第3817話 様々な力編 ――再再戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そんな中央ルートで当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所でシルフィードが言っていた中ボスとして、カイトが現れることになる。
というわけでウェポンパックなどを総動員してなんとかカイトまで接近することに成功したソラ達であったが、そこが終点。カイト本人を攻めることはできず、再撤退を迫られる。
そうして今度は手札を出し尽くしティナにも意見を求め、翌日。三度カイトに挑戦するべく彼の所へと赴いていた。
「なんだ。今日はウェポンパックは使わないのか? 一つしか持ってきてない様子だが。その一つはいつものトリン用のものだろ?」
「あれは魔力どか食いするし、俺以外使えないからよ」
「それもそうか」
ソラの言葉に対してカイトも納得を露わにする。彼の言う通り、あのウェポンパックはほぼほぼ彼専用に用意されたものだ。
そもそもあのウェポンパック自体、魔導鎧の接続部に接続して使用することを前提に開発されている。一応使用上は無接続でも使えるが、本来の性能を発揮しようとすると魔導鎧の接続部に接続。照準器の展開などが必要になる。その時点で使えるのはソラか同じく魔導鎧を使用するリィルかアルだろうし、実際軍ではウェポンパックは用意されているし、作戦次第では使えるように二人も訓練していた。
「まぁ、アルやリィルは上空でオレの攻撃を分散させにゃならんことを考えれば、使わん方が無難は無難か。それも作戦次第という所ではあるが……」
オレがこの状況下で使うとすると、魔導砲をビーム型にするのが一番良いかな。カイトはそう思いながらも、使わない方が良いと考えていた。あくまでもこれは使うならばという前提であって、その対価に見合うとは思えなかったからだ。
なお、ビーム型というのは引き金を引き続けている限り光条を放ち続けるタイプだ。それでこちらの攻撃を常に一掃し続け、一気に突破するという短期決戦の考え方だった。無論引き続ける限り魔力を消費するので、火力、射程距離共に高いがカイトでもなければ短期決戦しかできないというデメリットがあった。
「まぁ、良い。それで? 今回は何を仕込んできた? わざわざティナにまで話をさせたんだ。一発クリアは無理でも、せめて楽しませてはくれよ」
「それは見てのお楽しみだろ? てか一発クリアさせるつもりないって言ってくれんなよ。頑張ったんだから」
「さて。それはお前ら次第だ」
ソラの指摘に、カイトは楽しげに笑いながら嘯いた。彼としては一発で攻略してくれても別に構わなかったが、一発で攻略させるつもりではやらない。なのでここからはソラ達の腕次第であった。というわけで、カイトは指をスナップさせて無数の武器を顕現させる。
「っ」
来る。ソラは一瞬先の衝突を理解して、先程まで笑っていた顔を引き締める。そうしてどっしりと盾を構えて、彼は即座に左右のアル達、瞬達に頷いて行動を促す。
「ま、とりあえずやってみろ」
だだだだだっ。無数の武器が嵐のように降り注ぎ、地上を駆ける瞬と空也を。空中を舞うアルとリィルを追撃する。それに四人は時に武器で切り払い、時に跳躍して狙いを分散させる。
「よし……」
『ここまでは作戦通り、かな』
「始まったばかりだからな」
まだ開始した所で、カイトの攻撃も武器の投射一つだ。そしてここまでは昨日一昨日の二度で経験済みで、カイトとしてもこの流れを変えるつもりはなかったのだろう。想定通りといえば想定通りの展開だった。
「ふぅ……煌士」
「はい」
「お前らが肝だ。頼んだぞ」
「はい」
僅かな緊張を見せながら、煌士が一つ頷いた。今までは近接戦闘を主軸にしていたし、おそらくカイトを攻略するには最終的には近接戦闘を仕掛ける必要があるだろう。それは間違いない。だがそこに至るまでの手順を少し変更していた。
「ふん……?」
何かを仕掛けるつもりだな。カイトは初手から準備に入った煌士達を見て、何をするつもりだろうかと楽しげだ。と言ってもやっていることはいつもと同じ。前に出た四人の支援をしながら、自身の放つ武器をソラと共に迎撃して桜が回収するという流れだ。
「やっていることは変わらん様子だが……」
自身がソラに放った武器のいくらかをソラが弾いて、それを桜が回収するという流れそのものは変わっていない。なので見た所としては何も仕掛けていないように見えるが、何かが違う。カイトは戦士としての直感でそれを理解する。
「……」
違和感を感じれば、後はカイトはそれを確かめるべく注意深く観察するだけだ。そして彼が現状していることは武器を投射して、瞬達前線の面々を進ませないようにしているだけ。ある意味自動防御にも等しく、余所見をしていても気配だけで攻撃可能だ。そして気配を感じて、彼は違和感を理解する。
「……ん」
これは光と闇の加護を使っているな。カイトは誰かが今までと違う加護を使用していることを察知してわずかにほくそ笑む。というわけで唐突に浮かぶ笑みに、ソラが気付かれたと理解する。
「……げっ。多分気付かれた」
『まぁ、加護に掛けてはカイトさんの方が何枚も上手だからね。それでも、これが試練である以上は受けざるを得ないよ』
「だと良いんだけどさ」
問題ないと判断したトリンに、ソラはそうであってくれと願うように苦い顔だ。とはいえ、実際問題はなかった。
「浬ちゃん。マジで大丈夫か? ぶっちゃけかなりのパワーになるけど」
『な、なんとか……ティナちゃんも行けるって言ってくれてましたし……』
「辛かったら言ってくれ。別案も考えてる」
『はい』
今回煌士が色々とやっているが、攻撃のトリガーとなるのは浬だった。というわけで彼女に掛かる負担はとてつもないはずで、彼女が耐えられるかだけがネックになっていた。
『天音姉。充填率は?』
「全体的に6割ぐらい。一応桜さんが水を補充してくれてるから、それだけ突出して高いけど……」
『むぅ……やはり我輩一人だとそれが限界か……鳴海くん、侑子くん。どちらでも良いが、サポートに入れそうなら入ってくれ。これ以上は少し厳しそうだ』
煌士の攻撃の半分程度を今回の作戦の準備に費やしていることもあり、その分だけ瞬らの支援は減っており、追い詰められる回数は増えていた。ここから先を考えれば時間をさほど掛けられるわけではなく、どちらにせよ短期決戦は短期決戦の構えだった。
『二人共入ります。小鳥遊先輩。少しの間お願いできますか?』
『わかった』
侑子の求めを受けて、由利が今までの一撃一撃の火力重視から、速射へと変更する。そうして放つ矢を一射毎に複数の矢に分裂する特殊な矢へと切り替えて、四人の支援を一手に引き受ける。
「ふぅ……」
全員が攻撃に取り掛かったのを受けて、盾を構えるだけだったソラも右手に持つ<<偉大なる太陽>>に力を込める。そうして三人になれば、一気に加速したようだ。数分後、浬が報告する。
『トリンさん。充填率100。全弾いけます』
『よし……ソラ。聞いての通りだ。後は君だけど』
「おう」
<<偉大なる太陽>>を強く握りしめて、ソラは気を引き締める。ここからは一気に接近戦だ。というわけでその次の瞬間、ソラは黄金色の輝きを宿した<<偉大なる太陽>>を思い切り振りかぶる。そうして、黄金の斬撃と共にソラ達の攻勢が開始されるのだった。
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