで四苦八苦しながらも、まずは透明化への対処を行うことになる。
「カード!」
透明化して、かつ音もなく攻撃されるのだ。流石にこれは堪ったものではなく、兎にも角にも透明化だけは解除する必要があった。というわけでソラの要請を受けた浬が、その要望に沿う形で作戦を立案したトリンの指示に従ってカードを投げる。
「……」
さてどうなるか。ソラは四枚のカードから放たれた二つの光条がもたらす結果を待つ。そうして彼らの見守る前で、二つの光条が天高くで激突。白い輝きを放って、周囲に雨を降り注がせる。
「……」
これでおそらく。ソラは周囲に降り注ぐ雨音を聞きながら、周囲の状況をしっかりと確認する。そうして彼は、自らの真横に肉薄してきていた空白に気付いた。
「そこだ!」
「おっと! 上出来上出来!」
放たれた刺突を身を捩って回避して、シルフィードが姿を表した。
「所詮、って言ったらあれだけど、それは風を巻き込んで光を捻じ曲げてるとかそんなのだろ!? なら風に水が巻き込まれりゃ、そこには異変が起きるはずだ!」
「その通り! 所詮僕は風! 実体がなくなるわけじゃない!」
一日目に壁抜けを見せてもらってはいたが、あれとてあくまでも実体がすり抜けるだけだ。そしてやろうとすればこの雨も抜けることは出来るのだろうが、どちらにせよ光を曲げることを考えるとどうやっても雨水だけは弾いてしまう。そう読んで、案の定だったわけだ。というわけで姿を表したシルフィードに、ソラが更に攻撃を仕掛ける。
「はぁ!」
「おっと!」
流石に姿が見えている以上、シルフィードとしてもそのまま交戦するつもりはなかったようだ。続けざまに放たれる薙ぎ払いの一撃に、彼女はバックステップで距離を取る。だが別に見えているのは彼にだけではない。というわけで、バックステップで距離を取り着地したところを、瞬が狙い澄ますように打ち込んだ。
「はぁ!」
「おっと」
やはり風だ。実体を掴まれれば一気に不利になるな。シルフィードは今度は大きく跳び上がって、空中へと退避する。だがこれは当然読まれていたようだ。
「っ」
こうなるだろうとは思っていたよ。シルフィードは雨水が急速に冷やされていくことを理解する。そしてその理由なぞ、考えるまでもないだろう。とはいえ、まだ彼女の余裕は揺るがない。
「でも!」
僕は風なんだよ。シルフィードは放たれるアルの氷竜の光条に、左手を向けて風を編む。そうして編まれた風が、光条を明後日の方向へと受け流す。
「「はぁ!」」
「……」
氷の光条を受け流したと同時に、リィルと空也の二人が同時に仕掛ける。これに、シルフィードが牙を剥く。
「はぁ!」
ぶんっ。自ら回転するような動きと共に、シルフィードが右腕をまるで薙ぐように振るう。すると、彼女の腕から巨大な風刃が生じて二人へと襲いかかった。
「「っ」」
流石に一息に攻めきれるほど容易な相手ではないか。二人とも風刃を防ぐことにして、今の攻め手は通用しなかったと判断する。そうして墜落していく二人と入れ替わるように、今度は光条と弓が発射された。
「まだまだ!」
上空なら遠慮する必要はないというわけか。シッチャカメッチャカに撃ってくる矢と魔術の嵐に、シルフィードは即座にその場を離脱。地面に降下する。だがそうして逃げたと同時に、今度はソラと瞬が同時に襲いかかった。
「いいね」
「「ぐっ!」」
速い。ふっと自分達の脇腹に放たれた拳打に、二人は少し焦れすぎたと理解する。だがそれでも。
「っぅ! 桜ちゃん!」
「はい!」
「おっと! それは勘弁!」
足元に忍び寄ってきた魔糸に、シルフィードは再度その場を離れる。
「よし! なんとか攻勢に出れ始めた! 一気に行くぞ!」
「「「おう!」」」
痛みに顔を顰めながらも獰猛に笑うソラの号令に、全員が声を上げる。そうして、ついに戦いは最終局面へと移行するのだった。
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