第3828話 様々な力編 ――攻勢――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
というわけで最後の部屋に続く門番として現れたカイトを突破するべく攻略を開始するソラ達だが、カイトは忍術・仙術という奇異な術を使って応戦。多種多様な術を利用するカイトの攻略は苦戦を極めていた。
そうしてなんとかカイトが木遁を多用する理由を解き明かしたことにより、ソラ達はついに攻勢に乗り出す事になっていた。
「おぉおおおお!」
木遁をカイトが多用していた理由。それはソラ達の攻略メンバーの内、攻勢に出られる面子が得意とする属性が火が多いからだ。そして彼らを起点として木遁に火が有効と考えて対処するだろう、という想定をしていたからだ。
というわけでそれにまんまと引っかかっていたソラ達だが、それに気付いた後は押し切るだけだ。なのでソラは自分達が木遁を燃やした際に生ずる風を利用して巨大な風の踊り子を生み出すと、再び巨大な木像へと攻勢を仕掛ける。
「さて……」
ソラの風の踊り子で木像が砕けるのを見ながら、玉座のカイトは笑う。とはいえ、砕けても再生する強い生命力が木遁の強みだ。そして木遁には風も使っている。ソラの力量も相まって、完全撃破は難しいと考えられた。
「……」
どうしたものか。攻勢を仕掛けてくるソラ達を見ながら、カイトは少しだけ悩ましげに笑う。と言ってもこれはソラ達との戦い方を考えているわけではない。攻勢に出ている内のソラ・空也組と瞬・リィル組のどちらにどちらの分身体を差し向けるべきかと考えているだけだった。そうして暫く。結論が出たらしい。玉座の自身は座ったまま、残る二体を定めた方角へと差し向ける。
「っ、来たか」
「おう」
巨大な木像を足場として先に進んでいたソラ達の前に現れたのは、何も持たず忍術や仙術を基本として戦闘を行うカイトだ。そんな彼に、ソラは苦笑する。
「何も持ってない方を持ってくるとか俺も舐められたもん……とか昔は言うんだろうけどなぁ……」
「その様子だと、こっちのが厄介だと理解してはいるみたいだな」
「おう」
「そ、そうなんですか?」
自分の方に厄介な方を持ってこられた。そう理解していた様子の兄に、空也が目を丸くする。しかしこれを理解していなかったのはどうやら空也だけだったようだ。というわけで、相棒である<<三日月宗近>>が教えてくれた。
『そうだ。一見すれば大剣を持つ方が戦闘力が高いように思えるが……その実、こちらのカイト殿の分身が厄介だ』
「そうなのですか?」
『ああ……体術はもちろん、何も持たぬからこそ数多の札を有している。忍術、体術、仙術……どれを取っても一流と言える領域だろう。そして現状だ。おそらく木遁だけでは留まらんだろう』
「……」
なるほど。<<三日月宗近>>の指摘に、空也も道理を見る。そもそもカイトが木遁を多用していたのはソラ達の手札から攻撃を誘導するためだ。
なのでその目論見が露呈した今、それを多用する意味なぞどこにもない。というわけで自分の考えと一緒だった<<三日月宗近>>の言葉に、ソラは一つ頷いて説明を引き継ぐ。
「そういうことだな……だから多種多様な、カイト本来の戦闘方法に近い戦闘をしてくる。手札が近接戦闘と補助的に忍術が、というよりよほど厄介だ。まぁ、一つこちらに利点があるとすると……」
にたり。すでにお前の攻略方法も考えが付いているぞ。カイトを見ながら、ソラは余裕の笑みを浮かべる。先に彼がこちらの忍術をメインに戦うカイトの方が厄介と考えている時点で、その攻略方法は考えていた。なのでの笑みであったが、それに対してカイトは楽しげだ。
「ほう……それはまさか、と思うが……」
「印を結ばないと術を」
「<<風遁・風魔手裏剣>>」
「……ちょい待ち!? 印を結ばないと術は使えないんじゃないのか!?」
「誰がそんなことを一度でも言った!?」
楽しげに笑いながら、巨大な手裏剣をカイトが投擲する。今までずっと印を結んで忍術を行使してきたのだ。それが突然印を結ばず攻撃してくるのである。ソラが声を荒げたくなるのは無理もなかった。
「ちょ、マジかよ! 敢えて出来るけどやらなかったパターンかよ! ふっざけんな! 空也! やっぱ撤回!」
「あ、あはははは……」
大慌てで風の手裏剣を切り捨てる兄に、空也は遊ばれているなぁ、と苦笑いだ。だがそんな彼が笑っていられるのもここまでだった。
「空也、お前も笑っている場合じゃないぞ! 想像より更に上にやべぇ!」
「<<土遁・螺旋手裏剣>>!」
「っ」
印を結ばず口決一つで出現した金属の巨大な手裏剣が自らに投ぜられたのを見て、空也が刀を振るう。そうして澄んだ音が鳴り響いて弾き飛ばされる。
「火遁・土遁……<<熔遁・緋燕弾>>!」
「「っ!」」
黒黒と燃え盛る黒球に、ソラも空也も目を見開く。明らかに普通の炎ではないし、耐えられる温度でもないだろう。そう直感的に理解する。そうして放たれる黒球は一瞬で炎を纏って、まるで燃え盛る燕のような形となり二人に向けて分裂する。これに空也は直感的に刀を構える。
「っ」
『やめろ! これは受け止めてはならん!』
「っぅ!?」
何かを察したらしい<<三日月宗近>>の助言を受けて、空也は足場にしていた木像の腕を蹴ってその場を離脱。更に別の木像の腕の側面を蹴って元の場所へ跳躍するべく黒球が通り過ぎた所を見て目を見開いた。
「!?」
『熔遁は火遁と土遁の複合だ。今の燕は謂わば溶岩の燕とでも考えよ。お前の兄君の神剣であれば受けられようが、流石にお前の力量ではいささか厳しい。ただでさえ難しい熔遁を印もなく、それも分身体で使うか。流石としか言いようがないな』
「心します」
この真面目さと素直さは空也の利点だ。故に彼は<<三日月宗近>>の助言を即座に受け入れると、熔遁は要注意と心に刻む。
その一方。こちらは助言もなく真正面から受け止めたソラは<<偉大なる太陽>>の力でなんとか溶岩弾を抑え込んだわけだが、その熱波に煽られ盛大に顔を顰めていた。
「……お前も何か助言ねぇの?」
『忍術にせよ仙術にせよ地球……いや、日本か? そちらに端を発する技術だろう。小僧がわからん物がわかるわけがあるまい』
「すんません」
そうっすね。こっちが悪いっすね。どこか不貞腐れた様子の<<偉大なる太陽>>にソラが内心で謝罪する。まぁ、助言出来なかったことは当人としても少し不満ではあった様子ではあった。とはいえ、そんな愚痴の一つも零す時間なぞカイトが与えてくれるわけがなかった。
「土遁・風遁……<<雷遁・雷切>>!」
「っ、<<地母儀典>>!」
何かはわからないが、間違いなくこれは受けてはならない。そう判断したソラが懐に忍ばせていた<<地母儀典>>を展開。土の壁を生じさせる。そうして生じた土の壁に、雷の刃が激突した。
「!? マジかよ! 冗談きっつ!」
ただでさえ雷の速度で飛来する刃だというのに、断面が溶けて溶岩化しかけていた。そんな光景にソラは思わず目を見開き、防御しなかったのは正解だったと胸を撫で下ろす。と、そんな彼にカイトが問いかける。
「どうした!? 攻めてこないと勝てないぞ!」
「じゃあ攻めさせろや!」
「はぁ!」
ソラの抗議の声と同時に、木像の腕の側面を蹴っていた空也がカイトへと襲い掛かる。まぁ、ソラもこれを予定していたわけではないが、体よく陽動にはなったようだ。というわけで肉薄してきた空也に、カイトは左手に苦無を生み出してその斬撃を防ぐ。
「おっと」
「よっしゃ! 空也、よくやった!」
「兄さん、そういうのは今は良いので! 私一人では支えられません!」
「おうよ!」
皆まで言うな。そう言わんばかりに、ソラは土の壁が瓦解していくのを尻目にカイトへと肉薄する。そしてそうしている間にも空也は数度打ち合っただけでカイトに押し負け、吹き飛ばされる。
「くっ!」
「流石に追撃はさせねぇよ!?」
「頑張れお兄ちゃん!」
「きめぇこと言うな! って、うおっ!」
先程の空也への打ち込みの数倍の速度で疾走する苦無に、ソラは大慌てで盾を前に出す。
「っ」
軽い。やはり武器が苦無という軽い武器で、何よりカイトもこの分身体はあくまで忍術などをメインと考えているがゆえにだろう。速度は目を見張るものがあるが、攻撃の威力としては十分に耐えられるものだった。というわけで受けられると判断したソラが<<偉大なる太陽>>を構える。
「兄さん!」
「っ」
咄嗟に反応出来たのは、空也が咄嗟に声を上げたからだ。構えた<<偉大なる太陽>>で攻撃に移ろうとしていたソラだが、空也の声に攻撃を停止。敢えて攻撃をカイトの繰り出すだろう攻撃に当てることにする。そしてその判断が正解だった。
「<<風遁・大旋風>>!」
「っ、<<風>>よ!」
盾ごと押し流そうとする突風に、ソラは風の加護を起動。即座に相殺させると、更に<<偉大なる太陽>>で斬撃を放つ。
「おっと!」
「はぁ!」
ソラの斬撃を後ろに跳躍することで回避したカイトへ、空也が更に追撃を仕掛ける。そうして着地と同時に斬撃が迸るが、やはり技術であればカイトが圧倒的。着地の衝撃なぞほぼないが如くに姿勢を整えると、苦無でその斬撃を受け止める。
「っ、はぁ!」
あくまでもカイトの動作は受け止める。攻撃したわけではない。故に空也は即座に次の剣戟を放つと、流石に今度はカイトの返しにも少しの力が乗っていた。
故に空也の刀がわずかに弾かれる形となり、空也の次の剣戟に遅れが生ずる。これを数度繰り返した結果が、先程の弾かれるという結果であった。が、今度は流石にそうはならなかった。
「おらよ!」
「っと!」
左手の苦無だけで空也と応戦していたカイトであったが、流石に苦無一つでソラと空也同時に相手は難しいようだ。ソラが肉薄してきたのを受けて、右手で印を結ぶ。そうしてそれを受けて木像が動き、無数の腕の一つがソラに向けて振り下ろされる。
「っ」
『ソラ。こっちで腕は始末する。そっちは突破を』
「助かった!」
振り下ろされた木像の腕が弾け飛んだのを見て、ソラはこれが由利だか浬だかの支援攻撃だと理解。自身は更に一歩前に踏み出す。これにカイトは楽しげに、苦無に込める力を少しだけ増した。
「おっと……っとぉ!」
「っぅ!」
「はぁ!」
先程よりも弱くはあったな。ソラは空也の剣戟を弾いた強撃が先程空也を吹き飛ばしたより力が弱かったことを理解していた。というわけで今が攻め時と判断。ソラは多少の無茶は承知で、一気にカイトへと襲い掛かる。
「<<土遁・石礫>>!」
「っ」
ちょっと甘く見たかも。ソラは障壁に激突する無数の小さな石片に顔を顰める。しかしソラはそれらを無視して、更に突き進む。
「こういう時! 重武装は便利なんだよ!」
「そうか!」
カイトまで肉薄したソラが<<偉大なる太陽>>を振り下ろす。それにカイトも苦無を合わせるが、流石に無理があったようだ。
「っ」
少しだけ苦笑いがカイトに浮かぶ。なんとか一撃は耐えられ離脱する時間はあったようだが、ソラの攻撃を受け止めた苦無は半ばから砕けていた。というわけで苦無を手放し、空中でカイトは印を結ぶ。
簡易な術ならば印なしでも出来るが、難しい術は無理に設定している。このままでは攻め込まれる以上、ある程度の強力な札を切る必要があった。
「はぁ!」
「火遁・水遁……<<氷遁・霜降>>!」
「<<火>>よ!」
先程と同様に着地の瞬間を狙い定めて襲い掛かる空也に白いモヤが襲い掛かるも、それが自身の活力を奪い動きを鈍らせるものだと空也は冷気で即座に理解。火の加護を使用すると、そのまま更に前へと踏み込む。
「<<土遁・金切>>!」
「っ!」
「おぉおお!」
展開されたハサミのような二枚の金属の刃に、一瞬空也は迷いを生じさせる。だが流石に両方の対処は無理と判断して、後ろへと跳躍。そうして二枚の金属の刃が正しくハサミのように閉じられようとしたその瞬間。ソラがその間に強引に割り込んだ。
「やれやれ……流石にウチのバカどもが作る盾は硬いな。よくやった」
「はぁ……後は本体だけか。流石に分身おかわりはないよな?」
「ああ……じゃ、後は最後の一歩だ。頑張ってくれ」
流石のカイトもオーアら自分お抱えの技術者達が拵えた盾を即興で編んだ術で切り裂けはしなかったらしい。そしてソラもその防御力を信じて突っ込んだのだが、それが功を奏したようだ。
そうして<<偉大なる太陽>>で貫かれたカイトはまるでその存在そのものが最初から存在していなかったかのように、煙になって消えるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




