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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3835話 様々な力編 ――最後の試練――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。

 そうしてカイトという門番を超えて、ついに最後の部屋に到達。そこで待ち受けていたのは、風の大精霊シルフィード本人で、現れた彼女より最後の試練として与えられたのは彼女との戦いであった。


「……」


 やはり流石は風の大精霊。移動に掛かる音はほぼほぼ存在しないものと考えて良さそうだ。瞬は無音に等しい風音を聞き分けることは不可能と判断する。

 というわけで様々な攻撃を仕掛けられながらもまるで風が舞い踊るかのようにスルスルと抜けていくシルフィードの動きを掴むことはほぼ不可能と判断。ならばと考えることは一つだ。


「……」


 必ずどこかのタイミングで自分を狙ってくるはずだ。瞬はそう考えて、目を閉じてただ意識を集中させる。これからやることはかなり猶予がない。支援も全て切って、ただ反撃に意識を集中する必要があると考えていた。そうして十数秒。誰かの攻撃を回避したシルフィードが、彼の雷のセンサーの先に触れた。


「っ! はぁ!」

「おっと!」


 かんっ。瞬の槍をシルフィードが掌底で弾いて、更にそのまま90度だけ転身。左腕を突き出すように、瞬へと掌底を放つ。


「はぁ!」


 重い。シルフィードは瞬の胴体を打った瞬間、自分が先程まで打っていた打撃とは全く異なる反応であることを理解。わずかにだが訝しみを得る。が、その原因はすぐに理解出来た。


「ソラだね!」

「っ」


 一瞬かよ。ソラはシルフィードが楽しげに視線を向けたのを見て、一発で看破されたことに顔を顰める。というわけで看破されたことを理解したソラと瞬の二人だが、そんな二人に対してシルフィードは再度90度転身。再び瞬を正面に捉える。


「じゃ、試そうか!」

「はっ!」


 来る。瞬は想定通りの流れになったことを理解して、気を引き締める。そうして両足をしっかりと踏みしめて、槍を両手で握りしめる。そんな彼の一方、シルフィードはしっかりと腰を落として拳を引く。


「ほわちゃ!」

「ぐふっ! ぐぅうううう!」


 どごんっ。そんな轟音が鳴り響いて、魔力で強引な制止を掛けようとした余波の火花を散らしながら瞬の身体が後ろへとスライドしていく。


(全力でやってこれか! だが!)


 防御に全神経を集中させ、しかも<<地母儀典(キュベレイ)>>の支援まで貰ってこれだ。瞬は痛みで盛大に顔を顰めながらも、なんとか想定通りシルフィードを足止め出来たと判断する。というわけでほとんど吹き出して肺腑に残った僅かな空気で、彼は声を絞り出す。


「てん……どう!」

「はい!」

「ん?」


 地面に潜んでいた桜の魔糸が一気にシルフィードへと絡み付く。元々全員をサポート出来るように桜は戦場の広範囲に魔糸を広げていることが多い。なのでそれを知るシルフィードも当然こうなることは想定済みだ。


「こんな程度で僕が」

「カード!」

「おっと」


 こんな程度で僕が止められるとは思わないで欲しいな。そう言おうとしたシルフィードであったが、浬の声と共に自身をすっぽりと覆い隠す岩のドームに僅かに目を見開く。

 瞬は囮。この強撃を誘導するための生贄でも良いかもしれない。瞬が選ばれたのは反射神経の関係だ。出現から攻撃までほとんど猶予のないシルフィードの奇襲を防げて、更にその後の強撃まで受け止められる可能性があるのは彼しかいなかった。

 というわけで瞬を囮にして強撃を放たせ、更に桜の魔糸で一瞬だけ完全に足を止めたシルフィードの周囲を、浬のカードを媒体として地球側の面々の加護の総力を集結させて創り出した岩の壁が覆い尽くしたのだ。そうして一切脱出の余地もなく封じ込められたシルフィードを見て、ソラが声を上げた。


「アル、リィルさん!」

「突っ込むよ! 瞬!」

「っ!」


 アルの声を受けて、瞬がその場を飛び退く。そしてそれと入れ替わるかのようにアルの氷竜が岩のドームに突っ込んで、氷竜の全身で岩のドームを覆い尽くした。浬達の全力だけでは足りない、と判断したトリンの指示で、アルの氷竜を使った追加の封殺であった。

 更には<<廻天>>で風と土を用いて雷や炎を生じさせたとしても、そのどちらもをある程度は防げる。これ以上は攻撃の手札が消えるため、本当に最大の封殺と言っても過言ではなかった。


「はぁあああ!」


 これで一瞬だけでも絶対に命中させられる状況を作り出せたはずだ。リィルは瞬のルーンが施された槍へと炎を蓄積させ、一気に振り下ろす。

 先程の投擲を見て、ソラはルーンによる火力の封じ込めが他人の槍に出来ないか確認。一度限りならば出来る、ということでリィルに火力を集中させることにしたのである。そうして巨大な炎の塊となった槍が、一直線に岩と氷のドームへと直撃。巨大な爆発を生じさせた。


「「「っ」」」


 巨大な閃光と熱波に煽られて、全員が僅かに身を屈めて顔を逸らして目を閉ざす。そうして数瞬の閃光の後、熱波に顔を顰めながらソラは顔を上げた。


「どう……だ?」

「点数としちゃ、90点だな。上出来だろう」

「いや、上出来なんだったらそこは100点満点くれよ」

「いや、一つだけ難癖付けられちまう……岩壁を<<廻天>>で更に補強して金属の壁にしちまって更に脱出を困難に出来たからな」

「あ……ちっ」


 カイトの指摘を受けて、ソラは自分達でも出来た上に更に効果を上げられる手札だったと理解して苦笑いにも近い顔で舌打ちするしか出来なかった。というわけで彼の話を認めるようにその意図を口にした。


「確かにそれだったら更に壁を強固にして、なおかつ氷の冷気で敵の動きを阻害出来るのか。しかも金属で中まで凍らせられるかもしれないし。いや、いっそアルを攻撃にという選択肢も出来るから、発展性も高いな……」

「そういうことだな」

「まぁ、相手が僕じゃなければの話だけどね」

「へ?」


 響いた声に、ソラが目を丸くしてカイトの方を見る。そこではカイトの首に手を回して、ふわふわと浮かんでいるシルフィードの姿があった。その姿はまるっきり普通で、火に煽られただろうダメージさえ一切なかった。


「なに?」

「え? いや、え? だって、直撃させた……よな? え?」

「ざーんねん。抜け出せましたー」

「え? 桜ちゃん!?」

「い、いえ!? 確かに岩のドームが覆い尽くすまで確かに……」


 ぎょっとなって確認するソラの声に、桜が困惑気味に首を振る。流石に彼女の魔糸も岩のドームで覆われて以降は外れている。

 だが僅かな、それこそシルフィードでさえ抜けられないような隙間が閉じる直前までは繋げており、そのタイミングまで抜け出ていなかったことは間違いなかったのだろう。そしてその言葉をシルフィードもまた認めた。


「うん。完全にドームが覆い尽くすまで僕、中に居たよ」

「で、ですよね!?」

「あははは……でも別に僕、ドームが覆い尽くした程度で出れなくなるわけがないよ」

「「「っ」」」


 おそらくこれが大精霊。全員楽しげに、されど威圧的なシルフィードの声音に思わず息を呑む。そうして全員の注目を集めた彼女が、カイトの肩をとんとんと叩いた。


「はぁ……あいよ」


 シルフィードの要請を受けたカイトが、彼女が出現した切り株に一瞬で移動してその上に立つ。そうして木漏れ日を受けて正しく勇者とそれと共にある大精霊の姿を見せつけながら、シルフィードが告げた。


「僕は風を司る者にして、風そのもの。風はいかなる場所でも僅かな隙間が存在する限り入り込むし、いかなる隙間であれ存在するのならばそこから出て行くことが出来る。別に転移術なんて僕は必要ない。僕は風である以上、どこにでも移動出来るんだから」

「……いえ、ですがそれはおかしいです。いくら風だからと岩と氷の壁で覆われて抜け出ることなんて。そんなことが出来てしまえば風なぞ意味がない」

「自然界ではね」


 桜の指摘に、シルフィードはあくまでそれは自然の話なのだと口にする。そうしてその言葉で、どうやら煌士が理解したようだ。


「ま、まさか……」

「どうしました?」

「い、いえ……大精霊様! お聞かせ願いたい!」

「いいよ」

「それはつまり、原子核……即ち陽子や中性子の隙間さえ抜けられるということですか!?」

「……」


 にたり。煌士の問いかけに、シルフィードは無言で、されど獰猛に笑う。それは正しくそれこそが答えだと言わんばかりであった。が、これにアルやリィル、一部勉強をサボっていたのだろう地球側の面々が首を傾げた。


「……ようし? ちゅうせいし?」

「あはは。アル達はわからないね……浬ちゃん達は後でカイトからお説教かもだけど」

「うっ……」

「はぁ……」


 一応中学の物理の範囲ではあるが、浬は部活に邁進していたことで勉学が疎かになっていた側面は否めない。というわけで呆れた様子のカイトに、浬はかなり恥ずかしげだった。というわけでそんな彼女にカイトは首を振る。


「まぁ、オレもお前らの時代どうだったかと言われりゃ……あ、オレもう勇者時代か」

「そうだねー。まぁ、原子というのはかなりざっくばらんな言い方をすると物質を構成する元素……僕ら属性の元素とはまた別。物理学的、科学的な側面からの元素の最小単位。原子核というのはその原子の核で、陽子と中性子から構築される存在かな。君達の身体を構築する全てに存在しているよ」

「「は、はぁ……」」


 何かはよくわからないが、とりあえずそういうものらしい。アルやリィルはかなり混乱しながらも、ここまでの話を理解出来たようだ。というわけでアルが問いかける。


「あの……ですがそれが?」

「ああ、ごめんごめん。それで原子核というのはこうやって中心に核があって、その周りを電子がくるくると回ってるわけだね……で、僕はこの隙間があれば抜けられます」

「「……?」」


 それは隙間があるのだから風の権化たる風の大精霊様ならば抜けられて当然なのでは。アルもリィルもこの原子核のサイズが理解出来ないからこそ、シルフィードの言葉がおかしいとは思えなかったらしい。煌士達の驚きに共感が出来ず、首を傾げるばかりだ。


「アル……違うんだよ。もしこれで通り抜けられるなら、盾なんてなんにも意味ないだろ。あれは目に見えない、とかじゃなくてもっと小さいものなんだよ」

「でも隙間はあるんでしょ? 実際あのでんし? とかいうのが回ってるぐらいなんだから」

「……まぁ、そうなんだけど」

 やはり何を驚くのかがわからないアル達にソラも困ったような顔を浮かべる。そんな彼らに、カイトは笑った。


「あはは……ここらわからないからこそ直感的に考えるしかないアル達の方が理解出来たのかもな」

「そうなのかもね……でもま、そういうわけだから……僕やカイトにとって物理的な牢獄はなんの意味もない。転移術を封じられようと、僕らは抜け出てしまえる」

「カイトも?」

「カイトは契約者。しかも歴代の契約者達の中でも最高位の使い手と言っても良い。君らが考えているよりずっと深い領域で風と一体になることが可能だ」


 ソラの問いかけに、シルフィードは楽しげに笑う。まぁ、そこらは流石に秘中の秘だし今まで投獄されても大精霊の契約を持ち出してまで脱獄が必要な状況はなかったため、誰も知らなかったのであった。


「さ、どうする? 僕を閉じ込めることは出来ないよ」

「…………はぁ。一回サレンダーでお願いします」

「どうぞー。またの挑戦、お待ちしておりまーす」


 かなりの熟考の後、トリンの様子を見て彼が肩を竦めたのを受けてソラがシルフィードへと今回の挑戦は諦めることを申し出る。流石に封殺も無理、自分達が考えている常識なぞ通用しない様子では一つの最悪まで考えられたのだ。というわけで、一度作戦を練り直すべく一同は撤退することにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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