第3818話 様々な力編 ――再再戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そんな中央ルートで当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所でシルフィードが言っていた中ボスとして、カイトが現れることになる。
というわけでウェポンパックなどを総動員してなんとかカイトまで接近することに成功したソラ達であったが、そこが終点。カイト本人を攻めることはできず、再撤退を迫られる。というわけでカイトとの再再戦から、少しだけ時は戻る。それはティナに助言を求めた時のことであった。
『ふむ……なるほどのう。そりゃまたあやつも手は抜くまいな。そして手を抜かぬあやつに勝ちを得るか。試練にふさわしい難易度ではあろう』
状況の共有を受けてティナがそう結論づける。
「正直な話として、今のティナちゃんでカイトの本気で勝ち目ってあるのか?」
『ない』
「うおっ……即断かよ」
『当たり前じゃ。本気とは即ち、あやつが馬鹿力を出し切るということじゃろう。星を崩せる者に星を削れる程度の余らが束になって勝てるわけがあるまい』
「いや、それでも十分エグいから……」
星を削れる程度と言うは良いが、その時点で本来は不可能なのだ。しかもそれとて世界最高レベルの魔術師が技術の粋を凝らして、である。これを更に上回る火力を技もなく出せる時点で勝ち目なぞあろうはずがなかった。
『まぁ、とはいえ……お主らの発言はそういう意味ではあるまいて。単に聞き方が悪いだけじゃ』
「ごめん」
『構わん……まぁ、本気といえど、ここで考えるべき本気は技術などの面においての本気じゃろう。力まで本気になられりゃ勝ち目なぞあるわけがない。お主らがどれだけ頑張ってものう』
「そんな無理?」
『無理じゃ。そもそもあやつ片手と言うが、ぶっちゃけあやつにその片手という物はさほどの意味を持たぬ。そもあやつの本域は双剣士。二刀流という異質な剣技じゃ。片手で並み居る猛者共を相手にしてきたあやつにとって、短時間でも片手で猛者の攻撃を食い止めるなぞ造作もないことじゃろう』
「あ」
ティナの指摘に、ソラは思わずはっとなる。今でこそメインは一刀流という普通の剣士のようなことをしているが、本来の彼は双剣士。二刀流だ。ここ暫く見せてこないので完全に失念してしまっていたのだ。
『無論双剣ではないので単純に手数は半分に減ろう。じゃがお主らが相手になる場合、それがなんの意味があろうな』
「勝ち目がない、が限りなく勝ち目はない程度にしかならない……ってわけか」
『そういうわけじゃ……一番厄介なのはそこよな。あやつにとって片手とは火力の減少ではなく、両手が火力の増加を意味しておる。故に片手さえあれば大抵の猛者とやり合えよう』
「むぅ……」
片手は手加減に思えて手加減ではない。そんな現実を目の当たりにして、ソラはかなり苦い顔だ。
『まぁ、これを卑怯と考えるか、じゃからこそ試練の門番に選ばれるほどの者じゃと考えるかはお主らの好きにせい。じゃがあれを打ち崩すのは難儀じゃろうのう』
「だよなぁ……ってなわけで本題に戻るんだけど」
『で、あの話か。ふむ……』
ソラの問いかけに対して、ティナは改めて思考する。そもそもソラの問いかけはカイトに勝てるか否か、勝ち方を教えてくれ、という所にはない。というわけで暫く考えた後に、一つ前置きして話始めた。
『まず最初に、お主の想定は正解ではあろう。先にも言っておるが、あやつは本気であって本気ではない。本気をやってしまえばいくら片手であれお主らに勝ち目はない。限りなくない、ではなくない。ゼロじゃ。そこを読み違えておれば、まずこの勝ち方はできまい』
あくまでもここから先の前提はカイトが手加減をしてくれているという条件の元でのみ有効である。ティナはそうソラへと言い含める。これにソラもまた一つ頷いた。
「わかってるよ。もしカイトが本気だったら、俺達が出せる全力を一発に集中したって片手も必要ないだろうって」
『そうじゃな。その上で話せば、まずお主の想定通り一発でかい火力を叩き込んだ所であれの防御は打ち砕けまい。何発も打ち込み、ようやくじゃ』
現状を聞くに、カイトの攻撃力は片手とはいえ油断できない領域だ。直撃すれば間違いなく命はなく、ある意味彼自身が安心して攻撃を放てるのはこの聖域という通常のルールが適用されない空間だからと言っても良いかもしれない。
『で、そうなるとお主らでは間違いなく手は足りんじゃろうし、まずお主らが知らん方法を試さねばなるまいな……浬を呼べ』
「浬ちゃん? なんで?」
『先に話しておった<<六道流転>>を流用した技を教えようとは思うが、出来るのがあやつだけじゃからじゃ』
「そうなの?」
『うむ……まぁ、一発二発ならお主らでも出来よう。じゃがそれをあれの防御を打ち崩せるほどの連続になると、浬と……ああ、後は桜もじゃな。後は……まぁ、要点は教えてやるので、そこから先はお主らが考えよ。余も現場におらんのでなんとも言えんからのう』
「わかった」
ティナの求めに、ソラは浬を呼び寄せる。そうして彼らはティナから一つの方法を聞いて、それを試すことになるのだった。
さて時は進んでカイトとの再再戦。そこで浬は煌士以下鳴海、侑子の三人に加えて桜の協力まで得ながら、<<六道流転>>の応用技を試すべく準備を重ねていた。
「……」
こんな機能あるんだ。浬はティナから与えられたカードを見ながら、自身の知らない機能に少しだけ困惑していた。
『<<六道流転>>は純粋な単一属性を生み出せねば使えん。そうして全ての力を一点集中させることで火力アップを図る、というわけじゃな。更には混じり気がない分だけ、同じ魔力量でも火力は高い。ただしそれを敵の属性に合わせ最適な物へと変換せねばならんがのう。混じり気がない分だけ、有効にならぬ属性が加わればより軽減されてしまうわけじゃ。ま、そこらがあり属性の変換がまだ十分に出来ておらんソラらでは使えんわけじゃ』
浬も桜も知る由もないが、それが出来ないからこそソラは雷を生み出した際の反動で大火傷を負ったわけだ。とはいえ、これは仕方がない。そもそもこの<<六道流転>>は<<廻天>>の応用技に類するものだ。<<廻天>>を練習しているソラ達が出来るわけがなかった。
『ま、とはいえ……出来ぬのならサポートやら考えれば良いわけじゃ。で、そのためには器と変換器やらが必要じゃ。それが何かは、お主ら二人にはわかろう』
『つまり変換器は私のカードで……』
『器とはカイトくんの武器……と』
『そういうことじゃな』
浬と桜の理解に、ティナが一つ頷いた。そうしてそれから浬はカードの機能を教わるわけだが、それが今彼女の眼の前に映し出された変換器としての機能であった。
それは現在蓄積されている属性をパーセンテージで表示する機能で、もし他の属性の魔力が入り込めば連動する他のカードに移行する機能も兼ね備えていた。
「お兄ちゃんの武器に純粋な各属性の魔力を注ぎ込んだ六連射……<<六道六連>>。更にそれに六属性の加護まで……」
ここまでしないと駄目なお兄ちゃんって一体何なんだろうか。浬は兄の戦闘力にただただ呆れ返る。とはいえ兄だから呆れられるのであって、一介の冒険者ならこの時点で心が折れている。
なにせ普通に考えれば相手は伝説の勇者にして、勇者の代名詞にもなった男だ。最強という話になれば話にならないと言われるほどの実力者で、片手だろうと勝ち目なぞないのであった。
「……」
カードの充填率表示機能を教わってから、浬は試しに自分一人でどの程度充填出来るか試していた。
(私一人が即座に充填できるのはたったの10%……その10倍。私の一撃で10メートルぐらいの岩を貫通できるから……)
つまり自分が通常攻撃に使う一撃の十発分を一気に、それも単一属性に特化させた形。火力は通常の10倍以上になっており、その時点で相当な火力が考えられた。
しかもそれをカイトの武器に蓄積させているのだ。チャージ時間を考えれば実戦での使用はまず出来ないだろうが、それを横においても相当な火力が想定された。
(だ、大丈夫かな……)
少しだけ浬は不安になる。が、そもそもの話として、今しがたチャージしているのはカイトの編んだ武器だ。それを桜が奪取しているに過ぎない。つまり彼の武器にはそれだけの力を蓄積して余りある許容量があるわけで、しかもそれでも全力ではないのだ。大丈夫に決まっていた。
というわけでそんなこんなを考えながらも充填率をコントロールするわけだが、開始から十数分。光と闇の加護による分身を隠れ蓑に、六属性の魔力をそれぞれのカードに接続させた六本の剣へと注ぎ込む。
「充填率100パーセント。いけます」
『了解……ソラ』
「おう」
報告を受けたソラが手にする<<偉大なる太陽>>に黄金色の輝きが宿る。そうして黄金色の斬撃が放たれると同時に、浬は準備した属性の一つを展開する。
『<<六道六弾>>発射!』
「<<水>>よ! <<六道・水>>!」
トリンの合図と共に、ソラの黄金色の斬撃を隠れ蓑に雷を蓄積させた剣を解き放つ。それは黄金色の斬撃で生じた空白へと侵入すると、更に黄金の斬撃が地雷原を破砕して生じた爆発を水で強引に沈静化させる。そうして更に一直線にカイトへと肉薄していくが、それにカイトは指をスナップさせて大剣を幾つも降り注がせて即席の防御壁を創り出す。とはいえ、これは想定内。故に浬は即座に次の加護を展開する。
「<<火>>よ! <<六道・炎>>!」
二射目。放たれた一撃は炎を纏い、防御壁へと激突。巨大な爆炎を生じさせ、大剣の防御壁を半壊させる。
「ほう……さて、次は?」
巨大な爆発は自身の武器の大半を薙ぎ払い、地雷原さえ消失させる。そうして更に。
「<<土>>よ! <<六道・金>>!」
次に放たれたのは、半壊させた防御壁を完璧に打ち砕く強固な金属だ。貫通力を非常に高めたそれは半壊させていた防御壁を完全に崩壊させ、更にその余勢を駆ってカイトへと肉薄する。これにカイトは大剣を蹴って浮かせると、柄を握りまるで軽く撫でるように空間を薙ぐ。
「<<雷>>よ! <<六道・雷>>!」
ついで追撃として放たれるのは、紫電を纏った剣。それは<<六道・金>>を迎撃した直後を狙う最速の矢だ。しかも、それだけではない。
「おぉおおお!」
<<六道・雷>>が通り過ぎた後に残る雷を利用して、瞬が加速して一気にカイトへと肉薄する。そしてそれを起点として、ソラが号令を掛けた。
「今だ! 全員、一斉に攻撃開始!」
「よしよし……じゃ、少し遊んでやるとするか」
地雷原はほぼ完璧に破壊されているし、武器の投射もできるはできるしやるが、流石に接近されすぎている。近接戦闘を行うには十分過ぎた。というわけで、カイトは楽しげに挑戦者達の挑戦を受けることにするのだった。
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