第3838話 様々な力編 ――試行錯誤――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうしてカイトという門番を超えて、ついに最後の部屋に到達。そこで待ち受けていたのは、風の大精霊シルフィード本人で、現れた彼女より最後の試練として与えられたのは彼女との戦いであった。
というわけで一度は撤退を余儀なくされるものの、物理的な存在を透過するというシルフィードの手札に対する対抗策として気を利用した戦い方を併用することにして、再挑戦に挑んでいた。
「はぁ!」
ソラの生み出した<<操作盾>>の足場を蹴って跳躍に跳躍を重ね、瞬は幾度となくシルフィードへと攻撃を打ち込む。が、これは風を収束させた掌底により弾かれ、瞬は虚空を蹴って即座に撤退する。
『駄目だな。一向に通用している気配がない』
『うーん……やっぱ雷の速度でも対応してきますかね』
『ああ……だがこれはそういうものでもなさそうだ』
当たり前だが紫電の速度だ。目視で捉えることは困難を極める。一応魔術で反射神経を極限までかさ増してしまえば出来なくはないが、あくまで目視。放たれた後に気付けるものだ。死角から攻め込めば反応は出来ないはずで、反応出来ている以上は異なるのだろうと思っていた。そうして瞬が足場で一瞬のやり取りをソラと交わす一方、アルとリィルが同時に攻撃を放つ。
「<<氷の息吹>>!」
「<<炎>>よ!」
「うん?」
氷と炎の同時攻撃。それは一瞬にしてシルフィードへと肉薄し、しかし共に相反する属性であるが故に威力を相殺する。これに一瞬シルフィードは訝しむも、周囲に唐突に漂った真っ白な霧に意図を察した。
「おっと……煙幕か」
『一条先輩』
「ああ」
空也の言葉を聞いて、瞬は再度雷を纏ってその場から跳躍する。そうして霧を切り裂いて、一直線にシルフィードを目指す。
『そのまま真っすぐで大丈夫です!』
「っ」
この霧は言うまでもなくアルとリィルにより生み出されたものだ。故にコントロールは二人にあり、内部に居るシルフィードや瞬自身の位置は二人が掴んでいた。故に気配が読めずとも内部にシルフィードが居ること。そして居る場所もわかっており、彼はその声を頼みに一気に霧の中を突っ切っていく。そうして突っ切ること数秒もなく、シルフィードの影が現れる。
「はぁ!」
「はい、そこ」
「っ」
当然気づかれるだろうな。瞬はシルフィードが意図も簡単に自身を把握し迎撃してきたことに違和感も不思議もなかった。そしてわかっていたなら問題ない。故に彼は雄叫びを上げて、次の一打を繰り出す。
「おぉおおお!」
「おっと……ああ、足場もあったのか」
急に連撃を叩き込んできた瞬に一瞬だけシルフィードは驚きを露わにするも、白い霧の中に潜むソラの<<操作盾>>に気付いたらしい。なるほどと即座に納得を露わにして、その連撃を全て弾いていく。
『ソラ、そこから少し右だ』
「……っと」
白い霧の中から響く瞬の雄叫びを耳に、ソラは本命を移動させるべくアルの声を頼りに<<操作盾>>を操っていく。そうしてその上を、空也が音もなく、風を纏って跳躍する。それは可能な限り音を消した跳躍で、ソラは跳躍の瞬間に反動を利用して空也を打ち出すような格好にしていた。
「……ふ」
白い霧の中を呼吸音さえ可能な限り殺して、空也は無音で跳躍していく。音を殺すことを主軸としていたので移動速度は遅いが、その僅かな音とて瞬の雄叫びにより上書きされている。そのはずだ。ソラはそう思いながら、今の作戦を思い出す。
(白い霧を生み出して、先輩が突撃。雄叫びを上げてもらって、空也は風を纏って白い霧を動かさず、かつ音も立てずに移動……奇襲を狙う……ぶっちゃけ良い作戦じゃないかもだけど……)
風を纏うことで移動の際に生ずる白い霧の揺れを可能な限りなくして、更にはアルとリィルにより僅かな揺れも押し戻させる。まるで暗殺のような行為だが、とりあえず出来ることは一つでもやるしかなかった。というわけで瞬が数秒と掛からず突破した距離を、一分ほど掛けてゆっくりと移動。空也は瞬とシルフィードの交戦する場所の近くまで移動する。
『到着しました』
「おし……アル、リィルさん」
『『了解』』
「よし……由利」
「……」
「おう」
少しでも姿勢を崩せたのなら、そこから一気に攻め立てる。ソラは難しいだろうなと直感的に思いながらも、周囲の面々と上空の二人に視線を送って一つ頷く。そうして全ての準備が整ったタイミングことを受けて、空也が最後の一つを蹴って跳躍する。
「……」
たんっ。最後の一つを蹴って、シルフィードの背を正面に捉える。アルやリィルの指示で元々シルフィードの背後を取れるように移動していたし、瞬もそれに合わせて攻撃を仕掛けた。が、その瞬間。シルフィードが笑った。
「音もなく、風も揺らさずご苦労さま」
「っ!」
「やっぱ駄目かぁ!」
もうここまで駄目なら少し楽しくさえなる。ソラは業風が白い霧を吹き飛ばし中の二人の姿を露わにしたのを受けて、半ばやけっぱちに笑う。そんな彼に、カイトが何が駄目だったか教えてくれた。
「そもそも空也の移動に時間を掛けすぎだ。それだけあったら普通なら何かを仕掛けてくると気付く」
「ですよね! 次のプラン!」
「あははは……ま、頑張れ」
自身の言葉に半ばやけっぱちに応ずるソラに、カイトは笑う。まぁ、こんな試行錯誤はもう10回に届こうとしていた。が、どれもこれも上手く行かなかった。というわけでまだまだ一同の試行錯誤は続いていくことになるのだった。
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