第3820話 様々な力編 ――劣勢――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうして中央ルート攻略も半分以上を終えて、最後の部屋まであと一歩までたどり着いた一同を待っていたのはカイトであった。というわけで最後の門番として立ちふさがるカイトになんとか反撃の機会を探っていた一同は<<六道六連>>という<<廻天>>を応用した六連撃で攻撃。武器の嵐と地雷原の大半を除去し接近戦に持ち込むも、そこでカイトは仙術という特殊な技術を行使。ソラ達の迎撃を開始する。というわけで少しだけ時間を遡り、ティナから助言を受けていたときのことだ。
『ああ、そうじゃ……もしカイトの奴が仙術と言うたら注意せい』
『戦術? そりゃまぁ、あいつが戦術を使うんだったらそりゃ警戒はしなきゃならんだろうけど』
『……戦の方ではなく、仙台とかの方の仙じゃぞ?』
何を今更。そんな様子の返答に、ティナはソラが勘違いしているのではと思ったようだ。そして実際正解だった。
『え? あ、そっち? 仙術……って仙人の使う術って意味の仙術?』
『うむ。仙術はまぁ、謂わば大自然の力を行使するという東洋ならではの考え方じゃな。自然の力を利用する、という意味では気にも近いものじゃろう』
『近いか?』
『近いんじゃろう。気とは人体が有する生命エネルギーのようなものじゃと聞く。ならば大自然の力とは天然自然が保有する生命エネルギーのようなものと捉えられよう。とどのつまり魔力における自らの保有する魔力と外に存在する魔力の関係と似ておるんじゃろう』
『なるほど……』
確かに言われてみればそう言い換えても不思議はないかもしれないな。ソラはティナの言葉にそう思う。ただやはりそう簡単に利用できるものではなかったようだ。
『ただこれは魔力よりも非常に感じにくい物とはカイトは言うておる。簡単に天然自然の力を感じられるのであれば、そもそも誰もが使えて不思議はないのじゃからのう』
『それも確かに』
『まぁ、それは横におこう。とりあえず仙術とはそういうものじゃそうじゃ。<<廻天>>やらを使いこなした果てにある技術……と考えても良いかもしれん』
『なるほど……つまり魔術を自分の力だけで行使するものと、外の魔力を流用して行使する魔術……みたいな差になるわけか』
『そういうことじゃ』
ソラの理解に、ティナは一つ頷いた。というわけで仙術がどういうものか、というのを告げた上で彼女は更に続けた。
『まぁ、これは余も詳しくはない。そも古代中国の系譜に属しておるからのう。カイトが使えるのは特例とかと思った方がよかろう。あやつもそこまで派手に使えるわけでもないそうじゃしの……ああ、そうじゃ。その派生形として、忍術というものもあるそうじゃ』
『忍術? 忍者の忍術?』
『そうじゃ……何ぞこれは印を切ることにより使うものじゃそうじゃが……まぁ、ぶっちゃけここらになると余の領域から外れまくるから詳しくない』
『そんな』
どこか投げ遣りな様子のティナに、ソラは愕然とした様子で肩を落とす。
『しゃーなかろう。余はあくまで魔術師。魔術も気も全部使いこなすカイトがおかしいだけじゃ。てか、近接の戦士でさえ基本は魔術前提。時折気を使う者がおる程度じゃ。魔術も気だけでなく、ルーンに始まり陰陽術やら仙術やらなんでもかんでも使えるあれがおかしいだけじゃ。これで呪符まで使いおるから手に負えん』
『まぁなぁ……』
これで天才たちにも匹敵するレベルで使いこなすのだ。当人は上を知ってしまっているがゆえに勝てはしないというものの、十分過ぎる才能であった。というわけで若干投げ遣りなティナが最後に告げた。
『まぁ、とはいえ。両手で印を切るのと片手ではやはり色々と異なりはしよう。両手なら最大……最悪一度撤退も視野に入れよ』
『片手なら?』
『まぁ、まだ手加減はしてくれておろうて。後は是々非々でやってけ』
『おう……とりあえず助言ありがとう』
『うむ。まぁ、頑張れ』
ソラの感謝に、ティナは一つ頷いた。そうしてカイトの生み出した影が消失し、助言は終わりとなるのだった。
さて時は進んで再びカイトとの戦闘の最中。仙術を行使するカイトに翻弄されながらも、ソラ達はなんとか再接近を試みていた。
「<<風遁・風竜>>!」
「っ!」
カイトの口決に合わせて出た吐息が、風の龍を象って瞬へと襲い掛かる。幸いというかなんというか、攻撃の苛烈さであれば武器の投射の方が激しかった。なので回避も防御も出来なくはないが、やはり攻撃力は今の方が桁違いに高かった。そして当然、多彩さも桁外れだった。そうして風竜に追いかけられる瞬に、風の加護を刃に纏わせた空也が切りかかって消滅させる。
「はぁ! 一条先輩! 今の内に一旦立て直しを!」
「すまん!」
「甘い甘い……<<風遁・鎌鼬>>」
右手で何かの印を切るような動作をカイトがした瞬間、千々に霧散しようとしていた風竜の塊が一気に変貌。鋭い真空波となって二人へと襲い掛かる。
「「っ!」」
四方八方から迫りくる真空波に、二人は即座に背中合わせに槍と刀を振るう。そうして真空波を斬り裂いて、その場を二人別々の方向へと距離を取る。
「ちっ……ソラ。仙術か? 忍術か?」
『多分今はまだ忍術の方かと……風遁とか言ってますし。ただ、絶対に仙術も使ってきますね、あいつの場合』
「だろうな」
確かにカイトは最終フェーズとは言っていたものの、最終フェーズが忍術の行使だけとは思えない。武器の投射と地雷原がなくなり動き回れるようになったこともあり、大規模な攻撃を使ってくるだろうことは察せられた。
とはいえ手印を結ぶ、印を切るという動作が必要になるためか、一度に一つしか使えないこともまた事実ではあった。故に、瞬へ風竜が襲いかかった瞬間を狙い定め、リィルが肉薄する。
「はぁあああ!」
「<<風遁・風魔手裏剣>>」
「っ!?」
唐突に現れた風の手裏剣に、リィルが目を見開く。手印を結んだ様子も印を切った様子もなかったようだ。
「きゃあ!」
「姉さん! っ!」
「<<火遁・鬼灯>>」
「っ!」
さっきの返礼とばかりに氷竜の周囲で咲き乱れる丸い火の花に、アルが目を丸くする。そうして直後。停止の指示を送るのが一瞬遅れ、火の花に氷竜が激突。巨大な爆発が連続する。
「ぐぅ!」
「アル!」
「じゃ、ソラ。お前の分な」
「っ!」
アルの対処が終わり次へ。まるでそんな軽い様子で、カイトの手には先程の風魔手裏剣が生じていた。そうして暫くの間、一同はカイトの仙術・忍術の組み合わせの猛攻を受け続けることになるのだった。




