第3826話 様々な力編 ――再開――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
というわけで最後の部屋に続く門番として現れたカイトを突破するべく攻略を開始するソラ達だが、カイトは忍術・仙術という奇異な術を使って応戦。多種多様な術を利用するカイトの攻略は苦戦を極めていた。というわけで強大な風の一撃をなんとか防ぐべくその解析にソラは奮闘。その理念を理解して、一旦彼は瞬とリィルの二名を撤退させ仕切り直しを図っていた。
「ソラ。どうしたんだ?」
「ああ、いや……すんません。先輩らにそのまま戦って貰ったらやばかったんで」
「「?」」
ソラの返答に、撤退した瞬もリィルも首を傾げる。おそらく何かがわかったのだろうが、この二人はまだ気づいていなかったらしい。というわけで、ソラは二人へと気づいたことを共有する。
「な、なるほど……木遁を利用して風を生んでいたのか」
原理的には小中学生でも習うことだ。瞬はあまりに道理と言えば道理なことを言われ、思わず苦笑いだ。言われてみれば簡単で、そしてあまりに当たり前。それに気付けなかったことが少し恥ずかしくさえあった。
「ま、まぁ……良い。それで木遁を多用していたわけか。だがそうなるとどうする? あの木遁を火なしで突破するのは中々手間だぞ」
「そうなんっすよ」
瞬の指摘をソラもまた認める。そもそも瞬もリィルも無理な突撃が出来たのはあくまで纏う火で強引に拘束を脱出することができるからだ。五行論に当てはめれば火即ち木に克つということなのだから、道理でもある。そこから火を使うことが正解なのだと考えていたわけだが、そういうわけでもなかったということであった。
「あ、一応確認っすけど、先輩達の火は本来は熱くはないんですよね?」
「いや、逆だ。本来は熱い。ただ燃やす燃やさないを選択できる……という所か。あくまでも活力……生命力の活性化によるものだからな。本来は熱い……生命力を分け与える、というのはこの熱を分け与える云々に起因する……ということだったか」
「だと私も聞いています」
少し自信なさそうな瞬の言葉にリィルも一つ頷いて同意する。ここら彼女が知らないのはこれがカイトにより語られている理論だからだ。そもそも<<炎武>>にせよ<<雷炎武>>にせよできるのは開発者であるバランタインの血統の者かカイトだけだ。
それの亜種として瞬が<<雷炎武>>を開発出来たのはその血統とカイトの助力故だ。二人が学術的な論理に詳しくなくて無理はなかった。
「……まぁ、そんなわけで。一応木遁の木を燃やさず戦うことはできる」
「となると……やっぱ問題は木遁への対処法っすか」
単なる水遁や風遁は良いのだが、物理的な障害となる木遁や土遁は非常に厄介だ。しかもまだ強度に合わせて動きが鈍くなる土遁ならば多少回避の選択肢もあるが、木遁は自由自在に動いた上に強度まである。というわけでどうするか頭を捻る二人に、リィルも同じ顔で呟いた。
「斬れば無効化出来ますが……」
「斬った所で足を止めることになるから今度は接近が難しくなる……と」
「さりとて貫くことは難しい」
「土遁と風遁の良い所を組み合わせた術か……しかもそれでいて再生力まで高い。土遁、風遁、火遁の三つの合せ技、という所か? 厄介だな」
ここが木遁の厄介な所ではあった。瞬はリィルの言葉に苦い顔で同意する。土遁の強度と風遁の柔軟性の合せ技。しかも火で焼き尽くしても、灰の中から復活することもできる。というわけで頭を悩ませる三人だが、結論はやはり出ない。というわけでソラがトリンへと助言を求めた。
「トリン、何かお前、今の話を聞いて思い付いたこととかないか?」
『一つだけ……ただできるかどうかは少しわからないかな』
「教えてくれ」
『うん』
ソラの要請に、トリンは一つ頷いた。そうしてトリンは瞬とリィルへと幾つかの質問を行って、その後再度一つ頷いた。
『うん……多分行けると思います』
「本当か? 無理に思えるが」
『多分、難しいことは難しいと思います。ただここでカイトさんが木遁を使う、というのはそういうことなのだろうとも』
「「……」」
トリンの返答に、瞬とリィルは少しだけ険しい顔だ。言われていることはまぁ、理解は出来る。出来るのだが、言うは易く行うは難し。それが可能かどうかはまた話は別だった。そうして少しの間二人は顔を見合わせて、一つ頷いた。
「わかった。やってみよう。リィル、オフェンスは頼めるか? <<廻天>>であれば俺の方が分があるはずだ」
「お願いします」
瞬は直接希桜から薫陶を受けたのだ。その分だけ又聞きでしかない瞬達より気の扱いは劣る。まだ火だけなら良いのだが、今回はそれ以外も重要になりそうだったので瞬が、というわけであった。
「よし……やるか」
「うっす……桜ちゃん」
『聞いていました。わかりました。こちらも攻勢に出ます』
ソラの問いかけを受けるまでもなく、桜も自分が為すべきことを理解していたようだ。というわけで作戦が決まった所で、カイトが問いかける。
「さて……待ってやったが。作戦は決まった、と考えて良いんだな?」
「おう」
「ほぉ……ここからはお前も前に出るのか」
今まで一歩引いた所から作戦の指揮や防衛に回っていたソラも瞬達に並んで前に出たのを受けて、カイトはここからは攻勢に出るのだと理解したようだ。というわけで玉座に腰掛けたカイトが楽しげに、されど獰猛に笑いながら印を結ぶ。
「よし……じゃあ、最後の一幕と行こうか!」
「「「っ」」」
玉座のカイトの動きに合わせて、左右に控えた分身体二体もまた印を結ぶ。
「火遁」
「水遁」
「土遁」
三者三様に、別の印を結んでいた。だが同時に、それらには何か意図があるのだと察するには十分だった。そうして三人が同時に、口決を口にした。
「「「<<木遁・仙樹観音>>!」」」
「「「……は?」」」
ごごごごごっ、と轟音とともに現れるのは、巨大な仏像にも似た像。千本の手を持つ千手の像だ。そうして、木遁への対策を見出したソラ達の最後の戦いがスタートするのだった。
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