第3837話 様々な力編 ――足がかり――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうしてカイトという門番を超えて、ついに最後の部屋に到達。そこで待ち受けていたのは、風の大精霊シルフィード本人で、現れた彼女より最後の試練として与えられたのは彼女との戦いであった。というわけで一度は撤退を余儀なくされるものの、物理的な存在を透過するというシルフィードの手札に対する対抗策として気を利用した戦い方を併用することにして、再挑戦に挑んでいた。
「……」
基本的なシルフィードの戦術は変わらない。高速で移動しながら全員を翻弄し、一方的に攻撃。時に風弾を放ってこちらの隊列を乱しや姿勢を崩し、だ。というわけで前線でシルフィードと直接的に交戦する瞬達を見て、ソラは思考を加速させる。
(何が厄介ってあの風弾は厄介だ……あれで隊列を乱されたらどうしようもない)
だからまぁ、<<操作盾>>を何個も浮かべたんだけど。ソラは空中を飛び回る魔力の盾を操りながら、風弾が放たれる瞬間に意識を集中する。そしてそのタイミングはすぐに訪れた。
「くっ!」
やはり気の扱いであると、シンフォニア王国に行っていないアルが一番練度が低い。一応何があったかは聞いていて、自身の過去世がそもそもあちらだ。
なのでアル自身も希桜のことを思い出し気についても多少は技術を取り戻していたが、やはり数ヶ月分のアドは大きい。というわけでシルフィードもそれを見抜き、アルへと防御無視の攻撃を仕掛けたのだ。
「っ」
氷竜ごと吹き飛ばされていくアルを見て、ソラは即座に<<操作盾>>を彼とシルフィードの間へと移動させる。その一方でシルフィードはいつものように腕を上げて、風弾を発射。支援に入ろうとする面々ごと吹き飛ばすつもりだった。
「おっと……支援は君だけにするのか」
ドーム状に展開する<<操作盾>>に、シルフィードは昨日と違って誰も支援に入らないことを理解する。ソラの言う通り、何が厄介かというとこの風弾の爆発により支援に入った面々まで吹き飛ばされてしまうことだ。
「そりゃ、そうしないと全員にダメージが蓄積しちまうからな。特に今みたいに隊列を乱された状態で追撃を仕掛けられて、おまけに防御無視まで加わったらダメージが一気に蓄積……遠からずゲームオーバーだ」
「正解だね。なら、ダメージは一人が請け負う方が回復も全部集中出来る……そして僕もこの風弾の瞬間は、足を止めている。だからこうして」
「「っ!」」
アルへの追撃をソラが防いだと同時に自身へと肉薄していた瞬の刀と空也の槍を両手に蓄積した風で食い止めつつ、シルフィードが笑う。そうして笑う彼女の背後。脳天目掛けて、今度はリィルの槍が振り下ろされた。
「はぁ!」
「ふふふ……その程度で僕がどうにかできるわけないよ。まさか三人同時に攻撃を仕掛ければどうにかなると思った?」
「「「っ!」」」
シルフィードの頭の上を中心として渦巻いた風に、三人が大いに目を見開く。リィルの槍もこの渦巻いた風が防いでいた。そうして次の瞬間には渦巻いた風で三人が吹き飛ばされる。が、それをまるで見越していたかのように、大きめの<<操作盾>>が風を切り裂いて飛翔した。
「なるほど……」
その意図を理解して、シルフィードは少しだけ感心した様子を見せる。当たり前だが風に直面する面積が小さければ小さいほど、風から受ける影響は小さくなる。三人が吹き飛ばされたのはその面積が大きいからだとも言えるだろう。
それに対して<<操作盾>>は非常に薄く、板も同然だ。風に平行なら影響はほとんどない。なので姿勢を崩して飛ばされた三人へと一気に近付くと、そのまま即席の足場となって三人を空中で受け止める。
「助かった!」
「うっす!」
この流れはそもそもソラも見えていた。なので全員が吹き飛ばされる可能性も当然対策していたのだ。というわけでソラの<<操作盾>>に三人が乗って、一旦風が収まるのを待つ。
「……」
風が吹きすさんだのは数秒だ。なので数秒後には風が収まって、三人も立ち上がる。そしてその頃には吹き飛ばされたアルも戦線に復帰。四人が空中に移動していた。
「由利。今の流れで狙撃出来そうか?」
『ちょっと無理っぽい。多分あの程度の風なら切り裂けるけど、同時に抜けられる可能性の方が高いと思う』
「……まぁ、そうだよな」
あそこまで余裕だったのだ。しかもソラの想定では風弾の反動で後ろへ移動することも出来たはずで、それが出来るのなら敢えてあの場で瞬と空也の二人を左右で受け止めるなんてしなくて良い。
反動の制御は基本中の基本。それを利用しないというのは、もし自分達がランクDの冒険者だったとてありえない。ソラはそう考えていた。
「どうしたものかな……」
『とりあえずは情報を出させるだけ出させて、最悪はもう一度撤退して明日に賭ける。そうするだけだよ』
「……だな」
トリンの助言に、ソラは眉間に寄っていたシワを僅かに緩める。何事もしっかり考えるのが彼の良いところではあるが、深く考えすぎて自縄自縛気味になりかねないのが彼の悪い点だ。というわけでそういう面を理解して諌めてくれるトリンは彼にとって相棒や補佐官と言って間違いなかっただろう。
「先輩。昨日話してた手順に移ります。多分これも防がれるとは思いますけど」
『わかっている。そんな落な相手でないことぐらい、昨日で理解出来ている』
「頼んます」
どれがどう通用し、どう通用しないのか。まずはそれを探っていく必要がある。ソラも瞬もそう考えていた。というわけで<<操作盾>>に乗ってひとまず攻めのタイミングを見定めていた瞬から、ばちんっ、と稲妻が弾ける音が鳴り響く。そしてそれと同時に、展開していた<<操作盾>>が更に分裂する。
「おっと……僕には及ばないけど速いね」
紫電の速度で<<操作盾>>を渡り歩く瞬に、シルフィードは楽しげに笑う。その移動速度は風弾の初速を上回っており、遠距離攻撃は無理だと判断するに十分だった。と、その中に更に風も混ざることを、彼女は察知する。
「空也も一緒か……さて」
どうしてくるつもりかな、なんて考える必要はなさそうかな。シルフィードはおそらくこうして自分を翻弄して攻撃を仕掛けてくるつもりなのだと理解していた。そうして理解した直後、瞬が襲いかかる。
「はぁ!」
「ほいよ!」
「はっ!」
「はいさ!」
瞬が襲いかかった次の瞬間には空也が。彼が襲いかかった直後には瞬が、という塩梅で間断ない攻撃がシルフィードへと仕掛けられる。それは一見すると防戦一方に追い込んでいるように見えたが、弱点も同時に見抜かれていた。
「ふふ……でもそれだと自分達が反動を受けないために軽くなっちゃってるよ」
「っ、くっ!」
空也が切りかかった瞬間、シルフィードが楽しげに手に蓄積した風で彼を吹き飛ばす。攻撃が防がれることは想定済み。それを想定して威力は抑えて決め手までつなげるつもりだったが、流石にそうは問屋が卸さないようだ。そうして吹き飛ばされる空也だが、そこにソラが<<操作盾>>を使ってキャッチする。
「っ、ならば次だ!」
この手順は無理か。そう判断した瞬が、ぐっと足に力を込める。そうしてそれから暫くの間、ソラ達は幾つかの方策を試してシルフィードの攻略のための足がかりを掴むことにするのだった。




