第3832話 様々な力編 ――最後の試練――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうして中央ルートもおおよその攻略を終えて、最後の部屋の一つ前まで到達。そこではなんとカイトが門番として立ちはだかるも、数日掛けてこれを攻略。翌日大休止を挟んで、ついに最後の部屋へとたどり着いていた。
「「「……」」」
長かった試練もこれが最後。一同はカイトの玉座の裏にあった扉を前に無言だった。というわけで全員が暫く無言で立ち尽くした後、ソラが意を決して問いかける。
「この先が最後なんだよな?」
「ああ。この先が最後だ……そしてこの試練だけはまぁ、決まり決まったものでもある」
「そうなのか?」
「ああ」
少しだけ驚いた様子のソラに、カイトは笑う。どうやらこの最後の試練だけは決まっていて、隠す必要もなかったらしい。
「ま、最後の試練だけは考えるまでもないし、どこでも誰でもそれだけは考え付く。何より当たり前でもあるしな。だからこの先だけはどこの試練でも一緒なんだ。いや、内容はその挑戦者によって違うけどな」
「? どういうことなんだ?」
「ま、入ればわかるよ。いや、開ければかな」
どうやらこの先は入る程度ならば危険性はないらしい。カイトの言葉からソラはそれを理解する。というわけで彼は一度だけ後ろを見て、全員が同様に少しだけ困惑を浮かべているのを見て、少しだけ逡巡。しかしカイトがこう言っている以上と意を決して扉を開く。
「っ」
開いて早々、ソラは思わず息を呑む。開いて感じたのは、今までで一番の神聖さとでもいうべき気配だ。もしくは清浄さでも良いかもしれない。最奥にあった部屋はかなり巨大な木々をくり抜いて出来たかのような場所で、地面も木だ。
その中央には小さな切り株が一つだけあり、まるでそれを照らすかのように木漏れ日が差し込んでいる。どこか人類には触れてはならぬ気配さえある聖域。それが見ただけでわかるような場所であった。
「ここは……なんだ?」
「最後の部屋だ。ラスボス部屋でも良いかもな」
「ラスボス……」
こんな部屋で戦わされるのか。ソラはあまりの清浄さに思わず気後れさえ生じさせていた。ここで戦うことそのものが何かの罪なのではないだろうか。そう思わせるほどの清浄な雰囲気に、ソラはカイトの言葉が逆にどこか現実味のないものに感じられた。
「……で、そのラスボスってのは何なんだ?」
「それはもちろん、僕だよ」
ソラの言葉に応じたかのように、切り株に降り注いでいた木漏れ日が一瞬だけ光を強め、その中からシルフィードが切り株の上に姿を見せる。ただし、その姿はいつもと異なっていた。
「「「っ」」」
明らかにいつもと風格が異なっている。全員がシルフィードが、否、大精霊達がいつも見せていたのは単に人を威圧させないようにそう振る舞っているだけなのだと理解する。謂わば大精霊と人の格の違い。それを改めて理解する。
そしてそんな彼女だ。衣服もいつものボーイッシュな少女が好んで着用するようなパンツコーデではなく、精霊を名乗るにふさわしい薄手の布で出来た何かの装束のような衣服だ。
それはエルフ達の神官が着用する薄手の、風を感じられる衣服にも似ていた。それはシルフィードの愛らしさやら美しさを最大限引き立てるもので、彼女こそが大精霊なのだと見る者全てに理解させていた。
ただ素材やらはもはやシルクや麻など人類が想像し得るものではないだろうことだけが、ソラにわかることであった。
「久しぶりだな、その服は」
「君が試練に遊びに来る時は僕らもこれ、使わないからね」
「遊びに来る言うな、遊びに来る。一応は訓練だ」
とはいえカイトからすればそんな光景も見慣れたものなのだろう。彼だけは平然としていたし、振る舞いもいつものものだ。というわけで楽しげに笑うシルフィードとカイトであったが、すぐに気を引き締める。
「さて……それでさっきカイトも言ったと思うけども。大精霊の試練において一つだけ、絶対に変わらない物がある。全員共通で内容だけは異なるというところかな」
「「「……」」」
もうこの時点でおおよそは察せられているようなものだ。ソラを含め全員がシルフィードの言葉の先を理解しながらも、その先を待つ。そして試練の内容は案の定のものであった。
「最後の試練……それは全員共通で僕と戦うことだ。ただ試練によっては例えば僕らからの質問に答える問答の形式もあるし、僕らが直接別の形の試練を与えることもある。それこそ変わったのだと例えばどこかで生き延びるようにとかね」
おそらくこの生き延びるというのは単なるサバイバルとは違うものなのだろうな。ソラはなんとなくの直感だが、シルフィードの言葉にそう思う。そして実際そうではあった。
「あれはまぁ、ルナが好む試練だな。サバイバルは。あいつの試練が厄介なのはそこらがあるし」
「あれはね……まぁ、だからルナの闇の試練が一番危険と言われる要因でもあるし」
「だなぁ」
どうやらカイトもサバイバルの試練に挑んだことがあったらしい。だがその顔に浮かぶ盛大な苦笑いが、サバイバルが単純なサバイバルではないのだと理解させていた。というわけで苦笑を浮かべ合うカイトとシルフィードだったが脱線しかかった話をもとに戻した。
「ま、流石に僕の試練はそういうことはないかな……僕の試練は試練の中では一番オーソドックス。そしてここでの僕の選択は……まぁ、君たちにはわかるよね?」
楽しげに、そしてどこか挑発的にシルフィードが笑いながら右腕を上げる。その手の先には強大な力が宿っており、その意味を如実に知らしめていた。
「全員、戦闘態勢! 最後の一戦だ! 力を貸してくれ!」
「「「了解!」」」
ソラの号令に、全員が応ずる。そうしてそれと同時にシルフィードの指先から強烈な風が吹きすさび、最後の試練が開始されることになるのだった。
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