第3814話 様々な力編 ――挑戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そんな中央ルートで当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所で、シルフィードが言っていた中ボスが現れることになる。が、その中ボスとはなんとカイトであり、ソラ達はその猛攻を受け撤退を決定。そうして相談の結果、これがカイトを相手にした一対多ではなく、要塞攻略と同等のものだと判断。ソラが持ち込んでいたウェポンパックを展開しての戦闘になっていた。
「……オレ、時々思うんだけどさ。一応人だよな」
『一応……今の所は』
「一応、今の所はって。そこは肯定してくれよ」
シルフィードの楽しげな言葉に、カイトは苦笑いだ。まぁ、彼が今どんな状況かというと、十数人からの一斉攻撃を受けているというある意味彼としてみれば見慣れた光景ではあった。
「っと……来るな」
強大な光が正面で輝くのを見て、カイトは少しだけ首を鳴らす。輝きが何か、なぞ考えるまでもない。海瑠の構える巨大な魔導砲だ。というわけで彼は浮かべていた盾を前面に展開。放たれる砲撃を無力化する。
「さてさて……次は何をしてくる?」
砲撃は所詮は隠れ蓑。もしくはこちらの防御を誘発するためだけの陽動だ。まぁ、それがわかっていて乗ってやっているあたり、本気でやるつもりはないのだろう。というわけで砲撃の衝突で巨大な爆発が引き起こされ、周囲を舞っていた武器が吹き飛ぶ。
が、流石にこの余波でコントロールを失わせるほどカイトも甘くはない。それこそこの程度の攻撃の余波で舞うことを防ぐこととて容易なのだ。それでも吹き飛ばさせているのは、ソラ達の力量に合わせたがためでしかなかった。
「ほらよ」
ぱちんっ。カイトが指をスナップさせると、吹き飛ばされていた武器が再びソラ達の陣営へと矛先を向ける。そうして再び猛烈な勢いで攻め立てる武器の雨に向けて、ソラが持ち込んだガトリングタレットを起動させる。
「タレット起動! 後は煌士! 連携頼むぞ!」
「はい!」
「そこまでは見たな」
二門のガトリング砲から雨のように魔弾が発射され、カイトの放つ武器の雨を打ち砕いていく。とはいえ、打ち砕けるのは牽制として放つ見せかけの攻撃だけ。各員を狙う一撃はガトリング砲の魔弾をものともせず、貫いて進んでいく。だがそれはソラもわかっていた。
「姉上。スローにします。回収をお願いします」
「ええ」
確かにソラのガトリング砲を物ともせず進むカイトの武器だが、やはり攻撃を受ければその分だけ威力は減少する。なので十数発も命中させればその速度もかなり落ちていた。というわけで、煌士が魔導書の力を使い魔力の風を生み出して減速させる。だがそれでも、まだ回収するには足りていない。
「鳴海!」
「あいよ!」
両指をクロスさせるように組んで、鳴海が籠手の力で魔力の網を編み出す。そうして網で絡め取られた所に、更に自爆を防ぐような封印を侑子が上書き。回収出来るようになった所で、桜が魔糸で回収する。これがソラ達が攻めに転ずる前の流れだった。
「アル。そっちどうだ?」
『なんとか……かな。多分出来る……と思う』
「いや、思うは困るから」
『そう言われても。君もわかってると思うけど、カイトの魔術だよ。僕だと明らかに格が違う』
「まぁ、そうなんだけどさ……でも現状、お前しか出来るヤツが居ないんだよ。そのために先輩にもリィルさんにも無茶してもらってるんだから、頼む」
『わかってるよ』
自らの力で編んだ氷竜を駆って上空を舞うアルが、ソラの言葉に一つ気合を入れ直す。先にカイトも述べているが、ここまでの動きは何度も同じことをしている。だがそれはすべてカイトの地雷原の攻略方法を見出すためのもので、カイトもそれはわかっていた。
「さて……そろそろ違う札も見せてくれよ」
「っ」
焦れやがったな。ソラは楽しげに彼自身ほどもある大剣を編み出すカイトに、これ以上の遅延は許されないのだと理解する。というわけで、彼はすでに準備を進めてくれていた由利へと声を上げる。
「由利!」
「了解」
すでに精神を集中させ魔力を収束させている由利からの返答は静けさを保っていた。幸いなことにカイトは動かない。故に彼を狙うことは容易で、何よりチャージの余裕まである。十分最大の一撃を撃つことは可能だった。
「ふぅ……ガトリング砲クールダウン。クールタイムのカウントダウンを同期」
『同期完了』
「よし。砲身展開」
ソラは持ち込んだ六個のウェポンパックの内、最後の一つとなる一つを展開。ガトリング砲を停止させ一旦のクールダウンを開始させると同時に、桜が回収したカイトの武器を発射。爆発を起こして相殺と目くらましを行う。そしてそれを横目に、ソラは魔導砲の砲身を展開し照準をカイトへと合わせる。
「トリン。照準の同期を」
『了解……同期完了』
ソラの要請を受けて、専用のウェポンパックを展開したトリンが海瑠の魔導砲と由利の狙撃の魔術、そしてソラの魔導砲の照準をリンクさせる。
「先輩。リィルさん、タイミングの合わせお願いします」
『『了解』』
「ふぅ……」
後の二人は臨機応変に対応してもらうしかない。更に言えばアルに限っては先程ソラが頼んだ通り、すでに仕事を頼んでいる。
「空也。お前が頼みだ。なんとかやってくれ」
『はい』
だだだだだっ、と自身を追い掛ける武器の嵐から逃げながら、空也はソラの言葉に一つ頷いた。正直これでも行けるとは思っていないが、その更に先を見定めるためにはやるしかないと考えていた。
故に、ソラは全体の指揮を終わらせると意識を攻撃と分析に割り振っていた。というわけで準備を整えた様子を見て、カイトが僅かに笑う。
「さて……どうするか見せてもらおうかな」
ここに来て初めて、カイトは指を動かすではなく腕を動かす。そうしてまるで槍を投げ投げ放つように、巨大な大剣を投げ下ろした。
「っ」
一射目。海瑠の砲撃。それはカイトの放った大剣と激突し、数秒の拮抗状態を生み出す。しかし狙撃を準備した三人の中で一番実力が低い海瑠の一撃だ。食い止めるのが精一杯で、数秒の後には砲撃を斬り裂いて大剣が侵攻を再開する。だがこれはわかっていたし、わかっているからこそ照準を同期させていた。
「おぉおおおお!」
二射目。渾身の力を注ぎ込み、ソラは思い切り引き金を引き絞る。そうして放たれた砲撃は海瑠の砲撃を飲み込んで、更には大剣を押し返すどころか破砕して更にカイトの武器の嵐さえ消し飛ばして進んでいく。
「……ふっ!」
三射目。溜めに溜めた魔力を収束させた由利の矢が、消し飛んだ所に万全の状態で突入する。そうしてソラの放った二射目が武器の多くを消し飛ばしながら突き進んでいくわけだが、やはり簡単にカイトまで届くことはない。故に、その瞬間カイトが手を振り下ろす動作を見せると、それだけで十数個の大剣がまるで壁のように地面に突き刺さり、即席の盾へと変貌する。
「「「っ!」」」
カイト以外の全員が顔を顰めるほどに巨大な爆発が起きて閃光が放たれて、一瞬だけ周囲から音が消える。そうして引き起こされた閃光を切り裂くように、由利の黄金色の矢が飛翔する。
「む」
爆発は囮に近かったか。カイトは大剣の盾の上を飛翔する矢を見て、閃光の最中にわずかに軌道がズレていることを察した。とはいえ、察したからとここで何か追加の策を講ずるのは大人げないし、試練の本質から離れている。故に彼はここに来て初めて、横に突き立てた大剣へと手を伸ばす。
「はぁ!」
右腕一つで大剣を操ると、由利の放った矢を大斬撃により切り払う。とはいえ、この程度はソラ達も理解しておいてもらわなければ困る程度だ。故に彼は次なる一手を楽しげに待ち構える。
「おぉおおお!」
やはりここで来るか。攻撃を放った直後の間隙を縫うように、瞬が一気呵成に突貫を仕掛ける。武器による狙撃は大分と消えた。今ならばかなり安全に地雷原へと進めるだろう。
「さ、どう地雷原を超えるつもりか見せてもらおうか」
単に突っ込むだけなら痛い目に遭うだけだ。故にカイトは楽しげに瞬の行動を見守りながら、更には上空を飛ぶ二人の行動もしっかり確認する。
(さて……空也とウチの妹様は何をするかな)
三人の行動に注目しながらも、カイトは一人密かに地面を駆ける空也とソラ達の近くで一人カードを待機させる浬に意識を配ることも忘れない。そうして五人の行動を確認するカイトだが、第一陣となる瞬の前にアルが氷竜を操って巨大な純白の光線を放つ。
「ほぉ……少しはやるようになったな」
別の魔術を使って更に別の魔術を使わせたか。カイトは自身の地雷原の上を覆う氷の道に、感心したように僅かに目を見開く。だがそれはどこか懐かしささえ滲んでいた。
「あいつが得意とした魔術を凍らせる魔術だな。地雷原を身一つで突破するには必須の技術だ。オレもよく使ったよ」
これは過去世をわずかに覚醒させ、かつてのシンフォニア王国の技術を手に入れたな。カイトは笑いながらそう判断する。とはいえ、これはあくまでも今のアルの技術でライムの魔術を再現したものだ。
しかもこれはライム当人から教わったわけではなく、ソラの助言を受けて過去世を垣間見て模倣したデッドコピーに近い。ライム当人の技術やそれどころか前世のアルの模倣にさえ及ぶべくもなく、カイトからしてみれば一息に打ち破ることは不可能ではないものだ。だが流石にやりすぎると試練ではなく戦闘になってしまうので、カイトは敢えてこれは受けてやることにする。
「っ」
やはり技術的な限度としてはここらを限界としたか。本来のカイトならこの程度の妨害を無力化して更に上回る攻撃を無数に叩き込んでも良いだろうに、それをしてこないことから瞬はカイトがあくまでも試練の中ボスという立場を前提としてくれていることを再認識する。
そうして再認識して、彼は更に強く氷を踏みしめる。流石に彼とていつ地面が爆破されるかわからない状態で前へ突っ込めるわけがない。とはいえ、これを完全に通してやるつもりもまた、カイトにはなかったようだ。
「さ、残り半分ぐらいは自分でなんとかしてみせろよ」
「っ! 瞬、ごめん!」
「わかった!」
再び放たれた武器の嵐を受けて、アルは氷竜を上昇させて回避。流石にこの一度でカイトまで肉薄出来れば良い方で、試練の突破は考えていなかったようだ。
まぁ、そもそも地雷原の突破が出来ていない中での突貫だ。その先を考えれば、余力を残す必要はあるのは当然だろう。というわけで氷の道に到達する最後、瞬は大きく上へと跳躍する。
「おぉおおおお!」
「はぁああああ!」
「む……槍で破壊するつもりか」
瞬の跳躍に合わせて、リィルが彼の眼前めがけて槍を投げ下ろす。確かに魔術による地雷は地球の地雷と違って誤爆などの危険性がないし、何度でも使える。だが壊すことは可能だし、一度発動した後、次の使用まではわずかにタイムラグが存在する。ならば先に発動させてしまうか、壊せば良いというのは当たり前の話だろう。というわけでリィルの槍によりルーン文字が誘爆して業風が起きる。
「っ」
「ほぉ」
リィルの槍を足場にしたのか。カイトは瞬がリィルの槍の石づきに乗って身を屈めたのを見て、感心の色を深める。地雷はあくまでも地面に設置しているものだ。
故に原理的には地面に触れなければ起動せず、よしんば魔術の地雷であるがゆえにある程度の猶予があったとしても1メートル以上も地面から離れていれば流石に起動しない。
あまり上過ぎると今度は自分達にも不利益になってしまうからだ。それらを完璧に対処することは不可能ではないしカイトならば可能だが、ここでは流石にしていなかった。
「おぉおおお!」
「ん。とりあえず頑張ったな」
紫電を纏い一直線に自身へと肉薄する瞬に、カイトは満足げに右手一つで大剣を構える。そうして紫電の速度で瞬が刺突を放つが、カイトはそれを右手一つで受け止めてそのまま弾き飛ばす。
「ぐぅ!?」
片手一つでこの膂力か。瞬はあまりの力に手にしていた槍が砕け散り、手が痺れていることを理解して盛大に顔を顰める。とはいえ、自身が決められないことは最初からわかっていた。だからこそ、空也が控えていた。
「はぁああああ!」
雄叫びを上げて、瞬と入れ替わるように空也が紫電と風、炎を纏ってカイトへと肉薄する。
「加護の多重使用か。よしよし。きちんと出来ているな」
『カイト、おっさんくさいよ』
「うぇ……とはいえ、それだけで終わってやれるほど甘くはないんだよなぁ、これが」
シルフィードの指摘に顔を顰めるカイトだが、それも一瞬。空也との接敵までだ。故に彼は紫電よりも更に速く、空也へと大剣を振りかぶる。
「!?」
「こ、これで駄目なの!?」
「駄目に決まってんだろ。何夢見てんだよ」
ソラの絶叫に、カイトは楽しげに空也を弾き飛ばす。だがそんな彼へと、巨大な極光が迸る。
「は? こ、これも駄目なの!?」
「ざーんねん……言ったろ? お兄様は勇者様なのです、ってな。右腕一つしか使わんし動いてもやらんが、オレの……勇者カイトの右腕はお前らが思っている以上に強いぞ」
浬の仰天した様子に獰猛に笑いながら、カイトは正しく立ちふさがる壁のように大剣を再び地面へと突き立てる。そうして、なんとかカイトへの肉薄に成功したもののソラ達は再度の戦略の再構築を迫られることになるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




