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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3829話 様々な力編 ――最終戦――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。

 というわけで最後の部屋に続く門番として現れたカイトを突破するべく攻略を開始するソラ達だが、カイトは忍術・仙術という奇異な術を使って応戦。多種多様な術を利用するカイトの攻略は苦戦を極める。そうしてなんとか分身の片方を撃破したソラと空也は、木像を乗り越えて更に先へと進んでいた。


「よーやくか。時間掛かりすぎだ」

「お前は面倒くさすぎんだよ」

「あははは。試練がそう簡単に突破されても困るだろう。とはいえ、それもオレで最後だ」


 ソラの指摘に対して、カイトは笑いながら印を結ぶ。右手一つ。だがこのカイトはカイト本人が動かしている個体だ。先程の分身より更に強いことが考えられた。


「……大剣、使わないのか?」

「大剣は分身が使っている。先輩達が倒れた後か、それとも負けた後に戻す」

「……」


 カイトの言葉に、ソラは一度だけ視線を動かして木像の上で戦う瞬達を見る。どうやらまだ交戦中というか、こちらは防御に長けた個体らしい。手数こそないが、だからこそ堅実な戦い方をしている様子だった。


「……」


 まだ無理そうか。ソラはおそらくカイトが意図的に足止めをしているのだと直感的に理解する。とはいえ、ならばこのカイトは印しか使わないはずで、最大の脅威である木像も自分達の後ろ。なんとかなりそうな状況ではあった。というわけで警戒しながらも攻め時を見定めるソラへと、カイトは口を開いた。


「一応、ルールのおさらいだ。オレは分身だが、右手一つしか使わん。またここからも動かない。そのルールは逸脱する予定はない」

「分身なのに?」

「まぁ、そこはそれだ。何より左手まで使えば勝ち目はなくなる……あの木像を一人で作れるんだが、やって欲しいのか?」

「……流石にやめてくれ」


 論より証拠とばかりに左右別々に動くカイトに、ソラは首を振る。おそらくだが、左右で別々の印を結んでいるのだと察せられた。言うまでもなくこれ以上難易度を上げられたらまた攻略方法を考え直さないとならないだろう。これ以上は御免被りたいところであった。


「だろうな……ここまで来ると仙術やら忍術やら、果てはチャクラまで見通す必要が出てくる」

「チャクラ?」

「インドのヒンドゥーに端を発する技術だ。チャクラも気の一種だな……こちらは道力よりも気により近い」

「……もうやめてくれ……」


 流石は地球においても数多英雄や神々と繋がる男。しかも節操もなくそれらの技術を取り込んでいくのだ。まだまだあるらしい手札の数々に、ソラはがっくりと肩を落とす。


「あはは……他にも神気……神の気やら色々とあるぞ。見せて欲しけりゃ使ってやるが」

「やめてくれ、マジで」


 これ以上手札を増やされようものなら自分達に勝利の目がなくなってしまう。ソラは半ば本気でカイトの言葉に待ったを掛ける。ただでさえカイトを相手にする以上は山程の手札を想定しなければならないのだ。

 今試練として成立しているのはあくまでもカイトが手札を絞ってくれているからだ。これでもし未知の手札を山程切ってくるのなら、攻略にどれほどの時間を要するかわかったものではなかった。


「だろうな。神の気まで至ると神気を感じられるようにならんとどうしようもない……ああ、そういう話ならやっても良かったか」

「なんで!?」

「いや、お前神剣使ってるんだから神気の一つや二つ感じられるようになっとかんと駄目だろ。てかマジのベストは神気を使いこなして自力で<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を回復させられるようにならんと」

「うぐっ!」


 カイトの指摘に、ソラは薄々勘付いていたものの目を逸らしていたことに思わず言葉を詰まらせる。というわけで、おずおずといった塩梅でカイトへと問いかけた。


「う、薄々勘付いちゃいたんだけどさ……やっぱあるよねー、神の力を回復させる手段って」

『当たり前だ』

「だわねー……」


 あはははは。<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の返答に乾いたような笑いをソラが発する。


「はぁ……でも今はやめてくれ。今やられたって対応できんよ。てかそれは俺が対応出来たところで空也に意味ねーだろ」

「そうだな……ま、そんなわけで。今まで通り忍術と仙術を使って相手してやる」

「ふぅ……」


 なんとかここで手札の追加なぞという最悪の展開だけは避けられた。ソラはカイトの様子にひとまず胸を撫で下ろす。そうして胸を撫で下ろしたところで、カイトは告げた。


「ま、そんなわけだからとりあえず頑張れ……木像で支援も受けられん以上、二人で頑張るしかないからな」

「「っ!」」


 カイトの言葉が終わるや否や現れた無数の風の手裏剣に、ソラも空也も揃って剣を構える。そうしてその直後、無数の風の手裏剣が飛来する。


「ちぃ! やっぱこっちのがヤバいか!」

「<<風>><<雷>>よ!」


 ソラが黄金色の斬撃を放って風の手裏剣の多くを薙ぎ払った直後。空也が加護を二重に起動して一気にカイトへと距離を詰める。カイトまでの二人の距離はおよそ10メートルと少し。多少の身体強化が使えるのなら一歩で肉薄出来る程度しかない。もちろん、それは何ら妨害がないのならという話でしかないが。


「<<火遁・炎上網(えんじょうもう)>>」

「っ、<<火>>よ!」


 自身の眼の前に広がった火の壁に、空也は迷いなく火の加護を展開。ある程度のダメージは承知で一気に突っ込む。すでに戦いの開始からかなりの時間が経過している。分身体とこの玉座のカイトとの交戦までに回復薬は一本口にしておいたが、それで魔力が全回復するわけではない。何より体力が回復するわけではない。長期戦は望めなかった。とはいえ、そんなものはカイトからすれば見えた話だし、この手順は一番見えた流れだ。故にカイトはすでに次の一手を終えていた。


「っ、空也!」

「っ」

「だが遅い……<<風遁・風神掌(ふうじんしょう)>>」


 カイトの次の手札に気付いてソラが声を上げたことが功を奏した。空也の脳裏にも木遁をカイトが多用した理由があったこともあるだろう。故にカイトが火遁で温められた空気を利用した風遁で生じた風の手のひらが襲い掛かるのを理解することが出来た。


「はぁ!」


 受け止められないし、そんな生ぬるい攻撃ではないだろう。それを察した空也は炎の中に身を屈めると、そのまま<<三日月宗近>>を地面に突き立てて柄をしっかりと両手で握りしめる。そして直後、彼を風の拳が襲いかかった。


「ぐっ!」

「<<雷遁・落雷(らくらい)>>」

「っ」


 追撃が仕掛けられるだろうことは読めていた。空也は読めていればこそ、信じて敢えて身を屈めたまま動かない。そうして上空から巨大な雷が空也目掛けて降り注ぐが、その直前。巨大な盾が空也へと覆い被さる。


「容赦ねぇな、お前!」

「当たり前だ……さて、じゃあこれはどうする?」

「っ」


 そいつはまさか。ソラはカイトが浮かべる黒い土の塊にも見えるそれに、思わず顔を顰める。このタイミングかつこの状況で問いかけた以上、答えはそれだろう。ソラはそう考え、次の一手を必死に絞り出す。そしてその答えはすぐに思い付いた。


「っ、空也! あれはお前に頼む!」

「っ、はい!」


 おそらくあれなのだろう。空也も直感的にそう認識していたが、だからこそ今のソラに対応可能な手札がない事を理解できたようだ。そしてだからこそ、兄も同じ考えに至っていたのだという認識も得られた。故にカイトが黒い粘土のような塊を動かした直後に、空也は立ち上がって<<三日月宗近>>を構える。


「<<水>>よ!」


 水の加護を展開し、空也はその力を刀に宿す。そうして水刃が放たれると同時に、黒い粘土のような塊もまた空也達へと飛翔。両者はその道中で激突し、水刃は黒い粘土のような塊に激突して弾け飛んだ。


「兄さん!」

「なんとかやってみま!」


 自分に出来るのはここまで。そう口にする空也に、ソラは屈んだ彼を乗り越えるように前に出る。


「<<地母儀典(キュベレイ)>>!」

『無茶を言うわね』

「やってくれ! 頼むから!」

『ふふ』


 ソラの頼み込むような言葉に、<<地母儀典(キュベレイ)>>が楽しげに笑う。そうして<<地母儀典(キュベレイ)>>から黄土色の光が迸り、黒い粘土のような塊を包み込む。


「おら、返すぜ!」


 黄土色の光が黒い粘土のような塊を包みこんだ直後、まだ輝きを失わない内にソラはそれを引っ掴んで野球ボールのようにカイトへと投げ放つ。


「いらんよ。<<火遁・火花(ひばな)>>」

「っ」


 マジか。ソラは自分が投げた直後に生じた無数の火の花に、咄嗟に盾を構える。そして直後だ。ソラが危惧した通り、黒い粘土のような塊は火の花へと激突。巨大な爆発を引き起こす。


「やっぱ火薬かよ! せめて木遁使ってからにしろよ!」

「そんなルールはない……で、二人共屈んだな?」

「っ! マズい、空也!」

「っ!」


 何をしようとしているかはわからなかったが、ソラは何かを危惧したらしい。立ち上がる動作を利用して大きく跳躍する。そんな兄に一歩だけ遅れた空也だが、そんな彼が同じように跳躍しようとした瞬間。その足場が大きく蠢いた。


「<<土遁・土流(どりゅう)>>」

「うわぁ!」


 なんとか間一髪のところで跳躍そのものは出来た空也だが、足をかなり引っ張られて転けるような姿勢になってしまっていた。もちろん跳躍の高さも全くで、地上から2メートルほどと魔術による身体能力の強化を鑑みれば跳躍していないも同然というところでしかなかった。

 というわけで地面に落ちて後は潰れたカエルのようになるだけ、というところに飛空術を起動して飛翔していたソラが手を伸ばす。


「空也!」

「す、すみません!」

「ふぅ……」


 なんとか地面に落ちるよりも前に空也を空中へと引っ張り上げて、ソラは思わず胸を撫で下ろす。


「無茶苦茶ですね……わかってはいましたが」

「まぁなぁ……お前、飛空術は使えないんだよな?」

「ええ……流石にまだ」

「そうか……」


 ああやって足場を動かされちゃどうしようもないな。ソラはまるで波のように蠢いた地面を思い出し、少し苦い顔だ。というわけで次の一手を考え込んでいたそんな瞬間。二人の下を、巨大な純白の光条が通り過ぎる。


「「は?」」

「は?」


 ソラ達の困惑と同様に、カイトもまた困惑を僅かに浮かべる。そんな様子で二人も後ろを振り向いてみると、後衛の桜達と自分達を隔てていた木像の下半身が大きく消し飛んでいた。そしてどうやら、半身が崩壊したことにより木像も形を維持出来なくなったらしい。


「な、何があったんだ!?」

『い、いやぁ……回復薬がぶ飲みしてもらった上で充填率マックスで浬ちゃんに撃ち込んでもらったんだけど……ま、まさかここまでの威力とは……』

「え、えぇ……?」

「よっしゃ!」


 どうやらこの一撃は浬のカードによるものだったらしい。各属性のカードは何枚かあり、その枚数ごとに威力が高くなる。なので今回は多少桜らに無理が生じることを承知で、ソラ達の支援が出来るように一か八かで火と銃のカードをすべて投入。そのすべてに魔力を100%まで注ぎ込んだとのことであった。


「そ、それよく出来たなぁ……確かにそれなら突破も出来るけど……だがそれでも厳しいと思うんだが」

『まぁ、なんというかですが……あの、いえ……』

「あー……いや、まぁ……うん。ウチの妹様、乗せられやすいから……」


 何があったかは定かではないが、うまいことトリンが浬を誘導したのだろう。魔力とは意思の力だ。なので意思が強くなれば強くなるほどその力も強くなる。なので同じ充填率であっても、同じ威力とは限らなかった。そしてそのおかげもあり、もう一つの戦いも終わっていたようだ。


「ふぅ……ソラ」

「先輩……回復薬とか大丈夫っすか?」

「魔力の残量としては少し心許ないが……今一気に行くのがベストだろう」

「了解っす……よし! やるか! 空也、落とすぞ!」

「はい!」


 瞬らもこちらに合流したし、後ろの浬らの支援も望めるようになったのだ。なんとか勝ち目はありそうだ。ソラはそう判断。そうして、玉座のカイトへと総攻撃が開始されることになるのだった。

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