第3830話 様々な力編 ――決着――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
というわけで最後の部屋に続く門番として現れたカイトを突破するべく攻略を開始するソラ達だが、カイトは忍術・仙術という奇異な術を使って応戦。多種多様な術を利用するカイトの攻略は苦戦を極める。
そうしてなんとか分身の片方を撃破したソラと空也は木像を乗り越えて更に先へと進むも、やはりカイト相手に苦戦を強いられることになる。が、そんなところにトリンの策により木像を撃破した瞬らが合流。更に後方支援も受けられるようになり、ほぼ十全の形で戦闘を再開する。
「おっと……これは面倒になってきたな」
ある意味では最初と一緒だが、すでにカイトは分身二体を消費している。更には大剣は遠くにあり、印だけで全員と戦わねばならないようなものだろう。とはいえ、だからと油断出来るかと言えばそんなわけはないだろう。
「さぁて、最後の一戦だ。頑張ってみせろよ」
右手一つを操って、カイトは巨大な竜巻を生み出す。そうして容赦なく、ソラ達へとそれを解き放った。
「くっ!」
「はぁ!」
流石に相性の関係で、瞬達は思い切り吹き飛ばされそうになっていた。が、そこはソラが前に出て風の加護を展開。更に魔力で巨大な盾を生み出して、即席の壁を編み出した。
「すまん! リィル! ここからは一気に行くぞ!」
「はい!」
すでに近接戦闘が可能な域にまで距離を縮めている。となれば後は一気に駆け抜けるだけだ。瞬もリィルもソラの盾の裏側で一瞬だけ呼吸を整えると、そのまま気合を入れる。そうしてカイトの風の投射が終わったところで、ソラが魔力の盾を解除。瞬達もまた一気に駆け出した。
「おぉおお!」
「……」
「っ」
にぃ、と笑うカイトに瞬は彼が何かを仕掛けたのだと理解する。とはいえ人数差もあるし、大剣もない。攻めきれると彼は判断し、更に前へと踏み込んだ。だがそんなところに、ソラの声が飛んだ。
「っ、先輩!」
「っ!」
何か重量物が自分の雷のセンサーに触れた。瞬はそれが何かを確かめるよりも前に、大きく跳躍。カイトの背面にある壁へと足を掛ける。
「大剣!? っ!」
「そーいうこと」
カイトの右手にすっぽりと収まった大剣を見て、瞬は半壊した木像を見る。だが、木像はすでに消失していた。別に大剣は失われたわけではない。分身体の消失とともに木像の腕の一つに突き刺さっていたが、その木像もすでに半壊し顕現させる意味を消失していた。なのでカイトは木像を消失させると同時に風を放って大剣を引き寄せたのだ。
「あの竜巻はとどのつまり目眩ましか!」
「そういうことだ……はぁ!」
「くっ!」
瞬と合わせるように攻め込んでいたリィルに向け、カイトが大剣で斬撃を放つ。そうして切り上げる動作で彼女を弾いて、カイトはそのまま大剣を放り投げると印を結ぶ。
「<<風遁・業風>>!」
カイトが口決と共に大きく吸い込んだ息を吐く。それは凄まじい勢いの風を発すると、更にリィルを押し出した。そしてその先には。
「っぅ!?」
飛来するリィルに、空也が思わず目を見開く。攻撃ならまだしも、仲間が吹き飛ばされてくるのだ。一瞬の逡巡は無理もないことだろう。
「空也くん!」
「っ、申し訳ありません!」
桜の声に、空也は少しだけ跳躍。リィルを後ろへと流す。桜の声掛けは魔糸で自分が受け止めるという意味であった。というわけで跳躍した彼に対して、カイトは更に印を結んでいた。が、これに瞬が壁を蹴ってカイトの正面左手側へと舞い降りる。
「させん!」
「残念……この印は先輩用だ」
「っ!?」
誘われたか。瞬は地面が隆起するのを受けて、自分がこの行動が空也へのものだと勘違いさせられたのだと理解する。そうして、瞬の身体が宙を舞う。
「っ!」
宙を舞う瞬と入れ替わりに舞い降りる大剣を掴んだカイトに、空也が驚きを露わにする。正しく全部を読んで、数手先まで考えての攻撃。達人というしかない行動に対して、しかし空也は臆せず更に前へと踏み出してカイトへと切り込んだ。
「はぁ!」
「はっ!」
がぁん、という大きな音と共に、刀と大剣が激突する。とはいえ、これにカイトはわずかに目を見開いた。
「ほぉ……加護の多重起動。それも基本の四重か……無茶だぞ」
「承知の上です!」
火、風、水、土。その4つの属性の加護を同時に起動し、速度と火力、更には重さまで手に入れた空也の斬撃は十分にカイトの想定する上限値に届いていたようだ。だがそれは謂わば瞬の<<雷炎武>>を更に倍加したようなもので、負担は倍ではすまなかった。
「っ、<<雷炎武・禁>>!」
「おっと……」
どうやら空也の無茶を見て取って、瞬もここが決め時と判断したようだ。四肢にルーンを浮かべて一気にカイトへと攻め込む。
「俺も、居るぞ!」
「あらら」
これは少しマズいか。カイトは更に攻め込んできたソラに、わずかに苦笑いを浮かべる。そして更に。
「はぁああああ!」
「……」
上から雄叫びを上げて舞い降りるのはアルだ。彼は氷竜を消して装備の重量やら飛空術まで使用して、一気に勢いを増して降下。カイト目掛けて一気に攻め立てる。
「カード!」
「吹き飛ばされてもこちらで!」
「……」
浬がカードを展開し、桜が周囲に魔糸を展開。更に由利と海瑠が無言でこちらを狙い定め、侑子と鳴海の二人がそれに火力支援と弾幕による牽制。本当に全部をここに投じていた。これにカイトは少しだけ逡巡し、肩を竦めた。
「「「……は?」」」
『終わりだ、流石にな。よくやった』
突然消えたカイトと声と拍手だけ響く現状に、全員が困惑を露わにする。
「え? 終わり!? 攻撃叩き込む直前だってのに!?」
「あははは……流石に全員で攻められて分身まで潰されてりゃオレもどうしたもんか、という感じにはなっちまう。それに、オレはあくまで門番。門番がこれ以上出張ってもな」
「あ、お兄ちゃん」
「おーう……ああ、このオレは本物だからな」
空間が裂けてその先から現れたカイトに、浬が気が付いた。どうやらこれで本当に終わりだったらしい。まぁ、あの状況下でしかも全員が切り札まで切っての一斉攻撃は対応出来るだろう。だが流石のカイトも試練を大きく逸脱すると考えたのだろう。というわけで、若干あっけない形ではあったものの、ラスボス前最後の戦闘は終わりを向かえるのだった。
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