第3815話 様々な力編 ――相談――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そんな中央ルートで当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所でシルフィードが言っていた中ボスとして、カイトが現れることになる。
というわけでウェポンパックなどを総動員してなんとかカイトまで接近することに成功したソラ達であったが、最後の最後により強力なカイト自身が立ちふさがることになっていた。そうして彼のあまりの戦闘力に一旦撤退を決めたソラ達は、流石にもう全員で知恵を絞ろうとなっていた。
「「「……」」」
「……あの、一つ良いですか?」
「……どぞ」
浬の提起に、ソラが言われなくてもわかるとばかりの様子で先を促す。そんな彼の促しを受け、浬は信じられないという様子で告げた。
「お兄ちゃん、あんな強いんですか……?」
「「「……」」」
ですよね。全員まさか片手一つで全員のフルパワー攻撃を弾いたカイトに全員ががっくりと肩を落とす。これでまだ片腕一つ。しかも座ったまま、という腰の入っていない一撃でこれだ。あまりに隔絶した実力差が存在していた。
「はぁ……先輩。どれぐらいのパワーでやりました?」
「殺しには行った」
「っすよねぇ……」
殺しに行ってかすり傷一つ付けられれたならば良い方だ。瞬はその気持ちでやったのだが、現実はより隔絶した実力差があったようだ。殺しに行って、片腕一つ押し込めなかった。
「先輩。も一個良いっすか?」
「なんだ?」
「もし酒呑童子を出してたら、どうなりました?」
「そういえば……」
いつもならカイトを相手にしようものなら出てきそうなものなのに、まるで姿を見せなかった酒呑童子に瞬が首を傾げる。そんな彼に、酒呑童子が楽しげに声を発した。
『何だ。俺がやって良いのか?』
「一つ聞きたい。やって勝てたか?」
『やってやろうか』
「やめてくれ……お前に出てこられてカイトにルール違反扱いされても困る」
『いや、そうはならんだろう……まぁ、片腕一つにはならんだろうがな』
おそらく全員纏めたとしても、まだ自分の方が強い。酒呑童子は笑いながら、言外にそう告げる。とはいえ、それはカイトが求めていることでもなければシルフィードが求めていることでもないだろう。そして酒呑童子とて大精霊に睨まれたくはなかったようだ。
『まぁ、言われなくても今回ばかりは俺もやらん。流石に伝え聞く世界の管理者相手に喧嘩を売るほど、俺とて豪胆ではない』
「そうか……だがお前でも流石に大精霊達相手には恐れるか」
『当然だ。貴様らがああも平然と馴れ合う様は、普通の異族からしてみれば恐怖でしかない』
「? そうなのか?」
普通の少女らのように振る舞うことが多いが故に特に気にしないのだろうな。瞬の様子に酒呑童子はそう思う。
『当たり前だ……異族にとって属性のバランスが崩れることは貴様ら人間よりも遥かに致命的なことが多い。神であれ、世界の管理者相手には分が悪い。それこそ長が怒らせようものなら、族滅もあり得るだろう』
『流石にそんなことはしないよ。いくら僕らでもね……もちろん、一族が揃って世界に害をなすようなことをしない限りは、だけどね』
『心しよう』
族長が動くということは即ち、大半が一族が動くということだ。族長が万が一大精霊に弓を引けばその時点で一族も無事では済まない。というわけで一族を治める立場として、酒呑童子は弓を引いてはならない者相手には迂闊なことはしない様子だった。
「はぁ……まぁ、それならそれで良いだろう。とりあえず……なんだ、どうした?」
「え、いえ、あの……今しがた声がこっちにも」
「『……なに?』」
驚いた様子のソラの言葉に、瞬と酒呑童子の声が同時に響く。これに、今度はシルフィードの声が響いた。
『ああ、君だけだとやり難いだろうし、僕が誰と話しているかもわからないだろうからね。それに聖域には色々な人が来るから、君みたいな過去世が常時目覚めている人とかも来るからね』
「な、なんでもありなんだな、聖域って……」
『そりゃ、伊達に聖域なんて言われてないし。それに何より君の弟達がここに居ることの時点で当たり前でしょ?』
ソラの言葉にシルフィードは楽しげだ。というわけでそんなこんなを挟んで、シルフィードの気配は再び消え去った。
「さて……それはそれとして。酒呑童子の力は借りられるだろうが、そこ止まりだろう。どうする? 確かにやれはするだろうが」
「あの……一条さん。その前に一つ良いですか?」
「なんだ?」
「酒呑童子とは? いえ、おそらくあの酒呑童子なのだとは思いますが」
今まで話が進んでいるので何も口にしなかったが、唐突に酒呑童子という単語とどこにも姿のない謎の男の声だ。空也が口を挟んだのは無理もなかった。
「ああ、それか……そうだな。一度全員の手札を再共有しておくか?」
「っすね。とりあえず手札を出し切って、カイトの対策を考えないと……トリン。会議用のあれ頼める?」
「うん、わかった」
この場には仲間しかいないのだ。ならば手札を隠す意味もないし、カイトと行った班分けのように戦力バランスを考えるための話し合いではない。一つでも多くのアイデアを出すためには全員の手札を再整理する必要があった。というわけでソラの要請を受けて、トリンは会議用の机にARのように立体的な映像を映し出す。そうして、ひとまず全員の手札を洗い出す。
「「「……」」」
「「「……」」」
どっちもどっちでおかしい。ソラ達は空也達の持つ加護の多重使用と、その組み合わせ。空也らはソラ達の持つ数々の手札に、どちらも思わず閉口する。
「空也……改めてだけどお前らマジ? これマジで全員なわけ?」
「ま、まぁ……今更ですが改めて書き記されてみて、そんなおかしいものだったんですね」
「そりゃなぁ……だってこっち加護持ち書き出してみたらこんなのだぞ」
「……」
本当にエネフィア側は数えられるほどしかいないし、使えて一つか二つ。それに対して地球側の全員が全員、すべての加護を使えるのだ。
といっても地球側は書けばこれだけしかないし、後は各々武器に依存したものだけだ。だから羅列すればあまりに少ないようにしか見えないが、エネフィアで数々の戦いを経たソラにはこれが全く違うものにしか見えなかった。
「ってことは……先輩。これとどのつまり、<<雷炎武>>の劣化版とか出来ますよね」
「出来るな……それどころか<<六道流転>>を使うことも出来るんじゃないか? 加護が全部あれば」
「「<<六道流転>>?」」
瞬の発言に、空也のみならず情報共有用の板に情報を書き込んでいたトリンが手を止めて首を傾げる。これに、瞬が首を傾げる。
「ん? ソラ、話していないのか?」
「あー……まぁ。<<六道流転>>は<<廻天>>の派生みたいな所がありますし。更に言うと俺らも出来てないでしょ? 目処も立ってませんでしたし」
「まぁ、それはそうだな」
ソラの指摘に瞬も苦い顔で頷いた。というわけでソラが<<六道流転>>について話した。
「鬼桜国で学んだ<<廻天>>を話したよな?」
「うん。五行論に近い、それを八属性に当てはめたもの……だったね」
「ああ。その技術の応用に<<六道流転>>ってのがあるんだ」
「<<廻天>>と何が違うの?」
「<<六道流転>>は身体に宿る六属性を流転させて強化やサポートに使おうっていう技術。先輩の<<雷炎武>>も、厳密に言えばこの<<六道流転>>の一部に該当するらしい」
「そうなんですか?」
「俺も後で知った……というか、希桜様に指摘されて知ったぐらいだ。更に上に八属性でやる、ってのもあるらしいが……そこまでは俺達はまだ無理だな」
これをカイトが語らなかったのはそこまで語りだすとどこで聞いた、という話から<<廻天>>とはというかなり面倒な話になっていく。なのでカイトはあくまで瞬が理解出来る範囲として五行思想に当てはめる形で説明していたが、ということだったようだ。
とはいえ希桜が言っていた通り、五行思想を更に細分化した物が<<廻天>>だというのだ。五行思想の影響がある<<雷炎武>>に<<廻天>>の応用技術である<<六道流転>>が関わっていても不思議はなかっただろう。
「だが……流石に<<六道流転>>を一朝一夕でマスターは……無理だろうな。いや、いっそ時間が無限にあると言えるのなら、修行しても良い……のか?」
「い、いやぁ……流石にそこまではムズいんじゃないっしょうかね」
「それはそうか……ふむ」
瞬はどうしたものだろうかと考える。そうして、彼が口を開いた。
「とりあえず加護の使用は前提にあるんだろう。加護の使用はわかるが、どういうことが出来るんだ?」
「と、言いましても……加護の一般的な身体能力の増強や、光と闇の分身。後は……」
まずは色々と手札を掘り出してみれば、先程の<<六道流転>>のように別の使い方への応用も考えられる。更には空也らの特徴として、それを一点集中したりするやり方も出来るようだ。というわけで、一同はこの日はカイトの攻略に向けて思いつく限りの手札を出し尽くし、更にそれらの応用を探ることに費やすのだった。
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