第3827話 様々な力編 ――攻勢――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
というわけで最後の部屋に続く門番として現れたカイトを突破するべく攻略を開始するソラ達だが、カイトは忍術・仙術という奇異な術を使って応戦。多種多様な術を利用するカイトの攻略は苦戦を極めていた。
そうしてなんとかカイトが木遁を多用する理由を解き明かしたわけだが、まるでそれを待っていたかのようにカイトは分身を操って巨大な仏像を顕現させる。
「……あの、カイトさん?」
「なんでせうか?」
絶対こいつ楽しんでやがる。ソラは仏像の裏から聞こえるカイトの返答に、思い切り内心で悪態をつく。
「これまじか?」
「最終決戦にはふさわしいだろ?」
「ふざけんな! なんで攻撃解き明かしてんな馬鹿みたいなのとやらされんだよ! 大人しく今までやってきた風遁やらやっとけよ!」
「応用編だ……さ、攻略法を思い付いたんだろう? 頑張って攻略してみせろよ」
「っ」
まるで生きているかのような滑らかさで、仏像が動き出す。そして動き出した以上、これ以上待ったなぞ掛けられるわけもないだろう。というわけで、ソラも覚悟を決めた。
「先輩! さっきの話し合い通りで頼んます!」
「了解だ! リィル!」
「はい!」
「空也! お前は俺と一緒だ!」
「はい!」
「アル! お前は」
「わかってる! 僕は後方支援! 君は前!」
「おう! っぅ!」
アルの注意喚起を耳にしながら、迫りくる木の腕をソラが切り払う。が、今回は<<偉大なる太陽>>に太陽の力は宿しておらず、単なる斬撃だ。
「っ」
やっぱり魔力を通さないだけでこうも硬くなるのか。ソラは常には斬撃に薄く太陽の力を宿していた。それには幾つか理由があるが、その大きな理由の一つには太陽の力。即ち熱の力を利用して焼き切ることを目的としていることであった。
だがここではその太陽の力は木遁に利する行動だ。故に斬撃の力の低下を承知で、太陽の力を使わないで戦うしかなかった。というわけで魔力を纏わせただけの斬撃という、彼からするといつもと違う力に僅かに顔を顰める。
「だけど!」
出来ないわけじゃない。ソラは少しだけ先程より力を増して、幾百もの張手を切り裂いていく。とはいえ、やはり流石にカイトが最終決戦というだけのことはあった。
「そんなんあり!?」
「木遁の利点の一つだ。木々だって切られた部分から復活することがある」
切り裂いたかと思えば、まるで挿し木がくっつくかのように元通りに接合したのだ。そんな木遁の仏像にソラが思わず声を荒げるが、これにカイトはどこ吹く風だ。
「そりゃそうだけど……さっ!」
ざんっ。とりあえず空也との合流を目指さねばなんにもならない。そう判断したソラは無数にも思える張手を伐採しながら、空也が居た方角へと進んでいく。そうして斬撃を繰り広げること十数度。同じように斬撃を放つ空也と合流する。
「空也!」
「兄さん!」
「よっしゃ! これでこっちも合流だな!」
本来ならカイト曰くの最終決戦前に合流しておく予定だったが、少し予定とは異なったがこれで作戦に移れる。というわけで内心でガッツポーズを浮かべるソラであったが、うかうかしてもいられない。すぐに気を引き締める。
「空也! 作戦は話した通り! てかどっちにしろお前は<<廻天>>使えないしな!」
「わかっています! <<火>>よ!」
「むぅ?」
さっき火属性は木遁にかなり相性が悪いとわかったばかりのはずなんだが。カイトは唐突に火の加護を展開する空也に少し首を傾げる。とはいえ、そうであるのなら何かの意図があるとも考えていた。故に彼は敢えて、空也とソラのペアへと仏像の腕を差し向ける。
「「っ」」
来たか。兄弟は揃って仏像の腕が飛来する様子に、カイトがこちらの意図を確かめるべく差し向けたのだと理解する。そして刻一刻と迫りくる木の腕を前に二人は一瞬だけ視線を交え、頷きを交わす。
「はぁ!」
空也が放つのは、これまで同様に火の力の宿った斬撃だ。それは今まで同様に木で出来た腕を焼き払い、再生を許さず灰を撒き散らかす。そうして生じた灰が地面に落ちると同時に、カイトは印を結び終えていた。
「もくと」
「させるか!」
「……ほぅ」
木遁と再度告げようとした瞬間、ソラが機先を制する形で灰へと手を伸ばす。
「一応は土属性なんだろ! なら利用される前に!」
「……」
それが正解だ。そう言わんばかりに、カイトが笑みを浮かべる。そうして<<地母儀典>>を手に、ソラが灰を何かしらの金属へと変換する。
「おらよ!」
とりあえず思い付いただけだったので、何に変換しようと考えていたわけではない。とはいえ、金属は金属。木なぞとは強度は桁違いに高いものだ。故に追撃とばかりに二人に迫りくる木の張手に向けて放たれた金属の槍が、いとも簡単に木の張手を打ち砕く。
無論打ち砕いた程度では再度再生するわけだが、どうしてもある程度の限度はある。灰から再生成するのとは異なる以上、ある程度は再生を防げた。というわけである程度の再生を防ぎながら、更にカイトの再生成も阻害する攻撃方法を見出したソラに、カイトは満足げだった。
「そうだ。それが正解だ……まぁ、より完璧にやるのなら<<六道流転>>を使って木遁を構築する複合属性すべてへと解体。それで攻撃してしまうことではあるが……」
流石にそれを今のソラ達に望むのは高望みだろうな。できればと期待してやっているわけだが、それらが完璧に出来るかと言えば無理とカイトも理解している。そんな一朝一夕でレベルアップ出来るのなら誰も苦労なぞしないのだ。というわけでソラを満足気に確認したカイトは、更にもう一方。瞬の方を見る。
「そして……」
こちらもこちらで瞬が<<廻天>>を利用して、リィルが焼き尽くした木から生じた灰から金属を生成。同じように木の張手を破砕していた。
(だろうな。現時点で実戦レベルで<<廻天>>を使えると言えるのはお前達二人だけだ……敵の攻撃も、周囲の環境も利用すること。それが肝要だ)
一応は試練として設定されているが、実は内容としてはシルフィードと相談の上でソラ達の教育になるようにしていた。というわけで、楽しげに笑うカイトはその意図の一つであるもう一つに気づいているか確認するべく、仕掛けることにする。
「さて……」
巨大な仏像の影に隠れながら、カイトは印を結んでいく。しかしそんな光景はどうやら、由利により見られていたようだ。
『ソラ。カイトが印を結んでる』
「やっぱりか」
空也が焼き払い、自身が<<廻天>>を使って金属を生成。木遁を打ち砕く。その流れで作戦を構築していたわけだが、これには一つ問題点があった。というわけでそれについてもしっかり考えていた。
「トリン。支援の指示頼む」
『了解』
「空也! 行くぞ!」
「はい!」
ここから先はソラ一人でも出来るが、出来たとしてその後は一人でどうにかなるわけではない。故にソラは空也とともに、巨大な仏像を駆け登る。
「お前が! そうするのはわかってんだよ!」
「……」
にたり。カイトは自分が打つ次の一手を察していたらしいソラに満足げだ。というわけで仏像を駆け登り、頭のてっぺんまでたどり着いた二人がそこから跳躍。更に上へと移動する。
「ソラ! 空也くん!」
「助かった!」
「ありがとうございます!」
「「おぉおおおお!」」
アルの生じさせた氷の足場を利用して、更に上へと跳躍。上空に生じていた温かい風の塊の中へと雄叫びを上げながら突入。空也が水の加護を使って熱気を消失させ、ソラが風の加護を使って周囲の風を集める。
「<<風の踊り子>>!」
「おぉ!?」
「兄さん!?」
「おっしゃ!」
現れた巨大な風の踊り子――流石に武士などを生成出来る技術力がなかった――に、カイトが思わず感嘆の声を漏らす。なお空也も驚いていたように、これは当初想定していたことではなくこれだけの風があればとふと思い付いた形だった。というわけで落下の支援を行おうとしていたトリンが、カイトに一泡吹かせて喜んでいるソラへと問いかける。
『ソ、ソラ!? 作戦と違うくない!?』
「あ、悪い! でもこれならある程度やりあえるだろ!」
『そ、そうだけど……っ! ほら、そんなことするから一気に来るよ!』
「っ! 支援よろ!」
『もう!』
調子良いなぁ。ソラの言葉にトリンが苦笑いを浮かべながらも応ずる。そうして彼の指揮のもとで由利らによる狙撃が開始されて、無数の仏像の腕が打ち砕かれる。そしてそれと合わせて、ソラも空也とともに着地。巨大な風の踊り子とともに一気に攻勢に乗り出すのだった。
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