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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3821話 様々な力編 ――持ち直し――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。

 そうして中央ルート攻略も半分以上を終えて、最後の部屋まであと一歩までたどり着いた一同を待っていたのはカイトであった。というわけで最後の門番として立ちふさがるカイトは仙術・忍術を行使して戦闘行動を開始。ソラ達はそれに翻弄されながら、なんとか反撃の機会を探っていた。


「……」


 手印を結ぶ際、何かがあるはずだ。ソラはカイトから放たれる多彩な攻撃を時に切り裂き、時に受け止めながらその兆候を見抜こうと必死だ。


(多分あの手印……? ってのは全部意味があるんだろうけど……あるんだろうけど!)


 早すぎて見切るのは無理だ。右手一つで繰り出される多種多様な動きに、ソラは内心で悪態をつく。人差し指一つだけを見ても、時に手のひらを前に後ろに、指先を上下。時に第二関節で折り曲がりと多種多様だ。それが五指すべてで様々な組み合わせをしていた。


(一回だけ、何回も、繰り返し……組み合わせが多すぎて、これを全部理解して推測なんて無理筋も良い所だ……この先があるか、途中で終わるのかでも違うから選択肢が多すぎる)


 こんなものに全部対応していたら、こちらがいつかジリ貧になる。ソラは先読みを諦めるべき、と考える。


(どうする……? 多分手印を結んでるのは忍術ってやつだ。で、指で虚空を切ってる……印を切るってやつか? これは陰陽術の一種ってのは聞いたことがある)


 手の動き一つしても、虚空を切っているのかなどもはや選択肢が多すぎる。ソラは思った以上に厄介な状況に苦虫を噛み潰したような表情だ。


(仙術、忍術、陰陽術……手の動きだけでそこまでできるのかよ。一応、途中までで属性ぐらいは見抜ける……わけねぇわ!)

「<<土遁・金剛手裏剣>>!」

「おらよ!」


 完全に甘い考えだった。ソラは自身に向けて投げつけられる巨大な炎の手裏剣を切り捨てて、内心で苦笑いを浮かべる。


(手裏剣一つでも火、風、水、土……金属? てか今のダイヤモンドじゃね? 宝石? 色々ありすぎるだろ。全部の組み合わせを見切るのは不可能に近い)

「ふふ……さて、これはなんでしょうか」

「っ!」


 考えていることを見抜かれた。ソラはカイトが楽しげに再出現させた雷の手裏剣に急停止して<<地母儀典(キュベレイ)>>を構える。そうしてカイトが楽しげなまま、直径1メートルほどの手裏剣を投げ放つ。


「はぁ!」


 雷だ。真っ向から受け止めればそれだけで感電しかねない。故に放たれる雷の手裏剣を触れることなく破砕するべく、<<地母儀典(キュベレイ)>>で土を生み出して破壊するつもりだった。そうして地面から土が隆起して、雷の手裏剣を打ち砕いた。


「は!?」

「はい、残念。そいつは分裂型だ……ちなみに、雷遁以外でもできるんで注意な」

「どーやって見極めろってんだ、んなもん!」


 どこか印の切れ目かさえわからないのだ。そしてまだ、今の手裏剣のように手から放ってくれるのなら良い方だ。最初の火遁や風遁のように、吐息から発動させるものさえある。その多彩さがなおさらカイトの攻撃がいつ来るかを察知させず、攻略の難易度を一気に増大させていた。


「それは教えられんな……あ、先輩。それは流石に無理だろう」

「っ!」


 ソラとの会話を囮として自身へと肉薄する瞬に、カイトは楽しげに強く息を吐く。そうして放たれた吐息は一気に周囲の風を巻き込んで、瞬へと襲い掛かる。


「っ! 瞬!」

「!?」


 放たれた吐息の中に何か輝く物を見て取って、リィルはこれが単なる風ではないことを見抜いたようだ。幸か不幸か、少し離れた所で攻撃していなかった――というよりカイトの攻撃で近付けなかっただけだが――ことが功を奏したらしい。小さな煌めきが急速に巨大化していくのを見て取ると、即座に炎の槍を投げ放つ。


「っぅ! すまん! なんだ!?」

『<<水遁・靄然(すいとん・あいぜん)>>』

「っ」


 リィルの炎と自身の放った氷により生じた水を操ったのだろう。瞬の周囲を包み込むように、真っ白なモヤが立ち込める。だがこのモヤは普通のモヤではないのだろう。カイトの声さえ霞がかったかのようにぼやけ、前後左右を失わせていた。だが当然、それだけではない。


『先輩!』

「っ! 駄目だ! 来るな!」


 このモヤに飲まれればおそらく同士討ちが待っている。瞬は響くソラの声さえどこから響いているかわからない現状に、安易に突っ込むことは避けるべきだと判断する。


「天道! 魔糸のセンサーを!」

『はい!』


 外に声が響いているかは完全に賭けだったが、どうやら連携が出来なくなるようにするほど非情ではなかったらしい。瞬の声に桜が応じる。まぁ、これがカイトの偽装である可能性も瞬の脳裏にはわずかによぎったが、流石に現状で取れる策としては桜の支援しかない。故に彼はこれが通じたと信じて、各自に取り付けられた魔糸を頼りに、そちらへと跳躍する。


「っ」


 やはり思った通りか。自身が移動しても晴れないモヤに、瞬はこれが自分を中心として移動しているのだと理解する。


「賭けだが……」


 このまま着地すればそれこそカイトの思う壺だろう。瞬は想定通りだったことを受けて、空中に飛んだまま意識を集中させる。


「はぁああああ!」


 体内の生命力を最大まで活性化させて、総身から炎を放つ。周囲に満ちるモヤは水で出来ていることには変わりがない。ならば火を活性化させることで水と相殺させ、消し飛ばすことができるのではないかと考えたのである。そしてその瞬の推測は正解だったようだ。炎が周囲を包みこんで、モヤをすべて消し飛ばす。


「……よし」

『ほぉ……強引だが、まぁ、悪くない手だな』

「……な、なんでもありか」


 モヤが晴れた先で瞬が見たのは、アルの氷竜のブレスを自身の吐く炎の息で相殺するカイトの姿だ。もはや何でもあり。そう思いたくなるのも無理はなかった。そうして数秒の相殺の後、カイトが口を開いた。


「まぁ、せっかくだ。この場合の別解を教えてやろう……<<木遁・綱波(つなみ)>>!」


 カイトが何かの印を結んだ直後、アルの氷と自身の炎の衝突で生じた水を媒介として縄で出来た巨大な津波を生じさせる。それは渦巻くようにしてアルへと肉薄する。だがこれに、流石に攻撃直後では対応出来かねたらしい。アルの顔にはありありと苦みが浮かんでいた。


「火・銃!」

「っ! ありがとう!」

「ふむ……やはりこういう状況だとお前が一番役に立つな」


 万事休すという状況のアルを助けたのは、火と銃のカードを展開した浬だ。やはり彼女はカードを展開するだけで様々な属性、様々な攻撃方法を展開できるのが最大の強みだ。

 そして実のところ、このカードは各一枚ではない。カードホルダーには各属性、各攻撃方法複数枚収められており、その枚数や組み合わせで攻撃力の強弱をある程度コントロール出来たのであった。


「手加減しろっての!」

「いや」

「クソ兄貴ー!」

「おぉ?」


 怒声と共にばばばばばっ、と展開された幾つものカードの束に、カイトが思わず笑う。まぁ、彼の言動に子供っぽさがあるのはやはり妹相手だからだろう。とはいえ、そんな笑みもどこか苦みが乗っており、かなり大慌てで制止する。


「ちょ、ちょっと妹様!? それ後先考えてないことありません!?」

「やだ!」

「おい! お前のために言ってやってんだぞ!?」

「属性カード全展開! 銃座展開!」

「待て待て待て待て待て! そ、それ駄目だって言っただろ!? ちっ! これ片手めちゃくちゃ面倒なんだぞ!」


 流石にこれは兄として止めさせて貰う。カイトは激昂した様子で八属性すべてのカードを円形に。銃のカードを銃座のように中心に据えた浬に向けて、大慌てで印を結ぶ。それも一つや二つではなく、十数個と今日一番の数であった。

 まぁ、浬も本来はこんなことをする性格ではないのだが、妹相手にも手を抜いてくれない兄へ、甘えが見え隠れしていたのは否めないだろう。


「「「<<影分身>>!」」」


 ぶんっ、とカイトの横にもう二人のカイトが現れる。そちらは玉座に腰掛けたままのカイトとは異なり立っていたし、両手でそれぞれ別の印を結んでいた。


「<<火遁・救世(くせ)>>」

「<<木遁・根張(ねはり)>>」

「<<与生(よせい)の印>>」

「フルファイア! きゃあ!」

「っ!? 浬ちゃん!?」


 浬が極光の光弾を放つと同時に上がった悲鳴に、桜が目を見開いてそちらを見る。すると彼女の真後ろから数十センチの木が生えており、浬を背中から串刺しにしていた。これに桜がぎょっとなってカイトを見る。


「カイトくん!?」

「安心しろ! オレの魔力と気を分けただけだ! ったく……気はともかくとして、オレが兄じゃなけりゃ仙術やら忍術やらで魔力まで与えるなんて無茶早々できんってのに……」

『やっぱり浬ちゃん、見てて面白いねー』

「笑うな阿呆」

「「「……」」」


 そんなことまでできるのか。楽しげなシルフィードの声にどこか疲れた様子でため息を吐くカイトに、全員思わず呆気にとられる。

 なお、流石にこの難業をした上で片手で浬の光弾を止められるほどの余裕は彼にもなかったのか、光弾そのものは片手で受け止めていた。それでも片手という縛りは守るあたり、彼も彼でぶっ飛んでいた。というわけで呆気にとられていた全員だが、そこでトリンが念話でソラへと話しかける。


『ソラ。気付いた?』

『え? あ、ごめん……何が?』

『さっきの印……相当時間が掛かってたし、複数人で組ませてた』

『え? あ……』


 言われてみれば。ソラはトリンの指摘で先程の分身を含め三人での手印を思い出す。


『まぁ、あれは妹さんを助ける目的で、本来の想定より相当高い術を行使してそうではあったけど……どちらにせよあの分身は切り札的には使ってくるつもりなんだとは思う』

『無茶苦茶が功を奏した、ってわけか』

『うん』


 少し苦笑気味に、トリンはソラの言葉を認め頷いた。おそらく本来は誰かが無茶をして突撃して、カイトが切り札として切るはずのものだったのだろう。カイトの苦い顔には浬への苦言以外にもそういった印象があった。


『ってなると……多分かなり手札は割れてそうか』

『思った以上に、だけど。もちろん、これで終わりとは思えない。多分仙術も使ってくるとは思う。でもある程度手札は見えてきたから、一度何処かで撤退してこちらの戦略を構築しても良いと思う』

『おう』


 おそらく今しがた切り札を切らせたのは完全に偶然だろうし、幸運だっただろう。ソラもトリンも内心で浬の暴走に対してグッジョブを送っておく。そうして、更に数度攻撃を繰り広げた後。ソラ達は一度本格的な攻略作戦を練るべく撤退することにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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